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2018年3月

2018年3月31日 (土)

労働法政策@東京大学公共政策大学院

東京大学公共政策大学院で「労働法政策」の講義をするようになってからはや15年目になり、来月11日から2018年度春学期の講義が始まります。

http://catalog.he.u-tokyo.ac.jp/g-detail?code=5121080&year=2018&x=11&y=12

伝統的な公労使三者構成の審議会において労使団体と政府(厚生労働省)の間で行われる対立と妥協のメカニズムとともに、近年顕著な官邸主導による立法も含め、、具体的な労働立法の政策決定過程を跡づける形で、労働法制の内容を説明する。いわば、完成品としての労働法ではなく、製造過程に着目した労働法の講義である。

4/11 イントロダクション、概観
4/18 労働力需給調整システム
4/25 労働市場のセーフティネット
5/2 雇用政策と外国人
5/9 高齢者と障害者
5/16 職業能力開発と若者
5/23 労災補償と安全衛生
5/30 労働時間
6/6 賃金処遇
6/13 労働契約
6/20 男女平等とワークライフバランス
6/27 労働組合と労使協議
7/4 紛争処理と総括質疑

毎年、この講義の準備と秋学期の法政大学公共政策大学院の準備のために、毎年2回テキストの全面改定を行い、受講生に最新のテキストを配布するということを繰り返しているのですが、今回は、当初働き方改革関係法案が当然国会に提出されているだろうという前提で、全面改訂したのに、周知のような事情でなかなか閣議決定にも至らず、なんだか宙ぶらりんな状態のまま、とにかく年度替わり時点における状況に基づいて、テキストを配布せざるを得ないということになってしまいました。

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このテキスト、15年前に出版した『労働法政策』(ミネルヴァ書房)の原稿を毎度毎度改訂して、分量が倍近くに膨張してしまっており、もはやどこの出版社も出版する勇気がないような代物になり果ててしまっていますが、でもこれだけほとんどすべての労働法政策分野をくまなく記述した本はほかにないはずです。

最新版テキストの細目次をいかに示しておきます。hamachanはこんなことを大学院で教えているということで。

目次

第1部 労働法政策序説

第1章 近代日本労働法政策の諸段階
1 労働法政策の準備期
 (1) 概観
 (2) 労働市場法政策
 (3) 労働条件法政策
 (4) 労使関係法政策
2 自由主義の時代
 (1) 概観
 (2) 労働市場法政策
 (3) 労働条件法政策
 (4) 労使関係法政策
3 社会主義の時代
 (1) 概観
 (2) 労働市場法政策
 (3) 労働条件法政策
 (4) 労使関係法政策
4 近代主義の時代
 (1) 概観
 (2) 労働市場法政策
 (3) 労働条件法政策
 (4) 労使関係法政策
5 企業主義の時代
 (1) 概観
 (2) 労働市場法政策
 (3) 労働条件法政策
 (4) 労働人権法政策
 (5) 労使関係法政策
6 市場主義の時代
 (1) 概観
 (2) 労働市場法政策
 (3) 労働条件法政策
 (4) 労働人権法政策
 (5) 労使関係法政策
7 直近の時期

第2章 労働行政機構の推移
1 社会局創設以前
2 内務省社会局
 (1) 内務省社会局の成立
 (2) 内務省社会局の組織と官僚
3 厚生省
 (1) 厚生省の設立
 (2) 厚生省の組織
 (3) 終戦直後の行政体制
4 労働省
 (1) 労働省の設立
 (2) 労働省の組織
5 厚生労働省
 (1) 厚生労働省の設立
 (2) 厚生労働省の組織
第3章 労働政策決定プロセス-三者構成原理
1 日本における三者構成原則の展開
 (1) ILOにおける政労使三者構成原則の形成とその日本への影響
 (2) 終戦直後の立法期における三者構成原則の急速な確立
 (3) 日本的三者構成システムの展開
 (4) 規制緩和の波と三者構成原則
 (5) 労働政策審議会への統合
2 三者構成原則への批判と近年の動向
 (1) 2007年規制改革会議による批判
 (2) 働き方に関する政策決定プロセス有識者会議
 (3) 労政審労働政策基本部会

第2部 労働市場法政策

第1章 労働力需給調整システム
第1節 労働力需給調整システムに関する法制の展開
1 民間職業紹介所の規制と公共職業紹介の発展
 (1) 職業紹介事業の発生
 (2) 営利職業紹介事業の取締り
 (3) 無料職業紹介事業の始まり
 (4) 職業紹介法の制定
 (5) 職業紹介法による営利職業紹介事業の規制
2 国営職業紹介体制の確立
 (1) 職業紹介の国営化と勤労動員政策
 (2) 職業安定法の制定
3 民間労働力需給調整システムの原則禁止
 (1) 1938年改正
 (2) 民間職業紹介事業の原則禁止
 (3) 労働者供給事業の全面禁止
 (4) 職業安定法とILO条約
4 民間労働力需給調整システムの規制緩和の始まり
 (1) 請負4要件の緩和
 (2) 有料職業紹介事業の対象職種の段階的拡大
 (3) 職業紹介事業に関する改正
5 民間労働力需給調整システムの規制緩和の加速
第2節 労働者派遣事業等
1 労働者派遣事業の制限的法認
 (1) 業務処理請負事業としての登場
 (2) 労働者派遣事業制度の構想
 (3) ポジティブリスト方式の意味
 (4) 原始ネガティブリスト業務
 (5) 登録型と常用型
2 労働者派遣事業の段階的拡大
 (1) 対象業務の拡大
 (2) 部分的ネガティブリストの導入
3 労働者派遣事業の一般的法認
 (1) ILOの方向転換
 (2) 規制緩和推進政策
 (3) 労働者派遣法の改正案
 (4) ネガティブリスト方式による一般的法認の意味
 (5) 1999年の適用除外業務
 (6) 派遣労働者の保護措置
4 労働者派遣事業の規制緩和の完成
 (1) 総合規制改革会議と経済財政諮問会議
 (2) 2003年改正
 (3) 派遣期間制限の緩和と直接雇用の促進
 (4) 物の製造の業務と構内請負の問題
 (5) 紹介予定派遣
 (6) 派遣先労働者との均等待遇問題
 (7) 医療関係業務
 (8) 製造業務請負の適正化
5 労働者派遣事業の規制強化への逆転
 (1) 規制改革・民間開放推進会議
 (2) 労政審中間報告
 (3) 日雇派遣等の規制
 (4) 労働者派遣事業をめぐる政治的な動き
 (5) 労働者派遣制度在り方研究会
 (6) 労政審建議
 (7) 2008年改正案
 (8) 3野党の改正案
 (9) 労政審答申
 (10) 2010年改正案
 (11) 専門26業務派遣適正化プラン
 (12) 2012年改正
6 非正規労働法制としての労働者派遣法へ
 (1) 労働者派遣制度在り方研究会
 (2) 各団体や規制改革会議の動向
 (3) 労政審建議
 (4) 2014年改正案
 (5) 2015年改正
 (6) 派遣労働者の均等待遇
 (7) 2018年改正
7 港湾労働法
 (1) 港湾労働法以前
 (2) 旧港湾労働法
 (3) 新港湾労働法
 (4) 2000年改正
8 建設業における労働者派遣
9 労働者供給事業の現在
第3節 雇用仲介事業
1 有料職業紹介事業
 (1) 1997年省令改正までの推移
 (2) 1997年の擬似的ネガティブリスト化
 (3) 1999年改正への動き
 (4) 1999年改正の内容
 (5) 労働者保護のためのルール
 (6) 2003年改正
2 無料職業紹介事業
3 労働者の募集
4 雇用仲介事業
 (1) 雇用仲介事業在り方検討会
 (2) 労政審建議
 (3) 2017年改正
第4節 公共職業安定機関
1 公共職業安定機関の職業紹介と職業指導
 (1) ILO条約の基準
 (2) 職業紹介
 (3) 職業指導
 (4) 労働者保護のためのルール
 (5) 2017年改正
2 地方事務官制度とその廃止
 (1) 戦前におけるその淵源
 (2) 地方自治法と地方事務官制度の創設
 (3) 地方事務官制度の意味
 (4) 地方事務官制度の廃止と都道府県労働局の設置
3 公共職業安定機関の民間開放論
 (1) 総合規制改革会議
 (2) 公共サービス改革法
 (3) ハローワークとILO条約
 (4) ハローワークの市場化テスト
 (5) ハローワークの求人・求職情報の提供
4 地方分権と職業安定行政
 (1) 地方分権改革とハローワーク
 (2) 2016年職業安定法・雇用対策法改正

第2章 労働市場のセーフティネット
第1節 失業給付制度の展開
1 失業保険制度の性格
2 失業保険法の成立
 (1) 先進諸国における失業保険制度の成立
 (2) 日本における失業保険制度への動き
 (3) 退職積立金及退職手当法
 (4) 失業保険法の制定
3 失業保険法の展開
 (1) 日雇失業保険制度の創設等
 (2) 一時帰休労働者への給付
 (3) 給付日数の改正
 (4) モラルハザードとの戦い
 (5) 全面適用への道
4 雇用保険法の制定
 (1) 雇用保険法の制定に向けて
 (2) 文脈の転換
 (3) 雇用保険法による失業給付
5 雇用保険法の展開
 (1) 1984年改正
 (2) パートタイム労働者への適用拡大
 (3) 2000年改正
 (4) 2002年の運用改善
 (5) 2003年改正
 (6) 雇用保険基本問題研究会
 (7) 2007年改正
6 非正規労働者への拡大
 (1) 2009年改正
 (2) 非正規労働者への適用問題の経緯
 (3) 2010年改正
7 その後の動き
 (1) 2016年改正
 (2) 2017年改正
 (3) 副業・兼業者への雇用保険の適用
第2節 無拠出型セーフティネット
1 求職者支援法
 (1) 連合の新たな生活保障制度の提言
 (2) 2008年末の貸付制度
 (3) 訓練・生活支援給付
 (4) 求職者支援法の成立
 (5) その後の動き
2 公的扶助制度
 (1) 公的扶助制度の生成
 (2) 救護法
 (3) 生活保護法の制定
 (4) 新生活保護法
 (5) 生活保護制度運用の見直し
 (6) 2013年改正
 (7) 生活困窮者自立支援法
第3節 政策的給付と雇用保険2事業
1 政策的給付
 (1) 育児休業給付
 (2) 介護休業給付
 (3) 高年齢雇用継続給付
 (4) 教育訓練給付
2 雇用政策手段としての雇用保険2事業
 (1) 雇用保険3事業の創設
 (2) 雇用安定事業の創設
 (3) 給付金の整理統合
 (4) 雇用保険3事業の廃止への圧力
 (5) 雇用保険2事業への見直し
 (6) 事業仕分け
 (7) 現在の雇用保険2事業

第3章 一般雇用対策
第1節 失業対策
1 失業対策事業
 (1) 戦前の失業者救済事業
 (2) 終戦直後の失業対策諸事業
 (3) 緊急失業対策法
 (4) 失業対策事業の見直し(1963年改正)
 (5) 失業対策事業の見直し(1971年中高年法)
 (6) 失業対策事業の終焉に向かって
2 公共事業及び特別の失業対策事業
 (1) 公共事業における失業者吸収率
 (2) 炭鉱離職者緊急就労対策事業等
 (3) 緊急地域雇用特別給付金制度
 (4) ふるさと雇用再生特別交付金・緊急雇用創出事業
 (5) 東日本大震災対策
第2節 雇用対策法とその後の雇用政策
1 積極的労働力政策と雇用対策法の制定
 (1) 失業対策から雇用政策への模索
 (2) 近代的労働市場への志向
 (3) 雇用対策法の制定
 (4) 雇用対策法の内容
 (5) 雇用対策基本計画
2 雇用保険法の制定と雇用安定政策の展開
 (1) 雇用保険法の制定
 (2) 雇用調整給付金とそのインプリケーション
 (3) 雇用安定事業と雇用安定資金制度の創設
 (4) 雇用維持政策の時代
3 雇用維持から労働移動促進への再転換
 (1) 失業なき労働移動促進政策の登場
 (2) 労働移動促進政策への転換
 (3) 2007年改正
 (4) 雇用調整助成金の復活
 (5) そして再び「労働移動支援型」へ
 (6) 労働政策総合推進法へ
第3節 産業・地域雇用対策
1 先行形としての炭鉱離職者対策
 (1) 炭鉱離職者臨時措置法の制定
 (2) 雇用奨励金制度
 (3) 炭鉱離職者求職手帳制度
 (4) 産炭地域開発就労事業
 (5) 炭鉱労働者雇用安定臨時措置法への改正と廃止
2 不況業種・不況地域の雇用対策
 (1) 特定不況業種離職者臨時措置法
 (2) 特定不況地域離職者臨時措置法
 (3) 特定不況業種・特定不況地域関係労働者の雇用の安定に関する特別措置法
 (4) その後の特定不況業種法政策
3 地域雇用開発政策
 (1) 地域雇用開発政策以前
 (2) 地域雇用開発政策の形成
 (3) 地域雇用開発等促進法の制定
 (4) 1990年代の地域雇用開発政策
 (5) 21世紀の地域雇用開発政策
第4節 外国人労働者政策
1 出入国管理体制の形成
 (1) 戦前の外国人政策
 (2) 出入国管理法制の形成と在日韓国・朝鮮人問題
2 外国人労働者政策の提起と否定
 (1) 雇用許可制の提起と撤退
 (2) 1989年改正入管法と日系南米人の導入
 (3) 研修生という「サイドドア」
3 技能実習制度
 (1) 研修・技能実習制度の創設
 (2) 研修・技能実習制度の法的帰結と2009年入管法改正
 (3) 技能実習法の制定
4 近年の外国人労働者受入れ政策の拡大
 (1) 高度専門職
 (2) 介護労働者
 (3) 建設業と造船業
5 国家戦略特区における外国人労働者の受入れ
 (1) 家事労働者
 (2) 農業労働者
6 外国人労働者の本格的受入れ
 (1) 2000年代における議論の提起
 (2) 外国人材受入れタスクフォース

第4章 特定の人々を対象にした雇用就業対策
第1節 高齢者雇用就業対策
1 失業対策事業の後始末としての中高年齢失業者対策
 (1) 中高年齢失業者等就職促進措置
 (2) 中高年齢者雇用促進特別措置法
2 高年齢者雇用率制度
 (1) 中高年齢者職種別雇用率制度の創設
 (2) 中高年齢者雇用促進特別措置法
 (3) 高年齢者雇用率制度
3 定年引上げの法政策
 (1) 定年制の法的意義
 (2) 厚生年金支給開始年齢の引上げと定年延長要求
 (3) 定年引上げの政策課題としての登場
 (4) 雇用対策法の改正
 (5) 定年延長の立法化問題
 (6) 60歳台前半層問題の提起
 (7) 1986年改正(高年齢者雇用安定法)
4 継続雇用と年齢差別禁止の法政策
 (1) 継続雇用努力義務の法制化
 (2) 65歳現役社会の模索
 (3) 年齢差別禁止政策の浮上と求人年齢制限緩和努力義務
 (4) 年齢にかかわりなく働ける社会の模索
 (5) 継続雇用制度の部分義務化
 (6) 年齢制限の理由明示義務
 (7) 年齢制限の禁止
 (8) 継続雇用制度の完全義務化
 (9) 有期継続雇用の特例
 (10) 年齢にかかわりない転職・再就職者の受入れ促進指針
5 就業形態の多様化によるなだらかな引退
 (1) 高齢者事業団運動
 (2) シルバー人材センター
 (3) シルバー人材センターの法制化
 (4) 労働者派遣事業・有料職業紹介事業への拡大
 (5) シルバー人材センターの機能強化
第2節 障害者雇用就労対策
1 障害者雇用率制度の展開
 (1) 障害者雇用対策の前史
 (2) 身体障害者雇用促進法(努力義務時代)
 (3) 1976年改正(身体障害者の雇用義務化)
 (4) 1987年改正(精神薄弱者への雇用率適用)
 (5) 1997年改正(知的障害者の雇用義務化)
2 精神障害者等への適用
 (1) 2002年改正
 (2) 2005年改正(精神障害者への雇用率適用)
 (3) 2008年改正
 (4) 障害者の範囲在り方研究会
 (5) 2013年改正(精神障害者の雇用義務化)
3 障害者差別禁止法政策
 (1) 障害者基本法の改正
 (2) 障害者権利条約対応在り方研究会
 (3) 労政審中間取りまとめ
 (4) 障がい者制度改革推進会議と障害者基本法改正
 (5) 差別禁止部会
 (6) 第2次障害者権利条約対応在り方研究会
 (7) 2013年改正と障害者差別解消法
4 障害者福祉政策における就労支援
 (1) 福祉的就労と授産施設
 (2) 障害者総合支援法
 (3) 福祉的就労分野への労働法適用問題

