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久本憲夫『新・正社員論―共稼ぎ正社員モデルの提言』

9784502249617_240 久本憲夫さんから『新・正社員論―共稼ぎ正社員モデルの提言』(中央経済社)をお送りいただきました。ありがとうございます。久本さんの正社員論といえば、単著としては15年前の『正社員ルネサンス』(中公新書)以来ということになりますが、副題にもあるように、「片稼ぎ型」ではなく「共稼ぎ正社員モデル」を確立しなければならないという使命感が強くにじみ出た本になっています。

http://www.biz-book.jp/books/detail/978-4-502-24961-7

多くの日本人が抱いている「正社員」のイメージは過去のもであり、今日の正社員の実態と乖離している。最新の正社員像として「共稼ぎ正社員モデル」を提言し、施策を考察する。

この「多くの日本人が抱いている「正社員」のイメージは過去のもであり、今日の正社員の実態と乖離している」というのは、右の表紙の帯に書かれている「多くの正社員は残業しないし、転勤もしない」ということなんですが、もちろん、それは実際にはということであって、可能性があるという意味では残業はありうるし、転勤もありうるほうが多数派であることは本書に書かれています。実はここが、日本型雇用システムという実態であるとともに規範でもある仕組みのむずかしいところでもあるんですね。そして、判例法理という規範のレベルでは、残業ありうべし、転勤ありうべしが、整理解雇あるべからずとともに正社員なるものの規範的要件になってしまう。

そこを変えなければ、男女ともに正社員として働き続けながら家族形成し,子供を無理なく育てるということなんてできないだろう、というまさに正しい議論を正面から展開しているんですが、その「ありうべし」の規範が他のもろもろと結びつくことで、そう簡単に解きほぐしにくくなってしまっているからこそ、働き方改革もなかなか進まないわけです。

実をいうと、本書で提言に相当する部分で久本さんが主張していること自体は、労働時間口座の確立とか、年休の時効の廃止とか、割増残業化の実現、36協定締結の厳格化と固定残業制の原則禁止、そして転勤拒否権の容認などで、最後のものは私もそろそろ考えるべきだろ思いますが、労働時間関連のものはやや見飽きた感もあり、なんというか、も少し根っこにさかのぼった話が欲しい感がします。

それは、本書では補論3として小さな字で掲載されていますが、正社員の歴史を戦前にさかのぼって見直してみると、それは結局世界のどの社会にもあるごく少数のエリート向けの働き方の規範を、ノンエリートのホワイトカラーやブルーカラーにまでも拡張適用していった平等主義のなれの果てともいえるわけで、その無理をどこまで維持するのかということと表裏一体でもあるわけです。

問題意識としては、ここ数年来いくつかの新書で論じてきたことどもと密接につながる論点が多く、大変興味深く読みました。

やはり、どんなに正義感に燃えた議論であっても、そもそも1.2モデルの片働き正社員モデルを大前提にして論じている限り、なかなか行き止まりの道から出ることは難しいのでしょう。

 

 

 

 

 

 

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