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ジャパンビバレッジ事件@『POSSE』39号

9784909237170_600『POSSE』39号をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.npoposse.jp/magazine/no39.html

特集は表紙にもあるように「#MeTooはセクハラ社会を変えられるか?」なんですが、

◆特集「#MeTooはセクハラ社会を変えられるか?」

少女を買う大人にNO!と言える社会に
――性売買の実態とセクハラ社会ニッポンの醜態

仁藤夢乃(女子高生サポートセンターColabo 代表)

女性専用車両への悪質な乗り込みを止めるために
――加害者に責任をとらせるためのヘイトウォッチ戦略

梁英聖(NPO法人反レイシズム情報センター代表)

包括的な支援でセクハラに対抗する
――セクハラと闘う労働組合パープル・ユニオンの取り組み

佐藤香(パープル・ユニオン執行委員長)

#MeToo の風をユニオンの力に変えて
――セクハラ被害を訴え続けた当事者とユニオンの闘い

本誌編集部

女性を孤立させる社会を終わらせるために
竹信三恵子(ジャーナリスト 和光大学教授)

今回は先ずそれよりも、ジャパンビバレッジの件を取り上げたいと思います。

◆緊急企画「東京駅の自販機を空にした労働組合」

私はブラック企業と闘い続ける
――ジャパンビバレッジのストライキ闘争

北良樹(ジャパンビバレッジ現職従業員)×青木耕太郎(総合サポートユニオン代表)

ジャパンビバレッジ闘争への応援メッセージ
――ブラック企業が蔓延する社会を変えるために

常見陽平(千葉商科大学専任講師)×森﨑巌(全労働省労働組合委員長)×栗原耕平(AEQUITAS)×原田仁希(首都圏青年ユニオン)

立ち上がる労働者たち
第1回 会社を懲らしめたい!

北良樹(ジャパンビバレッジ現職従業員)

労働者の階層分離とジャパンビバレッジ闘争の意義
――階層としての「一般労働者」の大規模な出現と新しい労働運動の可能性

今野晴貴(NPO法人POSSE代表)

ただ、POSSEサイドから見ると、これは典型的なブラック企業事案ということになるのでしょうが、労働法制の歴史から考察すると、実はジャパンビバレッジがやっていたことは、悪意ではなかった可能性があるのです。しかし、それがユニオンによって指摘され、監督署の指導を受けた後の対応は相当の悪手であったようです。

この件、要約すると、ルートセールスと称する飲料補充業務に事業場外見なし労働時間制を適用していたことが発端です。

この事業場外見なし制とは、労基法38条の2に基づき、事業場外勤務であって「労働時間を算定しがたいとき」に適用されるとされています。

法律に規定されたのは1987年ですが、終戦直後に労基法が施行されたときから、省令で存在し、セールスマンにはほとんどこれが適用されてきたのが実態です。

その昔の情報通信環境であれば、営業マンがいったん会社を出た瞬間から戻るときまで、どこで何をやっているかというのは把握もできないし管理もできないというのが常識でした。

この制度が法律に格上げされた1987年の段階でも、通達で「無線やポケベルで随時使用者の指示を受けながら労働していたらだめよ」と言っています。

ポケベルって何??

そうじゃのう、まだ世の中に携帯電話なるものがなかった古代の機器じゃわい。

その後、携帯電話が普及し、スマホが普及し、今や事業場外だからといって「労働時間を算定しがたいとき」というのはほとんど考えられなくなっています。

にもかかわらず、そう、ここが重要です、今日においても、事業場外労働制の適用企業は12.0%に上ります。ちなみに、何かと話題になる裁量労働制は、専門業務型が2.5%、企画業務型が1.0%に過ぎません(昨年の就労条件総合調査)。

裁量制の方は、実際に裁量を与えているかなので個別に見ないと正しい裁量制かどうかは分かりませんが、事業場外の方は、スマホで随時連絡なんぞしてたら即アウトのはずです。法律の原則からすればですね。

でも、それこそ戦後70年間ずっとセールスマンは見なし制という鉄壁の常識でやってきた人々にとっては、それが違反というのは、ちょうど医療法の宿直をやっているつもりだったら、それが労基法の監視断続労働に当たらないといきなり言われたようなもので、たぶんまことに心外きわまる話だったのではないかと想像されます。

おそらく、ジャパンビバレッジの側からすると、セールスなんだから事業場外見なしは当たり前じゃないかと思っていたら、ユニオンに文句を付けられ、監督署からも指導を受け、やむなく未払い残業代を払ったけれども、腹ふくるる思いがあって、それがその後のユニオンに対する不当労働行為的行動につながっているように見えます。すれは愚かな行動なんですけどね。