第5章 職業能力開発法政策
第1節 職業能力開発に関する法制の展開
1 徒弟制から技能者養成制度へ
 (1) 徒弟制
 (2) 工場法における徒弟制
 (3) 戦時下の技能者養成と技能検査
 (4) 労働基準法における技能者養成制度
2 職業補導制度の展開
 (1) 職業補導の始まり
 (2) 失業対策としての職業補導
3 旧職業訓練法の制定と技能検定制度の成立
 (1) 旧職業訓練法の制定へ
 (2) 公共職業訓練と事業内職業訓練
 (3) 技能検定
4 積極的労働力政策と新職業訓練法
 (1) 経済政策における人的能力政策
 (2) 雇用政策における技能者養成
 (3) 新職業訓練法
5 企業内職業能力開発の強調
 (1) 企業内職業訓練の促進
 (2) 企業特殊的技能へのシフト
 (3) 職業訓練法から職業能力開発促進法へ
 (4) 企業主義時代の職業能力検定制度
6 自発的職業能力開発の強調
 (1) 教育訓練休暇
 (2) 自己啓発へのシフト
 (3) 個人主導の職業能力開発の強調
 (4) 教育訓練給付
 (5) ビジネス・キャリア制度
7 職業能力開発政策の模索
 (1) キャリア形成支援への政策転換
 (2) 日本版デュアル・システムの導入
 (3) 実践型人材養成システム
 (4) 求職者支援制度と認定職業訓練
 (5) 学び直し支援
8 職業能力評価制度に向けて
 (1) ジョブ・カード制度
 (2) ジョブ・カード制度の見直し
 (3) 日本版NVQ制度
 (4) 職業能力評価制度あり方研究会
 (5) キャリア・パスポート構想
 (6) 2015年改正
第2節 職業教育
1 戦前の実業教育
 (1) 実業教育の始まり
 (2) 徒弟学校
 (3) 実業補習学校と青年学校
2 戦後の職業教育
 (1) 後期中等教育における職業教育
 (2) 職業教育制度改正の試み
 (3) 技能連携制度
 (4) 職業教育の地位低下
 (5) 職業教育の復活
 (6) 高等教育における職業教育
 (7) 専門職大学
 (8) 大学等の職業実践力育成プログラム
3 キャリア教育
 (1) 職業人教育の推移
 (2) キャリア教育の提唱
 (3) 中教審答申におけるキャリア教育
4 労働教育
第3節 若年者労働法政策
1 年少労働者保護法政策
 (1) 工場法における年少者保護
 (2) 年少者の就業禁止
 (3) 工場法の改正
 (4) 労働基準法における年少者保護
 (5) 年少者に係る労働契約法制
 (6) 戦後初期の年少労働問題
 (7) 1985年改正
 (8) 1998年改正及びその後の年少労働者保護法政策
2 勤労青少年福祉対策
 (1) 勤労青少年福祉法の制定
 (2) 勤労青少年対策の所管
3 新規学卒者の雇用対策
 (1) 少年職業指導の始まり
 (2) 学徒動員
 (3) 職業安定法の制定と改正
 (4) その後の新規学卒者の職業紹介
 (5) 一人一社制の見直し
4 若年者雇用対策
 (1) 若者自立・挑戦プラン
 (2) 2007年雇用対策法改正
 (3) 青少年雇用機会確保指針
 (4) 若者雇用戦略
 (5) 青少年雇用促進法
 (6) 多様な選考・採用機会の拡大

第3部 労働条件法政策

第1章 労働基準監督システム
第1節 労働基準監督システムの形成
1 工場法と工場監督制度
 (1) 労働問題の発生
 (2) 工場法の制定過程
 (3) 工場監督制度の整備
 (4) 工場法の改正
 (5) 戦時体制下の工場監督制度
2 労働基準法の制定と労働基準監督システムの形成
 (1) 労働基準法の制定
 (2) 労働基準監督システムの形成
 (3) ILO労働監督条約
第2節 労働基準監督システムの展開
1 労働基準監督システムをめぐる問題
 (1) 公務員への労働基準法適用問題
 (2) 労働基準監督行政の地方移管問題
 (3) 都道府県労働局の設置
 (4) 地方分権と労働基準行政
 (5) 労働基準監督業務の民間活用問題
2 監督指導行政の展開
 (1) 戦後復興期の監督行政
 (2) 高度成長期の監督指導行政
 (3) 安定成長期の監督指導行政
 (4) 臨検監督と司法処分

第2章 労働者災害補償保険制度
第1節 労働者災害補償保険制度の展開
1 戦前の労働者災害扶助法制
 (1) 工場法以前
 (2) 工場法の災害扶助制度
 (3) 健康保険法による災害扶助保険
 (4) 労働者災害扶助法
 (5) 労働者年金保険法及び厚生年金保険法による災害扶助保険
2 戦後の労働者災害補償保険制度
 (1) 労働基準法と労働者災害補償保険法の成立
 (2) 長期補償の導入
 (3) 給付の年金化
 (4) 全面適用への道
 (5) 通勤災害保護制度
 (6) 労働福祉事業の創設
 (7) 民事損害賠償との調整
 (8) 年功賃金制への対応
 (9) 労災保険財政の見直し
 (10) 「過労死」予防への第一歩
 (11) 通勤災害保護制度の見直し
 (12) 労働保険審査制度の改正
第2節 労災認定基準と過労死・過労自殺問題
1 業務災害の認定基準
 (1) 業務災害の認定
 (2) 業務上の疾病
2 脳・心臓疾患及び精神障害・自殺(過労死・過労自殺)の認定基準
 (1) 脳・心臓疾患(過労死)の性質
 (2) 脳・心臓疾患の認定基準の変遷
 (3) 長期疲労による脳・心臓疾患の認定へ
 (4) 精神障害及び自殺(過労自殺)の性質と従来の取扱い
 (5) 精神障害・自殺の判断指針
 (6) セクハラやいじめ等による精神障害の判断指針
 (7) 過労死・過労自殺の省令への例示列挙
 (8) 心理的負荷による精神障害の新認定基準

第3章 労働安全衛生法政策
第1節 労働安全衛生法制の展開
1 工場法から労働基準法へ
 (1) 工場法以前
 (2) 工場法の成立
 (3) 戦時下の安全衛生
 (4) 労働基準法の制定
 (5) 労働基準法と鉱山保安法
2 戦後の労働安全衛生法政策
 (1) けい肺対策の展開
 (2) じん肺法
 (3) 一酸化炭素中毒症特別措置法
 (4) 電離放射線障害防止規則
 (5) 有機溶剤中毒予防規則
 (6) 石綿対策
3 労働安全衛生法の体系
 (1) まぼろしの安全衛生局
 (2) 労働災害防止団体法の制定
 (3) 労働安全衛生法の制定
 (4) 労働安全衛生法の体系
 (5) 建設業等の重層請負関係における安全衛生管理体制
 (6) その後の労働安全衛生法改正(建設業関係)
 (7) 製造業の構内下請における安全衛生管理体制
 (8) 産業医の位置づけ
第2節 近年の労働安全衛生法政策
1 労働者の健康保持増進と過重労働対策
 (1) 健康の保持増進のための措置
 (2) 過労死防止のための健康管理
 (3) 深夜業従事者の健康管理
 (4) 過重労働による健康障害防止対策
 (5) 2005年改正
 (6) 過労死等防止対策推進法
 (7) 長時間労働に対する健康確保措置
2 労働者のメンタルヘルス
 (1) 労働者のメンタルヘルスへの取組み
 (2) 2005年改正時の状況とメンタルヘルス指針
 (3) 2014年改正
3 職場の受動喫煙防止
 (1) 前史
 (2) 2014年改正
 (3) 東京オリンピックに向けた受動喫煙対策

第4章 労働時間法政策
第1節 労働時間法制の展開
1 工場法の時代
 (1) 先進諸国における労働時間の変遷
 (2) 日本における工場法の成立
 (3) 工場法の改正
 (4) 商店法の制定
 (5) 戦時体制下の労働時間規制
2 労働基準法の制定
 (1) ILO条約と先進諸国の動向
 (2) 労働基準法の制定
 (3) 法定労働時間
 (4) 時間外労働
 (5) 年次有給休暇
3 規制緩和の攻防
 (1) 1949年省令改正
 (2) 1952年改正
 (3) 1954年省令改正
 (4) 1957年臨時労働基準法調査会答申
4 労働時間短縮の時代
 (1) 一斉週休制・一斉閉店制
 (2) 先進諸国における週休2日制・長期休暇の普及
 (3) 高度成長期における週休2日制の普及促進
 (4) 安定成長期における週休2日制の普及促進
 (5) 金融機関・公務員の週休2日制
5 労働時間短縮から労働時間弾力化へ
 (1) 労働時間短縮の国政課題化
 (2) 短縮と弾力化の2正面作戦
第2節 労働時間短縮の法政策
1 法定労働時間の段階的短縮
 (1) 週48時間制の特例の廃止
 (2) 労働基準法研究会
 (3) 中基審建議
 (4) 1987年改正
 (5) 1990年政令改正
 (6) 1993年改正
 (7) 週40時間制への完全移行
2 労働時間設定改善特別措置法
 (1) 労働時間短縮促進臨時措置法の制定
 (2) その後の改正
 (3) 労働時間設定改善特別措置法への改正
3 時間外・休日労働
 (1) 時間外労働協定の適正化指針
 (2) 所定外労働削減要綱
 (3) 1993年改正(休日割増率の引上げ)
 (4) 1998年改正
 (5) 2008年改正
 (6) 2015年改正案
 (7) 野党の長時間労働規制法案
 (8) 時間外労働規制への大転回
 (9) 2018年改正へ
4 労働時間の適正な把握
 (1) いわゆる「サービス残業」問題
 (2) 労働時間適正把握基準
 (3) 労働時間適正把握ガイドライン
 (4) 労働時間適正把握義務
5 深夜業の問題
6 自動車運転者の労働時間
 (1) 1967年の2・9通達
 (2) 1979年の27通達
 (3) 1989年の告示とその改正
 (4) 働き方改革実行計画による今後の動き
7 医師の労働時間
8 勤務間インターバル規制への萌芽
9 年次有給休暇
 (1) 1987年改正
 (2) その後の改正
 (3) 2008年改正
 (4) 2015年改正案
第3節 労働時間弾力化の法政策
1 変形労働時間制とフレックスタイム制
 (1) 4週間/1ヶ月単位の変形労働時間制
 (2) 3ヶ月/1年単位の変形労働時間制
 (3) 1週間単位の非定型的変形労働時間制
 (4) フレックスタイム制
2 事業場外労働とテレワーク
 (1) 事業場外労働のみなし労働時間制
 (2) 在宅勤務の扱い
 (3) 事業場外勤務ガイドライン
3 裁量労働制
 (1) (専門業務型)裁量労働制の導入
 (2) 1993年改正
 (3) 裁量労働制研究会
 (4) 1998年改正
 (5) 2003年改正
4 新たな労働時間の適用除外
 (1) 管理監督者
 (2) ホワイトカラー・エグゼンプションに向けた動き
 (3) 労働時間制度研究会
 (4) 労政審答申
 (5) 迷走の挙げ句の蹉跌
 (6) 規制改革会議等の動き
 (7) 労政審建議
 (8) 2015年改正案
 (9) 2018年改正へ
 
第5章 賃金処遇法政策
第1節 賃金法制の展開
1 労働契約における賃金
 (1) 民法雇傭契約における賃銀、報酬
 (2) 工場法の賃金規定
 (3) 労働基準法の賃金規定
2 賃金債権の保護
 (1) 民法・商法における賃金債権保護
 (2) 労働債権保護研究会
 (3) 労働債権の保護拡大
3 賃金支払の確保と未払賃金の立替払
 (1) 労働基準法研究会
 (2) 賃金支払確保法の制定
 (3) 未払賃金の立替払制度
第2節 最低賃金制
1 前史
 (1) 最低賃金制への前史
 (2) 賃金統制令
 (3) 最低賃金制への模索
2 業者間協定方式の最低賃金制
 (1) 業者間協定方式の登場
 (2) 最低賃金法の制定
 (3) 労働協約による最低賃金
3 審議会方式の最低賃金
 (1) 最低賃金法の改正(業者間協定方式の廃止)
 (2) 全国一律最低賃金制を巡る動き
 (3) 目安制度による地域別最低賃金制
 (4) 新産業別最低賃金制度
4 最低賃金の見直しから大幅引上げへ
 (1) 最低賃金制度の在り方に関する研究会
 (2) 労政審答申と改正法案
 (3) 最低賃金の国政課題化
 (4) 最低賃金大幅引上げの10年
第3節 公契約における労働条項
 (1) 一般職種別賃金
 (2) 1950年公契約法案
 (3) 公契約条例
 (4) 公共サービス基本法
 (5) 連合の公契約基本法構想
第4節 均等・均衡処遇(同一労働同一賃金)
1 賃金制度の推移
 (1) 生活給思想と賃金統制
 (2) 電産型賃金体系とその批判
 (3) 労働基準法における男女同一賃金規定
 (4) 政府の賃金制度政策
 (5) 労使の姿勢
 (6) 高度成長期における政府の積極姿勢
 (7) ILO第100号条約の批准
 (8) 「能力主義」の形成と確立
2 パートタイム労働法政策
 (1) 婦人雇用としてのパートタイム労働
 (2) 労働基準法研究会
 (3) パートタイム労働対策要綱
 (4) パートタイム労働指針
 (5) 野党法案の展開
 (6) 政府法案の提出と国会修正
 (7) 累次の研究会
 (8) 改正パートタイム指針
 (9) 民主党の法案
 (10) 2007年改正
3 同一労働同一賃金法政策の復活
 (1) 2007年労働契約法における「均衡」
 (2) 2012年改正労働者派遣法における「均衡」
 (3) 2012年改正労働契約法における「不合理な労働条件の禁止」
 (4) 2014年改正パート法における「不合理な待遇の禁止」
 (5) 同一(価値)労働同一賃金原則に係る検討の開始
 (6) 職務待遇確保法
 (7) 一億総活躍国民会議における官邸主導の動き
 (8) 同一労働同一賃金検討会
 (9) 同一労働同一賃金ガイドライン(案)
 (10) 働き方改革実行計画
 (11) 2018年改正へ
第5節 退職金と企業年金
1 退職金
 (1) 退職金の形成
 (2) 退職積立金及退職手当法
 (3) 戦後期の退職金をめぐる動き
 (4) 中小企業退職金共済制度
2 企業年金
 (1) 自社年金から適格退職年金へ
 (2) 厚生年金基金
 (3) 企業年金制度全般の見直し
 (4) 確定拠出年金
 (5) 確定給付企業年金

