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マルクス200年で中国が銅像っていう話

K10011428521_1805060816_1805060920_ いやもう、話が二重、三重、四重くらいにねじれて、何をどう語ったらいいのかよくわからないくらいあまりにも奇怪すぎてまっとうに見えさえする話題が載ってました。マルクス生誕200年記念に、中国が、ドイツのトリーアにマルクスの銅像を寄贈したそうです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180506/k10011428521000.html

旧ソビエトや中国など共産主義国家の成立に大きな影響を与えた思想家、カール・マルクスの生誕200年に合わせて、出身地のドイツ西部の町に中国政府からマルクスの銅像が贈られ、5日、披露されました。
「資本論」などで知られる思想家、カール・マルクスは、資本主義社会を分析して社会主義革命の必然性を主張し、旧ソビエトや中国などの共産主義国家の成立に大きな影響を与えました。
マルクスの生誕から200年となった5日、出身地のドイツ西部トリーアでは、友好の証しとして中国政府から贈られた銅像が披露されました。高さ5.5メートルの銅像は中国の彫刻家が制作したもので、マルクスが書物を手に歩く姿が表現されています。
披露式典では中国の国務院新聞弁公室の郭衛民副主任があいさつし、「中国共産党はマルクス主義を継承し、中国の実情に合わせて発展させている」と述べ、マルクスと中国とのつながりを強調しました。また、トリーア市のライベ市長は「銅像はマルクスがこの市で生まれたからこそ贈られた友好の証しだ」と歓迎しました。
銅像の受け入れをめぐっては、マルクスに対する評価が分かれていることなどから地元で大きな議論となり、この日も賛成と反対のグループがそれぞれ市内をデモ行進しました。このうち、反対デモに参加した人は「マルクスは数百万人もの共産主義の犠牲者に対する間接的な責任がある」と抗議していました。

いやしかし、かつての毛沢東時代の(まあ、それもマルクスの思想とは似ても似つかぬものだという批判が妥当だとは思いますが)少なくともやっている当人たちの主観的意識においてはマルクスとレーニンの思想にのっとって共産主義を実現すべく一生懸命頑張っていた時代の中国ならいざ知らず、日本よりもアメリよりも、言うまでもなくマルクスの祖国ドイツよりもはるかに純粋に近い(言い換えればむき出しの、社会的規制の乏しい)資本主義社会をやらかしておいて、それを円滑にやるための労働運動や消費者運動を押さえつけるために共産党独裁体制をうまく使っている、ある意味でシカゴ学派の経済学者が心の底から賛辞をささげたくなるような、そんな資本主義の権化みたいな中国が、その資本主義を憎んでいたマルクスの銅像を故郷に送るというのは、19世紀、20世紀、21世紀を貫く最高のブラックユーモアというしかないようにも思われます。

いやもちろん、トリーア市の市長としては、ローマの浴場と中世の教会と近代のマルクスの3点セットで売り出せば観光客もたくさん来てくれる(かもしれない)ので、観光資源としては有難いのでしょうけど。

てなことをつらつら思っていたら、そういえばその昔本ブログでこんな本を取り上げたことがあったなと。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/09/post-16fd.html (區龍宇『台頭する中国 その強靭性と脆弱性』)

20140806g636_2 でかくて、分厚くて、おまけに税抜き4600円と大変高い本ではありますが、今や世界第2位の資本主義大国である中国の労働問題を、ルポとかではなく理論的に分析した本というのはほとんどない現在、それだけの代金を払ってでも読む値打ちのある本でした。

中国をめぐっては、あまりにも多くの解決すべき謎があり、中国を観察する人たちにとって、今後も驚くべきことが少なくなるのではなく、さらに多くなると覚悟しておく必要がある。本書の目的は、もっと限定されている。論争を活発化することのほかに、階級、国家、国家官僚の役割にもう一度焦点を当て、それらの相互関係が近年および将来を規定することを示すことによって、中国のジグソーパズルの欠けたピースを埋めようとすることである。

私の主な関心は第2部の「中国における労働者・農民の抵抗闘争」でしたが、中国の体制イデオロギー諸派を分析した第3部も、少数民族問題を取り扱った第4部も、大変興味深かったです。

日本語版への序文(區龍宇)

序 ジグソーパズルの欠けたピース(區龍宇)

第1部 中国の台頭とそこに内在する矛盾

 中国の台頭とそこに内在する矛盾(區龍宇)

 中国の対外経済進出(區龍宇)

 中国の台頭は不可避なのか、それとも没落の可能性があるのか(ブルーノ・ジュタン)

