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呉学殊『組織変動に伴う労働関係上の諸問題に関する調査』

OhJILPTの資料シリーズとして、呉学殊さんの『組織変動に伴う労働関係上の諸問題に関する調査』がようやく出ました。

http://www.jil.go.jp/institute/siryo/2018/196.html

これは2016年に行われた組織変動関係の省令指針の見直しにつながった検討会での審議のために呉さんが全国を駆け回って調べた実態調査を取りまとめたものです。

主な事実発見

組織変動の7つの事例(分割6、事業譲渡1、また合併1(分割と併行))について、変動の主要背景、プロセス、その過程における労使関係等を考察した。主要背景は、「分割部門業績悪化・他社同業部門との統合再編」、「分割部門専業化・他社同業部門との統合再編」、「分割益活用・選択事業集中戦略再編」、「分割部門と異種部門子会社との統合シナジー効果再編」、「分割部門と同種部門子会社との統合シナジー効果再編」、そして「不採算部門切り離し同業他社への譲渡再編」という類型に分けることができる。

労働組合は、分割の際に、法律に規定されている「理解と協力(労働契約承継法の「7条措置」)」の履行において、その担い手として、適法性の確保における重要な役割を果たしている。また、組合は、組合員の再編情報に関する理解度の向上、再編の円滑な履行の確保、組合員の企業への求心力の向上および納得性の向上、さらに企業の健全経営への催促等の役割も果たしている。こうした役割は、過半数組合ではない場合、制限されている。「理解と協力」の内容は、法律の中には明記されていないが、多くの場合、事実上の同意に等しいものであった。

政策的インプリケーション

労働契約承継法に対する労使の評価は概ねよい。しかし、悪用可能性があるとの指摘もなされた。その可能性を減らし、相識変動の円滑化と労働者保護をいっそう図るために次のような対応が求められる。第1に、信頼に基づく良好な労使関係の構築である。労働組合の組織率がほぼ一貫して低下し、2017年17.1%に過ぎず、大半の企業では集団的労使関係の担い手がない。労使関係の担い手を正当に確保するために、現行の過半数代表者の選出等の問題点の改善、―まずは適切に過半数代表者が選出される方策、さらには従業員代表制の法制化の必要性を検討すること―が求められる。

第2に、法律に規定されている会社と労働者個人との協議(いわゆる「5条協議」)は、事実上、業務命令上のものになりがちで、「対等な立場での話し合いで自分の意見を自由にいえてそれを反映する」ほどのものになっていない。こうした実態を踏まえて、「理解と協力」の「7条措置」を事実上の同意に格上げして労働者の保護をいっそう図ることも考えてよいのではないか。

第3に、労使関係の信頼度に応じた規制の柔軟な適用・運用が求められる。日本の企業では、過半数組合、少数組合、無組合等の違いがあって、労使関係にも大きな幅がある。労働基準法等の労働法では、労使関係の対等性原則が規定されているが、労働者側にその対等性の担い手は過半数組合がより望ましい。過半数組合のある企業では、分割に関する協議等を労使自治に任せて、少数組合や無組合の企業では行政の関与を強めてその対等性確保を図ることも考えられる。過半数組合、労働協約等の有無に基づいて労使関係の信頼度を測り、信頼度の高い企業には規制の現状維持や緩和、低い企業には規制の強化を図っていくことも必要であろう。

7事例はいずれも興味深く、労使関係関係者には有益だと思います。

なお、一部は既に仁田道夫編著『これからの集団的労使関係を問う』(エイデル研究所)の呉論文で用いられています。

ここまで報告書の刊行が遅れたのは、調査先の労働組合からなかなかOKが出なかったかららしく、労使関係の研究がますます難しくなっている一端が垣間見えるようです。

先日、『グローバル化のなかの労使関係』を書かれた首藤若菜さんからも、せっかく面白い話をいっぱい聞いたのに、労働組合のOKが出なくて泣く泣く原稿から落としたエピソードが山のようにあるという話を伺ったところです。

労使関係の面白さを伝えることがますます困難になる責任の一端は労働組合自身にもあるのかも知れません。

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