その意味で、これはある特異な会社の事例というよりは、戦後長らく続いてきた慣習がもはや維持できなくなっているセールスという世界の問題が露呈したもののように思われます。

POSSEの観点とはかなり違うかも知れませんが、そういう視点から見ることで、例えば似たような状況にある会社にとっては他山の石として参照することができるようにも思われます。

(参考)

外回り営業職の労働時間制度(『労基旬報』2018年2月25日号 )

 今国会に提出予定の働き方改革関連法案には、昨年3月の働き方改革実行計画に盛り込まれた時間外労働の上限規制だけでなく、2015年に国会に提出されたまま棚ざらしになっていた高度プロフェッショナル制度と企画業務型裁量労働制の提案型営業職等への拡大が盛り込まれていることが政治的争点になっています。マスコミレベルでは前者の方がフレームアップされがちですが、法律上適用に年収下限のある高度プロフェッショナル制度よりも、労働側が本気で問題視しているのは後者の方です。連合の要請に応えて3年勤続要件など若干の修正が施されたとはいえ、かなりの対象拡大になると見込まれているからです。ただ、この問題を考える上で補助線として引いておく必要があるのは、これまで外回りの営業職に対してかなり当然のように適用されてきた事業場外労働のみなし労働時間制が、情報通信技術の発展によって適用の根拠が崩れてきているということです。
 これはもともと、事業場外で働くために労働時間が算定しがたい場合に通常の労働時間労働したものとみなすという仕組みで、終戦直後から省令レベルで存在していましたが、1987年の労働基準法改正で法律に規定されたものです。裁量労働制が制度導入自体に労使協定ないし労使委員会の決議が必要であるのに対して、事業場外労働は「所定労働時間労働したものとみな」されるので、特段の手続は必要ありません。ただし、「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」には「当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみな」されます。過半数組合又は過半数代表者との労使協定でその「通常必要とされる時間」を定めることができますが、そうしなければならないというわけではありません。裁量労働制に比べて、手続規制がかなり緩い制度設計となっています。 
 もっとも、その際出された通達(昭和63年基発第1号)で、「事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はない」と釘を刺し、その例として「事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合」を挙げています。携帯電話もいわんやスマートフォンも存在しなかった30年前の情報通信環境を前提にした記述ですが、今日でもなおこの通達は生きています。しかし、ということは、厳格にこの通達の趣旨に従って解釈すれば、ほとんど大部分の外回りの営業職はみなし労働時間制を適用できないことになるはずだということでもあります。
 ところが昨年12月27日に公表された平成29年就労条件総合調査を見ても、企画業務型裁量労働制を採用している企業が1.0%、専門業務型裁量労働制の企業も2.5%に過ぎないのに、事業場外みなし制の企業は12.0%と圧倒的に多いのです。労働者割合でみても、企画業務型裁量労働制が0.4%、専門業務型裁量労働制が1.4%に対して事業場外みなし制は6.7%です。業種別に見ると、不動産業・物品賃貸業で22.5%、卸売・小売業で21.0%と、営業職に使っていることが窺われます。彼らはほとんどすべてスマホを使いながら営業活動しているはずですから、実態として法的にはかなり危うい状況にあるのです。
 一方、働き方改革実行計画に基づいて昨年末に取りまとめられた柔軟な働き方に関する検討会報告は、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン(案)」を提示しています。そこで対象とされているのは本来メインオフィスで行う作業を社外で行ういわゆるテレワークであり、具体的には在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務ですが、スマホ片手の営業活動だって「情報通信技術を利用した事業場外勤務」には違いありません。このガイドラインで注目すべきは、これまでの在宅勤務ガイドライン(2004年、2008年)が一定の要件下で事業場外みなし制を採ることを前提としていたのに対し、通常の労働時間制度を適用することをデフォルトとしてテレワーク特有の留意事項を示し、その上でフレックスタイム制、事業場外みなし制、裁量労働制をとる場合の留意事項を記していることです。いわば、事業場外で労働するから自動的に事業場外みなし制というわけにはいかないよ、ということをやや間接的に示しているような形です。
 このガイドラインは直接外回りの営業職を対象にしているわけではありませんが、間接的には大きな影響を与えるでしょう。少なくとも、「情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと」とか「随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと」という要件を厳格に適用すれば、事業場外みなし制が適用できる営業職はほとんどなくなるはずです。そうすると、労働時間を算定することが困難ではないけれども業務の性質上その遂行の方法を労働者に委ねることを根拠とするみなし労働時間制、つまり裁量労働制を何とか使えるようにしたいという要望が出てくるのは不思議ではありません。冒頭述べた、提案型営業職への企画業務型裁量労働制の拡大というのは、その依って来たる所以を深掘りしてみると、外回り営業職の労働時間制度をめぐる水面下の地殻変動が潜んでいるようにも思われます。

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