第6章 労働契約法政策
第1節 労働契約法制の展開
1 労働法以前
 (1) 雇傭契約の源流
 (2) 民法の制定と雇傭契約の成立
 (3) 商法の制定と使用人規定
 (4) 民法(債権法)の改正と労働法
2 工場法から労働基準法へ
 (1) 工場法における労働契約関係規定
 (2) 戦時法令
 (3) 労働基準法の制定
3 労働契約法制の政策課題化
 (1) 第2期労働基準法研究会の報告とその帰結
 (2) 1998年改正
 (3) 労働契約法政策の時代へ
第2節 有期労働契約法政策
1 有期労働契約の期間の上限
 (1) 民法における雇傭契約期間の上限
 (2) 労働基準法による労働契約期間の上限
 (3) 1998年改正
 (4) 2003年改正
2 有期契約労働者の更新雇止め問題と無期化
 (1) 臨時工問題
 (2) パートタイム労働者問題
 (3) 社会党の法案
 (4) 1998年労働基準法改正
 (5) 有期労働契約反復更新調査研究会と指針
 (6) 2003年労働基準法改正と有期労働契約基準告示
 (7) 労働契約法制在り方研究会
 (8) 2007年労働契約法
 (9) 野党の有期労働法案
 (10) 有期労働契約研究会
 (11) 労政審建議
 (12) 2012年労働契約法改正
 (13) 国家戦略特区関係の規制緩和
 (14) 研究者の有期契約特例
第3節 解雇法政策
1 民法、工場法から労働基準法へ
 (1) 民法における雇傭契約終了法制
 (2) 工場法における解雇関係規定
 (3) 入営者職業保障法
 (4) 退職積立金及退職手当法
 (5) 労務調整令
 (6) 労働基準法の解雇関係規定
2 解雇ルールの法制化
 (1) 小坂労相の新労働政策
 (2) 特定の解雇の規制
 (3) 解雇権濫用法理の形成
 (4) 労働基準法研究会の微温的見解
 (5) 解雇規制緩和論と法制化論
 (6) 労政審建議
 (7) 金銭補償の枠組みとその撤回
 (8) 2003年労働基準法改正
 (9) 2007年労働契約法
 (10) 解雇ルール見直し論の再浮上
 (11) 労働紛争解決システム在り方検討会
第4節 企業組織再編と労働契約承継法政策
1 背景としての企業組織再編法制
 (1) 企業組織再編法制の推移
 (2) 会社分割法制の創設
2 労働契約承継法政策
 (1) 企業組織変更労働関係法制研究会
 (2) 野党法案
 (3) 労働契約承継法の成立
 (4) 企業組織再編労働関係問題研究会
 (5) 組織変動労働関係研究会
 (6) 組織変動労働関係対応方策検討会
第5節 労働契約法の制定
1 労働契約法の制定
2 労働契約法制の基本的考え方
3 労働条件の変更
 (1) 労働契約法制在り方研究会
 (2) 労政審建議と労働契約法 
第6節 近年の論点
1 多様な正社員
 (1) 多様な正社員
 (2) 規制改革会議の提起
 (3) 有識者懇談会
2 副業・兼業
 (1) 労働契約法制在り方研究会
 (2) 経産省の兼業・副業研究会
 (3) 副業・兼業の促進ガイドライン
 (4) 副業・兼業に関わる諸制度の見直し

第7章 非雇用労働の法政策
第1節 家内労働と在宅就業
1 家内労働法と最低工賃
 (1) 家内労働問題
 (2) 家内労働対策の黎明
 (3) 家内労働法への道
 (4) 家内労働法に基づく家内労働対策
2 在宅就業
 (1) 在宅就業問題研究会
 (2) 在宅就労問題研究会
 (3) 在宅ワークガイドライン
 (4) 在宅就業施策在り方検討会
 (5) 自営型テレワークガイドライン
第2節 その他の非雇用労働者への労働法政策
1 労働者性の判断基準
 (1) 民法、工場法及び労働基準法における「労働者」
 (2) 労働基準法研究会報告
 (3) 労働契約法制在り方研究会
2 労災保険の特別加入
3 協同組合の団体協約締結権
4 労組法上の労働者概念
5 雇用類似の就業者に関する法政策
 (1) 個人請負型就業者研究会
 (2) 経済産業省の動き
 (3) 公正取引委員会の動き
 (4) 雇用類似就業者有識者会議

第4部 労働人権法政策

第1章 男女雇用均等法政策
第1節 男女雇用機会均等法以前
1 女子労働者保護法政策
 (1) 工場法における女子保護
 (2) 労働基準法における女子保護
 (3) 1952年改正と1954年省令改正
2 母性保護法政策
 (1) 工場法における母性保護
 (2) 労働基準法における母性保護
3 勤労婦人福祉法
 (1) 勤労婦人問題の登場
 (2) 勤労婦人福祉法の制定
 (3) 勤労婦人福祉法の母性保護
4 男女雇用機会均等法の前史
 (1) 労働基準法における男女平等
 (2) 退職・定年制に関する判例法理
 (3) 国連の動き
第2節 男女雇用機会均等法
1 男女雇用機会均等法(努力義務法)の制定
 (1) 労働基準法研究会報告
 (2) 男女平等問題研究会議と婦少審建議
 (3) 男女平等問題専門家会議
 (4) 婦少審における意見対立
 (5) 公益委員たたき台
 (6) 婦少審建議
 (7) 法案提出
 (8) 野党法案の展開
 (9) 1985年法の成立
 (10) 機会均等調停委員会
 (11) 改正後の女子保護規制
 (12) コース別雇用管理の問題
2 男女雇用機会均等法の改正(1997年法)
 (1) 婦少審建議
 (2) 1997年法の成立
 (3) 激変緩和措置とその後
3 ポジティブアクション
4 2006年改正
 (1) 男女雇用機会均等政策研究会
 (2) 労政審建議
 (3) 2006年法の成立
 (4) 坑内労働禁止の見直し
 (5) 指針の見直し
第3節 女性の活躍促進
 (1) 男女共同参画社会基本法制定の経緯
 (2) 男女共同参画社会基本法
 (3) 女性活躍推進法

第2章 ワーク・ライフ・バランス
第1節 職業生活と家庭生活の両立
1 育児休業制度の政策課題化
 (1) 勤労婦人福祉法と育児休業奨励金
 (2) 男女雇用機会均等法制定時の議論
2 特定職種育児休業法
 (1) 女子教育職員に関する立法の試み
 (2) 看護婦・保母等に関する立法の試み
 (3) 特定職種育児休業法の成立
3 育児休業法の制定
 (1) 与野党の動き
 (2) 国会の動きと婦少審建議
 (3) 育児休業法の成立
 (4) 育児休業以外の措置
 (5) 育児休業給付
4 介護休業の導入
 (1) 介護休業制度ガイドライン
 (2) 労使及び各政党の動き
 (3) 婦少審建議
 (4) 育児・介護休業法への改正
 (5) 再雇用特別措置等
 (6) 介護休業給付
5 女子保護規定の解消に伴う深夜業の制限と激変緩和措置
 (1) 女子保護規定の解消
 (2) 深夜業の制限
 (3) 1998年労働基準法改正
 (4) 激変緩和措置
6 2001年改正
 (1) 少子化の政治課題化
 (2) 女少審建議
 (3) 2001年改正法
 (4) 時間外労働の制限
 (5) 看護休暇の努力義務
 (6) その他の措置
7 2004年改正
 (1) 少子化対策プラスワン
 (2) 次世代育成支援対策推進法
 (3) 2004年改正法
 (4) 看護休暇の請求権化
 (5) 有期雇用者の育児・介護休業請求権
8 その後の改正
 (1) 仕事と家庭の両立支援研究会
 (2) 労政審建議と2009年改正
 (3) 仕事と家庭の両立支援研究会
 (4) 2016年改正
 (5) 2017年改正
 (6) 仕事と育児の両立支援に係る総合的研究会
第2節 仕事と生活の調和
 (1) 仕事と生活の調和検討会議
 (2) ワーク・ライフ・バランス憲章
第3節 病気の治療と仕事の両立

第3章 その他の労働人権法政策
第1節 労働に関する基本法制における人権規定
1 労働基準法
 (1) 均等待遇
 (2) その他の人権規定
2 職業安定法
3 労働組合法
第2節 人種差別撤廃条約
第3節 同和対策事業
第4節 人権擁護法政策
 (1) 人権救済制度の検討
 (2) 労働分野人権救済制度検討会議
 (3) 人権擁護法案
 (4) 労働関係特別人権侵害に対する救済措置
 (5) 民主党政権の法案
第5節 職場のハラスメント対策
1 セクシュアルハラスメント
 (1) 女子雇用管理とコミュニケーション・ギャップ研究会
 (2) 1997年改正法によるセクシュアルハラスメント
 (3) 職場におけるセクシュアルハラスメント調査研究会
 (4) セクシュアルハラスメント指針
 (5) 2006年改正法によるセクシュアルハラスメント
2 マタニティハラスメント
3 職場のいじめ・嫌がらせ
 (1) 職場のいじめ・嫌がらせ労使円卓会議
 (2) 職場のパワーハラスメント検討会
第6節 公益通報者保護政策
 (1) 公益通報者保護法
 (2) 改正への検討
第7節 労働者の個人情報保護法政策
1 個人情報保護法以前の取組み
 (1) 労働者の個人情報保護研究会
 (2) 労働者の健康情報保護検討会
2 個人情報保護法の制定とこれに基づく指針の策定等
 (1) 個人情報保護法の制定
 (2) 個人情報保護法における個人情報取扱事業者の義務等
 (3) 雇用管理に関する個人情報保護指針
 (4) 労働者の健康情報検討会
 (5) 労働者の健康情報に関する通達
3 2015年改正法とガイドライン

第5部 労使関係法政策

第1章 集団的労使関係システム
第1節 集団的労使関係システムに関する法制の展開
1 労働組合法への長い道
 (1) 治安警察法
 (2) 労働組合法制定に向けた動きの始まり
 (3) 若槻内閣の労働組合法案
 (4) 濱口内閣の労働組合法案
 (5) 戦時体制下の労使関係システム
 (6) 労務法制審議委員会
 (7) 末弘意見書
 (8) 労務法制審議委員会における審議
 (9) 旧労働組合法の成立
2 労働争議調停法から労働関係調整法へ
 (1) 治安警察法改正問題と労働争議調停法案
 (2) 労働争議調停法
 (3) 1931年改正案
 (4) 1934年の改正検討
 (5) 戦時体制下の労働争議法制
 (6) 労働関係調整法の制定
3 1949年の法改正
 (1) 占領政策の転換
 (2) 準備過程
 (3) GHQの指示と労働省試案
 (4) GHQの態度変更と法案の成立
 (5) 施行過程
 (6) ILOの第87号及び第98号条約
4 1952年の法改正
 (1) 政令諮問委員会の意見
 (2) 労政局試案
 (3) 労働関係法令審議委員会
 (4) 小規模改正
5 その後の動き
 (1) スト規制法の制定
 (2) 1984年改正
 (3) 労使関係システムについての検討
6 企業組織変更と集団的労使関係
 (1) 純粋持株会社の解禁に伴う集団的労使関係の問題
 (2) 投資ファンド等により買収された企業の労使関係
第2節 公的部門の集団的労使関係システム
1 公共企業体・国営企業等の集団的労使関係システム
 (1) 戦前のシステム
 (2) 戦後初期のシステム
 (3) マッカーサー書簡と政令第201号
 (4) 公共企業体労働関係法の制定
 (5) 地方公営企業労働関係法
 (6) 1952年公労法改正
 (7) 1956年公労法改正
 (8) 1965年改正
 (9) 労働基本権問題
 (10) 経営形態の変更による改正
2 公務員の集団的労使関係システム
 (1) 戦前のシステム
 (2) 戦後初期のシステム
 (3) 国家公務員法の制定
 (4) マッカーサー書簡と政令第201号
 (5) 国家公務員法の改正
 (6) 地方公務員法の制定
 (7) 1965年改正
3 公務員制度改革の中の労使関係システム
 (1) 公務員制度改革と労働基本権問題
 (2) 行政改革推進本部専門調査会
 (3) 国家公務員制度改革推進本部
 (4) 労使関係制度検討委員会
 (5) 争議権懇談会
 (6) 消防職員団結権検討会
 (7) 改革の全体像
 (8) 国家公務員の労働関係に関する法律案
 (9) 地方公務員の労使関係制度
 (10) 自公政権復帰後の状況

第2章 労使協議制と労働者参加
第1節 労使協議制の展開
1 労働委員会の構想
 (1) 内務省の労働委員会法案
 (2) 協調会の労働委員会法案
 (3) 産業委員会法案とその後
2 健康保険組合
3 産業報国会
 (1) 産業報国運動の開始
 (2) 大日本産業報国会
 (3) 産業報国会の解散と協調組合の構想
4 経営協議会
 (1) 戦後労働運動の中の経営協議会
 (2) 中労委の経営協議会指針
 (3) 経営協議会の変貌
5 炭鉱国管と生産協議会
6 労使協議制
 (1) 日本生産性本部
 (2) 労使協議制常任委員会と労使協議制設置基準案
第2節 過半数代表制と労使委員会
1 過半数代表制
 (1) 労働基準法制定時の過半数代表制
 (2) 過半数代表制の発展
 (3) 過半数代表制の改善
 (4) 1998年改正時の省令改正
 (5) 2018年省令改正へ
2 労使委員会
 (1) 健康保険組合と厚生年金基金
 (2) 労働法上の労使委員会の先行型
 (3) 企画業務型裁量労働制に係る労使委員会
 (4) 労働条件の調査審議機関としての労使委員会
3 労働者代表法制
 (1) 連合の労働者代表法案
 (2) 労働契約法制在り方研究会
 (3) 労政審における審議
4 集団的労使関係法制の見直し
第3節 労働者参加
1 会社法制における労働者
 (1) 民法における組合(会社)
 (2) 商法における会社
 (3) 企業組合
2 労働者の経営参加
 (1) 戦後の経営参加構想
 (2) 1970年代の経営参加構想
 (3) 公開会社法案と従業員代表監査役
3 労働者の財務参加
 (1) 利潤分配制度の構想
 (2) 勤労者財産形成促進法
4 労働者の社会的組織
 (1) 労働金庫
 (2) 消費生活協同組合
5 協同労働の協同組合
 (1) 労働者協同組合
 (2) 協同労働の協同組合法案

第3章 労働関係紛争処理の法政策
第1節 労働委員会制度
1 労働委員会制度の展開
 (1) 旧労働組合法の労働委員会制度
 (2) 1949年改正以後の労働委員会制度
 (3) 労働委員会の統合
 (4) 労働争議調整と不当労働行為事件の推移
2 不当労働行為審査制度のあり方
 (1) 労使関係法研究会1982年答申
 (2) 労使関係法研究会1998年報告
 (3) 不当労働行為審査制度研究会
 (4) 労政審建議と2004年改正
第2節 個別労働関係紛争処理システム
1 労働基準法における紛争解決援助
 (1) 労働基準法研究会報告
 (2) 1998年労働基準法改正
2 男女雇用機会均等法等における調停
 (1) 労働基準法研究会報告から婦少審建議まで
 (2) 1985年男女雇用機会均等法における調停委員会
 (3) その後の男女雇用機会均等法等における調停
3 個別労働関係紛争解決促進法
 (1) 労使関係法研究会中間報告
 (2) 労使関係法研究会報告
 (3) 労使団体の提言
 (4) 全国労働委員会連絡協議会
 (5) 個別的労使紛争処理問題検討会議
 (6) 個別労働関係紛争解決促進法の成立
4 人権擁護法案における調停・仲裁
5 障害者雇用促進法における調停
6 非正規労働者の均等・均衡待遇に係る調停
第3節 労働審判制度
 (1) 司法制度改革審議会
 (2) 司法制度改革推進本部労働検討会
 (3) 労働審判制度
第3節 その他の個別労働関係紛争処理制度
1 仲裁
 (1) 2003年仲裁法
 (2) その後の動向

