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2018年5月 7日 (月)

UAゼンセン18組合が勤務間インターバルを獲得

23e51cea3a6f078407c02dfb8f53a4d1400大事なのは物理的労働時間の規制であって残業代じゃないと言い続けてもう10年以上経ちましたが、世の中には依然として残業代ゼロを声高に批判するばかりのゼニカネ至上主義者が絶えないようですが、とはいえ労働現場からは少しずつものごとの方向性を変えようという動きも着実に進んできているようで、ピョンヤン版じゃない『労働新聞』には、「18組合導入方向に 勤務間インターバル UAゼンセン」という記事が出ています。

https://www.rodo.co.jp/news/45021/

UAゼンセン(松浦昭彦会長)加盟の18組合が、今春闘(4月段階)で勤務間インターバル規制の導入に向け妥結したことが分かった。勤務と翌日の勤務の間に一定の休息時間を設けて労働時間に絶対的上限を設ける健康確保対策である。

 時間が長い順に労組の名前を挙げると、「11時間」がイズミヤ労組、ウエルシアユニオン、イオン労連イオングローバルSCMの3組合、「10時間」がセブン&アイ労連イトーヨーカドー労組、全ユニー労組、ビックカメラ労組、イオン労連イオンマーケット労組、イオン労連OPAユニオン、さとう労組、SSUAザ・クロックハウスユニオン、イオン労連イオンファンタジー労組、すかいらーく労連トマトアンドアソシエイツ労組の9組合、「9時間」がテンアライド労組、コナミスポーツクラブ労組の2組合、「8時間」がダスキン労組、島忠労組、まるごう労組の3組合で、10時間を11時間に拡充したアークスグループ労連ラルズ労組を加えた18組合となっている。

まあ、情報労連の傘下組合でもそうでしたが、EU基準の11時間ばかりじゃなく、8時間とかいうのもあるので、まあなかなか道は遠い面もあるのですが、それでも圧倒的に多くの労働組合がその8時間のインターバルすら獲得し得ていないことを考えれば、これでも立派な一歩と言うべきでしょう。

Sekaiこの問題についてはこの十数年間繰り返し同じことばかり論じてきた気がしますが、改めてもう11年前に当時ホワイトカラーエグゼンプションが話題になっていたときに雑誌『世界』に載せた「ホワイトカラーエグゼンプションの虚構と真実」を再読していただければと思います。この時の水準から一歩も進んでいない議論が横行しすぎているように思いますので。

1 ねじれの構造

 ホワイトカラーエグゼンプションをめぐる最大の問題点は、マスコミや政治家のレベルにおいては、本来問題とすべきではないことが問題とされ、真に問題とすべきことが後ろに隠れてしまっていることである。
 以下順次説明していこう。多くのマスコミや政治家にとっては、ホワイトカラーエグゼンプションはサラリーマンから残業代を取り上げる制度であるがゆえに、慎重に対処すべきものであるらしい。ことごとに「残業代ゼロ」と言いつのる朝日新聞の編集部も似たような発想であろう。しかし、残業代がゼロであることはなにゆえに悪いことなのか、きちんとした説明がされたことはない。確かに、現行労働基準法第37条は、管理監督者でない限り時間外労働に対しては25%の割増賃金を払うことを義務づけている。これに反して残業代を払わなければ「サービス残業」として摘発され、膨大な未払残業代を払わされることになる。しかし、立法論としてそれがどこまで正当化しうるものなのかは、少なくとも政治的なレベルでは論じられていない。後述するように、この点については日本の法制はヨーロッパ諸国よりも過剰に厳格であり、規制を緩和する正当性は大いにある。
 しかしながら、ここで正当性があるのは時間外手当支払い義務という規制の緩和であって、労働時間規制の緩和ではない。現在提起されようとしているホワイトカラーエグゼンプションの最大の問題点は、それが時間外手当の適用除外にとどまらず、労働時間規制そのものを適用除外しようとするところにあるのだ。労働基準法の条文で言えば、第37条にとどまらず、第32条及び第36条が適用されなくなってしまうという点に問題があるのである。どういう問題があるのか。生命と健康である。労働時間規制とはゼニカネのためのものではない。労働者の生命と健康を守るためにある。これ以上長時間働いては生命と健康に危険だ、というのが労働時間規制の最大の目的である以上、これを外すことには慎重でなければならない。さもなければ過労死や過労自殺が続出する危険性すらあろう。ところが、この最大の問題点は、審議会における労働組合側の主張では繰り返し提起されていたにもかかわらず、マスコミや政治は余り関心を持っていないようだ。・・・・

