冲永賞にも桑村裕美子『労働者保護法の基礎と構造』
労働問題リサーチセンターが毎年授賞している冲永賞が発表され、今年度は桑村裕美子さんの『労働者保護法の基礎と構造』(有斐閣)と島田裕子さんの論文「平等な賃金支払いの法理」が受賞したようです。
https://www.lrc.gr.jp/recognize
桑村さんの本については、JILPTの労働関係図書優秀賞も受賞していますので今年度2冠と言うことになりますね。
刊行時とJILPTの受賞時に本ブログで取り上げていますが、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/02/post-e09e.html(桑村裕美子『労働者保護法の基礎と構造』)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/29-6f5e.html(平成29年度労働関係図書優秀賞・労働関係論文優秀賞)
前にも書いたように、本書はもともと『労働条件決定における国家と労使の役割』というタイトルで2008年に『法学協会雑誌』に連載されたものであり、ちょうど私が東大法学部に客員としてお世話になっていた頃に、(おそらく旧制度下の最後の)学士助手として入った彼女が取り組んでいたテーマであることを考えると、結構年季の入ったテーマでもあります。
この間にドイ法やとりわけフランス法が大きく激変してきたことを受け、旧論文のテーマを個別合意による逸脱にまで拡大して労働者保護法という観点からのより包括的な研究になった一方、規範設定システムとしての集団的労使関係システムの視点がやや縮小した点への評価は人によって様々でしょう。
旧論文の最後で、「また、本論文では柔軟化の手段としては労使の集団的合意に限定したが、国家と労使の規範設定関係を論じる上では個別契約を含めて検討する必要があり、比較法的にも個別契約を主たる法源とする英米法の検討が不可欠となろう」と述べていましたが、本書の勢いをもって同じEU(から脱退することになってますが)のイギリスの規範設定システムを論じて貰える日がそのうち来るのではないかと期待しています。
もう一つの島田さんの論文は、『法学論叢』に連載されたもので、同一労働同一賃金が話題となっている現在、いろいろと示唆的な論文です。
抜き刷りをお送りいただいた時のお手紙には「今後は・・・平等の観点に限らず、交換的正義の観点からも、労働契約の内容に関する規制の在り方について検討したいと考えております」と書かれていました。こちらも期待しております。
(追記)
まったくどうでもいいことですが、リンク先に「これまでの冲永賞表彰」というのがあったので覗いてみたら、昭和61年度の第1回受賞図書には、
3 『職業ハンドブック』 雇用職業総合研究所 ((財)雇用情報センター)
4 『社会・労働運動大年表』 大原社会問題研究所 (労働旬報社)
なんてのがあって、おやおや「図書」って、そういうのも入るんだ、と再認識。
ついでながらその第1回の論文賞は
1 「不当労働行為事件命令の司法審査」 司法修習生 山川隆一 (法学協会雑誌)
現中労委会長はそのとき司法修習生だったのですね。
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