副業・兼業と労災保険
深夜のサッカー観戦で日本中が眠い目をこすっているような今日この頃ですが、労働法政策では注目すべき動きが先週ありました。労政審の労災保険部会で例の副業・兼業の扱いの議論が始まったようです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212655.html
その論点は次の通りですが、
<給付額>
○ 複数就業者の全就業先の賃金合算分を基に労災保険給付が行われないことについて、どう考えるか。
○ 複数就業者の全就業先の賃金合算分を基に労災保険給付を行う場合、労働基準法の災害補償責任について、どう考えるか。
<労災認定>
○ 複数就業者の全就業先の業務上の負荷を合わせて評価して初めて業務起因性が認められる場合、労災保険給付が行われないことについて、どう考えるか。
○ 複数就業者の全就業先の業務上の負荷を合わせて業務起因性の判断を行い、労災保険給付を行う場合、労働基準法の災害補償責任について、どう考えるか。
この問題については、『全国労保連』の昨年9月号に簡単な紹介記事を書いていますので、労災・雇用保険関連部分を引用しておきます。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/09/20179-2582.html
労働法上の問題としては、労災保険、雇用保険といった労働保険上の取扱いをどうするかという問題が喫緊の課題です。このうち、労災保険上の一つの問題だけは2005年の労災保険法改正で解決しています。それは、二重就業者が本業の勤務先から副業の勤務先へ移動する途中で災害に遭ったときに「通勤災害」として認めるというものです。ただ、実はこの時、労政審労災保険部会では通勤災害だけでなく、労災保険給付の算定基礎となる平均賃金をどう考えるのかという問題も提起されていました。しかしこの問題はこの時には決着は付かず、2004年12月の建議では、なお、複数就業者に係る給付基礎日額の算定方法の在り方については、複数就業者の賃金等の実態を調査した上で、労災保険制度の在り方に関する研究会中間とりまとめに示された考え方を参照しつつ、専門的な検討の場において引き続き検討を行うことが適当である。とされており、そのままになっています。ここで引き合いに出されている2004年7月の「労災保険制度の在り方に関する研究会中間とりまとめ」を見ると、両事業場での賃金を合算すべきとしていました。労災保険給付額の算定は、被災労働者の稼得能力をできる限り給付に的確に反映させることが適当であると考えられることから、二重就職者についての給付基礎日額は、業務災害の場合と通勤災害の場合とを問わず、複数の事業場から支払われていた賃金を合算した額を基礎として定めることが適当である。しかし、この方向での改正は行われておらず、現在も「業務災害又は通勤災害による労働不能や死亡により失われる稼得能力は2つの事業場から支払われる賃金の合算分であるにもかかわらず、実際に労災保険から給付がなされ、稼得能力の填補がなされるのは片方の事業場において支払われていた賃金に見合う部分に限定される」という状態が続いています。最近の裁判例では、国・淀川労基署長(大代興業ほか1社)事件(大阪地判平成26年9月24日(労働判例1112号81頁)が、同じ施設内で機械警備及び設備管理と清掃業務を別の請負会社に雇用されて1日のうちに続けて就業していた労働者が過労死した事案で、原告側の合算すべきという請求を退けています。現行法上はそうせざるを得ないのですが、副業・兼業を国策として推進していくというのであれば、見直していく必要があるでしょう。実は今年5月2日の日経新聞にこういう記事が載っています。この方向での見直しは規定方針のようです。厚生労働省は労働者が仕事中のケガで働けなくなった場合に生活を支援する労災保険の給付を拡充する。今の仕組みでは複数の企業で働いていても、負傷した際に働いていた1つの企業の賃金分しか補償されない。複数の企業で得ている賃金に基づいて給付できるように制度を改める。副業や兼業といった働き方の多様化にセーフティーネットを合わせる狙いだ。厚労省は複数の企業で働いている人が労災認定された場合に、複数職場の賃金の合計額に基づいて給付額を計算する方式に改める。