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2018年6月

副業・兼業と労災保険

深夜のサッカー観戦で日本中が眠い目をこすっているような今日この頃ですが、労働法政策では注目すべき動きが先週ありました。労政審の労災保険部会で例の副業・兼業の扱いの議論が始まったようです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212655.html

その論点は次の通りですが、

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000212651.pdf

<給付額>
○ 複数就業者の全就業先の賃金合算分を基に労災保険給付が行われないことについて、どう考えるか。
○ 複数就業者の全就業先の賃金合算分を基に労災保険給付を行う場合、労働基準法の災害補償責任について、どう考えるか。
<労災認定>
○ 複数就業者の全就業先の業務上の負荷を合わせて評価して初めて業務起因性が認められる場合、労災保険給付が行われないことについて、どう考えるか。
○ 複数就業者の全就業先の業務上の負荷を合わせて業務起因性の判断を行い、労災保険給付を行う場合、労働基準法の災害補償責任について、どう考えるか。

Kaihou1709large_jpgこの問題については、『全国労保連』の昨年9月号に簡単な紹介記事を書いていますので、労災・雇用保険関連部分を引用しておきます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/09/20179-2582.html

 労働法上の問題としては、労災保険、雇用保険といった労働保険上の取扱いをどうするかという問題が喫緊の課題です。このうち、労災保険上の一つの問題だけは2005年の労災保険法改正で解決しています。それは、二重就業者が本業の勤務先から副業の勤務先へ移動する途中で災害に遭ったときに「通勤災害」として認めるというものです。ただ、実はこの時、労政審労災保険部会では通勤災害だけでなく、労災保険給付の算定基礎となる平均賃金をどう考えるのかという問題も提起されていました。しかしこの問題はこの時には決着は付かず、2004年12月の建議では、
 なお、複数就業者に係る給付基礎日額の算定方法の在り方については、複数就業者の賃金等の実態を調査した上で、労災保険制度の在り方に関する研究会中間とりまとめに示された考え方を参照しつつ、専門的な検討の場において引き続き検討を行うことが適当である。
とされており、そのままになっています。
 ここで引き合いに出されている2004年7月の「労災保険制度の在り方に関する研究会中間とりまとめ」を見ると、両事業場での賃金を合算すべきとしていました。
 労災保険給付額の算定は、被災労働者の稼得能力をできる限り給付に的確に反映させることが適当であると考えられることから、二重就職者についての給付基礎日額は、業務災害の場合と通勤災害の場合とを問わず、複数の事業場から支払われていた賃金を合算した額を基礎として定めることが適当である。
 しかし、この方向での改正は行われておらず、現在も「業務災害又は通勤災害による労働不能や死亡により失われる稼得能力は2つの事業場から支払われる賃金の合算分であるにもかかわらず、実際に労災保険から給付がなされ、稼得能力の填補がなされるのは片方の事業場において支払われていた賃金に見合う部分に限定される」という状態が続いています。
 最近の裁判例では、国・淀川労基署長(大代興業ほか1社)事件(大阪地判平成26年9月24日(労働判例1112号81頁)が、同じ施設内で機械警備及び設備管理と清掃業務を別の請負会社に雇用されて1日のうちに続けて就業していた労働者が過労死した事案で、原告側の合算すべきという請求を退けています。現行法上はそうせざるを得ないのですが、副業・兼業を国策として推進していくというのであれば、見直していく必要があるでしょう。実は今年5月2日の日経新聞にこういう記事が載っています。この方向での見直しは規定方針のようです。
 厚生労働省は労働者が仕事中のケガで働けなくなった場合に生活を支援する労災保険の給付を拡充する。今の仕組みでは複数の企業で働いていても、負傷した際に働いていた1つの企業の賃金分しか補償されない。複数の企業で得ている賃金に基づいて給付できるように制度を改める。副業や兼業といった働き方の多様化にセーフティーネットを合わせる狙いだ。
 厚労省は複数の企業で働いている人が労災認定された場合に、複数職場の賃金の合計額に基づいて給付額を計算する方式に改める。労働政策審議会での議論を経て関係法令を改正。早ければ来年度にも新しい仕組みを始める。
 同じ労働保険に属する雇用保険の適用関係についても、実は10年以上前から議論はされています。2006年2月の「雇用保険基本問題研究会」の「議論の整理」では、
 いわゆるマルチジョブホルダーのうち個々の就業においては短時間労働被保険者としての適用要件を満たさない者について、一定の範囲で適用することはできるか。仮に適用する場合、何を以て「失業」、「離職前賃金」「被保険者資格取得」等と捉えるのか。
という問題提起がされていました。しかしこちらもその後、雇用保険の見直しはひんぱんにされる中でずっと先送りされ続けてきましたが、働き方改革に背中を押されてやはり見直しを検討しているようです。こちらはもっと前の今年2月21日の日経新聞の記事ですが、具体的な改正内容も出ています。
 厚生労働省は雇用保険の適用を受ける人の範囲を広げる。いまは1つの会社で週20時間以上働く人が対象だが、複数の会社に勤務していても失業手当をもらえるようにする。兼業や副業で仕事を掛け持ちする労働者の安全網を手厚くして、柔軟な働き方を後押しする。来年にも国会に関連法の改正案を提出する。・・・
 雇用保険に入るには同じ会社で週20時間以上働くとともに、31日以上の期間にわたって仕事をするのが条件となる。兼業で働く人がA社で週10時間、B社で週10時間働いても、保険の対象にならない。こうした仕組みは兼業や副業といった働き方が増えるにつれ、現状に合わなくなってきている。厚労省は複数の企業に勤めていても、合計の労働時間が週20時間を超えていれば、雇用保険に入れるように制度を改める考えだ。
 しかし労災保険の場合と異なり、雇用保険の場合、A社を離職してもB社には勤続していれば「失業」にはならないのかといった、そもそも何が「失業」という保険事故に当たるのかという大問題があります。

この複数就業者の労災保険の問題については、以前東大の労働判例研究会で国・淀川労基署長(大代興業ほか1社)事件(大阪地判平成26年9月24日) を評釈したことがあります。これは結局ジュリストに載らなかったのでのですが、個人的には興味深い、論点のいっぱいある事案だと思っていました。

そのときの評釈メモを参考までにアップしておきます。

労働判例研究会                             2015/11/13                                    濱口桂一郎
 
国・淀川労基署長(大代興業ほか1社)事件(大阪地判平成26年9月24日)
(労働判例1112号81頁)(ダイジェスト)
 
Ⅰ 事実
1 当事者
原告:X、亡Kの妻。
被告:国
K:A興業及びB社で勤務し、死亡した労働者。
 
2 事案の経過
・大阪市立C複合施設を運営するD事業団は、機械警備及び設備管理をA興業に、清掃業務をB社に請け負わせていた。
・Kは平成12年4月16日A興業に雇用され、プール施設管理業務に従事していた。死亡当時の体制は、早番(午前8時~午後4時)と遅番(午後2時45分~午後10時)からなり、Kは遅番として勤務していた。
・早番のFが休業から復帰した平成20年4月1日以後も体調が回復しなかったため、Kは週2回程度Fの代わりに早番をし、引き続き遅番もしていた。
・Kは平成20年7月からB社のアルバイトとして週1回の休館日(月曜日)にプールサイドの清掃業務に従事し、同年10月からはさらにA興業の業務終了後浴室と男性更衣室の清掃業務に従事するようになった。
・平成20年11月3日午前6時頃、本件施設トイレ付近でKが死亡。
・Xは平成21年7月17日遺族補償給付等を請求。
・監督署長は、A興業の賃金を基礎に給付基礎日額を算定して給付処分。
・Xは、A興業とB社の賃金を合算して労働時間と給付基礎日額を算定すべきとして審査請求、再審査請求をしたがいずれも棄却され、平成24年4月13日本件訴えを提起。
 
