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2018年9月21日 (金)

梶谷懐『中国経済講義』

102506梶谷懐さんより『中国経済講義 統計の信頼性から成長のゆくえまで』(中公新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.chuko.co.jp/shinsho/2018/09/102506.html

世界第2位のGDPを誇る経済大国、中国。だが実態はつかみづらい。その経済力が世界秩序を揺るがすと見る「脅威論」から、正反対の「崩壊論」まで、論者によって振れ幅が大きい。本書では、「中国の経済統計は信頼できるか」「不動産バブルを止められるか」「共産党体制の下で持続的な成長は可能か」など、中国経済が直面する根本的な課題について分析。表面的な変化の奥にある、中国経済の本質を明らかにする。

タイトルに「講義」とあるように、世によくある中国経済は実はこうなんだぜ的な軽々しい本とは一線を画したアカデミックな香り漂う。しかし現実感覚あふれる、いかにも中公新書らしい本ですね。

序章の「中国の経済統計は信頼できるか」が、まさにそういうたぐいの軽々しく書かれた雑書をさりげに批判しつつ、梶谷さんの中国研究のありようを語っています。

本ブログでも紹介したように、梶谷さんとは、昨年5月に明治大学で開かれた第三回日中雇用、労使関係シンポジウム──非正規時代の労働問題でご一緒したことがあります。

http://www.kisc.meiji.ac.jp/~china/report/2017/news_20170528

20170528image_m

ちなみに、このシンポジウムの論文集は、もうすぐ(のはずです)御茶の水書房から『非正規労働問題の日中比較』(仮題)として出版されることになっています。

本書のうち、第4章の「農民工はどこへ行くのか-知られざる中国の労働問題」は、このシンポジウムで話題になったテーマも取り扱っています。

・・・アリババなどのIT企業により提供される取引仲介のプラットフォームは、中国の伝統的な商慣習にマッチしていたこともあり、すさまじい勢いで中国社会に普及し、人々の生活スタイルを急速かつ根本的に変えつつある。膨大な顧客情報の集積を通じた仲介サービスは、「仲介」や「評判」をベースにした伝統中国の商慣習をテクノロジーによって現代的にアレンジしたものという側面を持っている。・・・・

 その一方で、中国社会における代表的な非正規労働者である農民工の置かれた不安定な状況や劣悪な労働環境など、労使関係をめぐる「古い」問題は未だ解決されず、深刻な状況にある。中国社会ではこれらの「古い」労働問題の解決に寄与するはずの近代的諸制度、すなわち法の支配や政府から自立した労働組合などが社会に十分根付いていない。そこに広がるシェアリングエコノミーは、個々の労働者が個人営業の零細業者としての性格を強め、労使間の矛盾を「法」によって調整する空間をむしろ狭めつつあるようにさえ思える。

 テクノロジーの進歩によって中国では、ある部分では日本よりもずっと進んだ、これまでだれも経験していない情景が広がっている。一方で、かつての日本社会が社会運動や行政の取り組みによって克服してきた「古い」タイプの労働問題も、未だ存在している。・・・中国では労働問題に限らず、このような「まだらな発展」ともいうべき状況がそこかしこに広がっており、独特のダイナミズムと同時に深い矛盾を生み出している。・・・

この「まだらな発展」、古風な言い方でいえば「不均等発展」は、第6章の「共産党体制での成長は持続可能か」でも繰り返し論じられます。そこでは、プレモダン層と、モダン層と、ポストモダン層の三層構造という分析をしていて、そのプレモダンがポストモダンを支えているという、「あれ?それ昔どこかの国の話として聞いたことがあるような・・・」話が展開され、さらにそれが(共産党独裁下での)ハイエク的な「自生的秩序」であるという、何十にも入り組んだ話が展開されます。

このあたりは、是非本書を手にとって、直接読まれることをおすすめいたします。

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