労働政策審議会での議論を経て関係法令を改正。早ければ来年度にも新しい仕組みを始める。同じ労働保険に属する雇用保険の適用関係についても、実は10年以上前から議論はされています。2006年2月の「雇用保険基本問題研究会」の「議論の整理」では、いわゆるマルチジョブホルダーのうち個々の就業においては短時間労働被保険者としての適用要件を満たさない者について、一定の範囲で適用することはできるか。仮に適用する場合、何を以て「失業」、「離職前賃金」「被保険者資格取得」等と捉えるのか。という問題提起がされていました。しかしこちらもその後、雇用保険の見直しはひんぱんにされる中でずっと先送りされ続けてきましたが、働き方改革に背中を押されてやはり見直しを検討しているようです。こちらはもっと前の今年2月21日の日経新聞の記事ですが、具体的な改正内容も出ています。厚生労働省は雇用保険の適用を受ける人の範囲を広げる。いまは1つの会社で週20時間以上働く人が対象だが、複数の会社に勤務していても失業手当をもらえるようにする。兼業や副業で仕事を掛け持ちする労働者の安全網を手厚くして、柔軟な働き方を後押しする。来年にも国会に関連法の改正案を提出する。・・・雇用保険に入るには同じ会社で週20時間以上働くとともに、31日以上の期間にわたって仕事をするのが条件となる。兼業で働く人がA社で週10時間、B社で週10時間働いても、保険の対象にならない。こうした仕組みは兼業や副業といった働き方が増えるにつれ、現状に合わなくなってきている。厚労省は複数の企業に勤めていても、合計の労働時間が週20時間を超えていれば、雇用保険に入れるように制度を改める考えだ。しかし労災保険の場合と異なり、雇用保険の場合、A社を離職してもB社には勤続していれば「失業」にはならないのかといった、そもそも何が「失業」という保険事故に当たるのかという大問題があります。
この複数就業者の労災保険の問題については、以前東大の労働判例研究会で国・淀川労基署長(大代興業ほか1社)事件(大阪地判平成26年9月24日) を評釈したことがあります。これは結局ジュリストに載らなかったのでのですが、個人的には興味深い、論点のいっぱいある事案だと思っていました。
そのときの評釈メモを参考までにアップしておきます。
労働判例研究会 2015/11/13 濱口桂一郎国・淀川労基署長(大代興業ほか1社)事件(大阪地判平成26年9月24日)(労働判例1112号81頁)(ダイジェスト)Ⅰ 事実1 当事者原告:X、亡Kの妻。被告:国K:A興業及びB社で勤務し、死亡した労働者。2 事案の経過・大阪市立C複合施設を運営するD事業団は、機械警備及び設備管理をA興業に、清掃業務をB社に請け負わせていた。・Kは平成12年4月16日A興業に雇用され、プール施設管理業務に従事していた。死亡当時の体制は、早番(午前8時~午後4時)と遅番(午後2時45分~午後10時)からなり、Kは遅番として勤務していた。・早番のFが休業から復帰した平成20年4月1日以後も体調が回復しなかったため、Kは週2回程度Fの代わりに早番をし、引き続き遅番もしていた。・Kは平成20年7月からB社のアルバイトとして週1回の休館日(月曜日)にプールサイドの清掃業務に従事し、同年10月からはさらにA興業の業務終了後浴室と男性更衣室の清掃業務に従事するようになった。・平成20年11月3日午前6時頃、本件施設トイレ付近でKが死亡。・Xは平成21年7月17日遺族補償給付等を請求。・監督署長は、A興業の賃金を基礎に給付基礎日額を算定して給付処分。・Xは、A興業とB社の賃金を合算して労働時間と給付基礎日額を算定すべきとして審査請求、再審査請求をしたがいずれも棄却され、平成24年4月13日本件訴えを提起。Ⅱ 判旨1 Kの労働時間:事実認定であり、省略。2 給付基礎日額の算定方式(1) 原則(労災保険制度)「が設けられたのは、業務災害を被った労働者及びその遺族に対しては、労基法8章において、使用者に必要な災害補償を行うべき責任が課されているが、これは個別使用者の責任にとどまっているため十分な補償を受けられない場合があることから、一定の例外を除いて強制適用・強制徴収を内容とするいわゆる強制保険の制度を採用し、政府が管掌することとして(労災保険法2条、3条)、もって、災害補償責任の履行を担保するものとして設けられたものであると解される。