Ⅱ 判旨
1 Kの労働時間:事実認定であり、省略。
2 給付基礎日額の算定方式
(1) 原則
 (労災保険制度)「が設けられたのは、業務災害を被った労働者及びその遺族に対しては、労基法8章において、使用者に必要な災害補償を行うべき責任が課されているが、これは個別使用者の責任にとどまっているため十分な補償を受けられない場合があることから、一定の例外を除いて強制適用・強制徴収を内容とするいわゆる強制保険の制度を採用し、政府が管掌することとして(労災保険法2条、3条)、もって、災害補償責任の履行を担保するものとして設けられたものであると解される。
 そして、労災保険法は「労働者を使用する事業」を適用単位としており(同法3条)、事業を単位として労災保険に加入することとしているところ、労災保険の適用単位としての「事業」とは、一つの経営体をいうものと解される。
 また、・・・労働者の業務災害に対する補償制度間に均衡を保とうとしており、・・・労災保険によって使用者の災害補償責任を免責するとしていることからすれば、労災保険法に基づく補償は、労基法に基づく個々の使用者の労働者に対する災害補償責任を前提としていると解することができる。
 さらに、労災保険の保険率(ママ)については、一定規模以上の事業場についていわゆるメリット制が採用されており、・・・複数事業場における業務が相まって初めて危険が発生したとして双方の事業者の共同の責任を負わせることは想定していない。
 そして、労基法に基づく事業者の補償責任が危険責任の法理に基づく無過失責任であることからすれば、過失責任である不法行為責任においても共同不法行為の規定が設けられていることに照らしても、前述のような複数の事業者の共同の災害補償責任を認めるためには明文の規定を設けることが必要となると解されるが、現行の労基法において、前述のような複数の事業者の共同の災害補償責任が生ずることとした規定は見当たらず、また、労災保険法においても、それを前提とした規定は見当たらない。
 以上からすれば、労災保険法に基づく労災保険制度は、労基法による災害補償制度から直接に派生した制度ではないものの、両者は、労働者の業務上の災害に対する使用者の補償責任の法理を共通の基盤としている以上(最高裁昭和49年3月28日判決・最判集民事111号475頁参照)、労災保険法は、個別事業場ごとの業務に着目し、同業務に内在する危険性が現実化して労働災害が発生した場合に、各種保険給付を行うこととしているということができる。そして、・・・労働災害の発生について責任を負わない事業主の責任の履行を担保するということを観念することはできないのであるから、被災労働者が複数の事業場で就労していた場合であっても、労災保険法に基づく給付額を算定する場合の平均賃金は、労働災害を発生させた事業場における賃金のみを基礎として算定するのが相当である。」
(2) 労災民訴との関係
 「Xは、債務不履行や不法行為による損害は、必ずしも労働災害が生じた事業場から支給される賃金に限定されないことを指摘するが、それは、民法415条や709条が、使用者に安全配慮義務違反(過失)と相当因果関係を有する損害を賠償すべきことを規定しているからであって、そうであるからといって、労基法の定める平均賃金を基準として給付内容が法定されている労災補償給付について、複数の事業場における各平均賃金を合算すべきとする根拠になるものではないことが明らかである。」
(3) 労働時間の通算との関係
 「労基法38条は・・・労働者の保護を図るために1週と1日の労働時間の総量規制を設けた趣旨に照らして、当然設けられるべき規定であると解されるところ、その趣旨や労基法38条があくまでも労働時間等の規制を定めた第4章に置かれており、平均賃金のように労基法全体に通じる第1章の総則に置かれているのではないことに照らせば、同条は、複数の事業場で就労した場合における労働時間規制の基準となる労働時間の算定に関して定めたものに過ぎず、その場合の平均賃金の算定に当たって、各事業場での賃金を合算して算定することを定めたものではないことが明らかであるから、同条の規定をもって、平均賃金の算定に際し、複数の事業場の賃金を合算することの根拠とできるものではない。」
(4) 相乗効果
 「ある事業場での勤務時間以外の時間について、労働者がどのように過ごすのかについては、当該労働者が自由に決定すべきものであって、当該事業場は関与し得ない事柄であり、当該事業場が労働災害の発生の予防に向けた取組みをすることができるのも自らにおける労働時間・労働内容等のみである。そうすると、当該事業場と別の事業場が実質的には同一の事業体であると評価できるような特段の事情がある場合でもない限り、別の事業場での勤務内容を労災の業務起因性の判断において考慮した上で、使用者に危険責任の法理に基づく災害補償責任を認めることはできない。したがって、先に挙げた場合には、いずれの事業場の使用者にも災害補償責任を認めることはできないにもかかわらず、両事業場での就労を併せて評価して業務起因性を認めて労災保険給付を行うことは、労基法に規定する災害補償の事由が生じた場合に保険給付を行うと定めた労災保険法12条の8の明文の規定に反するというほかない。この点、Xは、そのうち少なくとも災害補償責任を肯定できる事業場が認められる場合には、災害補償責任が認められない他の事業場における平均賃金をも合算することができると主張するが、個別の事業場においていずれも災害補償責任が認められない場合との理論上の統一性を欠き、採用できない。そして、本件において、A興業とB社が実質的には同一の事業体であると評価できるといった特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
 なお、確かに、Xが主張するとおり、処分行政庁は本件各処分の際に、A興業における労働時間とB社における労働時間を合算しているところ、これは、処分行政庁が判断を誤ったものというほかないが、訴訟において、Yが処分行政庁の判断と異なる主張をすること自体が許されなくなるものではない。」
(5) 出向関係の場合との違い
 「本件のように、何ら関係のない複数の事業場において業務に従事し、何ら関係のない複数の事業主からそれぞれ賃金の支払いを受ける場合は、同通達が想定している状況と全く状況が異なることからすれば、同通達をもって、平均賃金の算定において複数の事業場の賃金を合算する根拠と解することができないことは明らかである。」
(6) ILO第121号条約との関係
 「労災保険法に基づき各種給付を行う場合に、平均賃金の算定方法をどのようにするかは専ら国内法の問題にとどまるのであって、同条約をもって、平均賃金の算定において複数の事業場の賃金を合算する根拠と解することができないことは明らかである。」
3 業務起因性の判断
(1) 「Kの死亡という労働災害がA興業の業務に起因することについては当事者間に争いがない。」
(2) 「このようなB社における労働時間(発症前1か月43時間28分、発症前2ないし6か月0ないし16時間52分)に照らせば、B社におけるKの業務が過重なものであったということができないことは明らかであり、また、業務内容も・・・プールサイド、浴室と男性更衣室の清掃業務であったことからすればやはり過重な業務であったということはできない。そうすると、B社の業務に、労働災害を発生させる危険が内在しているということはできず、ひいては、Kの死亡という労働災害がB社の業務に起因するものということもできない。
 したがって、本件におけるKの死亡という労働災害については、A興業の業務に起因するものと認めるのが相当である。」
(3) 「以上の次第で、本件における給付基礎日額については、A興業における平均賃金のみを基礎として算定することとなる。」
 
Ⅲ 評釈 
1 純粋他事業所の場合
 本判決は、本件を「何ら関係のない複数の事業場において業務に従事し、何ら関係のない複数の事業主からそれぞれ賃金の支払いを受ける場合」であるとみなしている(判旨2(5))が、本件が真にそう言えるかどうかには疑問がある。しかしまずは、仮に本判決のこの立場に立って、A興業とB社が空間的にも全く離れた事業場であったと仮定して考えてみる。
 労災保険法が労基法の労災補償責任に立脚するものであり、全く別の事業場における複数の事業主の労災補償責任を包括すべきものでないことは、一般論としては正しい。この点について、反対の論拠となり得るのは労基法38条の通算規定であり、制定直後よりこれは同一事業主の複数事業場のみならず複数事業主の場合にも適用すると解されてきている(昭23.5.14基発第769号)。しかし、空間的にも離れた場所で就労する真に全く別の事業主の場合、本規定の実効性には疑問があり、学説も否定に解すべきとする者が多く(菅野第十版p329等)、立法論としても多重就労の観点から削除論が有力である。労災補償責任の性格からして、もし「何ら関係のない複数の事業場において業務に従事し、何ら関係のない複数の事業主からそれぞれ賃金の支払いを受ける場合」であるならば、A興業とB社の労災補償責任は別々に発生し、包括されることはないと考えられる。
2 同一場所に複数企業が混在する場合の労災補償責任、安全衛生責任
 しかし、現行労働法は形式的に別の事業主であっても同一場所で混在して就労する場合については、労災補償責任や安全衛生責任を包括的に元請事業主に課する仕組みを有している。労基法の労災補償規定には、戦前の労働者災害扶助法以来の建設業における元請包括責任規定が存在し、労災保険ではこれを前提に元請による保険料支払制度がある。また、労働安全衛生法には従来から建設業及び造船業について元方事業主の安全管理責任が規定され、2005年改正ではこれが製造業一般に広げられた。
 もとより、本件は業種が異なるのでこれら現行法上の労災補償責任、安全衛生責任は適用されない。しかし、労災補償法制やそれと裏腹の関係にある安全衛生法制においては、法人格が異なる別事業主であるから「何ら関係のない複数の事業主」であるという単純な発想に立っていないことは確かである。むしろ、一般論としては同一場所で複数企業が混在する場合には労災補償責任や安全衛生責任が包括的に発生する可能性があり、それを法的に明確に規定したのが現行法の諸規定であると考えるべきではなかろうか。とすれば、本件の如き建設業や製造業ではないサービス業の事案においても、立法政策によっては包括的な労災補償責任や安全衛生責任を考え得る余地があるように思われる。
3 本件におけるA興業とB社の関係
 本件におけるA興業とB社はいずれもD事業団からC複合施設の中のプール設備という同一場所において設備管理業務と清掃業務という切り分けられてはいるが密接に関連した業務を請け負っている企業である。判決文からは両者に資本的人的関係があるとは言えないが、労災補償責任や安全衛生責任においてはそれらは関係がない。
 業務としてどの程度包括的に捉えることができるかで見ると、A興業のプール設備管理業務は、地下の機械室でプールと浴室の水温を確認して必要があれば追い炊きをする、玄関まわりで自転車を外に出す、カラーコーンを並べる、煙草の吸い殻入れを定位置に置く、女子浴室の塩素濃度を確認する、地下駐車場のシャッターを開ける、ブロワー、ジャグジーのスイッチを入れる、プールや浴室の塩素濃度等を確認記録する、照明を消し、機械警備を設定し、シャッターを閉め、玄関の自動ドアのスイッチを締め、施錠する、日によっては水を追加したり、電灯の交換、1月に1度程度採温室修理やプール消火栓さび取り等であり、B社の業務はプールサイドの掃除に加え、浴室と男性更衣室の清掃である。広い意味でのプール設備管理業務を切り分けて別の会社に委託することはもちろん可能であり問題はないが、それによって使用者責任が恣意的に切り分けられてしまう危険性も考慮する必要があるのではないか。
 上記1で一般論としては否定的に論じた労働時間の通算についても、空間的に同一場所において行われる類似した業務を別々の企業に請け負わせることによって通算を回避することがあり得るとすれば、むしろ通算を肯定的に解すべきではないかとも考えられる。
 本件ではA興業の業務だけで業務起因性が肯定されるほどの過重労働となっていたので、争点は主として給付基礎日額の算定にとどまったが、仮に上記さまざまな業務を細かく切り分け、別々の企業に行わせていたら、単体としては業務起因性が肯定され得ないような短時間の労働が同一場所で連続的に行われるような状況もありうるのであり、かかる状況に対しても「何ら関係のない複数の事業場において業務に従事し、何ら関係のない複数の事業主からそれぞれ賃金の支払いを受ける場合」とみなすような解釈でいいのかも考えるべきであろう。
4 現行法規を前提とする限り、本件において本判決の結論を否定することは困難であるが、従来から重層請負が通常であった建設業に限らず、近年広い業種においてアウトソーシングが盛んに行われている現在、少なくとも上記労災補償法制や安全衛生法制と類似した状況下にある者については、何らかの対応が必要であると思われる。会社をばらばらにして別々に委託すれば、まとめて行わせていれば発生したであろう使用者責任を回避しうるというようなモラルハザードは望ましいものとは言えない。
 

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EUのプラットフォーム就業者保護規則案@『労基旬報』2018年6月25日号

