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2018年5月11日 (金)

連合の事務局長談話

5月8日付で連合の相原事務局長名の談話が出ています。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/news/article_detail.php?id=969(第196通常国会 後半国会に向けた談話)

かなりの「政治的」文章なので、その意図するところが伝わるべきところにはきちんと伝わるように重要なキーワードを入れ込みながら、あまりその意図が露骨に出過ぎないように表現がやや奥歯にものが挟まったようなものになっており、もしかしたら一定の解説が必要かもしれません。

1.国会の正常化を前向きに受け止める
 2018年5月8日、半月余りにわたって与野党が激しく対立していた国会が正常 化した。同時に、4月末に審議入りした働き方改革関連法案について、立憲民主党・国民民主党が準備してきたそれぞれの対案を、国会に提出した。会期末が6月20日に迫る中、諸問題の真相究明と働き方や生活に直結する課題の真摯な議論につながるものとして、今回の動きを歓迎したい。

これは素人でもわかりやすいでしょう。正常化を歓迎するということは、これまでの非正常な状態は歓迎できない、もっとはっきり言えば、「会期末が6月20日に迫る中」で、時間を無為に費やしているんじゃねえよ!という気持ちが喉元あたりにあるのをこらえた表現であるわけです。さっさと「働き方や生活に直結する課題の真摯な議論」をやれ、ということですね。

2.政府・与党には真相究明とハラスメントなき社会の実現に向けた行動を求める
 ・・・・加えて、セクハラ問題に関して閣僚等から認識を疑うような言動も継続している。これらは、連合が求める「あらゆるハラスメントなき社会」からは程遠く、断じて看過することはできない。政府は、セクハラを禁止する法制度の導入などを通じ、男女があらゆる場面に平等に参画できる社会づくりに向け、改めて旗を掲げるべきである。

これは正直、急に飛び出してきたトピックであるわけですが、立場上「セクハラを禁止する法制度の導入などを通じ、男女があらゆる場面に平等に参画できる社会づくりに向け、改めて旗を掲げるべきである」ということであって、スキャンダルの追及ばかりにかまけるべきではないという気持ちがにじみ出ているようです。

3.新党「国民民主党」の船出を期待する
 折しも、昨日5月7日、新党「国民民主党」の設立大会が開催された。民進党でもなく、希望の党でもない、全く新しい党として誕生した国民民主党には、衆39名・参23名の計62名が参加した。大塚共同代表・玉木共同代表は、設立大会において、自らの政策を磨き、また、全国の組織基盤を充実、強化する中で、民主主義を守り、国民の期待に応え得る野党勢力の核として役割を発揮したいと訴えた。連合としても、こうした認識にもとづき、国民民主党へ参加した議員一人ひとりの行動に敬意を表すとともに、今後の前進と発展を心から期待したい。

ほんとは頭が痛いことばかりでしょうが、ここはこう言うしかないですね。

で、本題。

4.充実した働き方改革法案審議と働く者の立場に立った法案の実現を求める
 今国会は「働き方改革国会」と銘打たれている。時間外労働の上限規制や非正規雇用労働者の処遇改善に向けた同一労働同一賃金の法整備は待ったなしの課題であるが、政府提出法案に含まれている高度プロフェッショナル制度は実施すべきではない。立憲民主党と国民民主党のそれぞれの持ち味を生かした対案は、働く者のための働き方改革を実現するための、政策パッケージである。後半国会においては、院内外で連合フォーラムに集う国会議員と強力に連携し、構成組織・地方連合会・連合本部が一体となって、働く者の立場に立った法案の実現に全力で取り組む。

3.との関係もこれあり、連合が妙な形で絡んでしまっている政治家にあまりむくつけに言えないところを補いつつ読んでいくと、まず、「時間外労働の上限規制や非正規雇用労働者の処遇改善に向けた同一労働同一賃金の法整備は待ったなしの課題であるが」と、何が最優先課題であるかをよもや忘れるんじゃないぞ、と釘を刺しています。

