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2018年5月 9日 (水)

国民民主党と立憲民主党の働き方改革法案対案

まあ、政治家が政局で動くのは本能ですから仕方がないのですが、立法府というのはいかなる政策、立法があるべきかを正面から議論し、まさにその次元で斬り合うべき所だという理念からすれば、いささか情けない姿が展開されていたわけですが、ようやく2つの野党から働き方改革法案の対案が提出されたようです。

国民民主党(以下「国民党」という)のはここにありますが、「安心労働社会実現法案」と称していますが、いくつかに分かれているようです。

https://www.dpfp.or.jp/2018/05/08/%E3%80%8C%E5%AE%89%E5%BF%83%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AE%9F%E7%8F%BE%E6%B3%95%E6%A1%88%E3%80%8D%E3%82%92%E8%A1%86%E9%99%A2%E3%81%AB%E6%8F%90%E5%87%BA/

立憲民主党(以下「立民党」という)のはこれで、こちらは「人間らしい質の高い働き方を実現するための法律案」というタイトルで、閣法と同様まとめて一本のようです。

https://cdp-japan.jp/news/20180508_0436

ざっと見た感じではほぼよく似た感じで、いろいろあって別れざるを得なかったけど作った人の発想はそれほど変わらないようにも見えます。

ただ、時間外の上限は、国民党が閣法と同じであるのに対し、立民党は単月80時間、複数月60時間とより厳格にしています。

雇用対策法に「正規雇用(無期、直接、フルタイム)原則」とか「本人が希望する場合の正規労働者としての雇用」が入っているのも共通です。

同一同一関係はちょっと違って、国民党が労契法に「職務の価値の適正な評価」云々と同一価値労働志向なのに対して、立民党のは「合理的と認められない待遇の相違の禁止」と、やや労働法学者的なこだわりが見えます。

一番違うのは、国民党案にあるパワハラ規制の安全衛生法改正部分が立民党案にないことです。

これ、本ブログでも何回か取り上げたように、情報労連出身の石橋議員が熱心にやっていた話なんですが、彼が民進党でやった結果は国民党案に盛り込まれていて、彼が今回入った立民党案には入っていないというなんだか皮肉な事態になっています。

この部分は、私もどうなるのかと期待していた部分でもあるので、せっかくなので、その法文を引用しておきます。

第七章の三 労働者に苦痛を与えるおそれのある言動に関する措置

(業務上の優位性を利用して行われる労働者に苦痛を与えるおそれのある言動に関し事業者の講ずべき措置)
第七十一条の五 事業者は、その労働者に対し当該事業者若しくはその従業者が、その労働者に対し当該事業者以外の事業を行う者若しくは当該者の従業者が、又はその労働者以外の労働者に対し当該事業者若しくはその従業者が、当該労働者との間における業務上の優位性を利用して行う当該労働者に精神的又は身体的な苦痛を与えるおそれのある言動であつて業務上適正な範囲を超えるものが行われ、及び当該言動により当該労働者の職場環境が害されることのないよう、その従業者に対する周知及び啓発、当該言動に係る実態の把握、その労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、当該言動を受けた労働者及び当該言動を行つた者に係る迅速かつ適切な対応その他の必要な措置を講じなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。
3 厚生労働大臣は、指針を定めるに当たつては、第一項の言動を受けた労働者の利益の保護に特に配慮するものとする。
4 厚生労働大臣は、指針を定めようとするときは、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くものとする。
5 厚生労働大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。
6 前三項の規定は、指針の変更について準用する。

(消費者対応業務の遂行に関連して行われる労働者に苦痛を与えるおそれのある言動に関し事業者の講ずべき措置)
第七十一条の六 事業者は、その労働者を消費者対応業務(個人に対する物又は役務の提供その他これに準ずる事業活動に係る業務のうち、その相手方に接し、又は応対して行うもの(事業を行う者又はその従業者に専ら接し、又は応対して行うものを除く。)であつて、厚生労働省令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)に従事させる場合には、当該労働者に対しその消費者対応業務の遂行に関連して行われる当該労働者に業務上受忍すべき範囲を超えて精神的又は身体的な苦痛を与えるおそれのある言動(当該労働者と業務上の関係を有する者により行われるものを除く。)により、当該労働者の職場環境が害されることのないよう、当該消費者対応業務の態様に応じ、当該労働者の職場において当該言動に適切に対処するために必要な体制の整備、当該労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を定めるものとする。
3 前条第四項及び第五項の規定は、前項の指針の策定及び変更について準用する。4 その消費者対応業務の全部又は一部を委託する者は、当該委託を受けた事業者が当該委託に係る消費者対応業務について第一項の規定により講ずべき措置を適切かつ有効に実施することができるよう、必要な配慮を行うものとする。