『労基旬報』2018年6月25日号に「EUのプラットフォーム就業者保護規則案」を寄稿しました。

 ここ数年、世界的にAIやIoT、プラットフォームやクラウドといった新技術による新たな産業構造の到来(第4次産業革命)がホットなテーマになっています。その中で、労働のあり方も激変するのではないか、それに対してどう対応すべきかということが、法学、経済学、社会学など分野横断的に熱っぽく議論されています。これに対して日本では、事態の進展もそれに関する議論の展開もやや遅れ気味の嫌いがありましたが、昨年来ようやく本格的な議論がなされるようになったようです。私も、総論的な解説をするとともに、とりわけEUレベルにおける政策対応の状況を解説してきました。
 その中でも、EUの行政府である欧州委員会が昨年末に提案した透明で予見可能な労働条件指令案については、『季刊労働法』2018年春号(260号)でかなり詳細に紹介しました。この指令案は主としてオンコール労働者の保護が狙いですが、指令案前文にはプラットフォーム労働者も適用対象に含まれると明記しており、いわば労働者性をプラットフォームを利用して働く人々にも広げる形で対応しようという方向性が窺われます。その後今年3月には自営業者も含めた社会保護アクセスに関する勧告案も提案され、その中には自営業者の失業保険という項目もあります。しかしここまでは労働社会政策、日本でいえば厚生労働省に当たる総局の政策イニシアティブです。
 しかし、こうした新たな就業形態は経済産業政策や競争政策の対象でもあります。日本でもここ数年間、経済産業省や公正取引委員会がこの問題に関する研究会を設け、報告書を公表してきています。同じような動きはEUでもあります。いや、日本の微温的な動きを遥かに超え、プラットフォームを利用して働く人々の保護を目指した立法提案が打ち出されるに至っているのです。今回はこの提案、「オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性と透明性の促進に関する規則案」(Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on promoting fairness and transparency for business users of online intermediation services)を紹介したいと思います。これは2018年4月26日に公表されたばかりのホットな話題です。
 その前にEU法について一言。私が主として紹介してきた労働法分野では、EUの立法手段としてはほとんどもっぱら「指令」が使われてきました。指令は加盟国にこういう内容の法律を作れと命ずるものですが、加盟国が立法化をサボっていれば民間企業の労働者が直接EU指令のみを根拠に訴えを起こすことはできません。それに対して「規則」は国内法に転換することを要せず、規則が施行されれば直ちにEU域内の全企業、全市民に適用されます。経済法分野では規則が用いられることが普通です。
 さて、今回の規則案の中身を見ていきましょう。いうまでもなく、本規則案には「労働者」という言葉は出てきません。オンライン仲介サービスを利用する両側の当事者のうち、消費者ではない方、つまり様々な材やサービスを提供する側のことを「ビジネスユーザー」とか「職業的ユーザー」と呼んでいます。あくまでも労働法とは別の、請負や委任といった民法や商法に基づく取引関係に入る人々について、その(「労働条件」ではない)「取引条件」の公正性、透明性を確保するための規制をかけようとしているのです。しかしその具体的な項目を見ていくと、まさに労働者の労働条件の保護のために労働契約にさまざまな規制をかけようとする労働法の発想と見事に対応していることがわかります。
 まず、透明性の向上として、オンライン仲介サービスのプロバイダーは、職業的ユーザーの就労条件が取引関係の全段階で(契約以前の段階も含め)容易に理解可能でアクセス可能なようにしなければなりません。これには事前に職業的ユーザーがプラットフォームから除名されたり資格停止される理由を設定することが含まれます。最近のプラットフォームの急拡大の中で、就業者からプラットフォームへの苦情として提起されているのがこの問題であることを考えれば、規則案の冒頭にこれが出てくるのも頷けます。プロバイダーはまた、就労条件の変更への合理的な最低告知期間を尊重しなければなりません。このあたり、労働法であれば解雇等の雇用終了や労働条件の不利益変更として議論される領域ですが、それを労働者ならざる「ビジネスユーザー」にいわば類推適用のように持ち込んでいるわけです。
 さらに、一般労働者の場合ではあまり見られない、プラットフォーム就業者特有のいくつかの問題にも本規則案は対応しようとしています。すなわち、オンライン仲介サービスのプロバイダーがビジネスユーザーの提供物の全部または一部を保留したり終了したりすれば、このプロバイダーはその理由を述べる必要があります。さらに、これらサービスのプロバイダーは(イ)そのサービスを通じて生み出されたいかなるデータが誰によっていかなる条件下でアクセスされるか、(ロ)職業ユーザーによって提供されたものと比べてプロバイダーの財やサービスをいかに取り扱うか、(ハ)職業ユーザーによって提供された生産物やサービスのもっとも望ましいレンジや価格を求める契約条項を用いるか、に関する一般方針を定式化し公表しなければなりません。最後に、オンライン仲介サービスとオンライン検索エンジンは検索結果において財やサービスがいかにランク付けされるかを決定する一般基準を設定しなければなりません。これらは直接労働者の場合に対応するものではないように見えますが、やや広く捉えれば、労働者の成果の評価や処遇の公正性といった諸問題に対応すると見ることもできます。近年急速に発達したアルゴリズムを用いた評価システムの問題はこれから労働者の評価や処遇にも大いに関わってくる可能性がありますが、プラットフォーム就業者はいわば一足先にその世界に入り込んでいるわけです。
 労働者についても紛争処理システムの整備が重要課題であるように、これらプラットフォーム就業者についても効果的な紛争解決が図られる必要があります。本規則案は、オンライン仲介サービスのプロバイダーが社内に苦情処理制度を設置しなければならないと定めるとともに、裁判外紛争解決を促進するため、すべてのオンライン仲介サービスのプロバイダーは、その就労条件において紛争解決に信義をもってあたろうとする独立かつ資格を有する仲裁人のリストを示さなければならないとしています。さらに話を広げ、業界としての対応策を求めています。すなわち、オンライン仲介サービスの業界にそのサービスから生じる紛争を取り扱う専門の独立仲裁人を設置することを求めているのです。最後に、EUレベルにこの問題を担当する機関を設置するとも述べています。
 確認しますが、これは労働政策としてではなく、経済産業政策として打ち出されたものです。しかしその問題意識は、弱い立場の労働者を保護するために労働法が試みてきた様々な手段と相似的な手法を、プラットフォーム就業者というこれまた経済的に弱い立場の人々を保護するために講じようとするものとなっており、今後世界的にますますプラットフォーム経済、シェアリング経済が発達していく中で、一つの参考資料として注目に値するものと思われます。

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建設業の労務下請と派遣請負基準

もちろん、もともと建設業の重層請負構造は労務下請であり、実のところは職安法施行規則4条や派遣請負基準告示で言うような厳密な意味でのご立派な請負とは言いかねるものであることは、関係者であれば重々承知の上での話だったのではあるのでしょうが、それを形式的にでも覆い隠す格好をしていたのすら、もうそんなことを気にかけている余裕はないということなのでしょうか。

国土交通省の中央建設業審議会・社会資本整備審議会産業分科会建設部会基本問題小委員会に、去る5月28日に出された資料の中に、

http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/totikensangyo13_sg_000137.html

http://www.mlit.go.jp/common/001236202.pdf(資料3 現場技術者配置要件の合理化について)

今は重層請負のどんな孫請でもひ孫請でも主任技術者を置かなければいけないのですが、実際は労務下請なんだから、そんなの置かなくてもいいことにしようじゃないか、と。

【下請企業の技術者配置要件の合理化について】
○ 下請の重層化の中には技能者の不足分を賄うために行われているものがあるが、そうした場合も全ての建設業者は技術者の配置が必要。このうち一定の限られた工種の中で行われているものについては、施工の管理が限られた範囲にとどまるため、上位下請企業の主任技術者が行う施工管理の下で下位下請企業も含め適切に作業を進めていくことで適正な施工は確保できる場合があるのではないか。
⇒ こうした場合には下請企業の主任技術者の配置を不要とすることが可能ではないか。

Kensetu

建設業法には、

(主任技術者及び監理技術者の職務等)
第26条の3 .主任技術者及び監理技術者は、工事現場における建設工事を適正に実施するため、当該建設工事の施工計画の作成、工程管理、品質管理その他の技術上の管理及び当該建設工事の施工に従事する者の技術上の指導監督の職務を誠実に行わなければならない。
2.工事現場における建設工事の施工に従事する者は、主任技術者又は監理技術者がその職務として行う指導に従わなければならない

どうせ労務下請なんだから、自分のところで主任技術者なんか抱えさせないで、ちゃんとした1次下請の主任技術者の指導監督に委ねろ、と。

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『経営法曹』197号

『経営法曹』197号をお送りいただきました。ありがとうございます。

例年通り「年間重要判例」の検討がされていますが、必読の論説は丸尾拓養さんの「変わりゆく雇用システムと雇用法理の再評価-持続する最高裁判決」です。

50年前の秋北バス判決、40年前の三菱樹脂判決、30年前の日立メディコ判決と、日本型雇用システムを明示黙示に前提として構築された日本型労働判例が、いま「同一労働同一賃金」「働き方改革」という本来的にはそれと矛盾する政策との間できしみを立てている姿をさらりと描き出しています。

・・・「同一労働同一賃金」は「違う労働違う賃金」の世界である。これまでの正社員の職能給は「違う労働(ほぼ)同一賃金」であった。そこでの「職能」という緩衝装置はフィクションでありながら、高度成長、安定成長の時代に相応する賃金及び人事制度の基盤であった。最高裁はこのことをよく理解していた。・・・

と、秋北バス事件の判決を引用して、

・・・ここには、多数の労働契約関係を同じように扱うことが含意されている。「多様」に扱うのではない。「集合的・統一的」処理、「統一かつ画一的」決定の主たる対象は、「違う労働(ほぼ)同一賃金」の正社員である。・・・

そう、最高裁が確立した就業規則法理の根幹は、まさに「同一労働同一賃金」=「違う労働違う賃金」とは別世界の「違う労働(ほぼ)同一賃金」を大前提とするものであったのですね。

そして、正社員という身分に基づく「違う労働(ほぼ)同一賃金」の論理的対偶がやはり身分の違いに基づく「同一労働(であっても)違う賃金」である以上、今日の同一労働同一賃金論が職能給システムとその論理の最も深い次元で矛盾するものであることも確かなのでしょう。

本論文の最後はこう締めくくられています。

・・・長期雇用システム下の労働契約関係は家制度に代替するものであったのかも知れない。近代企業における集合的・統一的・画一的に扱われた正社員という「身分」は、経済的にも社会的にも受入れられた。何よりも日本の働く個人に、家族に受入れられた。・・・

