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2018年8月22日 (水)

長谷川珠子『障害者雇用と合理的配慮』

07830長谷川珠子さんより大著『障害者雇用と合理的配慮』(日本評論社)をお送りいただきました。大著というのは、440頁、8,000円という外形もありますが、内容的にもアメリカ法と比較しつつ、日本の障害者雇用法制を詳細綿密に分析し尽くしたその内容も含めて大著です。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7830.html

長谷川さんははしがきにもあるように、東北大学で水町勇一郎さんに弟子入りし、水町さんが東大社研に移るとその後を追っかけて東大で研究生活を始め、永野仁美さんや所浩代さんと並んで障害者雇用をテーマとする労働法研究者として今日に至っています。

本ブログでも紹介した永野仁美・長谷川珠子・富永晃一編著『詳説 障害者雇用促進法 新たな平等社会の実現に向けて』(弘文堂)の執筆者でもあります。

本書は2005年の博士論文がもとといいながら、その後の法改正により全く新しい大論文になっています。

さて、本書が送られてきたこの時期は、時ならぬ官公庁の雇用率水増し疑惑がわき起こり、なにやら政治問題になりつつある勢いですが、それほどよく知らないことでも居丈高に叱りつけるのが仕事の人々はともかく、なぜこういう事態になってしまったかを冷静に分析しようという人にとって有用な記述が本書にあります。

もともと雇用率制度は1960年法で官公庁は義務、民間は努力義務として始まったのですが、1976年改正で民間も義務化するとともに、民間については雇用率未達成企業に納付金制度が導入された、ということは知られています。

しかし、その際に障害者の範囲が変わったということは、詳しい人でないとあまり知られていないでしょう。

1960年法の障害者については、p197の注30にこうあります。

身体障害者雇用促進法における身体障害者の範囲は、「障害が明確かつ画一的に判定できること」と「労働能力の永続的欠損があること」の2点を基準として作成され、「別表に掲げる身体上の欠陥があるものという」と定義された(2条1項[当時])。身体障害者については、国年法、厚生年金保険法、所得税法、身体障害者福祉法、恩給法、労災保険法、職業安定法において、それぞれの目的に応じて、一定の範囲のものを対象としていたところ、身体障害者雇用促進法の制定に当たっても、同法の目的に応じて独自の範囲を定めたとされる。その範囲は、身体障害者福祉法の身体障害を基調としつつ、それよりもやや広く、恩給法や労災保険法よりも狭いとされていた(・・・)。ただし、後述するように、身体障害者の範囲は1976年の促進法改正により、身体障害者福祉法の身体障害者の範囲と統一された。

その1976年法改正時の理由については、p200の注40にこうあります。

その理由としては、①厚生省(当時)の福祉行政と労働省(当時)の雇用行政の一体化を図ることにより、総合的な身体障害者対策に大きく寄与できるようになること、②雇用義務化及び納付金制度の創設に伴い、法的公平性を確保するため、対象とする身体障害者を明確かつ容易に判定することができるようにする必要があることが挙げられている。

確かに民間企業にとってはそれまで努力義務に過ぎず、ということは、それほど真剣でなかったところに、1976年に初めて納付金制度というサーベル付きで義務化されたのですから、この1976年法による障害者の定義ではじめから動いてきたようなものです。

ところが官公庁にとっては、その前から障害者雇用義務はあり、とはいえ果たさなくてもペナルティもなく、淡々とやってきたところに、その状況が1976年改正によってもほとんど何ら変わらず(雇用率が若干上がったくらい)、そのため、その改正によりそれまで障害者扱いできた人ができなくなってしまったという認識を持つのが難しかったであろうことは想像できます。

障害者の範囲というのは、実は障害者雇用政策の根幹に関わる大問題でもあるのです。雇用率制度という一つの政策においては、今日新聞を賑わしているように、ほぼ障害者手帳所持者とイコールというかなり狭い範囲の人々の限られていますが、同じ障害者雇用促進法でも差別禁止と合理的配慮というもう一つの政策においては、手帳を持たない精神障害者や発達障害者、難病患者なども含まれます。さらに福祉的就労の対象となる総合支援法の対象はもっと広くなります。この辺は、本書でも308頁以下で詳細に論じられています。

というわけで、専門的な大著ではありますが、現下の政治問題について冷静に考察する上でも大変役に立つ本でもあります。夏なお暑い8月下旬の読書に最適です(かな?)。

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