(助言、指導及び勧告並びに公表)
第七十一条の七 厚生労働大臣は、第七十一条の五第一項及び前条第一項の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業者に対し、助言、指導又は勧告をすることができる。
2 厚生労働大臣は、第七十一条の五第一項又は前条第一項の規定に違反している事業者に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/2017525-29fe.html(「民進党のパワハラ防止法案?」@『労基旬報』2017年5月25日号)

『労基旬報』2017年5月25日号に「民進党のパワハラ防止法案?」を寄稿しました。内容は、『情報労連REPORT』4月号に載っていた石橋通宏参議院議員のインタビュー記事のほぼ忠実な紹介です。ちょうど先週金曜日に厚生労働省で職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会が開始されたところでもあり、一つの議論の素材として有用ではないかと思います。

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コメント

以下の記事を見かけたのですが、

高度プロフェッショナル制度の要約
http://black-taisaku-bengodan.jp/kakusan-kopro/
高プロ制度の解説をします
https://news.yahoo.co.jp/byline/sasakiryo/20180330-00083362/

高度プロフェッショナル制度とは、要するに、労働者を保護するための規制を外すだけの、やっちゃいけないタイプの規制緩和であり、危険な制度ではないかと思います。

年収が高かろうが安かろうが、本質的に労働者は弱い立場であり(高収入であろうと会社側の提案(というか命令)を拒むのは難しく、この法律が乱用されると過労死が多発しそうでおっかないです。今は人手不足で労働者の立場が尊重されるようになりましたが、景気が後退して不景気になるとどうなることやらと思われます。

規制の撤廃のみで、労働者の選択の自由が保証されない、命のケアは不十分となると、「残業代ゼロ法案」というのは、ただのレッテル張りではなく、本質そのものの図星を突いているように思えます。

そこで、hamachanさんの解説や見解が見たくなって本ブログに来たのですが、特に触れていなくてびっくりしました。ここ最近ではこの記事ぐらいなので、この記事にぶら下げるのですが、

これらの解説に対するhamachanさんの見解など伺いたいです。
この指摘は正しいのでしょうか?
また、hamachanさんの普段からの主張である、お金の問題と命の問題は別であるという観点からはどうなのでしょうか?(命の問題と捉えてもよろしくないように思います。)

投稿: くまさん | 2018年6月 3日 (日) 15時58分

本日、北海学園大学で開かれた過労死防止学会の共通論題で、きちんというべきことはすべて語ってきました。

http://www.jskr.net/大会プログラム/988/

その中身は過去十数年にわたって主張してきたとこと何ら変わっていません。

同じことを言い続けなければならないことが悲しくさえあります。

ただ、今日は、チコちゃんが「ボーッと生きてんじゃねえよ!」と咆哮しましたけど。

(参考)

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=262

かつてキリストは、カエサルのものはカエサルへ、神のものは神へ,と教えたという。いま労働時間と賃金に絡む混乱しきった議論を整理しようとするならば、まず何よりも、労働時間のことは労働時間として、賃金のことは賃金のこととして、きちんと分けて議論しようというその一点に尽きるのではなかろうか。そこをごっちゃにしたまま知った風な口をきく論者は、たとえ誰であろうがインチキと見なして差し支えない。