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『情報労連REPORT』6月号

De7izynuwaaixni『情報労連REPORT』6月号をお送りいただきました.特集は「ハラスメントのない職場へ」です。

http://ictj-report.joho.or.jp/special/

男女平等参画社会の実現へ ハラスメントなき社会を実現しよう 野田 三七生情報労連中央執行委員長

相手は嫌でもにっこり笑っている セクハラの本質を知ろう 牟田 和恵大阪大学教授

[覆面座談会]職場のセクハラの実態は?「それセクハラですよ」と言えない女性社員のホンネ 

「いじり」が社員を苦しめる 背景にある職場の「モノカルチャー」 中野 円佳フリージャーナリスト

女性議員の比率が上がれば 多様な声が身近な暮らしに反映される 竹井 ようこ小平市議会議員

「#MeToo」から「#WeToo」へ ハラスメントのある社会の一員でいいですか? 大澤 祥子一般社団法人 ちゃぶ台返し女子アクション代表理事/#WeTooオーガナイザー

「男の絆」から生まれるセクハラ  「ホモソーシャル」を知っていますか 前川 直哉福島大学総合教育研究センター 特任准教授

セクハラ相談担当者が知っておきたい 相談対応のポイント 新村 響子弁護士

セクハラ対策の次の展開は? セクハラ禁止規定と行政救済機関の創設を 内藤 忍独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)労使関係部門 副主任研究員

ハラスメント法制大転換の千載一遇のチャンス 世論のうねりがカギに 井上 久美枝連合  総合男女・雇用平等局 総合局長

覆面座談会の冒頭にこういう経験談が語られます。

─セクハラを受けたことはありますか。

A あります。新入社員の時です。当時はよくわかっていませんでしたが、振り返ってみたらセクハラでした。男性上司が、若い女性だけを飲み会に誘っていました。当時はかわいがってもらっているという認識でした。でも、そのうち旅行に行こうという話になり、数人と一緒に行ったら、「一緒にお風呂に入ろう」とかいろいろ言われて。・・・

B 私もあります。20年くらい前ですが、会社の宴会の時です。若い女性にミニスカートを履かせ、お酌をさせてホステス状態。当時はセクハラという言葉が広がり始めて、その会社でも研修を受けていたのに。社長の食事会に、胸の大きい子だけが呼ばれるとか、あからさまなのもありました。・・・

最後の井上さんのインタビューでは、「ハラスメント法制大転換の千載一遇のチャンス」とまで言っているのは、先日ここでも書いたように、ちょうど今年と来年でILOで職場の暴力とハラスメントの条約が作られ、日本でも労政審で議論が進められる予定になっているからです。

・・・このように来年6月に向けて、ハラスメントに関する国内法と国際的な条約の議論が同時並行的に行われます。ハラスメント法制を大転換させるまさに千載一遇のチャンスです。来年6月のILO総会でハラスメントに関する条約が採択されれば、日本の法整備にも大きく影響します。条約採択に向けて、日本の政労使が前向きな投票行動を行うためには、世論の動向がカギとなります。連合としてはホームページでILO条約に関する特設ページをつくるなどして、情報発信を強化していきます。「#MeToo」運動などの国際的な潮流と連帯し、大きなうねりにしていきましょう。

で、特集とは別の連載で、常見陽平さんがしっかりと昔のハラスメントの話をしています。

http://ictj-report.joho.or.jp/201806/tsunemi.html(ハラスメントと組織 「昔はそれくらいあった」を超えて)

・・・さらりと昔話を書いてきたが、面白おかしく語っているつもりはまったくない。特に会社における宴会芸は、自分がする(させられる)側だったわけだが、その芸を見て傷付いた女性社員などがいるだけでなく、やっている自分もつらかった。猛烈に忙しく働きながら、業務の合間を縫って芸の練習をし、さらには職場の仲間に半裸をさらし熱演しなくてはならないのである。周りの先輩、上司からも同情の声があった。店も迷惑だっただろう。芸をさせられた私や同僚は、加害者にさせられた上、被害者でもあったのではないか。

ハラスメントについて個人の不祥事という文脈の報道が多いと感じるが、組織の問題としても捉えたい。誰もが面白くない思いをする連鎖を断ち切るにはどうすればいいかを考えたい。労働者の人権後進国からいかに脱するかを考えよう。

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『ブラック企業とのたたかい方』

370853佐々木亮・大久保修一著、重松延寿画『まんがでゼロからわかる ブラック企業とのたたかい方』(旬報社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.junposha.com/book/b370853.html

この本、こういうことを言うと佐々木亮さんがむっとするかも知れませんけど、マンガがすべてです。

重松さん描くストーリーマンガのインパクトがありすぎて、間に挟まれた解説が、ほとんど注釈になっている。

でも、おそらくだからこそ、解説中心の本では到底達し得ないくらいの説得力を一気に獲得しているのでしょう。

ちなみに、「おわりに」によると、

・・・萌え系か楳図かずお風か、絵柄をめぐる弁護士間の論争仲裁・・・

があったようですが、いやいやそんなマンガにならなくて良かった。

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骨太方針で外国人技能労働者受入れ決定

本日いわゆる骨太方針が閣議決定されたようです。

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0615/shiryo_02.pdf

すでに経済財政諮問会議に案が示されていたので、そうなるとわかっていましたが、改めて、「移民じゃない」という「呪文」を唱えながら、技能実習5年、その後の新在留資格で5年、合計10年もの長期間日本で労働者として就労しながらなおかつ「移民じゃない」外国人労働者と言い続けるのか、と思うと、海外でコミュニケートする人々がどういう言い方をするんだろうか、イミグレーションじゃないでは通用するはずもないし、まあ、国際社会で一般的に言われるイミグレーションではあるけれども、日本語の「イミン」じゃないというのでしょうか。

という入り口論をとりあえず横において中身を見ると、ちょっと気になったのがこの項目です。

④ 有為な外国人材の確保のための方策

有為な外国人材に我が国で活動してもらうため、今後、外国人材から保証金を徴収す るなどの悪質な紹介業者等の介在を防止するための方策を講じるとともに、国外におい て有為な外国人材の送り出しを確保するため、受入れ制度の周知や広報、外国における 日本語教育の充実、必要に応じ政府レベルでの申入れ等を実施するものとする

この「悪質な紹介業者等の介在を防止するための方策」って、具体的にどういうことを想定しているんでしょうか。本気でやろうとすると、登録制にして、悪質なことをやったのは登録取消というくらいにしないと、なかなか聞かないでしょうし。

も一つ、

また、入国・在留審査に当たり、他の就労目的の在留資格と同様、日本人との同 等以上の報酬の確保等を確認する。

てのも、どうやって実効性を担保するんだろう、と。

そのほか、労働政策にかかわりのある記述をいくつか拾うと、「高齢者雇用の促進」で、

こうした認識に基づき、65 歳以上への継続雇用年齢の引上げに向けて環境整備を進 める。その際、高齢者は健康面や意欲、能力などの面で個人差が存在するという高齢 者雇用の多様性を踏まえ、一律の処遇でなく、成果を重視する評価・報酬体系を構築 する。このため、高齢者に係る賃金制度や能力評価制度の構築に取り組む企業に対し、 その整備費用を補助する。

てのがさり気に入っています。これは先日人生100年なんたら会議の提言の文言と同じですが、いやしかし、60歳定年まで年功制をやっておいて、そのあと一律じゃなく成果主義だといわれても、年齢差別にしかならないんじゃないかと。つまり、これはもうそろそろ60歳定年を前提に継続雇用路線で先に行ける話なのかを考えるべき時期なのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

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残業禁止は不当労働行為@2018年

世界の注目はもちろんトランプと金正恩の首脳会談に集まっている今日この頃ですが、本ブログの関心はピョンヤンの労働新聞よりも日本の業界紙の労働新聞の方にあります。

その6月18日号は、1面トップは例の雇用類似で「労働者性拡大を検討」と載っていますが、中身は労政審基本部会に出したたたき台の話です。大内伸哉さんの連載も含めて、今旬の領域ですね。

でも本日取り上げるのは、そういう近未来の話じゃなくて、この平成がもうすぐ終わろうというご時世に、昭和の香りが濃厚に漂う「ふざけるな!残業やらせろ、馬鹿野郎!」というトピックです。

大阪府労委がトライメディカルサービス社に対して、残業禁止は不当労働行為だとして救済命令を出したと言うんですね。

会社が組合員に対して早出を禁止し、業務が残っていても終業時刻には帰るよう指示したので、所定外労働ができなくなり、経済的に不利益を受けたとして府労委に救済を申し立てたという事案。

組合結成まで同社には、会社の指示なく労働をしても、黙示的に労働時間として承認してきた慣行があり、同社の一連の対応は「労使慣行に反する」というのです。

実はこの手の「てめえらには残業やらせないぞ」事案は、時間外労働をやるのが余りにも当たり前で、やらない方が異常という昭和の御代には、不当労働行為としてよくあったんですが、まさか働き方改革で残業をなくそうという声が高らかに響くこの平成末期になって見かけることになろうとは思いもよりませんでした。

いや、実のところ、この「本音」はかなりの人々の中にまだまだ濃厚に存在しているのかも知れません。

10年前のホワイトカラーエグゼンプションのときには、世の中「残業代ゼロ法案絶対反対!」というゼニカネ至上主義者でいっぱいでした。私はその頃、いやいや労働時間規制は健康のためであり、安全衛生であり、残業代じゃないんだと口を酸っぱくして論じたものです。

その甲斐あってか、最近は表向きは高プロは過労死促進だという批判を前面に出す戦術になってきたようですが、それでも裏に隠れた「残業代ぼったくり反対!」という本音がちらちらと垣間見えます。

それにしても、ここまで「ふざけるな!残業やらせろ、馬鹿野郎!」という本音をむき出しにした不当労働行為事案が出てくると、なかなか感動的ですらありますな。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/11/post-41f3.html(あれからもう10年・・・・)

こういう今日の状況を見るにつけ、今から10年前の頃、残業代ゼロ法案ばかりが議論になり、それより何より物理的労働時間の規制こそが一番大事なことだと、孤独に主張していた頃のことが、なにやら懐かしく思い出されます。

そう、今では信じられないかも知れませんが、そのころ、残業代ゼロは別に問題じゃない、大事なのは物理的労働時間が青天井であることであり、それを規制することだという主張を正面切ってしていた人は、ほとんどいなかったのです。

