フォト
2023年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ

« 『季刊労働法』2018年秋号 | トップページ | 中野サンプラザとは何だったのか? »

2018年9月11日 (火)

権丈善一『ちょっと気になる政策思想』

357662 権丈善一さんより『ちょっと気になる政策思想 社会保障と関わる経済学の系譜』(勁草書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.keisoshobo.co.jp/book/b357662.html

所得は平等に分配したほうが経済の活力が高まるのか、不平等に分配したほうが高まるのか? 政策がどのような前提から導き出されているものか自覚のないまま行われる社会保障論議の愚を説き、理論と思想の関係を解き明かしながら有効な政策形成を提言する。現在の状況下、わが国がどのような社会保障、経済政策をとるべきかを示唆する意欲作。

例によって権丈節満載の痛快な本であることには違いないのですが、これまでの社会保障制度を中心に論じた本と少し趣が違って、とりわけ理論編という第2章と第3章は、権丈風の経済思想史講義といった趣があります。

権丈風経済思想史といえば、もちろん「右側の経済学」と「左側の経済学」ですね。これらはどこが違うのか?

・・・その違いは、経済規模を規定する主な要因を供給とみなすか、需要とみなすかで生まれます。右側は、経済は供給が規定すると考える。左側は、需要が経済の規模、そして成長力、推進力を規定すると考えます。もっと言えば、右側の経済学では、人は貨幣からは効用を得ることがなく貨幣そのものへの需要は想定されないのですが、左側は、人は貨幣から効用を得、貨幣そのものへの需要があると考えます。

 そして左側の経済学では、貨幣からの効用が追加的な財・サービスからの効用よりは大きいときは経済は停滞し、経済規模が拡大するのは、消費者にとっての追加的な財・サービスからの効用が、貨幣からの効用よりも大きくなるときに起こると考えます。・・・

というようないかにも経済学の先生の講義みたいな話の間に、例によってベーシックインカムを持ち上げる人への皮肉たっぷりなセリフが挟まれたりもします。

・・・余談ついでに言っておきますと、先に触れたベーシックインカムって、cool head and cool heartとwarm head and warm heartの両方から支持されるんですよね・・・・・困ったことに。

ほひ、ベーカム派にcool head but warm heartは見当たらない、と。

はじめに
拙著文献表
【応用編 Ⅰ】
第1章 社会保障政策の政治経済学──アダム・スミスから,いわゆる“こども保険”まで
 概要の紹介
 働くことの意味とサービス経済の意味
 人口減少社会と経済政策の目標
 手にした学問が異なれば答えが変わる──上げ潮派とかトリクルダウンとかの話
 経済学と政策思想
 最後に,ミュルダールと,いわゆるこども保険について──ミュルダール夫妻の『人口問題の危機』
【理論編】
第2章 社会保障と関わる経済学の系譜序説──サミュエルソンの経済学系統図と彼のケインズ理解をめぐって
 はじめに
 サミュエルソンが描く経済学の系統図とその問題点
 サミュエルソンの自信とノーベル経済学賞
 社会保障と関わる経済学の系譜
 経済学と政策との関わりを示す一例
第3章 社会保障と関わる経済学の系譜
 はじめに
 マンデヴィルとスミス
 スミスとマルサス
 ママリー,ホブソンとケインズ
 ケインズのゲゼル評
 ゾンバルトの『恋愛と自由と資本主義』
 経済政策思想の流れ
 右側の経済学と左側の経済学の相違
 右側の経済学とモンペルラン・ソサイアティ
 左側の経済学における不確実性とミンスキー,そして過少消費論
 資本主義の成熟と社会保障
【応用編 Ⅱ】
第4章 合成の誤謬の経済学と福祉国家
 合成の誤謬と自由放任の終焉
 合成の誤謬に基づく政策に抗う経済界
 経済界のプロパガンダと規制緩和圧力
 成長政策と戦略的貿易論
第5章 公的年金保険の政治経済学
 年金界とのかかわりのきっかけ
 右側の経済学と左側の経済学
 ケインズの嫡子たち
 経済政策思想の流れ
 セイの法則かケインズの合成の誤謬か
 手にした学問が異なれば答えが変わる
 リスクと不確実性
 経済学と政治,政策,そして思想とのつながり
 積極的賦課方式論
 公的年金が実質価値を保障しようとしていることの
 説明の難しさ
 市場を利用することと引き換えに喪っていったもの
 素材的・物的な視点からみた積立方式と賦課方式の類似性
 積立方式信奉者たちの論
 本日のメッセージ
第6章 研究と政策の間にある長い距離──QALY概念の経済学説史における位置
 HTAとのかかわり
 実証分析と規範分析
 規範経済学の学説史──基数的効用から序数的効用へ
 厚生経済学から新厚生経済学へ
 アローの不可能性定理と分配問題
 経済学と価値判断
 政策論と価値判断
 QALYに内在する基数的効用
 HTAの政策立案への活用可能性
第7章 パラダイム・シフトほど大層な話ではないが切り替えたほうが望ましい観点
 はじめに
 ダーウィン,マックス・プランクとパラダイム・シフト
 クーンにパラダイム・シフトを着想させたもの
 社会経済政策を考える上でのスタート地点での観点について
第8章 医療と介護,民主主義,経済学
 投票者の合理的無知
 世論7割の壁
 予算編成の現状の共有
 手にした学問が異なれば答えが変わる
おわりに
【知識補給】
思想と酩酊体質
エコノ君の性格
がんばれ,ベーシック・インカム!──社会保障の正確な理解もよろしく
「市場」に挑む「社会」の勝算は?
合成の誤謬考──企業の利潤極大化と社会の付加価値極大化は大いに異なる
アダム・スミスとリカードの距離──縁付きエッジワース・ボックス
マーシャルを読んだシドニー・ウェッブのラブレター……誰に?
制度学派とリベラリズム,そしてネオ・リベラリズム
税収の推移と見せかけの相関および国のガバナンス問題
スキデルスキーのケインズ論
大登山家ママリーとマッターホルン,
そしてスイスアルプスとマーシャル
独占的競争という戦い方……
Positiveの訳は実証で良いの?
福澤諭吉とミュルダール
クーンが,パラダイム・シフトを捨てた理由
ポパー,ハイエク,ライオネル・ロビンズの親和性
市場は分配が苦手なのに繰り返し出てくるトリクルダウン

図表一覧
事項索引
人名索引

« 『季刊労働法』2018年秋号 | トップページ | 中野サンプラザとは何だったのか? »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 権丈善一『ちょっと気になる政策思想』:

« 『季刊労働法』2018年秋号 | トップページ | 中野サンプラザとは何だったのか? »