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2018年7月17日 (火)

IT業界の実態@『情報労連REPORT』7月号

Dhe2yru8aezlp5『情報労連REPORT』7月号をお送りいただきました。今号は「IT業界の実態をもっと知ろう」が特集で、「情報」労連の本籍地の労働問題に取り組んでいます。

http://ictj-report.joho.or.jp/special/

冒頭の赤俊哉さんの「SE職場の真実 派遣プログラマー・SEの抱える思いとは?」がまず生々しくて、胸をつきます。

・・・派遣プログラマー・SEの時代は、自分の所属する会社を意識することはほとんどありませんでした。金融機関に派遣された時は、メーカーのSEという肩書きで送り込まれました。当時の営業担当は、私の偽の職歴をつくりました。私の職歴欄には「原発の制御システムを開発した経験がある」と記載されていました。金融とまったく違った分野ならスキルをアピールできると考えたのでしょう。なるべく高い値段で契約するためのうそでした。

私は何もわからないまま現場に派遣されました。でも、ユーザー企業は私にメーカーのSEと同じ役割を期待します。スキルがないのに、わかったふりをするのはものすごいプレッシャーでした。

多重下請けなので私の給料はメーカーSEの給料と当たり前のように違います。同じ役割を求められるのに、「仕事に見合っていない」という思いを常に抱えていました。金銭的な部分と、自分がどの会社の人間かわからないということの不満はとても大きかったですね。

・・・人月単価の高い現場に何人派遣するかで会社の業績は大きく左右されます。当時の営業担当はそうした現場に社員を送り込むことが最優先でした。派遣されるSEはきちんとした教育を受けないまま現場に送り込まれて、「ばれないようにがんばれ」。OJTという都合のいい言葉で、「現場で覚えろ」という実態がありました。

そうすると、派遣された社員は、自分がかかわっている作業がどのように役立っているのか、まったくわからなくなってしまいます。仕事も「やれ」と言われているからやるだけで、受け身になってきます。向上心がなくなり悪い意味でずるくなって、「テストだけ通ればいい」という人もいました。会社に人材を育てる意識があればいいのですが、利益優先で現場をたらい回しにしてしまう。利益は上がるかも知れませんが、本人はスキルを身に付けられません。

続くアクシアの米村歩さんの「残業ゼロのIT企業経営者に聞く 成功のポイントとIT業界が進むべき道」は、そういう泥沼から脱却した成功譚ですが、本ブログで以前米村さんのブログを引用して紹介したことがあるので、ここでは省略します。是非読む値打ちはあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/post-861a.html(ジョブ型採用への道@アクシア)

あと興味深い事実が書かれているのは、齋藤久子さんと三家本里美さんのヒアリング調査の紹介記事です。

情報労連の齋藤さんのは、情報サービス産業で長時間労働が構造化される原因をこう説明しています。

・・・インタビューにおいては、長時間労働が発生する事由の一つとして、顧客との間で「認識のずれ」が生じやすく、それを埋めるのに想定外の労働時間が発生してしまう、ということが挙げられた。「認識のずれ」を回避するために、システム開発の初期工程である要件定義において、顧客とのコミュニケーションを密に行うなど、現場でもさまざまな対応が強化されているものと認識する。それでもなお、顧客との「認識のずれ」が発生する背景として挙げられたのは、ソフトウエア開発の要件定義には、目に見えないものに対し要件を決定していく、という困難さが常につきまとう、ということだった。

ソフトウエア開発は、顧客から要件を聞き出し、設計し、施工して引き渡すという形態であることや、ゼネコンを頂点とする多重下請け構造を持っていること、労働集約型産業であること─等が類似していることから、その開発工程が建設業に例えられる。しかし、ソフトウエア開発が建設業と大きく異なる点は、インタビューでも挙げられた「目に見えない」という点だろう。このソフトウエア開発の「目に見えない」という特性によって、顧客とITベンダー間で仕様を詰めきることや、開発にどれだけの時間と人手が必要なのかの共通理解を持つことは、非常に難しくなってしまう。要件変更においても、建築現場ですでに施工された柱をすぐさま移動してほしい、と要求する顧客はいないだろうが、ソフトウエア開発では、コードを書き換えるだけなのに、なぜそんなに時間と人手を要するのか、と考える顧客もいる。

