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2018年8月22日 (水)

Risak氏のEUプラットフォーム労働指令構想@『労基旬報』2018年8月25日号

『労基旬報』2018年8月25日号に「Risak氏のEUプラットフォーム労働指令構想」を寄稿しました。最近関心を持って追いかけている新たな就業形態に対する労働法政策の一つの参照点になると思います。

 急速に進展する第4次産業革命の中で、現在世界同時的にシェアリング経済、プラットフォーム経済への関心が高まっていますが、とりわけプラットフォームを利用して働く人々の保護の問題は、労働政策方面からも産業市場政策方面からも注目を集めています。EUにおいては、昨年から今年にかけてプラットフォーム労働者をターゲットにした立法提案が相次いで出されており、今後の日本における議論にも参照点となっていくはずです。
 このうち、雇用社会総局が立案した指令案「EUにおける透明で予見可能な労働条件に関する欧州議会と閣僚理事会の指令案」(Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on transparent and predictable working conditions in the European Union)については、『季刊労働法』2018年春号において、「EUの透明で予見可能な労働条件指令案」 と題してかなり詳しく解説しましたし、デジタル単一市場担当総局が立案した「オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性と透明性の促進に関する規則案」(Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on promoting fairness and transparency for business users of online intermediation services)については、本誌6月25日号で概略を紹介したところです。プラットフォーム労働をめぐって労働者概念に含めて規制をかけていく方向性と、労働者ではない者の取引の公正さを追求していく方向がせめぎ合っていることが分かります。
 ただ、前者の指令案は、その前文の第7文に「これらの基準を満たす限り、家事労働者、オンデマンド労働者、間歇的労働者、バウチャーベースの労働者、プラットフォーム労働者、トレーニー及びアプレンティスは本指令の適用範囲に含まれる」と書かれているだけで、プラットフォーム労働者自体に向けた労働法規制を打ち出しているわけではありません。おそらくこの点を補完する目的で、EUレベルで制定されるべき「プラットフォーム労働指令」の具体的内容を提起している論文があります。ドイツのフリードリッヒ・エーベルト財団から出されたMartin Risak氏の『プラットフォーム労働者のための公正労働条件-EUレベルにおけるあり得べき規制のアプローチ』です。Risak氏はプラットフォーム労働の現状と法的課題を論じた上で、まずプラットフォーム労働者についてプラットフォームとの間の雇用関係を(反証可能な形で)推定するという法的規定を置くことを主張し、その上で、具体的に次のような規定を盛り込んだプラットフォーム労働指令案を求めています。
・書面通知指令と同様の通知義務:プラットフォームに労働者のアカウントが設けられればすぐに契約期間にかかわらず契約パートナーとその住所を通知する義務。
・とりわけウェブ上のクラウドワークの場合、労働の場所はプラットフォーム労働者がその作業を物理的に遂行する場所であることの確立。
・企業ユーザーの既存労働力との均等待遇の確保:最低賃金等を免れるためにプラットフォーム労働者にクラウドソースされないため。
・ウェブ上のクラウドワークに関連する探索時間(タスクを探す時間及び返事待ちの待機時間)が労働時間であり、賃金支払対象であることの明確化。
・最低賃金を下回るサービスの募集の禁止。
・以下のような条項の禁止
 ・プラットフォームに登録中及び登録後の競業避止条項、とりわけプラットフォーム労働者にユーザーとの直接契約を禁止する専属条項。
 ・ビットコインやバウチャーのような現金以外による報酬の支払。
 ・正当な理由なくプラットフォーム労働者にタスクを提供せず、又はそのアカウントを凍結する可能性。
 ・プラットフォームとユーザーが、理由を示さずに完成したタスクの受領を拒否したり、広告した報酬の支払を拒否したり、作業結果を保留したりする権限。
・プラットフォーム労働者やユーザーに対し、デジタル評判(レーティング)の仕組みとその影響を通知する義務。
・おそらく間違ったレーティングを再検討し、修正される可能性。
・デジタル評判のあるプラットフォームから別のプラットフォームへの移転可能性。
・プラットフォーム労働者のための無料の苦情処理手続を設置する義務。
・職場の安全衛生、最低賃金、租税と社会保険料の支払に責任を持つ者の明示。
 これはあくまでも一民間研究者の提案に過ぎませんが、上述の欧州委員会の指令案や規則案に比べると、労働者保護の問題意識がフルに出ており、ヨーロッパの労働関係者がこの問題にどのような懸念と関心を持っているかがよく分かります。
 日本でもこれから、こういった具体的な立法提案が各方面から出てくることが期待されます。

 

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