本田一成『オルグ!オルグ!オルグ!』
本田一成さんより『オルグ!オルグ!オルグ! 労働組合はいかにしてつくられたか』(新評論)をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.shinhyoron.co.jp/978-4-7948-1088-5.html
伝説の労組仕掛け人の仕事と足跡をたどりつつ、労組の今日的意義を平易に解説。
「組合」「スト」への意識が変わります!
本田さんの本では、昨年『チェーンストアの労使関係』をいただいたときに紹介しましたが、その話をより生々しく、オルグという人に着目する形で語り下ろした形の本です。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/post-f0d3.html (本田一成『チェーンストアの労使関係』)
もともとUAゼンセン流通部門の教宣・研修資料集『BUMONブックレット』に連載されたものなので、ゼンセンオルグの武勇伝と思うかもしれませんが、いやいや全体の構成はなかなか工夫されています。
前半部分、第1章から第5章まではゼンセン以前の、あるいはむしろゼンセンと対峙する世界が描かれます。商業労連やチェーン労協につながっていく組合活動の世界です。
流通革命で急拡大していくこの業界をどの産別組合が組織化していくかという領土争いの世界です。
そこに殴り込みをかけてくるのが全繊同盟であり、第5章まで読んでいくと、ゼンセンは悪役に見えてきます。
いや、全繊の側からすれば、繊維産業が長期衰退過程にある中で、ほっといたら炭労と同じく消滅していくのですから、まだまだ未組織のフロンティアに飛び込んでいって組織化していかなければ生き残っていけない。
そこで視点がぐるりと変わり、第6章と第7章では繊維産業の産別として始まった全繊同盟のオルグたちが中小企業の組織化を進めていった姿が描かれ、そして第8章からはいよいよ流通業界に「進撃」していく姿がほとんど講談師の張り扇のごとく語られていきます。
組合と組合の対決というと、多くの文献で描かれてきたのは圧倒的に、思想やイデオロギーで憎みあう組合同士のどろどろした、そして非常に多くの場合悲惨な結末の対決ですが、本書に登場する組合は、流通業界という未組織のフロンティアをいかに自分たちで組織化していくか、というからっと明るい喧嘩の世界です。
いや、イデオロギー的には同じであるとはいえ、同じ同盟に属する一般同盟のダイエー労組をゼンセンに引っこ抜くとか、なかなか仁義なき世界ではあります。
その中で、最終的に同じ業界を争った他の産別を吸収合併する形で、UIゼンセン同盟に、そしてUAゼンセンに統合していくわけです。
そういう意味では、今のUAゼンセンは、かつて全繊同盟のライバルであった諸組合の後継者でもあるわけで、そういう歴史を学びなおすという意味でも、本書は大変意味のある本だと思います。
本書脱稿後の2017年12月20日、一人の男が逝った。佐藤文男、享年92歳。日本で最も多くの労働組合を結成し、労働組合員を増やした「オルグ」である。イオンやイトーヨーカドーなど、日本のチェーンストアのほとんどに現在労組があるのも、佐藤の仕掛けによるものだった。
佐藤に初めて会ったのは2008年11月、この時、一生懸命働く人びとに幸せをもたらす職業が存在していることを知り、亡くなる年まで交流した。1950~2000年代まで逆風に負けず、独自の手法で労組をつくり続けたヒストリー。仲間、ライバル、弟子たち、つくった労組から育ったオルグたちが別の労組をつくりまくったストーリーにロマンを感じてしまう。
一般の人がオルグの仕事を知ることはめったになく、多くのひとが労働組合員であることの意味を考えることもない。だが、給料を得て生活する人にとっては、いかに労働条件や労働環境を向上させ、暮らしを守るかは死活問題となる。職場で直面する諸問題を解決する最も有効な手段は、労働組合しかあり得ない。
企業は、環境には優しいのに労働者には厳しい。労組に対する意識も決して高いとは言えない。たとえば、悪質クレーマー。ちょっとしたミスで土下座の強要、ストーカー型の説教など、消費者保護主義の下での憂さ晴らしと攻撃。労働者の尊厳を、労働者自らが貶めるまでに社会意識が低下している。「さあ、労組の出番だぞ」と叫ぶ佐藤の声が聞こえてきそうだ。
このように労組の衰退が著しいわけだが、労働組合員は約1000万人もいるのだ。その全員が労組の役員候補だ。労組の活動を一生の職業にする人も、そうでない人も、オルグたちの足跡に目を凝らそう。労働環境だけでなく、生活を救う手段を認識する原点が本書にある。(ほんだ・かずなり)
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