なによりも、10年前には物理的労働時間規制はそっちのけで、もっぱら残業代ゼロがいいか悪いかというゼニカネ問題ばかりに焦点が当たっていたのが、10年後の今では本来の労働時間問題、すなわち労働者の健康とワークライフバランスの問題として議論されるのが当たり前になったということが、感慨深いものがあります。

・・・ところが、戦後60年にわたる労使の運用は、これをほとんどアメリカ型のカネ勘定の問題として捉えてきた。組合員に時間外労働をさせないのは不当労働行為だと労働組合が訴え、それを労働委員会や裁判所が認めるという奇妙な事態が常態化していたのである。そこには、時間外労働はないのが本来の姿という発想は見当たらない。・・・

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『賃金事情』6/20号のクラウドワーカー記事に登場

Chinginjijo_2018_06_20 産労総合研究所の『賃金事情』6月20日号に、溝上憲文さんが「クラウドワーカーの法的保護と救済はどうあるべきか」という記事を書いていて、その中に、北浦正行さん、浜村彰さんとともに私もちょびっと登場しています。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/chinginjijo/a20180620.html

『季刊労働法』260号に書いた透明で予見可能な労働条件指令案に加えて、先日本ブログでも紹介したオンライン仲介サービスのビジネスユーザーの公正と透明性規則案にも触れています。

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日経連の1955年意見 on 労働基準法

たまたま必要があって日経連の昔の文書を紐解いてみると、いろんな意味で面白い意見書が山のように出てきますね。

たとえば、1955年12月12日の「労働基準法改正に関する具体的意見」。その中にこんなのが:

11.時間外及び休日の労働

 第36条を「使用者は業務上その他の事情がある場合、従業員一人当たりの平均が1年について300時間を超えない限り、第32条の労働時間又は前条の休日に関する規定に関わらず、労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」よう改める。

理由 労働基準を定むべき現行法は、時間外、休日労働については単に労使の協定に放任しており、組合の強弱によりその基準も異なる取扱いをなすのは適当でなく、また、組合により悪用される事例もあることに鑑み、国際的見地から労使の協定を要せずして最高時間によって制限することが妥当である。

え?経営側が時間外・休日労働の上限を1年300時間にしろと言ってるの?と目を剥く向きもあるかも知れませんが、これは当時の労働組合がすごく強くて、経営側からすれば「組合により悪用される事例」が結構あったからなんですね。どういう「悪用」かというと、1951年6月23日の「労働基準法の改正に関する要望」によると:

・・・組合との間に紛争があるような場合には交渉戦術に悪用されること

・・・のみならず緊急作業の必要があっても、組合との協定なくしては、労働時間の延長を行い得ないことは、企業活動を不当に拘束するものであって・・・

等と書かれており、なかなか今昔の感に堪えません。

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在宅ワークリテラシー@『Works』148号

Worksリクルートワークス研究所の『Works』148号をお送りいただきました.特集は「在宅ワークリテラシー」です。

http://www.works-i.com/pdf/w_148.pdf

はじめに:個人と組織双方にとって意味あるものにするために

●在宅ワークで仕事の質は本当に下がらないのか
・働き方改革の流れのなかで 増える在宅ワーク導入企業
・在宅ワーク導入時にこそ考えたい“組織の存在理由”
・見えてくる 在宅ワークの課題

●来るべき未来に備える在宅ワークリテラシー
・マネジャーのリテラシー
目の前にいないメンバーの仕事の進捗、成果物の質をいかに把握していくか

・ チームのリテラシー
コミュニケーションの質・量の低下による影響をいかに軽減させるか

・Column:在宅ワークにおける雑談の仕込み方

・在宅メンバーのリテラシー
職場とプライベートの線引きのあいまいさ、孤独や孤立を乗り越えるために何をすべきか

・Column:次世代移動通信5Gは何をもたらすのか

まとめ:在宅ワークが私たちに問いかけるもの/石原直子(本誌編集長)

最後の石原さんのまとめが、皮肉なような、大変まっとうなような、なんとも曰く言いがたい感想を残します。

在宅ワークがうまくいく企業とは。そもそも“自律的に働く”ことが浸透している企業、一人ひとりの業務責任が明確になっている企業、そしてプロセスではなく成果で評価されることが当たり前になっている企業。こうした“オトナ”の企業でなくては、在宅ワーク導入は生産性の低下を招くのではないか。少なくとも、在宅ワークでは“ちゃんと”仕事をできない人というのは存在するはずだ。
 当初抱いていたこの予想は、正しくもあり、そして間違いでもあった。本特集のために事前にヒアリングさせてもらった知人はこう断言する。「仕事をサボるかどうかは、在宅かどうかとは関係ない。サボる人は、オフィスでもサボっている」
 その通りなのだ。オフィスにいても仕事の手を抜く人は存在するし、そもそも、すべての人が一分の隙もなく集中して働いているという職場風景など、これまでに見たこともない。・・・

・・・ではなぜ、“集中して生産性高く仕事をしているかどうか”が在宅ワークのときにだけ、取り沙汰されるのか。それはマネジャーの、あるいは働く私たち一人ひとりの、さらには人事の自信のなさの表れなのだと思う。・・・

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ジョブ型採用への道@アクシア

Authorphoto アクシアというIT企業の社長さんのブログに、創業以来の採用方法の変遷が書かれていて、大変面白かったので少し紹介しておきます。

https://axia.co.jp/2018-06-06 (アクシアが採用を完全にストップするに至るまでの経緯)

この会社、創業当時はよくあるSEサービスの下請会社だったのが、自社開発になり、やがて残業ゼロで有名になっていくのですが、ここではそっちじゃなくて、それに応じて採用方法がどう変わってきたか。

一番初めはもちろん人脈だよりですが、求人媒体を利用し始めたころは、

・・・この時は会社の知名度も実績もたいしたことなかったということもあり、応募してくる人はプログラミング未経験の人ばかりでした。会社に何の特色もなく魅力もありませんでしたから仕方ありません。
しかもこの頃やっていた業務は現在私が猛烈に批判しているSESです。ちょうどこの頃にSESにおける偽装請負の違法性について当時の従業員から指摘されて、社内での受託開発にシフトしていくくらいの時期でした。
未経験の人を育てるためにはお金も時間もかかりますが仕方ありません。当時はそれしか方法がなかったので、未経験の人を採用して育てるやり方をしていました。・・・

と、未経験者を採用して育てるという日本型のやり方をせざるを得なかったのですが、
・・・SESに嫌気がさして辞めていく社員がポロポロ出つつも、社内での受託開発を始めたことで応募者の中身に変化が現れました。それまでは募集しても未経験者ばかりが応募してきていたのですが、経験者からの応募がかなり増えました。・・・

と、経験者採用が出来るようになる。ところが、当時は超ブラック企業状態で、

・・・毎日終電、毎週休日出勤が当たり前のひどい状況でしたので、採用しても次々と人は辞めていきました。ですので、年に何回も高いお金を払って求人媒体で募集をかけて、採用しては辞めて、採用しては辞めての繰り返しでした。・・・

と、むしろ採用政策は拙劣というべき状況だったようです。それが残業ゼロの会社になってからは、

・・・残業ゼロの会社になってからは採用の状況は大きく変わりました。まず求人を出した時の応募者の数がさらに飛躍的に増えました。1回求人掲載すれば応募者の数は100人以上は必ず来るようになりました。
そして応募者の内訳にも変化が現れました。目に見えて現れたわかりやすい変化としては、女性からの応募者が爆発的に増えました。応募者の女性の中には子育て中の主婦の方もたくさんいます。・・・

と、おのずからダイバーシティも出てきたようです。ついでに、こういう喜劇もあったようで、今日の残業代ゼロに激おこの議論のどれ程がそうなのかは、人によっていろいろ見方があるところでしょう。

・・・応募時には「残業ゼロの会社方針は素晴らしい」と絶賛してそれに共感して入社してきてくれたのに、残業ゼロの働き方にうまく適応できずに「残業させてください」「残業ゼロなんておかしい」と最後には会社の方針批判をして辞めていってしまった人もいます。・・・

が、ここまでは前説。

こうなってきて、それまでの未経験者歓迎方針を引っ込めるのですね。

・・・ありがたいことにたくさんの方からほぼ毎日ご応募いただけるようになり、その中にはプログラミング経験豊富な方からの応募も多く含まれるようになりました。そうなってくると会社としてはあえて未経験者の方を採用する理由がなくなってきます。
そこで2017年の9月に、プログラミング未経験の方からの応募を打ち切りました。
そしてこの時には結構色々な批判を受けたことを覚えています。
「それでもホワイト企業なのか」
「未経験者にも門戸を開け」
「若者の希望を奪うな」
見ず知らずの人達から様々な批判を受けました。でも会社はボランティア活動をしているわけではありません。会社がお金と時間をかけて育成しなくても、即戦力で貢献してくれる人達がたくさん応募してきてくれるのに、あえて未経験の人を採用する理由が企業にはありません。
もし未経験でも採用してほしいと思うなら、こちらが採用したいと思う何かしらの理由を携えて応募してきてほしいです。傲慢だと思われる方もいるかもしれませんが、企業活動は営利活動ですのでご理解いただければ幸いです。・・・

いやあ、ここで「それでもホワイト企業なのか」という批判が出てくるところが実に日本的です。まさにその通り、日本型雇用システムにおけるホワイト企業とは、(ジョブ型社会であれば好んで採用しないような)未経験者を採用してあげて、(ジョブ型社会であれば逃げ出すような)ブラックな労働条件ではあってもビシバシ鍛え上げてくれる企業のことなのであって、それを表層だけとらえて(ジョブ型社会の基準に従って)ブラック企業と批判するなら、採用方法についても同じ基準で評価しないと公平ではありませんね。いうまでもなくそれは(欧米の社会がそうであるように)「若者の希望を奪う」わけですが、それはどちらのメリットとデメリットの組み合わせを選択するかという問題。もちろん企業はボランティア活動しているのではないので、そういう日本型ホワイト企業に残業ゼロなどという離れ業をしろというわけにはいかないわけです。

この辺の雇用システムの違いによる論理的因果関係がなかなか理解できないと、どっちのブラックを責めてどちらのホワイトを求めているのか訳が分からないような議論になりがちです。