投稿: hamachan | 2018年6月 3日 (日) 23時02分

ご返事ありがとうございます。残念ながら、リンク先は会員制の記事なので見れませんでした。そこで忖度して反応します。

「残業代ゼロ法案」は労働時間に触れてませんが、「定額働かせ放題法案」というレッテルも使われておりまして、こちらはそういうニュアンスもあります。

リンク先の記事は「残業代は長時間労働のブレーキだ」と両者をごっちゃにした言説がありますが、そういう効果も確かにあると思われます。

この弁護士の人はリンク先で以下のように述べておりますので、心の中では、分けて考えているようです。

<残業代ゼロ・過労死促進法案>他人事ではない!~年収1075万円は絶対に下げられる5つの理由

> 1075万円であるとか、成果に応じた報酬うんぬん言う前に、全労働者について、長時間労働による過労死・過労うつが起きないような法制度を作るべきで、その検討をまず真っ先にやるべきだと思います。

投稿: くまさん | 2018年6月 5日 (火) 05時46分

「定額働かせ放題」という言葉は、「働かせ放題」を批判しているのか、「定額」を非難しているのか、おそらく両方を狙っているのでしょうが、現在の一般労働時間法制が「割増付き働かせ放題」であることを考えれば、後者を強調している面が強いのでしょう。

私は定額であろうが割増付きであろうが、時間外労働の上限規制により働かせ放題にしないことが必要との立場ですが、その範囲内で定額制にすることは、賃金法制として別に不合理ではないと考えています。

そこで、いやいや割増制は時間外労働のブレーキだというごっちゃにする議論が出てくるのですが、だからこそそれをごっちゃにしないように上限規制が必要なのであり、ゼニカネを物理的時間のブレーキにするような歪んだ法制にしがみつくことがむしろ真の労働時間法制の議論を捩じれさせています。

というようなことは過去十数年以上にわたって山のような議論をしてきています。
お願いですから、例えばまず拙著『新しい労働社会』(もう9年前に出た本です)の第1章を読んでいただきたいところです。
ほんとに疲れます。

投稿: hamachan | 2018年6月 5日 (火) 07時57分

hamachan殿

>「定額働かせ放題」という言葉は、「働かせ放題」を批判しているのか、「定額」を非難しているのか、おそらく両方を狙っているのでしょうが、現在の一般労働時間法制が「割増付き働かせ放題」であることを考えれば、後者を強調している面が強いのでしょう。

「定額働かせ放題」という言葉は、「定額かけ放題」という携帯会社の(一時期はやった)キャンペーンをもじったものだと思うので、言いたい事は(独自部分の)"働かせ放題"にあると思います。
また反対派は過労死された方の遺族の会見を行ったりしているので、"定額"よりも"働かせ放題"を問題視していると思います。

投稿: Alberich | 2018年6月 5日 (火) 19時44分

間があきました。

Alberich さんご指摘の通り、「ブラック企業対策弁護団は、ブラック企業問題の現場」の最前線にいるのであり、当然、命の問題と認識していると思われます。また、前回引用したとおり、佐々木弁護士は、「全労働者について、長時間労働による過労死・過労うつが起きないような法制度を作るべき」と、切り離すのが理想だと述べてます。

それなのに、「割増制は時間外労働のブレーキ」が出てくるのはなぜかですが、以下の理由が考えられます。忖度です。

命の問題に立たされていない一般の労働者にとっては、過労死問題より、サービス残業問題のほうが身近、という訴求対象(労働者)の興味に合わせたマーケティング的な理由が考えられます。

また、「高度プロフェッショナル制度の要約」を参照する限りは、残業代をカットする一方で、健康診断さえやっておけば企業は従業員の健康管理をやったことになる、という抜け穴が用意されており、当の高プロ法案自身が「割増制は時間外労働のブレーキ」と認識していて、それを外そうという意図がありありと伝わってきます。

そもそも成果給は現行でも可能ですよね?それで、その問題点も明らかになっている割には、高プロ法案には、透明性のある人事評価を担保させる仕組みもなく、労働者の裁量を担保する仕組みもなく、ただ規制を外すだけです。

したがって、そういう考え方のもとの法案を否定する以上は、同じ土俵にあがらざるを得ないのではないかと思われます。

このように考えると、hamachanさんの批判は、ブラック企業被害対策弁護団よりも、高プロ法案こそあたるのでは無いかと思われます。

最初に戻りますと、ブラック企業被害対策弁護団の解説のとおりですと、高プロ法案は、やっちゃいけないタイプの規制緩和という結論になってしまうのですが、この認識は正しいのでしょうか? という疑問になります。