付章 船員労働法政策
1 船員法制の形成期
 (1) 西洋型商船海員雇入雇止規則
 (2) 商法と旧船員法
2 労働力需給調整システムと集団的労使関係システムの形成
 (1) ILOの影響
 (2) 船員職業紹介法
 (3) 海事協同会による集団的労使関係システム
3 戦前期船員法政策の展開と戦時体制
 (1) 1937年船員法
 (2) 船員保険法
 (3) 船員と傷病
 (4) 戦時体制下の船員法政策
 (5) 終戦直後期における船員管理
4 終戦直後期における船員法制の改革
 (1) 労使関係法政策
 (2) 1947年船員法
 (3) 船員法の労働時間・有給休暇等
 (4) 災害補償と船員保険
 (5) 労働市場法政策
5 その後の船員労働条件法政策
 (1) 1962年船員法改正
 (2) 船員の最低賃金
 (3) 1988年船員法改正(労働時間関係)
 (4) 2004年船員法改正
 (5) 2008年改正
6 その後の船員労働市場法政策
 (1) 船員雇用問題と船員雇用促進特別措置法(1977年)
 (2) 1990年改正(船員労務供給事業)
 (3) 2004年改正(船員派遣事業)
7 船員保険の解体
8 船員労働委員会の廃止
9 ILO海事労働条約の国内法化

 

2018年3月30日 (金)

細川良『現代先進諸国の労働協約システム(フランス)』

Hosokawa細川良さんのJILPT報告書『現代先進諸国の労働協約システム(フランス)』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2018/documents/0197.pdf

1.産業別労働協約の規制権限について
フランスにおいては、規範は本来『法律』により定めるという古典的な伝統があり、他方、実態として、労働組合が(ドイツなどと比べ)組織的に脆弱であることを前提に、産業(市場)における共通規範を設定する装置が必要とされた。そこで、1936年法以来、いわゆる「代表的労働組合」の概念と、これによって支えられる産別協約の拡張適用制度によって、労働協約による集団的労働条件の規範設定がなされてきた。この結果、フランスにおいては現状でもなお、(産業別)労働協約の適用率が90%以上あり、少なくとも労働条件の「最低基準」の設定としては一定の機能を保ち続けている。

2.「分権化」の実態
フランスにおける集団的労働条件の規範設定システムにかかる分権化の象徴としてしばしば取り上げられるのは、2004年のフィヨン法および2008年法による改革である。しかし、これらの改正は、法的な原則(有利原則)に大幅な変更を施した点において、象徴的な意味はあるが、フランスの労使関係の実態を見ると、フランスにおける「分権化」の端緒は、1980年代のオルー改革がもたらした企業別交渉の活性化であると評価すべきである。そして、この企業別交渉の活性化は、とりわけ大企業における労働条件(賃金制度)の、産業別協約にもとづく労働条件(賃金制度)からの遊離をもたらすこととなった。このため、フィヨン法による改正が行われた時点で、労使交渉の基盤が確立された大企業においては、既に企業レベルの集団的労働条件規範設定は、産業レベルのそれからは自律した状況にあり、同法による改正は結果として実務に大きな影響をもたらさなかった。

また、1968年まで企業内における組合支部の設置ができなかったこと、他方でオルー法による義務的団交事項の法定がなされたことの結果として、フランスにおける「分権化」は、労働組合が産業レベルの組織から企業の中に入っていく過程でもあった点に留意すべきである。こうした事情から、他の欧州諸国と異なり、企業別交渉の活性化を組合も支持していたという点に大きな特徴がある。

3.近年のフランスにおける集団的労使関係政策とその影響
フィヨン法および2008年法による改革以降も、フランスにおいては集団的労使関係に関する様々な法政策が打ち出されている。具体的には、義務的交渉事項の増加、「代表性」の改革(2008年法)、労使協定による雇用保護計画の「優遇」(2013年法)、政策立法にかかる協約締結の義務化、産業単位の「整理」などである。これらの改革の1つの集大成とも言うべき2016年のエル・コムリ法による改革では、競争力協定の強化と企業レベルの集団的決定が個別の労働契約の変更をもたらしうる改革がなされている。これらの改革の中には、フランスにおける伝統的な労働法システムの根幹に関わる部分も含まれており、今後の影響がいかに生じるかについては今後も注目する必要がある。

というわけで、近年法改正が繰り返されているフランス労使関係法制について、労働協約という切り口から明快に解説しています。

355939ただ、一番最近のマクロン政権による2017年労働法改革までは取り上げられていませんので、そちらはつい最近出た『労働法律旬報』3月下旬号の特集を参照のこと。

http://www.junposha.com/book/b355939.html

[特集]フランス2017年労働法改革
フランス2017年労働法改革の背景と意義―解題に代えて=細川 良・・・06
団体交渉の強化に関する2017年9月22日のオルドナンス第1385号=小山敬晴・・・10
2017年労働法改革と労働契約終了法制=古賀修平・・・19
[資料]
①団体交渉の強化に関する2017年9月22日のオルドナンス第1385号〔Ordonnance n˚ 2017-1385 du 22 septembre 2017 relative au renforcement de la négociation collective〕・・・38
②労働関係の予測可能性と安定化に関する2017年9月22日のオルドナンス第1387号〔Ordonnance n˚ 2017-1387 du 22 septembre 2017 relative à la prévisibilité et la sécurisation des relations de travail〕・・・49

若者問題の中高年化

201804JILPTの『ビジネス・レーバー・トレンド』の4月号は「若者雇用を取り巻く現状」が特集で、例によって1月の労働政策フォーラム「若者雇用の質的変化を考える」が中心です。

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2018/04/index.html

問題提起 若者支援、この15年を振り返る

堀 有喜衣 JILPT 主任研究員

基調講演 若年雇用の質的変化を踏まえた若年雇用対策の現状と展望

伊藤 正史 厚生労働省人材開発統括官付参事官(若年者・キャリア形成支援担当)

研究報告 近年の大都市の若者の職業キャリア――第4回「若者ワークスタイル調査」より

小杉 礼子 JILPT 特任フェロー

事例報告① 高学歴若年女性の入社後の悩み

野依 智子 福岡女子大学国際文理学部教授

事例報告② 若者を受け入れる社会に働きかける ――中小企業とネットワークをつくる

髙橋 薫 特定非営利活動法人文化学習協同ネットワークみたか若者事業統括

事例報告③ 都立高校における不登校・中途退学の未然防止に向けた取り組み
――都立学校「自立支援チーム」派遣事業

梶野 光信 東京都教育庁地域教育支援部主任社会教育主事

事例報告④ 中間的就労の取り組み

岩永 牧人 社会福祉法人生活クラブ事業本部企画課主任

パネルディスカッション

若者雇用はJILPTのお家芸で、初代小杉礼子さんが餅をつき、二代目堀有喜衣さんが捏ねてここまで発展してきたわけですが、はじめに搗いた頃の若者がすでに40代に達して中高年化してきていて、彼らは若者なのか中高年なのかというなかなか難しい問題にさしかかりつつあるようです。

堀さんの問題提起に曰く:

・・・そもそもの若者支援というのは、現在40代に達している就職氷河期世代のために策定されたものでしたが、当時の若者も今は中高年になっています。こうした人たちの支援は、若者問題の延長としてあり得るのか、あるいは中高年問題として改めてとらえるべきなのか-。・・・

なお、今号は昨年11月の日中韓の労働フォーラムも若者雇用がテーマだったので、その中国側と韓国側の報告内容も載っています。

2018年3月29日 (木)

JILPT「独立自営業者の就業実態と意識に関する調査」

昨日、JILPTが記者発表した「独立自営業者の就業実態と意識に関する調査」が結構注目されているようです。前浦さんと西村さんという若手研究員による調査結果の速報です。

http://www.jil.go.jp/press/documents/20180328.pdf

そもそも論として、ここで取り上げられているフリーランスやクラウドワーカーなど、雇用じゃないけど雇用みたいな「雇用類似の働き方」をどこまで「独立自営業者」と呼べるのかという議論もあり得るところでしょうが、この調査結果はなかなか興味深い情報を多く含んでいます。

独立自営業者(フリーランス、個人事業主、クラウドワーカーなど)全体でみたときの一年間の報酬総額は200万円未満の者が6割に上る一方で、仕事全体の満足度は高い。
●1ヵ月あたりの平均作業日数
・1ヵ月の平均の作業日数は、「7日以下」の者が全体の3分の1程度を占めるが、作業日数が2週間を超える者も50.1%に上る。クラウドワーカーは、2週間以内の作業日数の者が7割程度を占めており、独立自営業者全体と比べると作業日数は短い傾向にある(図表Ⅱ‐3、16)。
●一年間で得た報酬総額
・一年間の報酬総額(税金・社会保険料などを差し引かれる前の額)は、「50万円未満」が39.9%に上り、200万円未満で全体の6割を超える。なお、専業の者の報酬額は、兼業の者よりも、主たる生計の担い手の報酬額は、主たる生計の担い手ではない者よりも高い傾向にある。また、クラウドワーカーの報酬額は、独立自営業者全体と比べると低い傾向にある(図表Ⅱ‐4、5、6、17、18、19)。
●独立自営業者の満足度
・「仕事全体」の満足度は高い傾向にある(満足している/ある程度満足しているの合計68.0%)。各満足度を見てみると、「働きがい」や「働きやすさ」に対する満足度は高く、それらに比べると「収入」に関する満足度は、低い傾向が見られる(図表Ⅱ‐30)。
●整備・充実を求める保護施策
・独立自営業者およびクラウドワーカー共に、整備・充実を望む保護施策のうち特にニーズが高かった項目は、契約内容や方法に関する事柄やトラブルがあった際の解決機関の整備に関する事柄であった。ただし、「特に必要な事柄はない」が最も多い回答となっている(図表Ⅱ‐33、36)

2018年3月28日 (水)

ジョブ型社会の多様性@WEB労政時報

WEB労政時報に「ジョブ型社会の多様性」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=743

 日本の雇用システムをメンバーシップ型とか「就社」型と定式化し、欧米諸国のジョブ型ないし「就職」型と対比させる考え方は、ごく一部の人々を除き、多くの研究者や実務家によって共有されているものでしょう。
 ところが、日本以外の諸国をすべて「ジョブ型」として束ねてしまうと、その間のさまざまな違いが見えにくくなってしまいます。常識的に考えても、流動的で勤続年数が極めて短いアメリカと、勤続年数が日本とあまり変わらぬドイツなど大陸欧州諸国はかなり違うはずです。そこで、世界の雇用システムを大きく二つに分けて、日本に近い側とそうでない側に分類するという試みが何回か行われてきました。ところが、そうした議論を見ていくと、まったく矛盾する正反対の考え方が存在することがわかってきます。
 まず一つ目は、日本とドイツなど大陸欧州諸国を一つにまとめ、アメリカを代表選手とするアングロサクソン型と対比させる常識的な考え方です。・・・・

 

2018年3月27日 (火)

JILPT編『非典型化する家族と女性のキャリア』

JILPTの第3期プロジェクト研究シリーズの残っていた4冊が一斉に刊行されました。

No.6『若年者就職支援とキャリアガイダンス─個人特性に配慮した進路選択の現状と課題─

No.7『生涯にわたるキャリア支援─労働市場のインフラとしてのキャリア支援─

No.8『次代を創る地域雇用政策』

No.9『非典型化する家族と女性のキャリア』

Cover_no9このうち、本ブログの読者諸氏にとって一番興味をそそられるであろう最後の『非典型化する家族と女性のキャリア』を紹介しておきます。

http://www.jil.go.jp/institute/project/series/2017/09/index.html

昨今話題の女性活躍では、主として女性の管理職昇進問題に関心が向けられていますが、その一方で、低賃金・不安定雇用の職につき、労働市場の周辺に置かれる労働者の多数を占めるのもまた女性であるという状況は大きく変化していません。その裏側で、女性のライフスタイルも多様化しており、配偶者の経済力に頼れない女性が増えています。

本書では、そうした背景を踏まえ、女性労働をめぐる問題を多角的に取り上げ、「女性の多様化」に対応した労働政策の課題を明らかにしています。

全体の編集に当たったのはJILPTのイクメンこと池田心豪さんですが、下記目次のように、なかなか豪華な執筆陣となっています。

序章 女性の活躍と多様化 池田心豪
第1章 女性の初期キャリア:男女別コーホート間比較から  酒井計史
第2章 育休取得は管理職登用の妨げとなっているか 周燕飛
第3章 「性別職務分離」の現在形─昇進意欲の男女差を手がかりに考える─ 高見具広
第4章 貧困専業主婦がなぜ生まれたのか 周燕飛
第5章 若年出産、婚前妊娠の母親と子ども 阿部 彩
第6章 子育て期の母親に求められている支援策 坂口尚文
第7章 シングルマザーは働いていてもなぜ貧困か 大石亜希子
第8章 未婚女性労働者のキャリアパターンと就業継続要因 大風薫
第9章 壮年・非正規・シングル女性の働き方と生活満足 池田心豪
終章 包摂的女性労働政策に向けて 池田心豪

終章の最後のところで池田さんが述べているところは、今日の状況をマクロ的に俯瞰する言葉としてなかなか言い得ていると思います。

日本の女性の就業率は上昇している。・・・だが、その内実を注意深くみてみると、経済的に自立できる水準の収入を得ている女性は一部であり、自ら家計支持者となっている女性の多くが貧困と背中合わせの状況にある。その意味で、日本は依然として夫の経済力に女性は依存するところが大きい「男性稼ぎ手社会」であるといわざるを得ない。

裏返しとして、シングルマザーのように貧困に直面した女性は社会保障の対象となってきた。だが、超高齢化社会を迎え、さらに高齢者が増える今後、社会保障費はますます膨らんでいく可能性が高い。「夫の代わりに国家が女性を養う」ことを期待しても、それが実現するかどうかは別問題であるという財政状況に近づいている。

社会保障費の抑制に取り組む先進諸国では「福祉から就労へ」(welfare to work)が合い言葉になっている。だが「夫と国家の代わりに企業に養ってもらおう」という政策ではうまくいかないだろう。企業は厳しい経営事情の中で組織のスリム化を進めており、福祉的に雇用を増やす余裕はないというのが本音ではなかろうか。つまり、シングルが増え家族は縮小しているが、代わりに国家を大きくすることも企業を大きくすることも難しい状況にある。どちらかといえば家族・国家・企業の三者がともに小さくなっていっているのが日本社会の実情ではないだろうか。

しかし、その一方で、労働力不足に悩む企業から女性に期待する声が高まりつつあるのもまた事実である。また単なる労働力の数あわせではなく、多様な人材の多様な視点を経営に生かす「ダイバーシティマネジメント」への関心も高まりつつある。現状は男性に対する女性という意味での多様性への関心が強い。だが、「男性」「女性」をそれぞれ均質なカテゴリとしてとらえるのではなく、女性の多様性(と男性の多様性)を経営に生かす時代が早晩訪れるだろう。そのような問題意識で、どのような生き方をしている女性であっても活躍できる雇用環境を作ることが、今後の女性労働政策においては重要である。