で、やがて、応募がふえすぎて、募集を打ち切りますと。

・・・書類選考を行い、面接の調整・実施を行うことが少しずつ負担となってきてしまっていたというのが正直なところであり、社内で慎重に協議をした結果、一度全ての採用をストップして、再び必要な人材が出てきた時に募集を再開するという結論に至りました。「優秀な人は無理してでも採用する」という方針もここで取り下げとさせていただくことになりました。・・・

ただしかし、話がそこで終わりであれば、わざわざ本ブログで紹介するだけの意味もなかったと思います。ジョブ型採用とは、この仕事ができるという人が欲しいからそれを求人という形で募集するのであり、それ以上でもそれ以下でもないというジョブ型社会ではあまりにも当たり前の話に過ぎません。

でも、この会社、「それでもホワイト企業なのか」「未経験者にも門戸を開け」「若者の希望を奪うな」といったいかにもメンバーシップ型の声には対応していませんが、それとは違う形で「ホワイト」な形で「門戸を開」き、「若者の希望」に答えているようです。

・・・また現在アクシアでは職業訓練校からの依頼を受けて、訓練生の実習受け入れを行っております。これは職業訓練校から実習料を払っていただき、アクシアで訓練生の実習を行うというものです。
実習では不足するスキルの習得はもちろんのこと、研修課題に取り組んでいただいたり、慣れてきたら弊社社員監修の元でOJTで簡単な社内システムの開発業務等に取り組んでもらっています。Slack等を使いながら、アジャイル開発で実習を行っています。
この職業訓練校の方が優秀であることもあり、未経験でありながら自分でスキルアップの努力をして、自分で何かシステムを構築してそのプログラムをGitHubに公開しているなど、将来性を感じさせてくれる方もいます。双方希望した場合は実習後に採用という道もあります。
このようにおかげさまで、有料の求人媒体以外の様々な経路で、優秀な人材を採用する経路が現在ではできてきています。採用なので時間はかかりますが、お金は本当にかからなくなりました。・・・

正直、ふーんという感じで読んでたこの社長さんのブログで、ちょっと背筋が伸びた感じがしたのはこの部分でした。いやいや、これこそジョブ型社会の典型的な雇用促進政策であり、社会統合政策であり、企業の社会貢献であるわけで、それ故にやる気のある未経験者をビシビシ鍛え上げるのが常道であるこの日本社会ではなかなかうまくいかない分野でもあるわけです。

いろんな読み方ができるのでしょうが、日本の労働社会の現実と可能性を垣間見せてくれる興味深いエントリであることは間違いありません。

 

 

 

 

 

 

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来年ILOで職場の暴力・ハラスメント条約へ

Wcms_630668_2 すでに日本のマスコミでも報じられていますが(とはいえ、セクハラ、セクハラばかり強調するのは何とかならんのか)、ILO総会で議論されていた職場の暴力とハラスメントが、来年条約・勧告化することを目指して、基準設定委員会の決議を採択したようです。

http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_norm/---relconf/documents/meetingdocument/wcms_631807.pdf

これの123ページ、第1429項に、

Resolution
1429
. The Committee adopted the draft resolution to place an item entitled “Violence and harassment in the world of work” on the agenda of the next ordinary session for the second discussion with a view to the adoption of a Convention supplemented by a Recommendation.

本委員会は「労働の世界における暴力とハラスメント」と題されたアイテムを、勧告によって補完される条約の採択を視野に、次回の通常セッションにおける第二次討議のためのアジェンダとして設定する決議案を採択した。

ちょうど3月に、パワハラ検討会がいくつかの選択肢を提示した報告書をまとめたところですが、今後労政審のしかるべき分科会で議論をする際にも、1年後に採択されるであろうILO条約の中身は常に意識されることになると思われます。

 

 

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明治大学労働講座の動画

去る6月5日、2018年度明治大学労働講座企画委員会寄付講座で「労働社会の改革(1)日本の労働社会の成り立ち」を講義してきました。これももう長いこと、2010年度から毎年やってます。

http://www.kisc.meiji.ac.jp/~labored/kifukoza/rodokoza2018.html

その動画がアップされていますので、まあ、わざわざ見る人が居るかどうか知りませんが、せっかくなのでリンクしておきます。

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三柴丈典『労働者のメンタルヘルス情報と法』

81ftby7cqtl三柴丈典さんより『労働者のメンタルヘルス情報と法 情報取扱い前提条件整備義務の構想』(法律文化社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03945-3

三柴さんは労働法学の世界の中で労働安全衛生を中核的に研究してきた第一人者ですが、近年はメンタルヘルス問題に取り組んできました。その三柴さんが、メンタルヘルスと個人情報保護という難問に正面から取り組んだのが本書です。

労働者のメンタルヘルス情報の取扱いをめぐる諸問題について関係法規および法理・学説を整理し、諸問題を理論的に解明。メンタルヘルス情報の取扱い適正化のための法理論構築へ向け、論証を試みる。

これがどれくらい難問かというと、2014年の安全衛生法改正をめぐって、そもそも自殺防止のために定期検診でメンタル不調をあぶり出そうという話が、それではプライバシーがダダ漏れになるじゃないかと研究会で方向が変わり、さらに審議会で修正され、法案化された後も精神医学者から猛烈な批判が出されたりと、なかなか一筋縄ではいかなかったことからも分かります。

この経緯に労働法学者として関わり続けていたのが三柴さんであり、たぶんほかの労働法学者にはなかなか手が出ない領域にまで踏み込んで議論を展開できる数少ない一人でしょう。

本書の副題ともなっている「情報取扱い前提条件整備義務」とは、「おわりに」の解説を引用すればこのようなものです。

使用者に自身のメンタルヘルス情報を提供する者に対し、「安心して情報を伝えられる条件」を整備する信義則上の義務を課し、その不履行から使用の情報を入手できず、所用の健康確保措置を実施できなかった場合、それに起因して生じた災害につき過失責任を推認する一方、それが履行されたにもかかわらず、労働者が情報提供を拒んだ場合、職場秩序への影響等が見込まれるか、使用者に安全配慮義務の一環として当該情報を踏まえた措置義務が生じる場合には懲戒処分の合理性を認めるとともに、同意のない情報の取扱いをその限りで正当化(ないし義務化)し、使用者が合理的な努力を尽くしても情報を採り得なかった場合、それに起因して発生した災害について免責ないし減責される、という法理である。

これ、私も今から10年以上も前に、ぼそっとこんなことを書いて考えたことがありますが、あまりじっくりと考えを突き詰めることなしに、それこそチコちゃんじゃないですが、「ボーッと生きてんじゃねえよ」状態だったので、あらためてきちんと考えなければと思った次第です。

過労死・過労自殺とプライバシー(『時の法令』(そのみちのコラム)2007年6月15日号)

 労働にかかわる問題でマスコミの注目を浴びるテーマの一つに過労死や過労自殺がある。過労死とは医学的には脳血管疾患や虚血性心疾患を指す。いずれも血管病変が長い生活の営みの中で徐々に進行し発症に至るものであって、生活習慣病とも呼ばれる。だから通常は労災補償や民事損害賠償の対象にはならない。ただ、業務が過重なためにその自然経過を超えて著しく増悪した場合には、因果関係が認められて労災補償や損害賠償の対象になりうる。これが大原則である。
 労災補償は使用者に過失がなくても業務と災害に因果関係があれば認められるが、民事損害賠償はそうではない。そこで、判例は「安全配慮義務」という概念を発達させ、使用者には労働者に対し、「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」(電通事件最高裁判決)という規範を確立してきた。立法面でも、労働安全衛生法は労働者の健康診断を義務付け、それに基づいた健康管理を要求しているし、2005年改正では月100時間以上残業した者に対して医師の面接指導とそれに基づく措置をとるべきことを義務づけた。政府も裁判所も、使用者は労働者の健康状態をきめ細かく把握し、それに基づいて人事管理を行うよう求めていると言ってよいだろう。
 これは身体の健康だけの話ではない。過労自殺とは医学的には精神障害による自殺である。業務による強い心理的負荷により精神障害が発病し自殺に至った場合には、使用者は労災補償や民事損害賠償の責任を負う。上記電通事件は典型的な過労自殺事案である。使用者は労働者の精神の健康状態を常に把握し、悪化しないように配慮しなければならないのだ。
 ところが一方、身体やとりわけ精神の健康に関する情報というのは、個人情報の中でも特にセンシティブな情報である。使用者が労働者の健康情報を収集しこれに基づいて人事管理を行うというのは、労働者にとっては人に知られたくないプライバシーを暴かれるということでもある。この観点からは、労働安全衛生法が労働者に健康診断の受診義務を課していることもプライバシーの保護や自己決定権の観点から問題になりうる。法律にあるからと無理やり健康診断を受けさせられ、その結果心身の健康に問題があるからという理由でそれまでの高度な仕事から引きはがされ、レベルの低い仕事に回されたというような場合、そのことが人権侵害なのか、それとも過労死や過労自殺という人権侵害を避けるためのやむを得ない措置なのか、答えるのはかなり難しい。
 過労死や過労自殺が単に個人の問題ではなく使用者にも責任のある問題である限り、労働者側にも使用者を労災補償責任や民事損害賠償責任に追い込まない道義的責任、一定の健康情報を提供する義務があるのでなければバランスはとれない。私のプライバシーは明かしたくないが、その結果倒れて過労死したらお前の責任だから補償しろと言うのはフェアではなかろう。しかし逆に、プライバシーの方が重要だという立場に立てば、本人が受診を拒否して倒れたのであれば使用者に責任はないという考え方もあり得る。
 労働者のプライバシーは健康情報だけではない。例えば勤務先に黙って夜間のアルバイトをすることも、その疲労が蓄積して心身の健康に悪影響を与えることを考えれば、使用者としてはたまったものではない。しかし、労働契約で拘束されている時間以外にどこで何をしようが、そんなことを使用者に報告すべき義務があるはずはない。労働者と使用者の関係は対等の関係ではないのか、ということにもなる。
 こちらの立場に立った法改正提案が、労働者の兼業を禁止したり許可制にしたりすることを原則無効にすべきとの2005年9月の労働契約法制研究会報告だ。この提案は実現しなかったが、同年の労災保険法改正では、二重就職者がA社からB社に移動する際の事故も労災補償の対象とされた。
 ここに現れているのは、労働関係をお互いに配慮し合うべき長期的かつ密接な人間関係と見るのか、それとも労務と報酬の交換という独立した個人間の取引関係と見るのかという哲学的な問題である。現行法自体が両方の思想に立脚している以上、現実の場面でそれらがぶつかるのは不思議ではない。