そして、労災保険法は「労働者を使用する事業」を適用単位としており(同法3条)、事業を単位として労災保険に加入することとしているところ、労災保険の適用単位としての「事業」とは、一つの経営体をいうものと解される。また、・・・労働者の業務災害に対する補償制度間に均衡を保とうとしており、・・・労災保険によって使用者の災害補償責任を免責するとしていることからすれば、労災保険法に基づく補償は、労基法に基づく個々の使用者の労働者に対する災害補償責任を前提としていると解することができる。さらに、労災保険の保険率(ママ)については、一定規模以上の事業場についていわゆるメリット制が採用されており、・・・複数事業場における業務が相まって初めて危険が発生したとして双方の事業者の共同の責任を負わせることは想定していない。そして、労基法に基づく事業者の補償責任が危険責任の法理に基づく無過失責任であることからすれば、過失責任である不法行為責任においても共同不法行為の規定が設けられていることに照らしても、前述のような複数の事業者の共同の災害補償責任を認めるためには明文の規定を設けることが必要となると解されるが、現行の労基法において、前述のような複数の事業者の共同の災害補償責任が生ずることとした規定は見当たらず、また、労災保険法においても、それを前提とした規定は見当たらない。以上からすれば、労災保険法に基づく労災保険制度は、労基法による災害補償制度から直接に派生した制度ではないものの、両者は、労働者の業務上の災害に対する使用者の補償責任の法理を共通の基盤としている以上(最高裁昭和49年3月28日判決・最判集民事111号475頁参照)、労災保険法は、個別事業場ごとの業務に着目し、同業務に内在する危険性が現実化して労働災害が発生した場合に、各種保険給付を行うこととしているということができる。そして、・・・労働災害の発生について責任を負わない事業主の責任の履行を担保するということを観念することはできないのであるから、被災労働者が複数の事業場で就労していた場合であっても、労災保険法に基づく給付額を算定する場合の平均賃金は、労働災害を発生させた事業場における賃金のみを基礎として算定するのが相当である。」(2) 労災民訴との関係「Xは、債務不履行や不法行為による損害は、必ずしも労働災害が生じた事業場から支給される賃金に限定されないことを指摘するが、それは、民法415条や709条が、使用者に安全配慮義務違反(過失)と相当因果関係を有する損害を賠償すべきことを規定しているからであって、そうであるからといって、労基法の定める平均賃金を基準として給付内容が法定されている労災補償給付について、複数の事業場における各平均賃金を合算すべきとする根拠になるものではないことが明らかである。」(3) 労働時間の通算との関係「労基法38条は・・・労働者の保護を図るために1週と1日の労働時間の総量規制を設けた趣旨に照らして、当然設けられるべき規定であると解されるところ、その趣旨や労基法38条があくまでも労働時間等の規制を定めた第4章に置かれており、平均賃金のように労基法全体に通じる第1章の総則に置かれているのではないことに照らせば、同条は、複数の事業場で就労した場合における労働時間規制の基準となる労働時間の算定に関して定めたものに過ぎず、その場合の平均賃金の算定に当たって、各事業場での賃金を合算して算定することを定めたものではないことが明らかであるから、同条の規定をもって、平均賃金の算定に際し、複数の事業場の賃金を合算することの根拠とできるものではない。」(4) 相乗効果「ある事業場での勤務時間以外の時間について、労働者がどのように過ごすのかについては、当該労働者が自由に決定すべきものであって、当該事業場は関与し得ない事柄であり、当該事業場が労働災害の発生の予防に向けた取組みをすることができるのも自らにおける労働時間・労働内容等のみである。そうすると、当該事業場と別の事業場が実質的には同一の事業体であると評価できるような特段の事情がある場合でもない限り、別の事業場での勤務内容を労災の業務起因性の判断において考慮した上で、使用者に危険責任の法理に基づく災害補償責任を認めることはできない。