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横断的論考@『日本労働研究雑誌』4月号

693_04 『日本労働研究雑誌』4月号に掲載された拙論「横断的論考」がホームページ上にアップされたので、リンクを張っておきます。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/04/pdf/002-010.pdf

1 ジョブ型社会の多様性
 
 日本の雇用システムをメンバーシップ型とか「就社」型と定式化し、欧米諸国のジョブ型ないし「就職」型と対比させる考え方は、ごく一部の人々を除き、多くの研究者や実務家によって共有されているものであろう。
 ところが、日本以外の諸国を全て「ジョブ型」に束ねてしまうと、その間のさまざまな違いが見えにくくなってしまう。常識的に考えても、流動的で勤続年数が極めて短いアメリカと、勤続年数が日本とあまり変わらぬドイツなど大陸欧州諸国はかなり違うはずだ。そこで、世界の雇用システムを大きく二つに分けて、日本に近い側とそうでない側に分類するという試みが何回か行われてきた。ところが、そうした議論を見ていくと、まったく矛盾する正反対の考え方が存在することがわかってくる。
 まず一つ目は、日本とドイツなど大陸欧州諸国を一つにまとめ、アメリカを代表選手とするアングロサクソン型と対比させる常識的な考え方である。この代表がイギリス人のロナルド・ドーアで、かつて日本を組織型、イギリスを市場型と定式化したが(ドーア1987)、その後「日・独対アングロサクソン」という副題からもわかるように、日独型の組織志向の資本主義を擁護している(ドーア2001)。この二分法の先行者はフランス人のミシェル・アルベールで、特にドイツに焦点を当てて「ライン型資本主義」と呼んでいる(アルベール1996)。彼らはいずれも、自国(イギリスやフランス)がアメリカ型に近づくことを批判し、ドイツ型を称揚している。
 これを学問的に定式化したのが比較政治経済学と呼ばれる流派で、ホールとソスキスらは、コーディネートされた市場経済(CMEs)と自由な市場経済(LMEs)という二分法を提示した(ホール2007)。前者に含まれるのがドイツを始めとするゲルマン系の欧州諸国と日本で、後者に含まれるのが米英を初めとするアングロサクソン諸国である。フランスなどラテン系欧州諸国は中間的な地位を与えられている。この資本主義の多様性論は賃金決定や技能形成、福祉国家など幅広い分野にわたる議論を展開しているが、ごく端的にいえばドーアと同様、組織志向と市場志向を対立させる図式だといっていいだろう。同じジョブ型と言っても、日本型に近いドイツ風のジョブ型と日本とは対極的なアメリカ風のジョブ型があるというわけである。
 ところが、こういった枠組とはまったく正反対の認識枠組もある。アメリカ、日本、フランスが内部労働市場(ILM)モデルで、ドイツが職業別労働市場(OLM)モデル、イギリスはその混合だというのである(佐藤2016)。これはイギリスのルーベリーらの議論に基づくものだが、内部労働市場とは主たる人材育成の場が企業内であるもの、職業別労働市場とはそれが企業外であるものという定義になっている。ただ内部労働市場といっても、市場主導のアメリカ、国家主導のフランス、個別企業ベースの日本という違いを指摘してはいるが、これらをひとまとめにして一国レベルで職業別労働市場が確立しているドイツと対比させ、その中間に職業別労働市場から内部労働市場に移行しつつあるイギリスを置いているのである。即ち、同じジョブ型と言っても、日本型に近いアメリカ風のジョブ型と日本とは対極的なドイツ風のジョブ型があるということになる。ドーアや資本主義の多様性論者とはまったく正反対の議論になっていることがわかる。
 これはやはり、一本の軸だけで諸社会を分類しようとするからではないか、と考えると、せめて二次元で四象限に分けるような分類が欲しくなる。ちょうどその需要に応えるかのような枠組がある。マースデン(2007)によると、課業を労働者に課すに当たり、「効率性」と「履行可能性」という二つの要請をどう満たすかにそれぞれ二つのアプローチがあり、それらを組み合わせると四つのルールが生み出されるという。

  この表を見ると、確かにある軸では日本はドイツと同じ側にあり、別の軸ではアメリカと同じ側にいるので、上記矛盾が解消されたと歓迎したくなる。しかし、よく見ていくと山のような疑問が湧いてくる。その疑問を詳細かつ深く突っ込んで論じているのが、石田光男である。石田(2012)は吟味の末に次のような表をもって代え、結局ドイツがやや違うだけで、日本と欧米諸国の間に大きな違いがあるという認識に戻っている。

 ぐるっと一回りして、結局日本と欧米諸国を対比させる当初の素朴な認識に戻ってしまったようだ。この石田の表を見ると、結局「ジョブ」というやや広い概念を、職務、職域・職種、職業資格とやや細かく言葉の上で分けただけのようにも見える。欧米主要各国の雇用システムの在り方を、もう少し細かく見ていく必要がありそうだ。

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