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HRイブニングセッション

労務行政研究所のHRイブニングセッションの案内がアップされました。

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https://peatix.com/event/391060

 

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『季刊労働法』261号

261_hpやや気が早いですが、労働開発研究会のサイトに『季刊労働法』261号(2018年夏号)の案内がアップされているので、こちらでも紹介。

http://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/5979/

特集は「業種別・長時間労働対策の進展」で、

「医師の働き方改革に関する検討会」「学校における働き方改革特別部会」「建設業の働き方改革に関する協議会」…官民を挙げて,医師,教員,建設,運輸といった業種での長時間労働対策が議論されています。今号では「業種別長時間労働対策」をテーマとした特集を掲載しております。

具体的にはこのようなラインナップです。

教員の長時間労働対策 法政大学教授 浜村 彰
勤務医の長時間勤務を是正し,過労死等を防止するための課題 弁護士(過労死弁護団全国連絡会議代表幹事) 松丸 正
建設業における長時間労働の現状と課題 弁護士 古川景一
百貨店・スーパーマーケットにおける長時間労働対策 ―労働組合の存在意義と役割― 弁護士 古川景一
トラックドライバーの長時間労働対策 運輸労連中央副執行委員長 世永正伸

次は前々号から短期連載のクラウドです。

◎集中連載 クラウドワークの進展と労働法の課題
アメリカにおけるプラットフォーム経済の進展と労働法の課題策 一橋大学大学院博士後期課程 藤木貴史
ILOの「Future of Work(仕事の未来)」イニシアチブとクラウドワーク 日本ILO協議会理事 亀岡秀人

それ以外の記事は次の通り。

◎■論説■
協約上の人事協議条項をめぐる法理 ―個別人事に対する組合の関与 北海道大学名誉教授 道幸哲也
技術革新がもたらす新たな就労形態に対する法政策的課題の検討 ―韓国の自営的就労を中心として― 韓国外国語大学法学専門大学院教授 李鋌
改正民法における「契約の尊重」原理がもたらす労働契約法理へのインパクト―契約の拘束力・分節化・契約解釈 九州大学准教授 新屋敷恵美子

◎■アジアの労働法と労働問題 第33回■
台湾における外国人労働者をめぐる法政策―ホワイトカラーに焦点をあてて― 高知県立大学准教授 根岸 忠

◎■イギリス労働法研究会 第29回■
人間は資源ではないロンドン大学・キングス・カレッジ講師 イワン・マゴーヒー 訳 新屋敷恵美子(九州大学准教授)

◎■労働法の立法学 第50回■
退職金と企業年金の法政策 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口桂一郎

◎■判例研究■
グループ会社に向けられた抗議活動等の組合活動としての正当性の有無 フジビグループ分会組合員ら(富士美術印刷)事件・東京高判平成28・7・4労判1149号16頁 岡山大学准教授 土岐将仁
NHK地域スタッフの労働契約法上の労働者性と労働契約の類推適用の可否 NHK堺営業センター(地域スタッフ)事件 最三小決平成29.1.17判例集未登載 大阪高判平28.7.29労判1154号67頁 大阪地判平27.11.30労判1137号61頁 小樽商科大学教授 國武英生

◎■書評■
桑村裕美子著『労働者保護法の基礎と構造―法規制の柔軟化を契機とした日独仏比較法研究』評者 弁護士 水谷英夫
森下之博著『中国賃金決定法の構造―社会主義秩序と市場経済秩序の交錯』評者 九州大学教授 山下 昇

◎■キャリア法学への誘い 第13回■
キャリア形成をめぐる国の責務 法政大学名誉教授 諏訪康雄

◎■重要労働判例解説■
労働者の言動と合意解約の成否 ゴールドルチル(抗告)事件(名古屋高決平29.1.11労判1156号18頁)宮崎産業経営大学講師 古賀修平
地位保全仮処分と実体契約法上の権利関係 テーエス運輸ほか(配転)事件(大阪高判平27.11.19労判1144号49頁)淑徳大学名誉教授 辻村昌昭

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外国人労働者受入れ政策へ

本日夕方、経済財政諮問会議で、「新たな外国人材の受入れについて」方向性が打ち出されたようです。

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0605/shiryo_01.pdf

「経済財政運営と改革の基本方針 2018」の原案がアップされています。

1.人づくり革命の実現と拡大
2.生産性革命の実現と拡大
3.働き方改革の推進

の次に、

4.新たな外国人材の受入

として。次のような文章が並んでいます。

 中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化しており、我が国の経済・社会 基盤の持続可能性を阻害する可能性が出てきている。このため、設備投資、技術革新、 働き方改革などによる生産性向上や国内人材の確保(女性・高齢者の就業促進等)を引 き続き強力に推進するとともに、従来の専門的・技術的分野における外国人材に限定せ ず、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を幅広く受け入れていく仕組みを 構築する必要がある。 このため、真に必要な分野に着目し、移民政策とは異なるものとして、外国人材の受 入れを拡大するため、新たな在留資格を創設する。また、外国人留学生の国内での就職 を更に円滑化するなど、従来の専門的・技術的分野における外国人材受入れの取組を更 に進めるほか、外国人が円滑に共生できるような社会の実現に向けて取り組む。

(一定の専門性・技能を有する外国人材を受け入れる新たな在留資格の創設)

現行の専門的・技術的な外国人材の受入れ制度を拡充し、以下の方向で、一定の専 門性・技能を有し、即戦力となる外国人材に関し、就労を目的とした新たな在留資格 を創設する。

○ 受入れ業種の考え方

新たな在留資格による外国人材の受入れは、生産性向上や国内人材の確保のため の取組を行ってもなお、当該業種の存続・発展のために外国人材の受入れが必要と 認められる業種において行う。

○ 政府基本方針及び業種別受入れ方針

受入れに関する業種横断的な方針を予め政府基本方針として閣議決定するととも に、当該方針を踏まえ、法務省等制度所管省庁と業所管省庁において業種の特性を 考慮した業種別の受入れ方針(業種別受入れ方針)を決定し、これに基づき外国人 材を受け入れる。

○ 外国人材に求める技能水準及び日本語能力水準

在留資格の取得にあたり、外国人材に求める技能水準は、受入れ業種で適切に働 くために必要な知識及び技能とし、業所管省庁が定める試験によって確認する。また、日本語能力水準は、日本語能力試験N4相当(ある程度日常会話ができる)を 原則としつつ、受入れ業種ごとに業務上必要な日本語能力水準を考慮して定める。 ただし、技能実習(3年)を修了した者については、上記試験等を免除し、必要な 技能水準及び日本語能力水準を満たしているものとする。

○ 有為な外国人材の確保のための方策

有為な外国人材に我が国で活動してもらうため、今後、外国人材から保証金を徴 収する等の悪質な紹介業者等の介在を防止するための方策を講じるとともに、国外 において有為な外国人材の送出しを確保するため、受入れ制度の周知や広報、外国 における日本語教育の充実、必要に応じ政府レベルでの申入れ等を実施するものと する。

○ 外国人材への支援と在留管理等

新たに受け入れる外国人材の保護や円滑な受入れを可能とするため、的確な在留 管理・雇用管理を実施する。受入れ企業、又は法務大臣が認めた登録支援機関が支 援の実施主体となり、外国人材に対して、生活ガイダンスの実施、住宅の確保、生 活のための日本語習得、相談・苦情対応、各種行政手続に関する情報提供等の支援 を行う仕組みを設ける。また、入国・在留審査に当たり、他の就労目的の在留資格 と同様、日本人との同等以上の報酬の確保等を確認する。加えて、労働行政におけ る取組として、労働法令に基づき適正な雇用管理のための相談、指導等を行う。こ れらに対応するため、在留管理、雇用管理を実施する入国管理局等の体制を充実・ 強化する。

○ 家族の帯同及び在留期間の上限

以上の政策方針は移民政策とは異なるものであり、外国人材の在留期間の上限を 通算で5年とし、家族の帯同は基本的に認めない。ただし、新たな在留資格による 滞在中に一定の試験に合格するなどより高い専門性を有すると認められた者につい ては、現行の専門的・技術的分野における在留資格への移行を認め、在留期間の上 限を付さず、家族帯同を認める等の取扱いを可能とするための在留資格上の措置を 検討する。

(従来の外国人材受入れの更なる促進)

留学生の国内での就職を促進するため、在留資格に定める活動内容の明確化や、手 続負担の軽減などにより在留資格変更の円滑化を行い、留学生の卒業後の活躍の場を 広げる。また、「高度人材ポイント制」について、特別加算の対象大学の拡大等の見 直しを行う。これらの前提として、日本語教育機関において充実した日本語教育が行 われ、留学生が適正に在留できるような環境整備を行っていく。さらに、留学生と企 業とのマッチングの機会を設けるため、ハローワークの外国人雇用サービスセンター等を増設する。

また、介護の質にも配慮しつつ、相手国からの送出し状況も踏まえ、介護の技能実 習生について入国1年後の日本語要件を満たさなかった場合にも引き続き在留を可能 とする仕組みや、日本語研修を要しない、一定の日本語能力を有するEPA介護福祉 士候補者の円滑かつ適正な受入れを行える受入人数枠を設けることについて検討を進 める。このほか、クールジャパン関連産業の海外展開等を目的とする外国人材の受入 れを一層促進するための方策や、我が国における外国人材の起業等を促進し、起業家 の受入れを一層拡大するための方策について検討を進める。

(外国人の受入れ環境の整備)

上記の外国人材の受入れの拡大を含め、今後も我が国に滞在する外国人が一層増加 することが見込まれる中で、我が国で働き、生活する外国人について、多言語での生 活相談の対応や日本語教育の充実を始めとする生活環境の整備を行うことが重要であ る。このため、2006 年に策定された「生活者としての外国人」に関する総合的対応策 を抜本的に見直すとともに、外国人の受入れ環境の整備は、法務省が総合調整機能を 持って司令塔的役割を果たすこととし、関係省庁、地方自治体等との連携を強化する。 このような外国人の受入れ環境の整備を通じ、外国人の人権が護られるとともに、外 国人が円滑に共生できるような社会の実現に向けて取り組んでいく。