2 時間外手当エグゼンプションの正当性

 ・・・・工場労働者を念頭に置けば、賃金支払い形態が月給制になったからといって、残業手当が払われなくなるなどということは許されないであろう。しかしながら、事務部門の従来から月給制であったいわゆるサラリーマンについてまで、全て一旦時間給に割り戻すという仕組みにしたことは行き過ぎであったように思われる。
 その意味では、ホワイトカラーエグゼンプションの導入という形で提起されている問題は、実は戦後労基則第19条によって封印された戦前型の純粋月給制を復活すべきか否かという問題に他ならないと言える。従って、その是非の決め手も、労働時間規制のあり方如何などというところにあるはずもなく、賃金法政策として、ワークとペイの全面的切り離しをどこまで認めるのかという点にあるはずである。
 最近は成果主義賃金制度がかなり広まってきて、年俸制の対象となる労働者も増えてきている。しかしながら、現行法制度の下では、管理監督者でない限り、年俸制といえども月払いの日給制であり、1時間あたりの単価に割増率をかけて時間外手当を算定しなければならないというのが建前である。これはあまりにも現実とかけ離れた法規制であるし、何よりも、現実に成果主義人事のもとで働いている技術部門や事務部門の労働者にとって、そのような法規制には次第に正当性が感じられなくなりつつあるのではないだろうか。
 この点で一昨年興味深い判決があった、モルガンスタンレー事件(東京地判平成17年10月19日)である。年間基本給が2200万円、ボーナスがそれ以上という超高給サラリーマンである原告が時間外手当の支給を求めたこの事件の判決で、難波孝一裁判官は「基本給の中に時間外労働の対価も含まれている」として請求を棄却した。労働法学者が述べるように「本判決は労基法の解釈としては容認し得ない」(『ジュリスト』1315号の橋本陽子評釈)ものではあるが、立法論としては、百人中99人までが時間外手当の不支給に賛成するであろう。
 それだけではなく、労基則第19条によって法律上支払わなければならない時間外割増賃金が、労働者の側で自らの成果に対応しない正当性の薄いものと認識されることによって、堂々とそれを請求することがしにくくなり、そのことが賃金だけの問題ではなく、本来労働安全衛生の観点からの刑罰法規であるはずの実体的労働時間規制を空洞化するという逆効果をもたらしているように思われる。いわゆるサービス残業は、時間外労働に対応する賃金を払わないからという理由で悪いのではなく、使用者が労働時間を適確に把握しないまま実体的な長時間労働を野放しにすることになり、かえって労働安全衛生上危険な事態を招くことになるから問題なのではないだろうか。むしろ、そういう労働者については、賃金と労働時間のリンクを切り離した上で、安全衛生に係る刑罰法規としての実体的労働時間規制を強化する方向が望ましいように思われる。この問題は、ただ「サービス残業許すまじ」と唱えていればすむ問題ではない。

3 労働時間規制の必要性

 そもそも、労働時間はなぜ規制されるのか。労働者の生命と健康を確保するためではないのか。働きすぎで身体や精神の健康を害し、場合によっては過労死や過労自殺といった事態を引き起こすことのないように、物理的な労働時間を規制しているのではないのか。その意味では、ここ20年近くの時短政策は、労働時間を健康問題として捉える視点を失わせる方向に進んできていたように見える。健康に直接関わる時間外労働の上限は何ら規制しないまま、法定労働時間を週48時間から週40時間に短縮することに集中してきた時短政策のツケが回ってきているのかも知れない。
 しかしながら、労働時間を健康という観点から見る政策は既に広がってきている。現在の脳・心臓疾患の労災認定基準では、発症前1ヶ月間に月100時間以上あるいは発症前2~6ヶ月間に月80時間以上時間外労働した場合には、業務と発症との関連性が強いとしている。また、2005年の労働安全衛生法改正により、月100時間を超える時間外労働をした労働者に対して医師が面接指導を行い、それに基づいて労働時間の制限や休養、療養といった措置を講ずる義務が使用者に課された。
 時間外手当はアメリカに倣って適用除外することはできる。しかし、過労死した労働者に対する労災補償は適用除外できない。一部の労働組合は、「過労死やメンタルヘルスなどの健康被害が生じた場合の使用者責任を免除してしまう同制度」(全労連の6月14日談話)と、ホワイトカラーエグゼンプションによって労災補償責任が免除されるかのごとき発言をしているが、労働時間制度のいかんによって客観的な因果関係が変わるわけではない。まして、安全配慮義務に基づく労災民事賠償ともなれば、過労死するまで放置したとして億単位の賠償金を払わなければならないこともありうるのである。  ・・・・

