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2018年4月22日 (日)

バラモン左翼@トマ・ピケティ

Images 21世紀の資本で日本でも売れっ子になったトマ・ピケティのひと月ほど前の論文のタイトルが「Brahmin Left vs Merchant Right」。「バラモン左翼対商人右翼」ということですが、この「バラモン左翼」というセリフがとても気に入りました。

http://piketty.pse.ens.fr/files/Piketty2018.pdf

Brahmin Left vs Merchant Right:  Rising Inequality & the Changing Structure of Political Conflict (Evidence from France, Britain and the US, 1948-2017)

冒頭の要約によると:

Using post-electoral surveys from France, Britain and the US, this paper documents a striking long-run evolution in the structure of political cleavages. In the 1950s-1960s, the vote for left-wing (socialist-labour-democratic) parties was associated with lower education and lower income voters. It has gradually become associated with higher education voters, giving rise to a “multiple-elite” party system in the 2000s-2010s: high-education elites now vote for the “left”, while highincome/high-wealth elites still vote for the “right” (though less and less so). I argue that this can contribute to explain rising inequality and the lack of democratic response to it, as well as the rise of “populism”. I also discuss the origins of this evolution (rise of globalization/migration cleavage, and/or educational expansion per se) as well as future prospects: “multiple-elite” stabilization; complete realignment of the party system along a “globalists” (high-education, high-income) vs “nativists” (loweducation, low-income) cleavage; return to class-based redistributive conflict (either from an internationalist or nativist perspective). Two main lessons emerge. First, with multi-dimensional inequality, multiple political equilibria and bifurcations can occur. Next, without a strong egalitarian-internationalist platform, it is difficult to unite loweducation, low-income voters from all origins within the same party. 

フランス、イギリス、アメリカの戦後選挙調査を用いて、本稿は政治的分断の驚くべき長期的展開を示す。1950-60年代には、左翼(社会党、労働党、民主党)に投票するのは低学歴で低所得の有権者だった。次第に投票するのは高学歴になっていき、2000~2010年の「多元的エリート」政党システムのもととなった。高学歴エリートはいまや「左翼」に投票する。一方、高収入で裕福なエリートは依然として「右翼」に投票する。言いたいのは、これが格差拡大とそれに対する民主的反応の欠如、そして「ポピュリズム」の興隆に貢献しているということだ。私はまたこの展開の源泉とともに将来予測も論じる。「多元的エリート」の安定化、(高学歴、高所得の)「グローバリスト」対(低学歴、低所得の)「ネイティビスト」に沿った政党政治の再編成、階級に立脚した再分配をめぐる紛争への回帰だ。・・・

ここには「バラモン左翼」というキャッチーな言葉は出てきません。本文を読んでいくと、こういう注釈的一節にありました。

I.e. the “left” has become the party of the intellectual elite (Brahmin left), while the “right” can be viewed as the party of the business elite (Merchant right).1

「左翼」はインテリのエリート(バラモン左翼)の党になってしまったが、「右翼」はビジネスエリート(商人右翼)の党とみなされている。

なるほど、高学歴高所得のインテリ左翼を皮肉って「バラモン左翼」と呼んでいるわけですね。

これにご丁寧に注釈がついていて、

1 In India’s traditional caste system, upper castes were divided into Brahmins (priests, intellectuals) and Kshatryas/Vaishyas (warriors, merchants, tradesmen). To some extent the modern political conflict seems to follow this division.

インドの伝統的なカースト制度では、上級カーストはバラモン(僧侶、知識人)とクシャトリア、ヴァイシャ(軍人,商人)に分けられる。現代の政治的紛争もなにがしかこの分断に沿っているようである。

ふむ。思いついた言葉がすべてで、それがそのままタイトルになったという感じですが、確かに「インテリ左翼」とかいうだけでは伝わらないある種の身分感覚まで醸し出しているあたりが、見事な言葉だなあ、と感じました。

言うまでもなく、いっている中身は、本ブログで(ソーシャル・ヨーロッパ・ジャーナルなんかをひきながら)よく取り上げているテーマではあります。

つか、この論文に気がついたのは、ソーシャル・ヨーロッパ・ジャーナルにダニ・ロドリクの「何が左翼を止めてきたのか?」(What’s Been Stopping The Left?)で言及されていたからなんですが。

https://www.socialeurope.eu/whats-been-stopping-the-left

(追記)

まじめな話の後ろに恐縮ですが、この言葉に脳髄が反応したのはおそらく、 幼い頃にテレビで見た「妖術師バラモン」のかすかな記憶があったからかもしれません。

Img_2


 

 

 

 

 

 

 

 

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コメント

トマ・ピケティが「バラモン左翼」という言葉を使う含みには次の書物もありそうですね。

「第三身分とは何か」
(シィエス 著, 稲本洋之助, 伊藤洋一, 川出良枝, 松本英実 訳, 岩波文庫 ; 34-006-1)

pp.14
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古代エジプト史や大インドへの旅行記を読むといかに軽蔑すべきもの、忌まわしいもの、一切の勤労を破壊するもの、社会の進歩の敵、とりわけ人類一般にとって屈辱的で、特にヨーロッパ人にとって耐え難いもの等々と思われることに注意したことがあるだろうか[2]。
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原注[2]
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インドのカースト制については『両インド史』第一編を参照(7)。
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訳注(7)
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『両インド史(Historie philosphique et politique des deux Indes)』の初版は、1770年に刊行され、その著者レーナル師(abbe' Raynal, 1713-96)の文名を確立した著作。同書初版に対する1772年の禁書処分の後に刊行された第二版(1774年)、第三版(1780年)も、旧制度に対する批判ゆえに禁書処分を受け、レーナル師は、1782年に亡命を余儀なくされた。
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「第三身分とは何か」の本論は当時の政治課題について論じていて、歴史的な興味しか満足できないものですが、ところどころ脇道に当時の貴族の主張を伺わせる記述があって、趣深いものがあります。

原注[16]
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第三身分の主張と呼ぶものを茶化したがるような貴族は必ず、第三身分を出入りの靴作りや靴職人等と一緒くたにしたがる。その場合、彼は、自分が話題としている人たちに対する軽侮の念を起こさせるのに一番よいと思う言葉を選んでいるのである。
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pp.129
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貴族は、封建的な語彙の中でも最も傲慢な言葉で、第三身分を侮辱することに喜びを感じ、自らの失われていく虚栄心をかき立てようとするが、それは放って置こう。
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昨年(2018年)3月に発表されたピケティの論文を、翌4月にこのエントリで紹介して、ちょうど1年が経過しましたが、今ごろになって、「最新の論文」として紹介されてバズッているらしくて、なかなか心温まる思いがします。

https://twitter.com/ynamasu/status/1120208742702665733">https://twitter.com/ynamasu/status/1120208742702665733

トマス・ピケティの最新の論文のタイトルが凄いです。 「バラモン左翼 対 商人右翼」です。 高学歴エリートは左翼党へ投票し、ビジネスエリートは右翼党へ投票する。 すると、第三の極として大衆に「ポピュリズム」の穴があき、盛り上がるという分析です。バラモン左翼、商人右翼、強烈な言葉です。


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