既に、『労基旬報』2018年3月25日号で「外国人労働政策の転換?」を書いていますが、いよいよ「移民じゃない」といいながら、専門・技術職ではない外国人の中間技能労働者の本格的受入れ制度が急速度で進んでいくことになりそうです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/03/2018325-937f.html

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『月刊連合』6月号

Covernew『月刊連合』6月号は「公務員の労働基本権を考えよう」が特集です。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

「公務員」というと、どんな仕事をイメージするだろうか。真っ先に浮かぶのは中央官庁や市町村の役所かもしれないが、実はもっと多種多様だ。警察や消防、税務署、税関、刑務所の職員、教職員や保育士、医師、看護師、水道や清掃、道路などのインフラ、森林、港湾の整備などを担う公務員もいる。いずれも、私たちの暮らしの安心や安全を守る公共サービスを提供する仕事だ。
ところが、日本の公務員は労働基本権が制約されている。団体交渉や労使協議を通じて労働条件を決定し職場環境を改善していくという、民間では当たり前のことができない。消防職員をはじめ、労働組合を結成する権利さえない場合もある。国際的に見れば、労働基本権に関するILO条約は公務員も対象に含まれている。各国でも警察や軍隊を除いて公務員の労働基本権を認めるという流れになっている。しかし、日本では1948年に権利が制約されて以来、その状態が継続している。
連合は、公務員の労働基本権回復によって自律的労使関係を確立し、民主的で透明な公務員制度改革を進めることを求めてきた。質の高い公共サービスの提供には、働く人たちが働きがいをもって活躍できる労働条件・労働環境の確保が必要であり、そのためには自律的労使関係の構築が不可欠であるからだ。
なぜ、公務員の労働基本権回復が必要なのか。もう一度わが事として考えてみたい。

ちょうど国民民主党、立憲民主党などが国家公務員制度改革関連3法案を国会に提出したようなので、それに併せたのかも知れません。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/news/article_detail.php?id=976

ただね、これ結構世間の人が誤解しているんじゃないかと思うんだけど、少なくとも2000年代からの公務員の労働基本権改革の話は、自民党政権の時代から政府主導でやってきた話を最終段階で民主党政権がやったことなんですね。

なんか全部ひっくるめて民主党政権のやったことみたいにされてしまっていますが、実は制度設計のかなりの部分は自公政権時代に渡辺喜美大臣時代にやられたことだったりする。

ちなみに渡辺氏はその後どうなったんだろうと思ってググったら、みんなから維新を経て希望に接近して今は無所属のようです。

それはともかく、特集の中で興味深いのは

■クローズアップ「消防職員の団結権」

青木玲奈 全国消防職員協議会女性連絡会代表

大牟田市消防本部職員

ですね。青木玲奈さんが力説しています。

・・・消防署の隔日勤務は、1勤務が24時間勤務の3交代制で、出勤要請がなければ23時以降仮眠をとれますが、無給扱い。出勤した時間だけ賃金が支払われる仕組みです。又、技量を維持する訓練は、非番の日に行っています。・・・

人員が確保できない消防本部では2交代制が多く、一人の職員が消防隊、救急隊・救助隊、日勤事務と何役もこなすところもあります。こうした無理な体勢は健康や安全確保の面から非常に問題です。疲れによる判断の遅れが命取りになるからです。さらに平時から無理な体勢だと、災害時に対応できなくなってしまいます。ところが、労働基本権が制約されているため、人員確保や勤務態勢の改善について、現場の声が反映される話し合いの場を持つことすらできない。これは大きな問題です。・・・

・・・権利を与えるとストライキが起きるという、短絡的なネガティブキャンペーンには怒りを覚えます。私たちは、東日本大震災や熊本地震、各地の豪雨災害の現場で必死に救助活動に当たりました。その姿は、皆さんの目にも焼き付いていると思います。

権利を獲得したからといって職務を怠ることは絶対にあり得ません。仮にそんな人が居たら私たちが現場に出しません。・・・私たちはこの仕事に誇りを持っています。その誇りは労働基本権の回復によって揺らぐようなものでは決してありません。

あともう一つ、

国際労働運動の窓[4]

郷野晶子 ILO(国際労働機関)理事

は、ちょうど今始まったILO総会で議論されている職場の暴力とハラスメントを取り上げています。

ハリウッドにおけるセクハラスキャンダルに端を発し、ハッシュタグ「#Me Too」を用いた女性のセクハラ被害告発が盛んになってきている。雇用不安があるため、職場で暴力や関原被害を訴えることは容易ではないが、組合でもこの問題に関心が高まってきており、ILOで正式にこの問題を扱うことになった。・・・

・・・来年の二次討議まで、時間は余り残されていない。連合の含め労働者側の力を結束させ、条約化に向けて頑張りどころである。

18hyoushi06gatsuちなみに、郷野さんは『改革者』6月号にも出ていますが、こちらでは表紙にでかでかと顔が・・・。

http://www.seiken-forum.jp/publish/top.html

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何で日本の左派なひとは「成長」が嫌いか(再掲)

歴史は繰り返す、二度目は笑劇として、という言葉を噛みしめることが多い日々ですが、こちらも5年ぶりのデジャビュ劇場。

https://twitter.com/fujitatakanori/status/1001876565553135616

もう「経済成長するためにどうしたらいいか」みたいな時代錯誤の問いを立てている時点で、右派や左派関係なくダメだと思う。あとは現実の力関係を無視した政策論も害悪。資本の圧倒的な強さのなかで何を実現できるのさ。

(サルベージ)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-8159.html(何で日本の左派なひとは「成長」が嫌いか)

メモ書きとして:

ジョブ型社会では、経済成長すると、「ジョブ」が増える。「ジョブ」が増えると、その「ジョブ」につける人が増える。失業者は減る。一方で、景気がいいからといって、「ジョブ」の中身は変わらない。残業や休日出勤じゃなく、どんどん人を増やして対応するんだから、働く側にとってはいいことだけで、悪いことじゃない。

だから、本ブログでも百万回繰り返してきたように、欧米では成長は左派、社民派、労働運動の側の旗印。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-5bad.html(「成長」は左派のスローガンなんだが・・・)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-211d.html(「成長」は労組のスローガンなんだし)

メンバーシップ型社会では、景気が良くなっても「作業」は増えるけれど、「ジョブ」は増えるとは限らない。とりわけ非正規は増やすけれど、正社員は増やすよりも残業で対応する傾向が強いので、働く側にとってはいいこととばかりは限らない。

とりわけ雇用さえあればどんなに劣悪でもいいという人じゃなく、労働条件に関心を持つ人であればあるほど、成長に飛びつかなくなる。

も一つ、エコノミック系の頭の人は「成長」といえば経済成長以外の概念は頭の中に全くないけれど、日本の職場の現実では、「成長」って言葉は、「もっと成長するために仕事を頑張るんだ!!!」というハードワーク推奨の文脈で使われることが圧倒的に多い。それが特に昨今はブラックな職場でやりがい搾取するために使われる。そういう社会学的現実が見えない経済学教科書頭で「成長」を振り回すと、そいつはブラック企業の回し者に見えるんだろうね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-b066.html(決まってるじゃないか。自分の成長のためだよ!)

まあ、要すれば文脈と意味内容のずれによるものではあるんだが、とりわけ経済学頭の人にそのずれを認識する回路がないのが一番痛いのかもしれない。

(追記)

まあ、実のところ、「ニュースの社会科学的な裏側」さんのこの評言が一番的確なのかも、という気もしますが・・・。

http://www.anlyznews.com/2013/02/blog-post_13.html

さすがに経済成長を重視する人々も、不平等や外部不経済が自動的に解決すると主張する人々は少数だ。ただし、ブラック企業問題に取り組んでいるNPOに経済成長に着目しないのはセンスが悪いと高飛車に言い放ったりする経済成長万能派も現存するわけで、実証的・理論的な背景が脆弱な面もあって、特に根拠は無いのだが、左派には不愉快に思われるような気がする。つまり、左派は経済成長が嫌いなのではなく、経済成長と言う単語にうるさい人々が嫌いなのでは無いかと思われる。

いるいる。

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2025年問題研究会報告書@中曽根康弘世界平和研究所

中曽根康弘世界平和研究所が5月31日に「2025年問題研究会報告書」を公表しています。

http://www.iips.org/research/year2025report.full.pdf

その中で1章を割いてジョブ型雇用が論じられています。

第2部 労働市場における課題
4.「ジョブ型雇用」への転換推進に関する考察
主任研究員・豊田 裕
4.1. 「働き方改革実行計画」の推進
4.2. 「ジョブ型雇用」への転換の機運の高まり
4.3. 「ジョブ型雇用」への転換における課題
4.4. これからの対応を考える

実は昨年10月にこの研究所に呼ばれていろいろとお話したのですが、その時の中身が相当に取り入れられています。

4. 「ジョブ型雇用」への転換推進に関する考察

〇日本では「メンバーシップ型雇用」が中心だが、人口減少という構造的な問題に直面し ていることを考えると、今後は「ジョブ型雇用」への転換が不可避。日本型雇用システム に補完性がある中では「ジョブ型正社員」といった中間形態での移行の検討を。

 

 

 

 

 

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ハマキョウレックス・長澤運輸に最高裁判決

というわけで、すでに報じられているように、注目されていたハマキョウレックス・長澤運輸に最高裁判決が出ました。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/784/087784_hanrei.pdf (ハマキョウレックス)

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/785/087785_hanrei.pdf (長澤運輸)

ハマキョウの方は、高裁判決をさらに一歩進めた感じで、少なくとも手当については、合理的な理由がつかないと差をつけるのはダメという感じになってきたようです。

もう一つの長澤でも、高裁判決でOKだった精勤手当についてOUTとしたのは、それと共通した判断ですね。

これに対して、長澤はやはり単なる非正規の労働条件問題でなく、定年退職後の再雇用という難しさがあることから、基本給についてこうはっきり言った点がなんと言っても議論の焦点でしょう。

さらに,嘱託乗務員は定年退職後に再雇用された者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上,被上告人は,本件組合との団体交渉を経て,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間,嘱託乗務員に対して2万円の調整給を支給することとしている。
これらの事情を総合考慮すると,嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても,正社員に対して能率給及び職務給を支給する一方で,嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

さあ、今日の判決で評釈することになっていた皆さんはご苦労様です。

 

 

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