ヨーロッパ型法学部の上にアメリカ型ロースクールを乗っけた帰結
毎日新聞に「政府 法学部「3年卒」検討 法科大学院「失敗」に危機感」という記事が載っていますが、
https://mainichi.jp/articles/20180518/k00/00e/040/223000c?fm=mnm
裁判官や検察官、弁護士を志す法学部の学生は3年で卒業--。政府・与党は、司法試験の受験資格取得期間を短縮するため、法曹教育の大胆な見直しに着手した。背景には、法科大学院の淘汰(とうた)が進み、一連の司法試験改革は失敗だったという批判が広がることへの危機感がある。・・・・
この問題の根源には、そもそもヨーロッパ型の法学部、つまり大学が専門職業教育機関であり、大学法学部をきちんと卒業すれば一応法曹と認められることを前提にした仕組み(でありながら、現実はそれとはかけ離れたものですが)の上に、アメリカ型の大学自体は教養教育機関であり、その上に専門職業人育成のためのロースクールがある仕組みをを、システムが全然違うということを無視して安易にのっけたことの必然的な帰結という感じがします。
私が今から20年以上前に、EU日本政府代表部に勤務していたころ、ベルギー労働省に勤務する若手職員の人としゃべっていて、彼がこう語ったことを今でもよく覚えています。曰く、私は大学法学部を出て当然のように弁護士になったけれど、なかなか顧客が出来ず、商売にならないので、ベルギー労働省に就職して、今法務の仕事をしているんだ、と。
日本では役人になってから司法試験を受けて弁護士になるのはいるけれども、逆はいないなあ、というと、不思議そうな顔をしていましたな。
日本に帰ってからこの話をしても、逆になかなか分かってもらえないので、日本だって医学部は学部出たら(医師国家試験に合格して)医者になるでしょ、そして選考採用で厚生官僚になるのもいる、といったら、ようやくわかってもらえた。で、アメリカではそれもメディカルスクールという大学院レベルが職業教育機関なんですね。
だから、そもそも日本にいっぱいある法学部ってそもそも何のためにあるのかという根本問題抜きに、3年にするとか言ってもその理屈がよくわからないということになります。
ぶっちゃけ、ロースクールで2年みっちりやる前提なら、その予備門的存在として、教養課程2年だけでいいのではという議論だってありうるかもしれない。いや、これは労働市場問題は抜きの議論ですけど。
(追記)
この話、実は昨年11月にも本ブログで取り上げていました。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/10/l-54fb.html (L型専門職大学としての法学部?)
・・・少なくとも、大型二種免許を取るための法学部よりは、ずっとまっとうな職業教育機関のイメージではありましょう。
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少子化で学生が減ることの収入源を履修年限の延長で乗り越えた薬学部の2匹目の泥鰌を狙ったけど、市場が拡大しなかったので有資格者の需要が増えず失敗した、ように見えます。なので、5年でも成功でしょう、ただし予備試験の穴を埋めないと顧客はだだ漏れです。
投稿: ちょ | 2018年5月21日 (月) 19時06分
皆さん、今晩は。
そもそも法科大学院は、本来はアメリカのロー・スクールを手本としたのに、最高裁の横やりで司法修習制度が残ってしまったために、ロー・スクールと似ても似つかないものになってしまったことです。
司法修習制度を廃止しない限り、法科大学院が成功を収めることはないと思います。
投稿: 国道134号鎌倉 | 2018年5月22日 (火) 23時11分
いや、それは副次的な話で、根本は法学部とロースクールの問題でしょう。世界中、法学部がある国にはロースクールはなく、ロースクールがある国には法学部はないんですから。
医学部があってメディカルスクールがない日本にも、臨床研修制度(昔はインターン制度)というのがあるので、高等職業教育機関修了資格取得後に一定期間実務研修が義務付けられること自体は別に不思議ではないでしょう。現行の司法修習制度にこんな問題があるぞという話は山のようにあるでしょうけど、それは別の話。
投稿: hamachan | 2018年5月22日 (火) 23時33分
丁寧な解説をありがとうございました。少し賢くなりました。
>日本の大学の法学部出身者の圧倒的大多数は法律家になりません。そのような意味から言うと、日本の法学部で学んだことがそのまま役に立つ人は、指で数える程度しかいません。
>私は大学法学部を出て当然のように弁護士になったけれど、なかなか顧客が出来ず、商売にならないので、ベルギー労働省に就職して、今法務の仕事をしているんだ、
”学部で学んだことがそのまま役に立つ” の定義にもよると思いますが、
法学部を出て弁護士になったけれど商売にならなかった
という人は、”法学部で学んだことがそのまま役に立った” と言えるのでしょうか?
もちろんこの方は法務の仕事をされているので 、”法学部で学んだことがそのまま役に立った”と言えると思いますが、ベルギーでは法学部を出た方の大部分は(法学部で学んだことがそのまま役に立つ)法務関係の仕事をされているのでしょうか?法学部の卒業生の大部分が就職できるぐらい法務関係の仕事がある? or 法学部の定員は卒業生の大部分が法務関係の仕事に就職できる程度である?
日本で潰れるロースクールが多くなったのは、ロースクールを卒業して弁護士になっても食べていけない(ロースクールの卒業生の大部分が就職できるぐらいの法務関係の仕事がない)ので、弁護士を目指すロースクールの志願者が減ったからだという説を聞いた気がします。
投稿: Alberich | 2022年5月 9日 (月) 22時05分
上(2022年5月9日(月)22時05分)のコメントは、この記事が引用されている
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2022/05/post-28e3ae.html
大学・大学院とメンバーシップ型
のコメントとして投稿するつもりでしたが、誤ってこちらの記事のコメントとして投稿してしまいました。
申し訳ありませんでした。
投稿: Alberich | 2022年5月12日 (木) 21時48分