2018年3月26日 (月)

この国の労働市場@『JIL雑誌』4月号

693_04『日本労働研究雑誌』2018年4月号が刊行されました。今号の特集は「この国の労働市場」です。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/index.html

横断的論考 濱口 桂一郎(JILPT所長)

アメリカの労働市場 恩田 正行(セントジョンズ大学客員助教授)・賀茂 美則(ルイジアナ州立大学教授)

イギリスの労働市場 八代 充史(慶應義塾大学教授)

ドイツの労働市場 シュテフェン・ハインリッヒ(ドイツ日本研究所部長)

フランスの労働市場 鈴木 宏昌(早稲田大学名誉教授)

オランダの労働市場 権丈 英子(亜細亜大学教授)

スウェーデンの労働市場 鈴木 賢志(明治大学教授)

韓国の労働市場 金 東 培(仁川大学教授)

というわけで、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オランダ、スウェーデン、韓国という7カ国についてそれぞれの国の専門家が論文を執筆し、なぜかわたくしが「横断的論考」というタイトルのものを書いております。何を「横断」しているのかはよくわかりませんが。

あと、玄田有史さんが神林龍さんの『正規の世界・非正規の世界』書評しているんですが、これが(書評対象に劣らず)力作です。

2018年3月24日 (土)

水町勇一郎『労働法 第7版』

L24309 水町勇一郎さんの定番教科書『労働法 第7版』(有斐閣)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641243095

労働法の背景にある歴史や社会の基盤を踏まえて労働法の理論と動態を明快に描出。多数の事例を通じた解説,裁判例の詳細な紹介・分析や理論的考察で,初学者から実務家,研究者まで,幅広いニーズに応える。働き方改革関連法案の内容も反映,益々充実の最新第7版。

水町さんも2年ごとの改訂というルールをきちんと守っているので、早くも第7版です。

水町教科書の特徴は、労働法を超えた社会学的な基礎理論のところが充実している一方、法解釈学の教科書としては穏当な記述にとどめ、あまり自説を強く打ち出しているわけではない(とはいえ、いくつか「私見」と断った記述もありますが)点でしょう。

前回(第6版)では「正規・非正規労働者間の処遇格差の公序違反性(私見)」を紹介しましたが、今回はちょっと趣向を変えて、某大学法学部M教授の所業を描いた「事例60」を紹介しておきましょう。

多数の助手・大学院生を抱える法学部M教授は、司法試験予備校や公務員試験予備校からの依頼を受けて、助手・大学院生を予備校に派遣し労働法の授業の行使をさせている。派遣を受けた予備校はM教授に対し1コマ5万円の報酬を支給しており、M教授はそのうち3万円を講師をした助手・大学院生に講師料として支払っている。差額の2万円は、紹介料としてM教授がプールしており、そこから助手・大学院生たちに食事をおごってあげたりしているが、「労働条件実態調査」という名目で八重洲のクラブに行くお金に回したりもしている。M教授のこのような行動に何か問題はあるか?

わはは、これってほとんど、明治期の親方職工や労務請負業者とおなじですな。

つか「労働条件実態調査」という名目で八重洲のクラブって何?なんの「実態」だって?

 

 

 

2018年3月23日 (金)

判例評釈「永尾運送事件」@『ジュリスト』4月号

L20180529304『ジュリスト』4月号に、私の判例評釈「社内報により賃金改定を行う労使慣行の存否--永尾運送事件」が載っています。

http://www.yuhikaku.co.jp/jurist

[労働判例研究]
◇社内報により賃金改定を行う労使慣行の存否――永尾運送事件――大阪高判平成28・10・26●濱口桂一郎……122

これ、判決文の載っている『判例時報』2333号には会社名は出てこないのですが、同じ事案が大阪府労委に係って、その救済命令が『別冊中央労働時報』1516号に載っているので、永尾運送という社名がわかるのです。

内容的にも、賃金改定という統一的かつ画一的な決定を建前とする労働条件決定・変更において、就業規則、労働協約、個別合意、労使慣行という手段をどのように適用すべきかという問題に関わる事案で、表層的な判決の思考を超えてどこまで突っ込んで物事を考えられるかを問われるような事案です。

是非ご一読を。

ちなみに、本号から「働き手・働き方の多様化と法」という連載が始まっており、第1回目は早稲田の島田陽一さんが「働き方改革と労働時間法制の課題」を書かれています。

全12回の連載とのことで、誰がどのテーマを書くのかも楽しみです。

「外国人労働政策の転換?」@『労基旬報』2018年3月25日号

『労基旬報』2018年3月25日号に「外国人労働政策の転換?」を寄稿しました。

 去る2月20日の経済財政諮問会議で、外国人労働政策について見直す方向が打ち出されたようです。会議後の大臣記者会見の記録によると、安倍首相から「移民政策を採る考えがないことは堅持」しつつも、「専門的・技術的な外国人受入れの制度の在り方について、在留期間の上限を設定し、家族の帯同は基本的に認めないといった前提条件の下、真に必要な分野に着目しつつ、制度改正の具体的な検討を進め、夏に方向性を示したい。官房長官、上川(法務)大臣は、関係省の協力を得て、急ぎ、検討を開始して欲しい」との発言があったということです。
 「専門的・技術的」という形容詞はついていますが、その後の質疑応答で茂木担当相から「おそらく介護であったり、建設であったり、運輸であったり、サービス・小売であったり、農業、それぞれの分野別にどういった能力が最低限必要なのであろうか、といったことを洗い出す」と、かなり具体的な業種が語られていますし、「それぞれの分野で、例えば今、人手不足というのが現実に存在すると、これが例えばITとかAIによって、どこまで効率化できるのか。さらには女性・高齢者の方の就業環境を整備することによって、どこまで解消が進むのだろうか。そこで残った分野、充足できない分野について充足の仕方を、先程申し上げたような形で検討していくということ」だと、人手不足対策であることも明確に示しています。
 上述のような業種での人手不足対策をなお「専門的・技術的」と呼ぶことには違和感を禁じ得ませんが、民間議員の発言を見ると、「日本が受け入れている外国人労働力は専門的・技術的分野だが、それ以外の人たちについては、国民のコンセンサスを得つつ、慎重に検討していく必要がある」とあり、すくなくともこれまで「専門的・技術的」とされてきた狭い職種以外にも(それをどう呼ぶかは別として)拡大しようという方向性であることは間違いないようです。
 実はこの動きの背景にあるのは、昨年2017年11月16日に日本商工会議所・東京商工会議所が公表した「今後の外国人材の受入れの在り方に関する意見~「開かれた日本」の実現に向けた新たな受入れの構築を」という意見書です。そこでは、「受け入れる外国人材は「専門的・技術的分野の外国人」に限定するという、これまでの原則に縛られない、より「開かれた受入れ体制」を構築すること」と、明確に「非技術的分野」の外国人の受入れを求めているのです。そして、そのために「移民政策とは異なる非技術的分野の受け入れ制度のあり方について、課題等を整理する「検討の場」を政府において早急に設置すること」を求めており、上記「制度改正の具体的な検討を進め、夏に方向性を示したい」という首相の指示はこれを受けたものと考えられます。
 これまでの日本の外国人労働政策は、専門的・技術的人材は積極的に受け入れるが単純労働力は受け入れないという二分法的な原則を立てつつ、「就労が認められる在留資格」以外のいわゆるサイドドアを通じた外国人労働が増えてきたという経緯があります。日商・東商の意見書はこの点に正面からメスを入れ、「例外として就労が認められている在留資格で就労を行う外国人材が年々増加している」のは「企業が求めるニーズと在留資格が乖離している」からだと、その見直しを求めているのです。
 その焦点は、「技能」という在留資格の拡大にあるようです。そもそも真の単純労働というのはそれほど多くなく、現在人手不足に悩んでいるのはいわゆる技能労働系の職種です。ところが現在入管法上在留資格として認められている「技能」は、外国料理の調理師からワイン鑑定まで9職種に過ぎず、たとえば外国人留学生が専門学校で学び日本の国家資格を取得しても「技能」と認められません。日商・東商が狙う最大の突破口はおそらくここにあります。
 加えて、「技術」についても、「自然科学、人文科学の分野に属する技術・知識を必要とする業務」として原則として大卒以上という要件に疑問を呈し、「産業界、特に建設業や製造業等では、現行の「技術」の定義に当てはまらない、一定の知識・経験を有する“技術者”への需要は高い」と、その拡大を求めています。
 ちなみに日商・東商の意見書では、「非技術的分野の受入れ」について、「諸外国(例:韓国)の事例等を参考に」と述べ、そこに「韓国では、2004年より「雇用許可制」を導入し・・・」と注釈をつけており、韓国型雇用許可制を念頭に置いているらしいことが窺われます。
 サイドドアとして1993年に創設され、様々な問題を指摘されながら2016年にようやく単独立法化された改正技能実習制度が昨年11月に施行されたばかりですが、外国人労働政策は既にその先に向けて走り出そうとしているようです。その萌芽として既に、2016年改正入管法で「介護」という在留資格が新設され、また現在(本連載昨年7月25日号で紹介したように)国家戦略特区における農業外国人労働の解禁が進められています。しかしそういうパッチワーク的なものではなく、包括的に「技能労働」レベルの外国人労働者を受け入れる枠組を作ろうという動きとして、注目に値します。

同一労働同一賃金@『全国労保連』2018年3月号

Kaihou1803large『全国労保連』2018年3月号に「働き方改革をめぐる諸問題」の第4回として「同一労働同一賃金」を寄稿しました。

http://www.rouhoren.or.jp/kaihou1803idx-large.jpg

 前回の「時間外労働の上限規制」に引き続き、今回も『働き方改革実行計画』の目玉である政策を取り上げます。いうまでもなく「同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善」です。非正規労働者の処遇問題については、2007年改正パート法、2012年改正労契法、2014年改正パート法、そして議員立法の2015年職務待遇確保法と、徐々に議論が高まってきていたとはいえ、2016年1月に安倍首相が施政方針演説で「同一労働同一賃金の実現に踏み込む」と語ったことが、今日国政の最重要課題の一つに上り詰めるに至った出発点です。

1 一億総活躍国民会議における官邸主導の動き

2 同一労働同一賃金検討会

3 働き方改革実現会議におけるガイドライン(案)

4 働き方改革実行計画

5 2018年改正へ

6 集団的労使関係の活用

草野隆彦『雇用システムの生成と変貌』

Kusano1JILPTの資料シリーズとして、草野隆彦さんの『雇用システムの生成と変貌』Ⅰ・Ⅱが出ました。

http://www.jil.go.jp/institute/siryo/2018/199.html

日本の雇用システムに関して、法政策との相互作用にも着目しつつ、その構造と発展について歴史的な考察を行うことを目的としている。本資料では、戦前からバブル崩壊までの時期を、①戦前期、②戦後復興期、③高度成長期、④安定成長期からバブル期までの大きく4つに句切り、それぞれの期間において、当時の経済・社会状況とともに、我が国で講じられてきた政策について労働分野を中心に整理したものである。

Kusano22分冊で、Ⅰは「戦前期の雇用システム」、Ⅱは「戦後復興期からバブル期の雇用システム」です。

2018年3月21日 (水)

玄田有史『雇用は契約』

Genda 玄田有史さんより『雇用は契約─雰囲気に負けない働き方』(筑摩選書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480016652/

雇用契約の終了を突如提示されたり、事情が飲み込めないまま給与額が減ってしまったり。会社を信頼していればOKという時代は終わり、いまや正社員であれ非正社員であれ、自分の身を守るために、雇用は契約という原点を踏まえる必要がある。本書は契約期間を軸に、多様化が進む21世紀日本の雇用の現実を見据え、誰もが納得できる職業人生を歩んでゆくための、望ましい雇用社会のあり方を提言。悔いなき職業人生を送る上でヒントに満ちた一書である。

という紹介文を見ると、なんだか働き方、生き方を説くメッセージ本みたいに思えるかもしれませんが、そうでもありません。いやまあ、最後の結章はそういう雰囲気もありますが、全体としてはむしろ労働経済学者玄田有史として、正規非正規を巡る実態と概念を緻密に論じている部分が大部分です。

第1章 「正規」の曖昧
第2章 大切なのは契約期間
第3章 多様化する契約
第4章 有期契約の現在と未来
第5章 契約期間の不明
第6章 期間不明のさらなる考察
第7章 変わりゆく契約
結章 契約から考える雇用の未来

かつ、ここ数年の玄田さんの論文を読んでいる人にとっては、JIL雑誌に載った「雇用契約期間不明に関する考察」とか、

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/02-03/pdf/069-085.pdf

BLTに載った「呼称から契約へ:多様化する労働市場」を思い出して、

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2018/01_02/032-053.pdf

にやにやしたかもしれません。

ごく最近に至るまで雇用契約期間にはあまり注意を払わず職場の呼称中心で物事を見てきた労働経済学畑と、世の中は法令で動いているという大前提に基づき、有期か無期かを中心に据えて法政策を論じてきた労働法学畑との間には、人が想像するよりも大きな認識論的断絶があったようですが、そこに着目して一冊の本にまで仕立て上げてしまおうというようなことは、やはり玄田さんならではというべきなのでしょう。

ちなみに、行政分野的にいうと労働基準行政が労働法学的志向が強いのに対して、職業安定行政は労働経済学的志向が強く、そのため、職業安定行政では伝統的に有期か無期かという発想が希薄で、常用か常用でないかで線引きしてきた経緯があり、そのことが例の派遣法における常用だから特定派遣で届出といいながら実は有期でもOKという、労働法学的志向からすると奇妙な事態をもたらしてきた面もあったりします。

さて、本書をいただいたのは昨日3月20日でしたが、その日は夕刻、慶應義塾長を務められた清家篤先生退任記念懇親会が慶応義塾大学であり、用務を終えて駆け付けたところ、会場には玄田さんの髭面も待ち構えていて、早速本書のお礼を申し上げたところ、

「hamachanあれ読んだ?あれhamachanのことだよ」

と言われ、一瞬何のことだかわかりませんでした。

692_0203 JIL雑誌今月号の巻頭言を玄田さんが書いておられて、

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/02-03/pdf/001.pdf

そこに出てくる「ある労働法学者」というのは、実は私のことなんだそうです、ええっ?

