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2018年6月21日 (木)

EUのプラットフォーム就業者保護規則案@『労基旬報』2018年6月25日号

『労基旬報』2018年6月25日号に「EUのプラットフォーム就業者保護規則案」を寄稿しました。

 ここ数年、世界的にAIやIoT、プラットフォームやクラウドといった新技術による新たな産業構造の到来(第4次産業革命)がホットなテーマになっています。その中で、労働のあり方も激変するのではないか、それに対してどう対応すべきかということが、法学、経済学、社会学など分野横断的に熱っぽく議論されています。これに対して日本では、事態の進展もそれに関する議論の展開もやや遅れ気味の嫌いがありましたが、昨年来ようやく本格的な議論がなされるようになったようです。私も、総論的な解説をするとともに、とりわけEUレベルにおける政策対応の状況を解説してきました。
 その中でも、EUの行政府である欧州委員会が昨年末に提案した透明で予見可能な労働条件指令案については、『季刊労働法』2018年春号(260号)でかなり詳細に紹介しました。この指令案は主としてオンコール労働者の保護が狙いですが、指令案前文にはプラットフォーム労働者も適用対象に含まれると明記しており、いわば労働者性をプラットフォームを利用して働く人々にも広げる形で対応しようという方向性が窺われます。その後今年3月には自営業者も含めた社会保護アクセスに関する勧告案も提案され、その中には自営業者の失業保険という項目もあります。しかしここまでは労働社会政策、日本でいえば厚生労働省に当たる総局の政策イニシアティブです。
 しかし、こうした新たな就業形態は経済産業政策や競争政策の対象でもあります。日本でもここ数年間、経済産業省や公正取引委員会がこの問題に関する研究会を設け、報告書を公表してきています。同じような動きはEUでもあります。いや、日本の微温的な動きを遥かに超え、プラットフォームを利用して働く人々の保護を目指した立法提案が打ち出されるに至っているのです。今回はこの提案、「オンライン仲介サービスのビジネスユーザーのための公正性と透明性の促進に関する規則案」(Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on promoting fairness and transparency for business users of online intermediation services)を紹介したいと思います。これは2018年4月26日に公表されたばかりのホットな話題です。
 その前にEU法について一言。私が主として紹介してきた労働法分野では、EUの立法手段としてはほとんどもっぱら「指令」が使われてきました。指令は加盟国にこういう内容の法律を作れと命ずるものですが、加盟国が立法化をサボっていれば民間企業の労働者が直接EU指令のみを根拠に訴えを起こすことはできません。それに対して「規則」は国内法に転換することを要せず、規則が施行されれば直ちにEU域内の全企業、全市民に適用されます。経済法分野では規則が用いられることが普通です。
 さて、今回の規則案の中身を見ていきましょう。いうまでもなく、本規則案には「労働者」という言葉は出てきません。オンライン仲介サービスを利用する両側の当事者のうち、消費者ではない方、つまり様々な材やサービスを提供する側のことを「ビジネスユーザー」とか「職業的ユーザー」と呼んでいます。あくまでも労働法とは別の、請負や委任といった民法や商法に基づく取引関係に入る人々について、その(「労働条件」ではない)「取引条件」の公正性、透明性を確保するための規制をかけようとしているのです。しかしその具体的な項目を見ていくと、まさに労働者の労働条件の保護のために労働契約にさまざまな規制をかけようとする労働法の発想と見事に対応していることがわかります。
 まず、透明性の向上として、オンライン仲介サービスのプロバイダーは、職業的ユーザーの就労条件が取引関係の全段階で(契約以前の段階も含め)容易に理解可能でアクセス可能なようにしなければなりません。これには事前に職業的ユーザーがプラットフォームから除名されたり資格停止される理由を設定することが含まれます。最近のプラットフォームの急拡大の中で、就業者からプラットフォームへの苦情として提起されているのがこの問題であることを考えれば、規則案の冒頭にこれが出てくるのも頷けます。プロバイダーはまた、就労条件の変更への合理的な最低告知期間を尊重しなければなりません。このあたり、労働法であれば解雇等の雇用終了や労働条件の不利益変更として議論される領域ですが、それを労働者ならざる「ビジネスユーザー」にいわば類推適用のように持ち込んでいるわけです。
 さらに、一般労働者の場合ではあまり見られない、プラットフォーム就業者特有のいくつかの問題にも本規則案は対応しようとしています。すなわち、オンライン仲介サービスのプロバイダーがビジネスユーザーの提供物の全部または一部を保留したり終了したりすれば、このプロバイダーはその理由を述べる必要があります。さらに、これらサービスのプロバイダーは(イ)そのサービスを通じて生み出されたいかなるデータが誰によっていかなる条件下でアクセスされるか、(ロ)職業ユーザーによって提供されたものと比べてプロバイダーの財やサービスをいかに取り扱うか、(ハ)職業ユーザーによって提供された生産物やサービスのもっとも望ましいレンジや価格を求める契約条項を用いるか、に関する一般方針を定式化し公表しなければなりません。最後に、オンライン仲介サービスとオンライン検索エンジンは検索結果において財やサービスがいかにランク付けされるかを決定する一般基準を設定しなければなりません。これらは直接労働者の場合に対応するものではないように見えますが、やや広く捉えれば、労働者の成果の評価や処遇の公正性といった諸問題に対応すると見ることもできます。近年急速に発達したアルゴリズムを用いた評価システムの問題はこれから労働者の評価や処遇にも大いに関わってくる可能性がありますが、プラットフォーム就業者はいわば一足先にその世界に入り込んでいるわけです。
 労働者についても紛争処理システムの整備が重要課題であるように、これらプラットフォーム就業者についても効果的な紛争解決が図られる必要があります。本規則案は、オンライン仲介サービスのプロバイダーが社内に苦情処理制度を設置しなければならないと定めるとともに、裁判外紛争解決を促進するため、すべてのオンライン仲介サービスのプロバイダーは、その就労条件において紛争解決に信義をもってあたろうとする独立かつ資格を有する仲裁人のリストを示さなければならないとしています。さらに話を広げ、業界としての対応策を求めています。すなわち、オンライン仲介サービスの業界にそのサービスから生じる紛争を取り扱う専門の独立仲裁人を設置することを求めているのです。最後に、EUレベルにこの問題を担当する機関を設置するとも述べています。
 確認しますが、これは労働政策としてではなく、経済産業政策として打ち出されたものです。しかしその問題意識は、弱い立場の労働者を保護するために労働法が試みてきた様々な手段と相似的な手法を、プラットフォーム就業者というこれまた経済的に弱い立場の人々を保護するために講じようとするものとなっており、今後世界的にますますプラットフォーム経済、シェアリング経済が発達していく中で、一つの参考資料として注目に値するものと思われます。

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