したがって、先に挙げた場合には、いずれの事業場の使用者にも災害補償責任を認めることはできないにもかかわらず、両事業場での就労を併せて評価して業務起因性を認めて労災保険給付を行うことは、労基法に規定する災害補償の事由が生じた場合に保険給付を行うと定めた労災保険法12条の8の明文の規定に反するというほかない。この点、Xは、そのうち少なくとも災害補償責任を肯定できる事業場が認められる場合には、災害補償責任が認められない他の事業場における平均賃金をも合算することができると主張するが、個別の事業場においていずれも災害補償責任が認められない場合との理論上の統一性を欠き、採用できない。そして、本件において、A興業とB社が実質的には同一の事業体であると評価できるといった特段の事情を認めるに足りる証拠はない。なお、確かに、Xが主張するとおり、処分行政庁は本件各処分の際に、A興業における労働時間とB社における労働時間を合算しているところ、これは、処分行政庁が判断を誤ったものというほかないが、訴訟において、Yが処分行政庁の判断と異なる主張をすること自体が許されなくなるものではない。」(5) 出向関係の場合との違い「本件のように、何ら関係のない複数の事業場において業務に従事し、何ら関係のない複数の事業主からそれぞれ賃金の支払いを受ける場合は、同通達が想定している状況と全く状況が異なることからすれば、同通達をもって、平均賃金の算定において複数の事業場の賃金を合算する根拠と解することができないことは明らかである。」(6) ILO第121号条約との関係「労災保険法に基づき各種給付を行う場合に、平均賃金の算定方法をどのようにするかは専ら国内法の問題にとどまるのであって、同条約をもって、平均賃金の算定において複数の事業場の賃金を合算する根拠と解することができないことは明らかである。」3 業務起因性の判断(1) 「Kの死亡という労働災害がA興業の業務に起因することについては当事者間に争いがない。」(2) 「このようなB社における労働時間(発症前1か月43時間28分、発症前2ないし6か月0ないし16時間52分)に照らせば、B社におけるKの業務が過重なものであったということができないことは明らかであり、また、業務内容も・・・プールサイド、浴室と男性更衣室の清掃業務であったことからすればやはり過重な業務であったということはできない。そうすると、B社の業務に、労働災害を発生させる危険が内在しているということはできず、ひいては、Kの死亡という労働災害がB社の業務に起因するものということもできない。したがって、本件におけるKの死亡という労働災害については、A興業の業務に起因するものと認めるのが相当である。」(3) 「以上の次第で、本件における給付基礎日額については、A興業における平均賃金のみを基礎として算定することとなる。」Ⅲ 評釈1 純粋他事業所の場合本判決は、本件を「何ら関係のない複数の事業場において業務に従事し、何ら関係のない複数の事業主からそれぞれ賃金の支払いを受ける場合」であるとみなしている(判旨2(5))が、本件が真にそう言えるかどうかには疑問がある。しかしまずは、仮に本判決のこの立場に立って、A興業とB社が空間的にも全く離れた事業場であったと仮定して考えてみる。労災保険法が労基法の労災補償責任に立脚するものであり、全く別の事業場における複数の事業主の労災補償責任を包括すべきものでないことは、一般論としては正しい。この点について、反対の論拠となり得るのは労基法38条の通算規定であり、制定直後よりこれは同一事業主の複数事業場のみならず複数事業主の場合にも適用すると解されてきている(昭23.5.14基発第769号)。しかし、空間的にも離れた場所で就労する真に全く別の事業主の場合、本規定の実効性には疑問があり、学説も否定に解すべきとする者が多く(菅野第十版p329等)、立法論としても多重就労の観点から削除論が有力である。労災補償責任の性格からして、もし「何ら関係のない複数の事業場において業務に従事し、何ら関係のない複数の事業主からそれぞれ賃金の支払いを受ける場合」であるならば、A興業とB社の労災補償責任は別々に発生し、包括されることはないと考えられる。