この号、本ブログでもちゃんと紹介しているんですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/02/201823-1680.html

論文の紹介に気が行っていて、そこまで気が回っていなかったようです。

・・・ある労働法学者は官僚時代,国会待機で時間を持て余した時,過去の審議会の議事録を読み返 し,政策決定プロセスの勘どころを学んできたと いう。氏は後に国際機関に出向,各国の法律や制 度の理解を深める機会も得た。ゆえに今どんな新 たな労働問題が出てきても,自身に定まった歴史軸と国際軸に位置づけることで,説得力のある議論を常に展開できるのだ。

説得力のある議論を常に展開しているかどうかは人様が評価することですが、まあ過去の歴史を読み込んでおいて損になることはないと思います。

 

 

 

 

 

 

 

2018年3月20日 (火)

中澤渉『日本の公教育』

102477中澤渉さんの『日本の公教育 学力・コスト・民主主義』(中公新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.chuko.co.jp/shinsho/2018/03/102477.html

教育無償化、学力低下、待機児童など、近年の教育の論点は多岐にわたる。だが、公費で一部もしくは全体が運営される学校教育=公教育とはそもそも何のためにあるのか。実際に先進国の中で公教育費が少ない日本には、多くの課題が山積している。本書は、学校とそれを取り巻く環境を歴史的背景や統計などのエビデンスを通して、論じる。そこからは、公教育の経済的意義や社会的役割が見えてくるだろう。

本ブログでも何回かトピックとして取り上げてきた日本はなぜ公教育費が少ないのかを論じてサントリー学芸賞を受賞した著者による、公教育に関する概説書といった感じの本で、こういうのはやはり中公新書だなあ、と。

そもそも近代国家における学校制度とは、というところから説き起こして、学校と格差・不平等を巡る議論を手際よく整理し、さらにエビデンスベースの議論に関して、スキルバイアス理論、シグナリング理論、グローバルオークションモデルなどを説明していく本書は、このテーマではこの一冊、といういかにも中公新書的な本になっています。が、しかしそれだけではない。

最後の第5章の「教育にできること、できないこと」では、労働市場との関係に目を向け、日本型雇用システムは個人の能力を生かしているのか?と問いかけ、専門性の強い高等教育とジェネラリスト重視の労働市場の「齟齬」を指摘しています。まあ、そこは私なんかも論じてきたことですが、そこからさらに先に進んで、学校という組織のあり方にも説き及びます。

・・・日本の学校組織は、日本社会の縮図でもある。確かに学校は、近代以降成立した典型的な官僚制組織とは異なり、仕事の範囲や役割分担が曖昧だ。日本の学校は、その傾向が顕著である。アメリカの教師役割は授業に限定され、生徒指導や進路指導は別の専門家にゆだねられているのと対照的である。この教師役割の曖昧さは、メンバーシップ型雇用の日本の会社組織と類似している。

・・・つまり日本の教育現場では、教科指導、生徒指導、進路指導は一体となって実施されてきた。これは、学習と普段の生活は切っても切り離せない、という前提に立てば、それなりに理屈の通る指導のあり方だ。ここに、何らかの学校評価システムを導入する。しかし形式的には、海外で行われているのをまねた評価システムであっても、組織文化が違うので、そのシステムは全く異なる形で機能する。日本のような、教師の役割や仕事の範囲が不明確な組織で評価システムが導入されれば、あらゆる活動が評価の対象となるだろう。

部活指導なども、かつては関心を持つ教師が、勝手に熱心にやっていた側面があっただろう。

しかし子供、保護者、地域からの視線にさらされれば、何でもやる教師がスタンダードになる。言い換えれば、今日指導のみを行う教師は怠けている、教育熱心ではない、といわれかねない。つまり多くの教師も、休まない、「熱心な」教師の勤務状況に引っ張られることになる。こうしてほとんど手当もないまま、教師は過酷な労働を強いられることになる。

これは生徒から見ても同じことで、メンバーシップを強調する集団では、情緒的結合が重視されるため、合理的なトレーニングよりも、長時間の拘束や過剰な練習につながりやすい。教育活動に限らず、日本の組織で非合理的と思える精神論が跋扈するのは、組織集団のこうした性質が反映されている。

児童生徒にとっても、日本の学校組織は一長一短だ。部活動や班活動を通して、得られるものもあるだろう。一方で、このような活動は、仲間はずれやいじめの温床にもなり得る。森田洋二によれば、海外でのいじめでは肉体的な暴力が問題にされ、また概して年齢が上昇すると減少する傾向にあるのに対し、日本では「シカト」「無視」がクローズアップされ、また中学生あたりがいじめのピークになるという。これは日本の学校で集団主義的な活動や、メンバーシップ型の社会を反映した教育活動が重視されていることと無関係ではない。

メンバーの中で、うまくできない子がいれば、もちろん助け合いの精神を学ぶこともできるが、常にそうなるわけではない。足を引っ張るからと、嫌がらせを受けることもあるだろう。またメンバーシップや班活動重視の学校で、シカトされることは精神的に強いショックを与えるはずだ。・・・

2018年3月19日 (月)

非正規が消える@『週刊東洋経済』3/24号

03151648_5aaa25507adf5 東洋経済に戻った風間直樹さんより、彼が多くの特集記事を書いている『週刊東洋経済』3/24号をお送りいただきました。「非正規が消える」という特集です。

https://store.toyokeizai.net/magazine/toyo/20180319

今年、契約社員・パート・派遣の雇用ルールが一変する。4月開始の「無期転換ルール」の対象者は450万人。有期雇用で5年を超えて契約更新する人が希望すれば、無期雇用に転換しなければならない。経営者、管理職層は必読の特集。

・管理者必読、漫画でわかる「無期転換ルール」
・基礎知識Q&A「誰が対象に?」「今から雇い止めは?」
・先行企業に学ぶ実務対応のツボ
 (クレディセゾン、みずほフィナンシャルグループなど)
・今すぐ始められる「無期転換への対策」チェックリスト&フローチャート
・「同一労働同一賃金」を前に訴訟が頻発!
・9月に労働者派遣法の抜本改正で、派遣料金は2割上昇との見方も
・政労使のキーマンを直撃 厚生労働大臣&連合会長

5年で無期転換が目前に迫るいま、JILPTも労働政策セミナーをするのですから、東洋経済の特集は不思議ではありませんが、さすがに様々な観点からの記事をちりばめています。

面白かったのは、「人事部長覆面座談会」です。それも、最後のところの、同一労働同一賃金について懸念を述べているところが、本音を垣間見せています。

Cさん ・・・ただ悩ましいのが、今後この議論が正社員間での同一労働同一賃金へと踏み込んできたときの対応だ。確かに欧米では、同じポジション(ジョブディスクリプション=職務記述書)だったら同じ賃金になるジョブ型雇用が原則だ。職務範囲を明確に定めず年功序列を基にする職能給制度の日本のメンバーシップ雇用とは大きく異なり、ややこしいことになる。情報が少なく、人事担当者間の意見交換でもホットイシューになっている。

Aさん 海外の人事も担当してきたが、欧米では育成のための人事異動は本当にやりにくい。社内で人を育てるという発想がないし、自分の職域から出ていかない。

政府の議論を聞いていると、同一労働同一賃金の名の下、メンバーシップ型の雇用形態を否定しようとしているように感じる。両方に携わった身からすると、日本の強みを奪いかねないと懸念している。

AさんもCさんも製造業の人事担当者なので、日本型雇用のメリットが失われることに対してかなり強い不満を抱いていることが窺われます。

 

 

 

 

2018年3月18日 (日)

岩田正美『貧困の戦後史』

9784480016591_2 これは自買本です。昨年末に出たのを見て気にかかっていたのですが、この週末に一気に読みました。

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480016591/

敗戦直後の貧困は「食べるものすらない」という「かたち」で現れた。こうした中で、戦争により生み出された浮浪者や浮浪児の一部は炭鉱へと送られた。そこで生まれ育った若者の多くは集団就職で都会へと出ていき、その一部は「寄せ場」の労働者となった。高度経済成長により実現した大衆消費社会は多重債務問題をもたらし、バブル崩壊はホームレスを生んだ―。戦後日本の貧困の「かたち」がいかに変容したかを描き出し、今日における貧困問題の核心を衝く。

やはり戦後期の貧困調査の生々しい記録に基づく前半部の記述が興味深いです。氏原正治郎さんらの東大社研の調査は労使関係が多いのですが、とりわけ初めのころのには貧困調査的なのも多く、その流れは切れてしまっているんですが、こうやって骨太の文脈の中に位置づけられると、あらためて興味がわきます。

窮乏する濠舎生活者とか、浮浪児・浮浪者の「かりこみ」とか、仮小屋生活とか、蟻の街とか、葵部落とか、バタヤ部落とか、その後の社会政策の問題関心につながっていかなかった世界が広がっていきます。

読みながら思い出したのが、小学生のころ学校の図書館で読んだ記憶のある山中恒の『サムライの子』という児童文学で、そのころはまだバタヤ部落といった世界がごく普通に意識される状態であったことがわかります。

真ん中の一億総中流社会の時期のトピックはサラ金による多重債務者の増大ですが、後半の主力はやはり失われた20年の貧困で、これは湯浅誠といった名前とともになお鮮烈な時代です。

第1章 敗戦と貧困
第2章 復興と貧困
第3章 経済成長と貧困
第4章 「一億総中流社会」と貧困
第5章 「失われた二〇年」と貧困
おわりに 戦後日本の貧困を考える

 

 

 

 

 

2018年3月17日 (土)

本田一成『オルグ!オルグ!オルグ!』

03161700_5aab798188f36 本田一成さんより『オルグ!オルグ!オルグ! 労働組合はいかにしてつくられたか』(新評論)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.shinhyoron.co.jp/978-4-7948-1088-5.html

伝説の労組仕掛け人の仕事と足跡をたどりつつ、労組の今日的意義を平易に解説。
「組合」「スト」への意識が変わります!

本田さんの本では、昨年『チェーンストアの労使関係』をいただいたときに紹介しましたが、その話をより生々しく、オルグという人に着目する形で語り下ろした形の本です。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/post-f0d3.html (本田一成『チェーンストアの労使関係』)

もともとUAゼンセン流通部門の教宣・研修資料集『BUMONブックレット』に連載されたものなので、ゼンセンオルグの武勇伝と思うかもしれませんが、いやいや全体の構成はなかなか工夫されています。

前半部分、第1章から第5章まではゼンセン以前の、あるいはむしろゼンセンと対峙する世界が描かれます。商業労連やチェーン労協につながっていく組合活動の世界です。

流通革命で急拡大していくこの業界をどの産別組合が組織化していくかという領土争いの世界です。

そこに殴り込みをかけてくるのが全繊同盟であり、第5章まで読んでいくと、ゼンセンは悪役に見えてきます。

いや、全繊の側からすれば、繊維産業が長期衰退過程にある中で、ほっといたら炭労と同じく消滅していくのですから、まだまだ未組織のフロンティアに飛び込んでいって組織化していかなければ生き残っていけない。

そこで視点がぐるりと変わり、第6章と第7章では繊維産業の産別として始まった全繊同盟のオルグたちが中小企業の組織化を進めていった姿が描かれ、そして第8章からはいよいよ流通業界に「進撃」していく姿がほとんど講談師の張り扇のごとく語られていきます。

組合と組合の対決というと、多くの文献で描かれてきたのは圧倒的に、思想やイデオロギーで憎みあう組合同士のどろどろした、そして非常に多くの場合悲惨な結末の対決ですが、本書に登場する組合は、流通業界という未組織のフロンティアをいかに自分たちで組織化していくか、というからっと明るい喧嘩の世界です。

いや、イデオロギー的には同じであるとはいえ、同じ同盟に属する一般同盟のダイエー労組をゼンセンに引っこ抜くとか、なかなか仁義なき世界ではあります。

その中で、最終的に同じ業界を争った他の産別を吸収合併する形で、UIゼンセン同盟に、そしてUAゼンセンに統合していくわけです。

そういう意味では、今のUAゼンセンは、かつて全繊同盟のライバルであった諸組合の後継者でもあるわけで、そういう歴史を学びなおすという意味でも、本書は大変意味のある本だと思います。

本書脱稿後の2017年12月20日、一人の男が逝った。佐藤文男、享年92歳。日本で最も多くの労働組合を結成し、労働組合員を増やした「オルグ」である。イオンやイトーヨーカドーなど、日本のチェーンストアのほとんどに現在労組があるのも、佐藤の仕掛けによるものだった。
佐藤に初めて会ったのは2008年11月、この時、一生懸命働く人びとに幸せをもたらす職業が存在していることを知り、亡くなる年まで交流した。1950~2000年代まで逆風に負けず、独自の手法で労組をつくり続けたヒストリー。仲間、ライバル、弟子たち、つくった労組から育ったオルグたちが別の労組をつくりまくったストーリーにロマンを感じてしまう。
一般の人がオルグの仕事を知ることはめったになく、多くのひとが労働組合員であることの意味を考えることもない。だが、給料を得て生活する人にとっては、いかに労働条件や労働環境を向上させ、暮らしを守るかは死活問題となる。職場で直面する諸問題を解決する最も有効な手段は、労働組合しかあり得ない。
企業は、環境には優しいのに労働者には厳しい。労組に対する意識も決して高いとは言えない。たとえば、悪質クレーマー。ちょっとしたミスで土下座の強要、ストーカー型の説教など、消費者保護主義の下での憂さ晴らしと攻撃。労働者の尊厳を、労働者自らが貶めるまでに社会意識が低下している。「さあ、労組の出番だぞ」と叫ぶ佐藤の声が聞こえてきそうだ。
このように労組の衰退が著しいわけだが、労働組合員は約1000万人もいるのだ。その全員が労組の役員候補だ。労組の活動を一生の職業にする人も、そうでない人も、オルグたちの足跡に目を凝らそう。労働環境だけでなく、生活を救う手段を認識する原点が本書にある。(ほんだ・かずなり)

 

 

 

 

2018年3月16日 (金)

ポスドク問題@『DIO』335号

Dio 『DIO』335号をお送りいただきました。

http://www.rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio335.pdf

特集は「科学技術立国日本を支える若手研 究者育成に向けて〜現状と課題〜」です。

日本の科学技術系人材育成政策(1990-2017) 綾部 広則

日本の若手研究者育成はどこを目指せばよいのか? 永野 博

ポスドクと任期付研究員の就業環境とその実態 後藤 新悟

問題意識は日本の若手研究者の不安定なキャリアにあります。

綾部さんの論文は、出口問題を考えずに量的拡大路線にまい進してきたうえに、任期制の導入で、将来展望を描けなくなったというこの間の流れを描き出しています。

任期制は、研究者の流動化促進と業績向上の一石二鳥を狙ったものだったようですが、結果的に若手研究者がそのしわ寄せを受けたということですね。

後藤さんは長くポスドクの職を渡り歩き、40歳になってようやく任期なし研究員の地位を得た方ですが、そのポスドク時代の描写は、いろいろと考えさせます。

・・・国の研究機関でポスドクをしていたときに は高度な研究設備と研究支援者らのサポート をうけ研究環境としてはとても充実してい た。当時の上司の計らいで雑用もほとんどな かったため、研究に専念できる環境であった。 また、同年代で優秀なポスドク、任期付研究 員が同じ研究室に数名所属しており、彼らと 常日頃からディスカッションを繰り返すこと で研究者として大きく成長できた。さらには、 上司とのディスカッションの経験は今の研究 者としての礎になっている。これら研究機関 で知り合った研究者とのコネクションは任期 なしの研究職を得る上でも今後の研究活動に おいても大切であると痛感している。こうし たことからポスドクや任期付研究員の経験は 研究者としてのとても重要なキャリアパスで あることは間違いない。

 しかし、一方で限られた任期の中で研究成 果を出さなければ、次の職を得ることができ ないプレッシャーは大きな精神的ストレスで あり、長時間労働の原因でもある。また、長 期的な展望をもった研究や挑戦的な研究をす ることができないことは日本のアカデミアに とって大きな損失である。さらには大きな研 究成果を出したとしてもタイミング等の影響 で必ずしも任期なしの研究職を得られるとは限らない。少なくともこのような厳しい状況 の中で、大きな研究成果をあげたポスドクや 任期付研究者を任期なしの研究職に採用する テニュアトラック等の制度をもっと幅広く運 用すべきである。また、ポスドクや任期付研 究員は日本の未来を支える貴重な人材であ る。彼らが民間会社、中学高校の教育職、科 学館職員などアカデミアの研究職以外でも活 躍できるよう国を挙げてのサポートを行って いく必要があるのではなかろうか。もちろん ポスドク自身もアカデミア研究職以外にも目を 向ける必要がある。

 

 

 

 

 

ディスカッションペーパー『中国におけるシェアリング・エコノミーの利用状況と労働法上の問題』

ChukiJILPTのディスカッションペーパー 18-04として、仲琦さんの『中国におけるシェアリング・エコノミーの利用状況と労働法上の問題』がアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2018/18-04.html

