フォト
2024年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ

« 来年ILOで職場の暴力・ハラスメント条約へ | トップページ | 在宅ワークリテラシー@『Works』148号 »

2018年6月11日 (月)

ジョブ型採用への道@アクシア

Authorphoto アクシアというIT企業の社長さんのブログに、創業以来の採用方法の変遷が書かれていて、大変面白かったので少し紹介しておきます。

https://axia.co.jp/2018-06-06 (アクシアが採用を完全にストップするに至るまでの経緯)

この会社、創業当時はよくあるSEサービスの下請会社だったのが、自社開発になり、やがて残業ゼロで有名になっていくのですが、ここではそっちじゃなくて、それに応じて採用方法がどう変わってきたか。

一番初めはもちろん人脈だよりですが、求人媒体を利用し始めたころは、

・・・この時は会社の知名度も実績もたいしたことなかったということもあり、応募してくる人はプログラミング未経験の人ばかりでした。会社に何の特色もなく魅力もありませんでしたから仕方ありません。
しかもこの頃やっていた業務は現在私が猛烈に批判しているSESです。ちょうどこの頃にSESにおける偽装請負の違法性について当時の従業員から指摘されて、社内での受託開発にシフトしていくくらいの時期でした。
未経験の人を育てるためにはお金も時間もかかりますが仕方ありません。当時はそれしか方法がなかったので、未経験の人を採用して育てるやり方をしていました。・・・

と、未経験者を採用して育てるという日本型のやり方をせざるを得なかったのですが、
・・・SESに嫌気がさして辞めていく社員がポロポロ出つつも、社内での受託開発を始めたことで応募者の中身に変化が現れました。それまでは募集しても未経験者ばかりが応募してきていたのですが、経験者からの応募がかなり増えました。・・・

と、経験者採用が出来るようになる。ところが、当時は超ブラック企業状態で、

・・・毎日終電、毎週休日出勤が当たり前のひどい状況でしたので、採用しても次々と人は辞めていきました。ですので、年に何回も高いお金を払って求人媒体で募集をかけて、採用しては辞めて、採用しては辞めての繰り返しでした。・・・

と、むしろ採用政策は拙劣というべき状況だったようです。それが残業ゼロの会社になってからは、

・・・残業ゼロの会社になってからは採用の状況は大きく変わりました。まず求人を出した時の応募者の数がさらに飛躍的に増えました。1回求人掲載すれば応募者の数は100人以上は必ず来るようになりました。
そして応募者の内訳にも変化が現れました。目に見えて現れたわかりやすい変化としては、女性からの応募者が爆発的に増えました。応募者の女性の中には子育て中の主婦の方もたくさんいます。・・・

と、おのずからダイバーシティも出てきたようです。ついでに、こういう喜劇もあったようで、今日の残業代ゼロに激おこの議論のどれ程がそうなのかは、人によっていろいろ見方があるところでしょう。

・・・応募時には「残業ゼロの会社方針は素晴らしい」と絶賛してそれに共感して入社してきてくれたのに、残業ゼロの働き方にうまく適応できずに「残業させてください」「残業ゼロなんておかしい」と最後には会社の方針批判をして辞めていってしまった人もいます。・・・

が、ここまでは前説。

こうなってきて、それまでの未経験者歓迎方針を引っ込めるのですね。

・・・ありがたいことにたくさんの方からほぼ毎日ご応募いただけるようになり、その中にはプログラミング経験豊富な方からの応募も多く含まれるようになりました。そうなってくると会社としてはあえて未経験者の方を採用する理由がなくなってきます。
そこで2017年の9月に、プログラミング未経験の方からの応募を打ち切りました。
そしてこの時には結構色々な批判を受けたことを覚えています。
「それでもホワイト企業なのか」
「未経験者にも門戸を開け」
「若者の希望を奪うな」
見ず知らずの人達から様々な批判を受けました。でも会社はボランティア活動をしているわけではありません。会社がお金と時間をかけて育成しなくても、即戦力で貢献してくれる人達がたくさん応募してきてくれるのに、あえて未経験の人を採用する理由が企業にはありません。
もし未経験でも採用してほしいと思うなら、こちらが採用したいと思う何かしらの理由を携えて応募してきてほしいです。傲慢だと思われる方もいるかもしれませんが、企業活動は営利活動ですのでご理解いただければ幸いです。・・・