 毛沢東主義――その功績と限界(ピエール・ルッセ)

第2部 中国における労働者・農民の抵抗闘争

 中国における労働者の抵抗闘争 1989-2009(區龍宇、白瑞雪)

 「主人」から賃奴隷へ――民営化のもとでの中国労働者(區龍宇)

 社会的アパルトヘイト下での使い捨て労働――新しい労働者階級としての農民工(區龍宇)

 中華全国総工会の役割――労働者にとっての意味(白瑞雪)

 新しい希望の兆候――今日の中国における抵抗闘争(區龍宇、白瑞雪)

第3部 中国における新自由主義派と新左派

 中国――グローバル化と民族主義者の反応(區龍宇)

 中国の党・国家はいかに社会主義なのか? 書評 汪暉著『革命の終焉 中国と近代化の限界』(區龍宇)

 薄熙來と「一都市社会主義」の終焉(區龍宇)

 劉暁波氏と中国の自由主義者(區龍宇)

第4部 中国共産党の台湾・チベット・新疆ウイグル政策

 中台関係に関する両岸労働者階級の立場(區龍宇)

 自発的な連合か強制的な統一か――中国共産党のチベット政策(區龍宇)

 二重の抑圧――新疆短評(區龍宇)

 香港のオルタ・グローバリゼーション運動(區龍宇)

著者は香港のマルクス主義者です。中国に何千万人といる共産党員の中に誰一人いないと思われるマルクス主義者が、イギリスの植民地だったおかげで未だに何とか(よろよろしながらも)一国二制で守られている思想信条の自由の砦の中で生き延びていられるマルクス主義者ですね。

だからこそ、中国共産党という建前上マルクス主義を奉じているはずの組織のメンバーが誰一人語ることができない「王様は裸だ」を、マルクス主義の理論通りにちゃんと分析して本にできているのですから、ありがたいことではあります。

それにしても、資本家が労働者を抑圧するのに一番良い方法は、資本家自身が労働者の代表になってしまうことだというのは、マルクス様でも思いつかないあっと驚く見事な解法でありました。

なお、労働問題とかにあまり関心のない方々でも、せめて「日本語版への序文」だけでも立ち読みしてください。若い頃保釣運動(尖閣列島防衛運動)に参加していた素朴な民族青年が、マルクス主義の立場から資本主義的中国共産党のショービニズムを批判的に見るようになった話は、いろいろと思わせるところがあります。

今中国大陸でこういう文章が書けるのは、この香港のマルクス主義者だけなのでしょう。

1971年、14歳の私が最初に参加した社会運動は釣魚台(尖閣列島)防衛運動であった。その時は素朴な民族感情から参加した。このような民族感情は幼い頃から育まれたものであったが、それは学校で教わったものではなかった。・・・父親からは折に触れ、日本による「香港陥落」の物語を聞かされた。「ある日本兵は、彼に敬礼をしない通行人を見かけると、『サッ』と振り上げた日本刀で、背後から刺し殺してしまった」というように。

・・・しかし今日では、私は釣魚台防衛は支持しない。前述の二つの理由がなくなってしまったからである。中国は今日において反資本主義・反帝国主義でなくなっただけでなく、資本主義、しかも悪質な資本主義へ回帰してしまっている。中国共産党を中心とする官僚資本は、民衆を犠牲にして膨張している。それは一方で民族の利益を防衛するという表看板を掲げながら、一方では世界貿易機関に加盟して農民の生活を犠牲にし、農村破壊を加速し、他に生きるすべのない2億5000万の農民は都市に出て働くしかない。そして都市に出て働き出した農民(農民工)は、国家の暴力装置によって、ストライキと結社の自由を抑圧されている。中国共産党はこのように農民工に対する私的資本(膨大な外国資本を含む)の過酷な搾取を大いに手助けしているのである、・・・

そして、このマルクス主義者らしい最後の言葉:

・・・十数年前に日本を訪れた際に会った中国人らの言葉を思い出した。彼らは私にこう言った。日本で経営者や警察にひどい扱いを受けたときは、左翼の労働組合だけが手をさしのべてくれる、と。世界中誰もがみな兄弟姉妹というが、労働者人民にこそ、この言葉が最も当てはまる。

・・・「万国の労働者、団結せよ」。マルクスのこの言葉は、未だ時代遅れになっていない。

『人民日報』には絶対に載らないであろうこういう台詞が吐けてしまう香港のマルクス主義者に乾杯。

 

 

 

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