昨年4月に明治大学で日中雇用・労使関係シンポジウムがあり、私も報告したことは前に書きましたが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/post-5962.html(日中雇用・労使関係シンポジウム(再掲))

その時、日本側が伝統的な非正規の話ばかりしていたのに対し、中国側は時代の最先端の話ばかりしていたということをコメント欄に書いたところ、

昨日、今日とほぼ全日このシンポジウムに出て、いろいろと感想がありますが、一言で言うと、「非正規雇用」という統一テーマに対して、日本側は(私も含めて)より伝統的なというか非正規労働を取り上げていたのに対し、中国側はほぼ軒並みに、シェアリング経済、プラットフォーム経済という時代の最先端の新しい非正規労働を取り上げていたのが印象的でした。

同じシンポに出ていた梶谷懐さんが東洋経済で

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/post-b911.html(新たな労働問題に悩むシェアリング経済先進国@梶谷懐)

二日間の会議には、首都経済貿易大学の常凱教授ら中国からも多くの専門家が参加し、日中両国の非正規労働問題について議論を深めた。その中で、非常に印象深いことが一つあった。日本側の参加者が経済のグローバル化に伴う雇用の不安定化や、労働運動の直面する困難性といった従来型の労働問題を取り上げたのに対し、中国側の参加者はシェアリングエコノミーの急速な普及によって生じた新しいタイプの非正規労働問題を指摘した。両者の間に大きな問題意識のズレが見られたのだ。

と書かれるなど、似たような感想が共通に抱かれていました。

その中国のシェアリングエコノミーの状況を、中国出身の仲琦さんがまとめたのがこのディスカッションペーパーです。

それほど長いものではないので、是非リンク先で一読して欲しいと思いますが、

1.同じ就労形態の下で、就労者に契約形態を選択する権利が与えられる場合がある

2.本業と副業の区別ができず、使用者責任の帰趨が明らかではない場合がある

3.労働時間が短いほど業績が高く評価される、完全な「成果給」制度が存在する

というあたりは興味深いところです。

『情報労連REPORT』3月号

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『情報労連REPORT』3月号が届きました。特集は「労働組合って何するところ?何をしている?」です。

http://ictj-report.joho.or.jp/1803/

情報労連の柴田書記長の「「労働組合」って何で必要なんですか?情報労連書記長が答えます」から始まって、KDDI労組や全統一の生活クラブ生協ユニオン支部の紹介もありますが、

ここではやはり金子良事さんの「連帯の気持ちを表現することから「ストライキのある風景」が戻ってくる」を。

http://ictj-report.joho.or.jp/1803/sp07.html

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・・・ただまず何よりも大事なことは闘っている労働者への支援の気持ちを表現することです。組織が先にあるのではありません。あくまでも労働者同士の連帯が先にあるのです。

古い労働組合の史料を整理していると、激励文に出合うことがあります。その文言は形式的な資本主義打倒というものもありますが、党派的な立場を超えて、闘う労働者を支援する気持ちにあふれています。例えば、仲間と昼ご飯を食べながら今闘っているストライキに共感する話題になったら、ネット署名を展開するのも当世風でいいですが、その場にいる仲間で声を掛け合って連名で、古風にその気持ちをつづって当該組合に激励の手紙を書くのも良いかもしれません。

春闘にしても、ここ数年は賃上げ要求の流れが生まれてきましたが、当初は要求すること自体に二の足を踏む組合も多く、要求のやり方がわからずに労政事務所に駆け込むところさえもありました。私が想像していたよりも事態は深刻でしたが、そこで多くの運動家は絶望しなかった。やがて、運動家たちの努力の結果、流れは変わり、今や要求すること自体に疑問を持つことは少なくなりました。それは当たり前かもしれませんが、大きな一歩、成果です。

ストライキにも同じことが起こるかもしれません。派遣村やその後の東日本大震災の後の反原発デモを経験した後、近年では、ストライキのニュースがネット上で取り上げられるようになり、ストへのまなざしも少しずつ変わりつつあるのではないかと感じています。「ストライキのある風景」が違和感のない形で戻ってきているかもしれません。あとはどうするかです。

2018年3月15日 (木)

『季刊労働法』2018春号

4910197090486_2『季刊労働法』2018春号が届きました。今号の第1特集は「性差別禁止法のエンフォースメント」、第2特集は「台湾労働法の現状」です。

第1特集では、JILPTの高橋陽子さんが「雇用環境・均等部における紛争解決・救済の現状」を書いているほか、利用者調査に基づく論文が5本載っています。

性差別禁止法のエンフォースメント

本特集の趣旨ついて 早稲田大学教授 浅倉むつ子

雇用環境・均等部における紛争解決・救済の現状 労働政策研究・研修機構研究員 高橋陽子

利用者ヒアリングからみた均等法・育介法の労働局による実効性確保の意義と課題 専修大学准教授 長谷川 聡

不利益取扱いとハラスメントをめぐる紛争解決 北海道教育大学教授 菅野淑子

職場のハラスメントに関する法政策の実効性確保―労働局の利用者調査からみた均等法のセクシュアルハラスメントの行政救済に関する一考察  労働政策研究・研修機構副主任研究員 内藤 忍

雇用平等法における実効性の確保―均等法における調停制度の意義 法政大学兼任講師 宮崎由佳

第2特集の台湾労働法も、5年前に『団結と参加』をまとめるときに当時の動きを調べて興味をそそられたこともあり、とても勉強になります。

第2特集 台湾労働法の現状

台湾における労使関係の変遷と労働法制の動向 台北大学教授 侯 岳宏

台湾における居宅介護労働者の労働条件保護―居宅介護労働者への労働法の適用のあり方をめぐる議論の検討をとおして 高知県立大学准教授 根岸 忠

台湾の新集団的労働法における「複数組合主義」の現状と法的争点 京都大学特定助教・ハーバード大学客員研究員 張 智程

台湾における国連障害者権利条約の国内批准と合理的配慮 東京経済大学教授 中川 純

も一つ、右の表紙には載っていませんが、前号から始まった「クラウドワーク」の集中連載、今号は井川志郎さんがEUの、滝原啓允さんがイギリスを取り上げており、とても読み応えがあります。

集中連載 クラウドワークの進展と労働法の課題

クラウドワークに関するEUの政策動向~協同経済(collaborative economy)についてのヨーロッパ指針を中心に~ 山口大学講師 井川志郎

イギリスにおけるクラウドワークの進展と労働法の課題―Uber型を念頭とした「労働者(worker)」概念に関する立法論とその焦点― 法政大学現代法研究所客員研究員 滝原啓允

その他の記事は次の通りです。

■論説■
マクロン・オルドナンスによる労働契約法の改革 ―不当解雇の金銭補償,工事・作業契約,集団的約定解約― 九州大学名誉教授 野田 進

働き方改革時代の労働時間の認定判断と適正把握に向けての課題 北海学園大学教授・弁護士 淺野高宏

■研究論文■
アメリカの大学教員解雇に関するAAUPの手続基準と裁判例の検討 九州大学大学院法学研究院協力研究員 鶴﨑新一郎

■アジアの労働法と労働問題 第32回■
フィリピンの女性労働とジェンダー ―海外就労を中心に 日本大学教授 神尾真知子

■イギリス労働法研究会 第28回■
就業者の法的地位と不安定就業に関する考察~イギリス法の視点から~ ロンドン大学経済政治学院・博士 アストリッド・サンダース 訳 後藤 究(中央大学大学院博士後期課程)

■労働法の立法学 第49回■
EUの透明で予見可能な労働条件指令案 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口桂一郎

■判例研究■
障害を有する労働者の精神障害発症・増悪(悪化)の業務起因性の判断 国・厚木労基署長(ソニー)事件・東京地判平成28・12・21労働判例1158号91頁 上智大学教授 富永晃一

■キャリア法学への誘い 第12回■
キャリア形成をめぐる事業主の義務 法政大学名誉教授 諏訪康雄

■重要労働判例解説■
60歳満了型選択者への新継続雇用制度不適用の適法性 NTT西日本(定年再雇用拒否)事件・大分地判平成29.9.14LEX/DB25547170 大分大学講師 小山敬晴

有期契約労働者に対する期間途中解雇の効力 ジーエル(保全異議)事件・津地決平28.7.25労判1152号26頁 琉球大学准教授 戸谷義治

私の「労働法の立法学」は、今回は趣向を変えてEUの直近の動きを紹介しています。井川さんの論文のはじめの方に出てくるEU社会権基軸に係る指令案の紹介です。

2018年3月14日 (水)

中野円佳『上司の「いじり」が許せない』

9784062884693_obi_w中野円佳さんより『上司の「いじり」が許せない』(講談社現代新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062884693

「いじめ」と「いじり」の最も大きく違うのは、「いじめ」は被害者に対して悪意を持って行われるものですが、「いじり」は加害者側が被害者に対し「愛ゆえの行為」「良かれと思ってやっている」点です。しかし、「いじり」の被害者は、加害者の思いも寄らないほど精神的にダメージを受け、「線路に飛び込みそうになった」り(取材した某一流企業勤務総合職女性のコメント)します。
本書では、日本でおそらく初めて職場における「いじり」について真っ正面から向き合い、実態調査し、問題提起します。「いじり」の被害者はもちろん、「自分も加害者かもしれない」と思い当たる節のある多くの読者の方に手に取っていただけたらと思います。

『育休世代のジレンマ』で一気に働く女子たちの代弁者としてブレイクした中野さんの新著は「いじり」がテーマです。

本書のもとは、ちょうど1年近く前にネットメディアの「現代ビジネス」に書かれたこの文章で、

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51374(「コイツには何言ってもいい系女子」が密かに我が身を切り刻んでる件)

これに対する反響が余りにも大きかったことから、遂にこの本にまで結実することになったようです。

いじりはいじめに劣らず被害者の心をさいなむにもかかわらず、いじめのように取り上げられることがありません。

電通の高橋まつりさんの事件を、もっぱら長時間労働問題というストーリーでのみ論じること自体が、たとえそれが長時間労働に対する正当な批判意識からくるものであったとしても、結果的に、「女子力がない」と彼女をいじり続けた上司の行為から目を背けることになってしまっているのかも知れません。

呉学殊『組織変動に伴う労働関係上の諸問題に関する調査』

OhJILPTの資料シリーズとして、呉学殊さんの『組織変動に伴う労働関係上の諸問題に関する調査』がようやく出ました。

http://www.jil.go.jp/institute/siryo/2018/196.html

これは2016年に行われた組織変動関係の省令指針の見直しにつながった検討会での審議のために呉さんが全国を駆け回って調べた実態調査を取りまとめたものです。

主な事実発見

組織変動の7つの事例(分割6、事業譲渡1、また合併1(分割と併行))について、変動の主要背景、プロセス、その過程における労使関係等を考察した。主要背景は、「分割部門業績悪化・他社同業部門との統合再編」、「分割部門専業化・他社同業部門との統合再編」、「分割益活用・選択事業集中戦略再編」、「分割部門と異種部門子会社との統合シナジー効果再編」、「分割部門と同種部門子会社との統合シナジー効果再編」、そして「不採算部門切り離し同業他社への譲渡再編」という類型に分けることができる。

労働組合は、分割の際に、法律に規定されている「理解と協力(労働契約承継法の「7条措置」)」の履行において、その担い手として、適法性の確保における重要な役割を果たしている。また、組合は、組合員の再編情報に関する理解度の向上、再編の円滑な履行の確保、組合員の企業への求心力の向上および納得性の向上、さらに企業の健全経営への催促等の役割も果たしている。こうした役割は、過半数組合ではない場合、制限されている。「理解と協力」の内容は、法律の中には明記されていないが、多くの場合、事実上の同意に等しいものであった。

政策的インプリケーション

労働契約承継法に対する労使の評価は概ねよい。しかし、悪用可能性があるとの指摘もなされた。その可能性を減らし、相識変動の円滑化と労働者保護をいっそう図るために次のような対応が求められる。第1に、信頼に基づく良好な労使関係の構築である。労働組合の組織率がほぼ一貫して低下し、2017年17.1%に過ぎず、大半の企業では集団的労使関係の担い手がない。労使関係の担い手を正当に確保するために、現行の過半数代表者の選出等の問題点の改善、―まずは適切に過半数代表者が選出される方策、さらには従業員代表制の法制化の必要性を検討すること―が求められる。

第2に、法律に規定されている会社と労働者個人との協議(いわゆる「5条協議」)は、事実上、業務命令上のものになりがちで、「対等な立場での話し合いで自分の意見を自由にいえてそれを反映する」ほどのものになっていない。こうした実態を踏まえて、「理解と協力」の「7条措置」を事実上の同意に格上げして労働者の保護をいっそう図ることも考えてよいのではないか。

第3に、労使関係の信頼度に応じた規制の柔軟な適用・運用が求められる。日本の企業では、過半数組合、少数組合、無組合等の違いがあって、労使関係にも大きな幅がある。労働基準法等の労働法では、労使関係の対等性原則が規定されているが、労働者側にその対等性の担い手は過半数組合がより望ましい。過半数組合のある企業では、分割に関する協議等を労使自治に任せて、少数組合や無組合の企業では行政の関与を強めてその対等性確保を図ることも考えられる。過半数組合、労働協約等の有無に基づいて労使関係の信頼度を測り、信頼度の高い企業には規制の現状維持や緩和、低い企業には規制の強化を図っていくことも必要であろう。

7事例はいずれも興味深く、労使関係関係者には有益だと思います。

なお、一部は既に仁田道夫編著『これからの集団的労使関係を問う』(エイデル研究所)の呉論文で用いられています。

ここまで報告書の刊行が遅れたのは、調査先の労働組合からなかなかOKが出なかったかららしく、労使関係の研究がますます難しくなっている一端が垣間見えるようです。

先日、『グローバル化のなかの労使関係』を書かれた首藤若菜さんからも、せっかく面白い話をいっぱい聞いたのに、労働組合のOKが出なくて泣く泣く原稿から落としたエピソードが山のようにあるという話を伺ったところです。

労使関係の面白さを伝えることがますます困難になる責任の一端は労働組合自身にもあるのかも知れません。

榎一江編著『戦時期の労働と生活』

9784588625398_0大原社研の金子良事さんより、 榎一江編著『戦時期の労働と生活』(法政大学出版局)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-62539-8.html

戦時統制下の日本において戦争遂行のために推進された政策や運動はいかなる論理をもって展開され、人々の日々の営みと労働のありかたをいかに変えたのか。産業報国会に関する貴重な資料の調査プロジェクトを軸として、経済史・労働史・政治史・法制史・女性史・思想史の専門家らが、多様な文脈をふまえて総力戦体制を論じ、社会の構造的変化を明らかにする。

というわけで、私の問題関心からも大変興味深い本です。

とりわけ、産業報国会を扱った

第二章 産業報国運動は手段か目的か──鮎澤巌の視点から(松田 忍)

第三章 産業報国会とドイツ労働戦線(DAF)──形成過程の比較と日本におけるDAFに対する認識(枡田大知彦)

はとても面白かったです。というか、実は枡田さんの使っている森戸辰男『独逸労働戦線と産業報国運動』はJILPTの図書館にも置いてあり、結構熱心に読んだ記憶もあったりします。

ただ何というか、全体としてやや散漫な感があり、全体を貫く問題意識がよく読み取れない感も受けました。

いや、それがまさに終章で提示されている「勤労イデオロギー」だということなのでしょうが、

終 章 勤労イデオロギーに包摂される労働と生活(松田 忍)

金子さんの論文は、とりわけ協調会の時局対策委員会に注目して人口政策確立要綱に至る流れを概観しています。私の関心とはややずれる分野ではありますが、この時期の社会政策の動きの人的構造がかなり明確に示されていて、興味深かったです。

