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「働き方改革関連法の放置された論点」@『労基旬報』2018年7月25日号

『労基旬報』2018年7月25日号に「働き方改革関連法の放置された論点」を寄稿しました。やや辛口の批評になっていますが、実のところは、一部の人々を除き、まっとうな労働関係者、労働研究者の多くは、多かれ少なかれ、こういう思いを心中にお持ちなのではないかと拝察しています。

 去る6月29日にようやく働き方改革関連法が成立に至りました。しかし、国権の最高機関のはずの国会におけるその審議は目を覆うようなひどいものでした。

 この法案は本来、時間外労働の上限規制と同一労働同一賃金が二本柱ですが、国会ではそのいずれについてもまともに議論が行われず、法案の中で議論が集中したのは2015年に国会に提出されていた高度プロフェッショナル制度についてであり、しかもそれすら中身の議論がまともに始まったのは参議院に行ってからで、衆議院では厚生労働省の労働時間調査がいい加減でデータが間違いだらけだと責め立てたり、野村不動産で過労自殺した労働者に裁量労働制が適用されていたのにそれを隠していたのがけしからんとなじったりと、はっきり言って枝葉末節の事柄にのみ全精力を集中しているとしか思えない状況が続いていました。残された議事録の大部分を占拠しているそうしたやりとりのほとんどは、法案成立後にそれが具体的にどう施行されるべきなのかを検討する上で全く役に立たない代物です。

 そのせいで、国会論戦で詰められるべくして全く詰められないまま放置された論点は数多いのですが、その中でも重大なのは同一労働同一賃金に関わる部分です。なぜなら時間外労働規制に係る労働基準法の施行は、厚生労働省労働基準局が細かいところまで詰めて現場の労働基準監督官に指示しなければならず、基本的にはそれを受けて対応することになるからです。これに対して、同一労働同一賃金の方は基本的には民事上どういう格差は許されてどういう格差は許されないかという判断基準が未だ極めて不明確なままであり、一昨年末のガイドライン(案)や今年6月1日の最高裁判決との関係も曖昧なままだからです。本来、そういう民事上の微妙な判断基準を行政機関が勝手にあれこれと決めることはできないはずであることを考えると、そういう論点を詳細に突っ込んで質疑することこそ国民の代表の任務だったはずですが、国会議員がそれを放棄してしまった結果、ボールは再び企業の人事管理サイドに投げ込まれてしまいました。

 その上で、最後に付けられた付帯決議では、その実施方法についてこういう意味深長な条項が含まれています。

三十二、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の三法改正による同一労働同一賃金は、非正規雇用労働者の待遇改善によって実現すべきであり、各社の労使による合意なき通常の労働者の待遇引下げは、 基本的に三法改正の趣旨に反するとともに、労働条件の不利益変更法理にも抵触する可能性がある旨を指針等において明らかにし、その内容を労使に対して丁寧に周知・説明を行うことについて、労働政策審議会において検討を行うこと。

 これは、同一労働同一賃金を口実にした「各社の労使による合意なき通常の労働者の待遇引下げ」を抑止しようとするものですが、裏返していえば、通常の労働者の待遇引き下げをやるのであれば「各社の労使による合意」でもってやれという意味でもあります。しからばその「各社の労使」の「労」とは何か、労働組合だけか、といえば狭すぎますし、36協定の過半数代表者みたいなものでもいいのか、となると余りにも緩すぎるでしょう。実はここに、集団的労使関係システムをめぐる大問題-新たな従業員代表制を創設すべきか否か?という問題-が孕まれているのですが、残念ながら肝心の国会はその点を掘り下げて論じてくれてはいないようです。

 この論点こそ、この欄でもこれまで何回か取り上げてきた、非正規労働問題の解決の道筋として集団的労使関係システムを活用しようという議論の中核に位置します。2013年7月に労働政策研究・研修機構の「様々な雇用形態にある者を含む労働者全体の意見集約のための集団的労使関係法制に関する研究会」(座長:荒木尚志)の報告書が提起した、新たな従業員代表制の整備という政策課題を、働き方改革関連法の実施に向けた議論の中で、改めて提起していく必要があると思われます。

 

 

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