いやあ、ここで「それでもホワイト企業なのか」という批判が出てくるところが実に日本的です。まさにその通り、日本型雇用システムにおけるホワイト企業とは、(ジョブ型社会であれば好んで採用しないような)未経験者を採用してあげて、(ジョブ型社会であれば逃げ出すような)ブラックな労働条件ではあってもビシバシ鍛え上げてくれる企業のことなのであって、それを表層だけとらえて(ジョブ型社会の基準に従って)ブラック企業と批判するなら、採用方法についても同じ基準で評価しないと公平ではありませんね。いうまでもなくそれは(欧米の社会がそうであるように)「若者の希望を奪う」わけですが、それはどちらのメリットとデメリットの組み合わせを選択するかという問題。もちろん企業はボランティア活動しているのではないので、そういう日本型ホワイト企業に残業ゼロなどという離れ業をしろというわけにはいかないわけです。

この辺の雇用システムの違いによる論理的因果関係がなかなか理解できないと、どっちのブラックを責めてどちらのホワイトを求めているのか訳が分からないような議論になりがちです。

で、やがて、応募がふえすぎて、募集を打ち切りますと。

・・・書類選考を行い、面接の調整・実施を行うことが少しずつ負担となってきてしまっていたというのが正直なところであり、社内で慎重に協議をした結果、一度全ての採用をストップして、再び必要な人材が出てきた時に募集を再開するという結論に至りました。「優秀な人は無理してでも採用する」という方針もここで取り下げとさせていただくことになりました。・・・

ただしかし、話がそこで終わりであれば、わざわざ本ブログで紹介するだけの意味もなかったと思います。ジョブ型採用とは、この仕事ができるという人が欲しいからそれを求人という形で募集するのであり、それ以上でもそれ以下でもないというジョブ型社会ではあまりにも当たり前の話に過ぎません。

でも、この会社、「それでもホワイト企業なのか」「未経験者にも門戸を開け」「若者の希望を奪うな」といったいかにもメンバーシップ型の声には対応していませんが、それとは違う形で「ホワイト」な形で「門戸を開」き、「若者の希望」に答えているようです。

・・・また現在アクシアでは職業訓練校からの依頼を受けて、訓練生の実習受け入れを行っております。これは職業訓練校から実習料を払っていただき、アクシアで訓練生の実習を行うというものです。
実習では不足するスキルの習得はもちろんのこと、研修課題に取り組んでいただいたり、慣れてきたら弊社社員監修の元でOJTで簡単な社内システムの開発業務等に取り組んでもらっています。Slack等を使いながら、アジャイル開発で実習を行っています。
この職業訓練校の方が優秀であることもあり、未経験でありながら自分でスキルアップの努力をして、自分で何かシステムを構築してそのプログラムをGitHubに公開しているなど、将来性を感じさせてくれる方もいます。双方希望した場合は実習後に採用という道もあります。
このようにおかげさまで、有料の求人媒体以外の様々な経路で、優秀な人材を採用する経路が現在ではできてきています。採用なので時間はかかりますが、お金は本当にかからなくなりました。・・・

正直、ふーんという感じで読んでたこの社長さんのブログで、ちょっと背筋が伸びた感じがしたのはこの部分でした。いやいや、これこそジョブ型社会の典型的な雇用促進政策であり、社会統合政策であり、企業の社会貢献であるわけで、それ故にやる気のある未経験者をビシビシ鍛え上げるのが常道であるこの日本社会ではなかなかうまくいかない分野でもあるわけです。

いろんな読み方ができるのでしょうが、日本の労働社会の現実と可能性を垣間見せてくれる興味深いエントリであることは間違いありません。

 

 

 

 

 

 

« 来年ILOで職場の暴力・ハラスメント条約へ | トップページ | 在宅ワークリテラシー@『Works』148号 »

コメント

未経験者を雇用して働かせることそれ自体が
いわゆる「ブラック」なのでしょうね。
だからこそ欧米ではインターンという
法の抜け道が使われているのでしょう。

企業の事業活動の一部として働くということは、
プロフェッショナルとして働くということであり、
プロフェッショナルとしての責任を負う
ということなのですよね。

日本の法律では「業として行う者」という扱いで、
通常よりも責任が重くなるとされているわけです。
刑事上は業務上何々などと法律で規定がありますが、
民事上も同様ですね。
「プロフェッショナルとして当然行うべきことを怠った」
などと責めを負うことになります。
「未経験で未熟な者だから」という言い訳は通用しません。

してみると、業務経験のない、あるいは少ない未熟な労働者
というのは、それ自体が法的にグレーな存在であるわけですね。

欧米のインターンは労働者ではないという扱いで、
労働者保護の対象外になるという点が問題視されていますが、
同時にプロフェッショナルとしての
責任を負わずに済む、という面もありそうです。
まさに抜け道であるわけですね。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ジョブ型採用への道@アクシア:

« 来年ILOで職場の暴力・ハラスメント条約へ | トップページ | 在宅ワークリテラシー@『Works』148号 »