「目に見えない」がゆえに認識にずれが生じ、長時間労働がもたらされてしまう。

・・・インタビューでは、顧客から価格・納期に対する無理難題を持ち掛けられた場合、顧客が納得するよう詳しく説明をし、丁重に断る、あるいは、双方にとって妥協できそうな代替案を提案する、との声もあったが、そのような交渉が円滑に進むのは、顧客自身がシステムに対する一定程度の知識や価格・工期の相場感覚を持っている場合に限られる。

そうでない場合には、同規模の別のシステムを参考に、価格や工期の相場感を伝えたり、できるだけ詳細な見積もりを提示したり、といったことを通じて、顧客が相場感を共有できるよう努力を積み重ねるしかない。それでも理解が得られない場合、つまり、相場感を受け入れてもらえない場合には、ITベンダー側が無理を飲み込む場合もある。そのように飲み込んでしまった「無理」は、はじめは特別対応だったにもかかわらず、次第に顧客にとっての「標準」にすり替わっていってしまう。そしてそれは、現場のITエンジニアの長時間労働に直結していく。

顧客にとっても、ITベンダーにとっても、無理が無理と正しく認識されないまま開発が進んでいくことは、大きなリスクとなる。今回のインタビューを通じて、価格や納期に対して、顧客・ITベンダー双方が納得し得る共通理解を産業全体で醸成していくことの重要性が改めて認識された。

この「無理難題」をやむなく必死で対応した結果、その無理難題が標準になってしまうというのは、実はIT業界だけでなくいろんな分野で「あるある」と激しく頷く人がいっぱいいそうですが、その顧客万能主義という点では同じであっても、「目に見える」業界であればさすがに無茶な無理難題は顧客にも無茶だと意識される(されてもなおかつ平然と要求されるにしても)傾向があるのに対して、先の「目に見えない」という特性から、無理難題がそもそも無理な話だと意識されないというところが、やはりIT業界の構造的問題なのかも知れません。

そして繰り返し指摘される人月工数の問題。

・・・人月工数については、受注側が努力して生産性を高めれば高めるほど、ソフトウエア開発に必要な人月は少なくなり、受注額が少なくなるというパラドックスが指摘されており、インタビューでも、労働者にとって作業時間を短縮しようというインセンティブが働きにくい、あるいは、人によって生産性が異なるにもかかわらず、一律的に単価が決められることから、適正な価格反映がしづらい、との意見があった。このように課題が認識されている一方で、ヒアリングした7人全員が人月工数に基づく価格設定方式を用いている、と答えており、現場においては人月工数が依然として主流の価格設定方式として採用されていることも明らかとなった。

このように課題がありつつも、人月工数が用いられ続けている理由を聞いてみたところ、(1)仕様が確定していないフェーズ等においては、SES契約(完成物の納品ではなく、ITエンジニアの業務処理自体を契約の対象とするシステムエンジニアリングサービス契約)の形態を採ることが多く、労働に対する対価を計るに当たり、人月工数による価格設定がマッチしている(2)代替となる適切な価格設定モデルがない(3)目に見えないソフトウエアに対し、便宜上、顧客との間で人月工数を採用した方がわかりやすい(4)ITベンダーにとって、労働力の提供に対する対価が一定担保されている─等が挙げられた。

人月工数から、いかにして脱却していくのか─長らく情報サービス産業に投げ掛けられてきた問いであるが、人月工数による価格設定は、生産性の向上を阻害する要因となる一方で、取引慣行として定着していることや、ITベンダーにとってのリスク回避として機能する側面も持っており、急激な転換が困難であることも導き出された。

わかっちゃいるけどやめられない、というITスーダラ節が聞こえてくるようです。

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