そこは応援団の連合としてなかなかずばりとは言いにくいのですが、要は、政局至上主義で、政権を倒すことが最優先で、そのためには働き方改革法案を審議未了廃案にしてしまうのが最大の目標であり、功績になるなんて、もし考えているとしたら、とんでもない思い違いだぞ、と強く釘を刺しているのですね。

それに続く「高度プロフェッショナル制度は実施すべきではない」という部分の表現の強さのその前段との明確な違いは、高度プロフェッショナル制度をつぶすためという名目で、肝心要の一番大事な時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金をつぶしたりしたら許さないぞ、という思いが、喉元まであふれかえってきているのをなんとか押さえて表層的には緩やかそうな言い方をしているということが窺われます。このあたり、この文章の政治的解読が一番必要な部分でしょう。

国会で労働組合の支援を受ける野党がやるべきことは、法案の修正すべき点をきちんと修正を勝ち取り、それも含めた法案の成立を確保することであって、廃案にすることではないぞ、という暗黙のメッセージが、わかる人にはわかる形でしっかりと埋め込まれているわけです。

通常、国会で労働組合の意を受けた野党がやるのは、要求項目をすべて盛り込んだ対案を提出し、しかし議席数からしてそれが成立する可能性はないので、そのなにがしかを政府法案の修正という形で勝ち取り、それもかなわなければ国会質疑を通じて必要な答弁を勝ち取り、それによってその後の法の施行をコントロールする回路を作ることになります。そのためにも、妙な政局至上主義で時間を浪費されては迷惑千万ですし、質疑もこの法案のここをこうするべきとかといったことに集中すべきだという思いがにじみ出ているわけです。

とはいえ、繰り返しになりますが、そういう野党を応援するしか選択肢がない(本当にそうであるかどうかについては、いささか疑問がありますが、それはさておき)連合としては、あまりむくつけな言い方もできないので、こういう高度の政治的解読が必要な、「作者の気持ちを100字以内で書きなさい」という現代国語のテストの例文か!?といいたくなりような文章になってしまうわけです。

(追記)

水谷研二さんがこのエントリに

http://53317837.at.webry.info/201805/article_10.html

なお、連合の「本音」については濱口さんが克明に解説してくれた。連合側は何ら反論できないだろう(苦笑)。

とコメントされていますが、いやいや、私はこの連合の真意こそが労働者の立場として全くまっとうであって、政治家の政局至上主義に巻き込まれたある種の運動家の方がまったく間違っていると思いますけどね。

今現在、ILO第1号条約すら批准できない時間外労働無制限という状況をそのままにしてもいいから、とにかく憎い政権を倒すために政府法案をつぶせというのは、言葉の正確な意味で全く反労働者的スタンスの極みだと思いますよ。

まあ、その辺は、昔から変わらない政治と労働運動の関係をめぐるあれこれであるわけですが。

ちなみに、この後のスティーブン・ヴォーゲルさんのエントリで、こうはっきりと述べていますので、誤解の余地はないはずです。まあ、「誤解」というよりも、わざと「作者の気持ち」を曲解したのかもしれませんけど

このあたり、野党は常に政府自民党にさきがけてこれから問題となる領域を提起し、将来必要になる的確な政策を提示するという重要な役割を果たしながらも、いざそれが現実化しようという段階になると、それを提起し、実施していくという役割を与党に奪われ、あとから見れば、10年後、20年後、30年後には誰も覚えていないような実につまらない、歴史の屑籠に放り込まれてしまうようなトリビアばかりに熱中してしまう、という歴史の愚行を繰り返してきたわけです。

 

 

 

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コメント

労働組合も政党も本分を発揮せよとの発破、至極真っ当ですね。
しかし、やはり連合の態度は世間には分かりにくい。。今までの連合の労働時間規制に関する取り組みの紹介や、罰則規定に関する見解など、もう少し踏み込んだ意見表明があってしかるべきでは?やはりというか、自民党というより官邸(与党というより政府が先回りしているのが日本の特徴では?大体において政党の政策作成能力は?では?)が仕掛けてきたがゆえに後手なのでしょうか?
歯がゆいですね。

投稿: 高橋良平 | 2018年5月20日 (日) 22時30分

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