2 同一場所に複数企業が混在する場合の労災補償責任、安全衛生責任しかし、現行労働法は形式的に別の事業主であっても同一場所で混在して就労する場合については、労災補償責任や安全衛生責任を包括的に元請事業主に課する仕組みを有している。労基法の労災補償規定には、戦前の労働者災害扶助法以来の建設業における元請包括責任規定が存在し、労災保険ではこれを前提に元請による保険料支払制度がある。また、労働安全衛生法には従来から建設業及び造船業について元方事業主の安全管理責任が規定され、2005年改正ではこれが製造業一般に広げられた。もとより、本件は業種が異なるのでこれら現行法上の労災補償責任、安全衛生責任は適用されない。しかし、労災補償法制やそれと裏腹の関係にある安全衛生法制においては、法人格が異なる別事業主であるから「何ら関係のない複数の事業主」であるという単純な発想に立っていないことは確かである。むしろ、一般論としては同一場所で複数企業が混在する場合には労災補償責任や安全衛生責任が包括的に発生する可能性があり、それを法的に明確に規定したのが現行法の諸規定であると考えるべきではなかろうか。とすれば、本件の如き建設業や製造業ではないサービス業の事案においても、立法政策によっては包括的な労災補償責任や安全衛生責任を考え得る余地があるように思われる。3 本件におけるA興業とB社の関係本件におけるA興業とB社はいずれもD事業団からC複合施設の中のプール設備という同一場所において設備管理業務と清掃業務という切り分けられてはいるが密接に関連した業務を請け負っている企業である。判決文からは両者に資本的人的関係があるとは言えないが、労災補償責任や安全衛生責任においてはそれらは関係がない。業務としてどの程度包括的に捉えることができるかで見ると、A興業のプール設備管理業務は、地下の機械室でプールと浴室の水温を確認して必要があれば追い炊きをする、玄関まわりで自転車を外に出す、カラーコーンを並べる、煙草の吸い殻入れを定位置に置く、女子浴室の塩素濃度を確認する、地下駐車場のシャッターを開ける、ブロワー、ジャグジーのスイッチを入れる、プールや浴室の塩素濃度等を確認記録する、照明を消し、機械警備を設定し、シャッターを閉め、玄関の自動ドアのスイッチを締め、施錠する、日によっては水を追加したり、電灯の交換、1月に1度程度採温室修理やプール消火栓さび取り等であり、B社の業務はプールサイドの掃除に加え、浴室と男性更衣室の清掃である。広い意味でのプール設備管理業務を切り分けて別の会社に委託することはもちろん可能であり問題はないが、それによって使用者責任が恣意的に切り分けられてしまう危険性も考慮する必要があるのではないか。上記1で一般論としては否定的に論じた労働時間の通算についても、空間的に同一場所において行われる類似した業務を別々の企業に請け負わせることによって通算を回避することがあり得るとすれば、むしろ通算を肯定的に解すべきではないかとも考えられる。本件ではA興業の業務だけで業務起因性が肯定されるほどの過重労働となっていたので、争点は主として給付基礎日額の算定にとどまったが、仮に上記さまざまな業務を細かく切り分け、別々の企業に行わせていたら、単体としては業務起因性が肯定され得ないような短時間の労働が同一場所で連続的に行われるような状況もありうるのであり、かかる状況に対しても「何ら関係のない複数の事業場において業務に従事し、何ら関係のない複数の事業主からそれぞれ賃金の支払いを受ける場合」とみなすような解釈でいいのかも考えるべきであろう。4 現行法規を前提とする限り、本件において本判決の結論を否定することは困難であるが、従来から重層請負が通常であった建設業に限らず、近年広い業種においてアウトソーシングが盛んに行われている現在、少なくとも上記労災補償法制や安全衛生法制と類似した状況下にある者については、何らかの対応が必要であると思われる。会社をばらばらにして別々に委託すれば、まとめて行わせていれば発生したであろう使用者責任を回避しうるというようなモラルハザードは望ましいものとは言えない。
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