4 EU型の休息期間規制を

 「労働時間の長短ではなく成果や能力などにより評価されることがふさわしい労働者」であっても、健康確保のために、睡眠不足に由来する疲労の蓄積を防止しなければならず、そのために在社時間や拘束時間はきちんと規制されなければならない。この大原則から出発して、どのような制度の在り方が考えられるだろうか。
 実は、日本経団連が2005年6月に発表した「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」では、「労働時間の概念を、賃金計算の基礎となる時間と健康確保のための在社時間や拘束時間とで分けて考えることが、ホワイトカラーに真に適した労働時間制度を構築するための第一歩」と述べ、「労働者の健康確保の面からは、睡眠不足に由来する疲労の蓄積を防止するなどの観点から、在社時間や拘束時間を基準として適切な措置を講ずることとしてもさほど大きな問題はない」と、明確に在社時間・拘束時間規制を提起している。
 私は、在社時間や拘束時間の上限という形よりも、それ以外の時間、すなわち会社に拘束されていない時間--休息期間の下限を定める方がよりその目的にそぐうと考える。上述の2005年労働安全衛生法改正のもとになった検討会の議事録においては、和田攻座長から、6時間以上睡眠をとった場合は、医学的には脳・心臓疾患のリスクはほとんどないが、5時間未満だと脳・心臓疾患の増加が医学的に証明されているという説明がなされている。毎日6時間以上睡眠時間がとれるようにするためには、それに最低限の日常生活に必要不可欠な数時間をプラスした一定時間の休息期間を確保することが最低ラインというべきであろう。
 この点で参考になるのが、EUの労働時間指令である。この指令はEU加盟各国で法律となり、すべての企業と労働者を拘束している。EUでは、労働時間法政策は労働安全衛生法政策の一環として位置づけられており、それゆえに同指令も日、週及び年ごとの休息期間を定めるとともに、深夜業に一定の規制を行っているが、賃金に関しては一切介入していない。つまり時間外手当がいくら払われるべきか、あるいはそもそも払われるべきか否かも含めて、EUはなんら規制をしていないのである。労働者の生命や健康と関わる実体的労働時間は一切規制しないくせに、ゼニカネに関することだけはしっかり規制するアメリカとは実に対照的である。各国レベルで見ても、時間外手当の規制は労働協約でなされているのが普通であり、法律の規定があっても労働協約で異なる扱いをすることができるようになっている。たとえばドイツでも、1994年の新労働時間法までは法律で時間外労働に対する割増賃金の規定があったが、同改正で廃止されている。
 EUの労働時間指令において最も重要な概念は「休息期間」という概念である。そこでは、労働者は24時間ごとに少なくとも継続11時間の休息期間をとる権利を有する。通常は拘束時間の上限は13時間ということになるが、仮に仕事が大変忙しくてある日は夜中の2時まで働いたとすれば、その翌朝は早くても午後1時に出勤ということになる。睡眠時間や心身を休める時間を確保することが重要なのである。
 これはホワイトカラーエグゼンプションの対象となる管理職の手前の人だけの話ではない。これまで労働時間規制が適用除外されてきた管理職も含めて、休息期間を確保することが現在の労働時間法政策の最も重要な課題であるはずである。これに加えて、週休の確保と、一定日数以上の連続休暇の確保、この3つの「休」の確保によって、ホワイトカラーエグゼンプションは正当性のある制度として実施することができるであろう。

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コメント

件の「働き方改革国会」にて論争中の今こそ関係者でじっくりと読まれ理解されるべき内容ですね。そこで小職も別エントリのコメントで再三同様に指摘させていただいた通り、これら労働時間に関する取り組みは「優先順位」を付けて整理した上で、本当に緊急かつ重要な課題から順次実施すべきかと思います。クスリの「飲み合わせ」ではありませんが(もっとも調剤師がチェックするので実際には起こり得ませんが)、あれもこれもと異なる社会的施策を一斉にやろうとすると相互に予期せざる干渉を起こし、結果、様々な「副作用」が起こりえますので…。

その点、まずは「労働時間の削減」でしょう〜兎にも角にもニッポンの場合は…。

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