投稿: くまさん | 2018年6月 9日 (土) 11時05分

hamachan殿

>私は定額であろうが割増付きであろうが、時間外労働の上限規制により働かせ放題にしないことが必要との立場ですが、

仰る通りだと思います。そのためには働き方にかかわらず働かせ放題にしない(できない)ようにする仕組作りが優先で、割増賃金をどうするかは、ちゃんとした仕組ができた後の事だと思います。
以下は高プロに関するブログに対するコメントですが、この中の”手順前後”という言葉が印象に残っています。

「今回の法案でも別にホワイトカラーにとっての当たり前の働き方に変えるだけなのですが、現在の日本の法運用(の杜撰さ)と経営者・管理者の歪んだ意識のもとでは、さまざまな懸念が生じるのは当然のように思われます。まずは現行の労働基準法が厳格に適応されて違反企業およびそこに所属する管理者が厳罰を受けるようになり、それを受けて多数のホワイトカラー労働者が法制度・法運用をそれなりに信じるようになって、それから初めて導入するべきではないでしょうか。
この手の「改革」は国内経済を一層疲弊させるだけで終わると見ます。将棋で言えば「手順前後」の悪手でしょう。」

投稿: Alberich | 2018年6月 9日 (土) 21時02分

補足というか蛇足かもしれませんが、

高プロ法案には、

  • 労働者の命を守るための使用者の義務を解除しつつ
  • 残業代は支払わない
という、「残業代廃止は時間外労働のアクセル」という側面がある以上は、これに対抗する立場としては「割増制は時間外労働のブレーキ」という観点を持ち出さざるを得ないということだと思います。

「割増制は時間外労働のブレーキ」というのは、割増を気にしないケチでない使用者には通用しませんが、今回の高プロ法は割増を気にする普通の使用者に迎合するものなので、「残業代廃止は時間外労働のアクセル」理論は通用するのでしょう。

# 通常の給与が不当に少ないから、残業代や割増が痛くないのだと考えれば、これはこれで問題な気がしますが。

ちなみに、労働者の健康維持のための絶対的な規制ができれば、残業代撤廃は問題ないかというと、これはこれで問題がありそうな気がします。

  • いやなら出ていくという選択肢を気軽に選べるという市場価値の高い労働者でなければ、買い叩かれる。
  • 労働者本人に交渉力が無いと、買い叩かれる。
ギルド型の労働組合のあるジョブ型社会ならば、あたり前のことかもしれませんが、現在の日本ではどうかと思います。

投稿: くまさん | 2018年6月10日 (日) 15時35分

くまさん殿

>ギルド型の労働組合のあるジョブ型社会ならば、あたり前のことかもしれませんが、現在の日本ではどうかと思います。


ジョブ型社会から見た日本の高プロ法案について以下の記事がありました。
http://blogos.com/article/302302/
この記事では、日本で高プロを実施するためには4つの健康確保措置のどれかではなく、4つすべての実施と管理職の研修を義務付けるべきだと言っています。
この記事の著者はオーストラリアで大学院を出て現地のグローバル企業で長く働き労務管理も担当された方です。またこの方は地元に慰安婦像が計画された時に反対運動の中心になったそうなので、(定義にもよりますが)いわゆる左翼ではなく(どちらかといえば)安倍首相の支持者に含まれる方だと思います。

記事の以下の記述が印象に残りました。

「オーストラリア人だったら、仕事が多すぎて、年俸と見合わなくなったらさっさと辞めて転職してしまいます。雇用者側も、社員をあまり追い詰めるといつ辞められるかわからない、というリスクを常に抱えることになり、ブレーキとなります。社員の側も、過労死するまで働こうなんて考えません。とってもドライな世界なのです。
20数年ぶりに日本に帰ってきて、びっくりしたことがあります。
20代や30代の若い人たちが、理不尽な労働環境下でやせ我慢して働いているのです。彼らは耐えるだけで、雇用主と交渉する気力も能力もありません。なんだか日本が貧しい国に見えてしまいました。
高プロの対象はハイスキルの高所得者だとしても、オーストラリアみたいにドライにいけるかどうか。反則タックルをした日本大学アメフト部の選手みたいな奴隷状態にならなければいいが、と心配になってしまいます。」

投稿: Alberich | 2018年6月12日 (火) 21時58分

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