第四章 戦時「人口政策」の水脈(金子良事)

あとまあ、やはり、『働く女子の運命』でかなり紙数を割いた戦時期女性労働政策については、堀川さんの論文が現代的関心から鋭く突っ込んでいます。

第七章 戦時期における女性労働政策の展開──総動員体制下の健康と賃金に焦点をあてて(堀川祐里)

2018年3月13日 (火)

鄒庭雲『派遣労働契約法の試み』

07664鄒庭雲さんより『派遣労働契約法の試み 派遣労働契約の法規制をめぐる日・中・仏の比較法的考察』(日本評論社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/7664.html

労働者派遣の法規制はどうあるべきか。日・中・仏の比較を通し、三者間の派遣労働契約という形に着目した新たな視座を提供する。

2015年に派遣法の大改正がされて以降、本格的な派遣労働法の論考が続々と刊行されてきていますが、本書はその中でも、「派遣労働契約」に着目した比較法研究として注目すべき内容があります。とりわけ、著者が中国人であることもあり、中国の派遣労働法との比較は、日本人には見えにくい日本の派遣法の特徴を見える化してくれる面もあり、大変有益です。

はしがき

序論 問題意識と検討の視角
 第1章 問題の所在
 第2章 比較法的研究の意義と分析視角

第1編 日本
 第1章 日本における労働者派遣とその制度の特徴
 第2章 派遣労働契約の内容決定のあり方
 第3章 派遣労働契約による雇用確保のあり方
 第4章 派遣元と派遣先の間の責任帰属の構造

第2編 中国
 第1章 中国における労働者派遣とその制度の特徴
 第2章 派遣労働契約の内容決定のあり方
 第3章 派遣労働契約による雇用確保のあり方
 第4章 派遣元と派遣先の間の責任帰属の構造

第3編 フランス
 第1章 フランスにおける労働者派遣とその制度の特徴
 第2章 派遣労働契約の内容決定のあり方
 第3章 派遣労働契約による雇用確保のあり方
 第4章 派遣元と派遣先の間の責任帰属の構造

第4編 総括
 第1章 問題状況の基盤における違い
 第2章 三ヵ国における派遣労働契約の法規制上の位置づけ
 第3章 日本法への示唆――「派遣労働契約法」の試み

鄒さんは今年5月から中国の華東政法大学(上海)にいかれるそうですが、派遣法に限らず、今後重要性を増す中国労働法について、日本との橋渡し役になっていっていただきたいと思います。

2018年3月10日 (土)

久本憲夫『新・正社員論―共稼ぎ正社員モデルの提言』

9784502249617_240 久本憲夫さんから『新・正社員論―共稼ぎ正社員モデルの提言』(中央経済社)をお送りいただきました。ありがとうございます。久本さんの正社員論といえば、単著としては15年前の『正社員ルネサンス』(中公新書)以来ということになりますが、副題にもあるように、「片稼ぎ型」ではなく「共稼ぎ正社員モデル」を確立しなければならないという使命感が強くにじみ出た本になっています。

http://www.biz-book.jp/books/detail/978-4-502-24961-7

多くの日本人が抱いている「正社員」のイメージは過去のもであり、今日の正社員の実態と乖離している。最新の正社員像として「共稼ぎ正社員モデル」を提言し、施策を考察する。

この「多くの日本人が抱いている「正社員」のイメージは過去のもであり、今日の正社員の実態と乖離している」というのは、右の表紙の帯に書かれている「多くの正社員は残業しないし、転勤もしない」ということなんですが、もちろん、それは実際にはということであって、可能性があるという意味では残業はありうるし、転勤もありうるほうが多数派であることは本書に書かれています。実はここが、日本型雇用システムという実態であるとともに規範でもある仕組みのむずかしいところでもあるんですね。そして、判例法理という規範のレベルでは、残業ありうべし、転勤ありうべしが、整理解雇あるべからずとともに正社員なるものの規範的要件になってしまう。

そこを変えなければ、男女ともに正社員として働き続けながら家族形成し,子供を無理なく育てるということなんてできないだろう、というまさに正しい議論を正面から展開しているんですが、その「ありうべし」の規範が他のもろもろと結びつくことで、そう簡単に解きほぐしにくくなってしまっているからこそ、働き方改革もなかなか進まないわけです。

実をいうと、本書で提言に相当する部分で久本さんが主張していること自体は、労働時間口座の確立とか、年休の時効の廃止とか、割増残業化の実現、36協定締結の厳格化と固定残業制の原則禁止、そして転勤拒否権の容認などで、最後のものは私もそろそろ考えるべきだろ思いますが、労働時間関連のものはやや見飽きた感もあり、なんというか、も少し根っこにさかのぼった話が欲しい感がします。

それは、本書では補論3として小さな字で掲載されていますが、正社員の歴史を戦前にさかのぼって見直してみると、それは結局世界のどの社会にもあるごく少数のエリート向けの働き方の規範を、ノンエリートのホワイトカラーやブルーカラーにまでも拡張適用していった平等主義のなれの果てともいえるわけで、その無理をどこまで維持するのかということと表裏一体でもあるわけです。

問題意識としては、ここ数年来いくつかの新書で論じてきたことどもと密接につながる論点が多く、大変興味深く読みました。

やはり、どんなに正義感に燃えた議論であっても、そもそも1.2モデルの片働き正社員モデルを大前提にして論じている限り、なかなか行き止まりの道から出ることは難しいのでしょう。

 

 

 

 

 

 

2018年3月 8日 (木)

長澤・ハマキョウにいよいよ最高裁判決?

最高裁がこの2事案について、4月に弁論期日を設定したとのことで、

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27812940X00C18A3CR8000

正社員と非正社員の待遇の格差が違法かどうかが争われた2件の訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)は7日、原告の非正社員と、会社側の双方から意見を聞く弁論期日を4月に指定した。労働契約法20条が禁じる「不合理な格差」の線引きを巡る司法判断が割れており、最高裁が解釈について初判断を示すとみられる。判決言い渡しは5~6月ごろの見通し。

それまで労働法関係の本は出るのをこらえることになるのかも知れません。

2018年3月 7日 (水)

金津健治『目標による管理』

Bk00000504例によって讃井暢子さんより金津健治『目標による管理-組織成果を高める運用法、職場水準に応じた展開法』(経団連出版)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=504&fl=

◆働き方改革時代の生産性向上策
◆従業員の意識改革からプロフェッショナル人材の育成まで
◆「目標管理」運用の段階的レベルアップ法
◆運用ノウハウや手法を50点以上の図表を用いて紹介

「目標による管理」(目標管理)は、今日ではどこの企業でも人事評価制度や経営管理の仕組みとして
欠かせないものとなっているにもかかわらず、多くの職場ではいまだに試行錯誤が繰り返されています。
問題となっている点を解決しようと仕組みを見直しても、別の新たな不具合が生じ、
人事担当者も管理職も変更された仕組みに振り回されているのが実情です。
そのような中で管理職が、自身のマネジメント力や部下の特性、業務の繁忙度などに合わせて
目標管理を展開するための方法を紹介します。

海老原さんはジョブ型論を全面展開

Pc077197一方、海老原嗣生さんは、「CodeIQ Magazine」で、ジョブ型論を全面展開しています。

https://codeiq.jp/magazine/2018/03/57040/(なぜ、日本では転職が少ないのか?―海老原嗣生氏が語る「人事管理の側面から見る日本の働き方」①)

https://codeiq.jp/magazine/2018/03/57042/(なぜ、日本は解雇が難しいのか?―海老原嗣生氏が語る「人事管理の側面から見る日本の働き方」②)

その中で、私の名前も出てきます。

「日本は自由に解雇できないと経営者は言いますが、その分、どれだけメリットがあるのか、欧米と比べて考えてみてほしい。これを労働者も理解してほしい。悪いこともあるが良いこともあるから成り立つ、裏と表なのです」

海老原氏は、濱口桂一郎さんの言葉を引用して、「世界中の雇用システムというのは、国よって大きく違う。けれど、すべてが一長一短だ。万能な労働システムはない」という。

ジョブ型労働社会の崩壊?

リクルートワークス研究所の中村天江さんと対談しました。

https://www.works-i.com/column/policy/1803_01/(メンバーシップ型・ジョブ型の「次」の模索が始まっている)

中村さんは、私にジョブ型論を展開して欲しかったようですが、その期待を裏切り(?)、いやその「ジョブ型」が、第4次産業革命によって崩れていくかも知れないよというお話をしました。

濱口 日本では今、メンバーシップ型に問題があるのでジョブ型の要素を取り入れようという議論をしています。ですが、今の私のすごく大まかな状況認識は、これまで欧米で100年間にわたり確立してきたジョブ型の労働社会そのものが第4次産業革命で崩れつつあるかもしれないということです。欧米では新しい技術革新の中で労働の世界がどう変化していくのかに大きな関心が集まっています。・・・

・・・しかし今の欧米は違う。欧米ではこれまで事業活動をジョブという形に切り出し、そのジョブに人を当てはめることで長期的に回していくことが効率的とされた。ところがプラットフォーム・エコノミーに代表されるように情報通信技術が発達し、ジョブ型雇用でなくともスポット的に人を使えば物事が回るのではないかという声が急激に浮上している。私はそれを「ジョブからタスクへ」と呼んでいます。

Works


2018年3月 6日 (火)

消費者にも求められる「態度」がある

Covernew『月刊連合』3月号は、「特集 よりよい消費社会をめざして “思いやり”の心で “優しい社会”を!」が注目です。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

商品・サービスに関するクレームや改善要求は、健全な消費活動にとって必要な行為であり、事業者にとっても商品開発やサービス向上につながる情報として積極的に受け止めるべきものだ。ただ、最近、暴言や土下座を強要するなどの「行き過ぎた行為」によって、接客業務で働く人が強いストレスを感じるケースも報告されている。消費をめぐる現場で何が起きているのか、背景には何があるのか。連合が昨年11月、実態把握を目的に実施したインターネット調査(消費者行動に関する実態調査)の結果を手がかりに、消費者心理を研究する関西大学の池内教授に、クレームがエスカレートする背景とメカニズムについて聞いた。つづいて、UAゼンセン流通部門の西尾事務局長には、現場の切実な声と労働組合の役割について、また連合の小熊社会政策局長には、実態調査を実施した経緯と今後の取り組みについて聞いた。最後に「行き過ぎたクレーム」への対応を始めている、自治労の川本委員長、情報労連の野田委員長、運輸労連の難波委員長、航空連合の島会長と相原連合事務局長による座談会を開催した。
                    今、労働組合として何が求められているのか、また私たち一人ひとりが消費者として何をすればいいのか、この特集を通じて考えたい。

ということで、こういうラインナップですが、

■ 社会的背景とメカニズム 池内裕美 関西大学社会学部教授
■ 今、現場で起きていること 西尾多聞 UAゼンセン常任中央執行委員 流通部門事務局長
■ 連合のスタンスと取り組み 小熊 栄 連合社会政策局長
■ 座談会
互いに“働く者同士”、互いに“思いやり”の気持ちを
川本 淳 自治労委員長
野田三七生 情報労連委員長
難波淳介 運輸労連委員長
島 大貴 航空連合会長
相原康伸 連合事務局長

この問題、以前UAゼンセンの調査結果について本ブログで紹介しましたが、広くサービスに関わる職場全ての問題として、連合自体も乗り出してきたようです。

座談会から、クレーマー消費者の例を:

難波 ・・・実は今、宅配ボックスをめぐっても、「なぜ、ボックスに入れたのか、こんな重いものを自分で運べというのか」という苦情が出る。逆にボックスに空きがなくて持ち帰ると、「なぜボックスに入れてくれないのか」

島 ・・・国内線では、出発時間ギリギリに駆け込んでくるお客様がいて、「なぜ乗せないのか」とクレームになる。国際線では、パスポートの期限切れなど渡航書塁の不備で出発できないお客様がいる。「何とかしろ」といわれても、どうにもできないが、納得して貰えずクレームに発展してしまう。・・・

たぶんこれ、他の産別の人が出たらまたいろんな事例がわんさか出てくると思われます。

2018年3月 2日 (金)

『労働六法2018』

352356 旬報社より『労働六法2018』をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.junposha.com/book/b352356.html

新たに成立した外国人技能実習法を掲載。企業の求人ルールを変更する職業安定法ほか雇用保険法、障害者雇用促進法などの改正に対応。

2004年版から数えればもう15冊目と歴史を重ねてきた『労働六法』ですが、私が担当しているEU法の部分は、最近あまり変化がありません。

ただ、昨年末に欧州委員会が透明で予見可能な労働条件指令案を提出したところなので、もしかしたらそろそろ動きがあるかもしれませんが。

この件、今月出る『季刊労働法』で取り上げております。

 

 

「雇用されている精神障害者5万人超」@『労務事情』2018年3月1日号

Romujijo_2018_03_01『労務事情』2018年3月1日号に「雇用されている精神障害者5万人超」を寄稿しました。

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/b20180301.html

この連載も最後になりました。来月2018年4月には、いよいよ精神障害者の雇用義務化が施行されます。そこで今回は、施行直前の障害者の雇用状況を、昨年12月に公表された「平成29 年障害者雇用状況の集計結果」で見ておきましょう。 ・・・

 

第二東京弁護士会 労働問題検討委員会『労働事件ハンドブック<2018年>』

815gvgxbkhl第二東京弁護士会 労働問題検討委員会『労働事件ハンドブック<2018年>』(労働開発研究会)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.roudou-kk.co.jp/books/book-list/5699/

労働事件について、裁判になった場合に何を主張すべきか。

労働事件を専門とする裁判官がどのような思考をするのか、その判断材料を豊富に掲載。
また、主流の判決とは異なる判断を示した下級審裁判例も多数掲載し、その事例を詳解する。

労働事件を取り扱う弁護士はもとより、労働事件の現状と実務に関心を持つ多くの方におすすめの一冊。

とはいえ、やはり労働問題を扱う弁護士の方に一番役立つであろうと思われる本です。

編者は別として執筆担当は大体21世紀に弁護士登録した若手法曹たちです。

例えば解雇のところでは、「労働者から解雇の相談を受けた場合の対応」としてまず「解雇事案か否かの確認」が出てきます。

まず、相談事案が解雇事案であるかどうかを確認する必要がある。解雇されたとして相談を受けた場合でも、相談者の話をよく聞いてみると、退職強要による合意解約であったというケースも少なくない。相談者が明確に区別していないことも多い。・・・

そうなんですよね。

いかにも実務書なのは、解雇の章にちゃんと「解雇を争う場合の雇用保険の取扱」という節があって、

・・・解雇を争いながら失業給付を受ける場合には、便宜上の手続である「仮給付」として受けるべきである。・・・この場合、求職の申込みをしなくても基本手当を受けることができる。

仮給付を受けるに当たっては、解雇を争って係争中であることを示す文書(・・・)を提出する。・・・

と解説していることです。

そして、雇用保険の章にもちゃんと、

・・・地位確認が認められた場合等、過去の賃金(バックペイ)が使用者から支払われた場合には、一旦受給した雇用保険の給付をハローワークに返還する。なお、和解により合意退職とした上で解決金が支払われた場合には、解雇日付けの合意退職の場合の解決金は返還不要であり、和解日付け(解雇日より後の日付)の合意退職の場合は賃金と扱われて返還が求められる。・・・

と懇切な説明が載っています。

小山博章・町田悠生子『裁判例や通達から読み解くマタニティ・ハラスメント』

28926564_1小山博章・町田悠生子編著『裁判例や通達から読み解くマタニティ・ハラスメント 引き起こさないための対応実務』(労働開発研究会)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.roudou-kk.co.jp/news/5711/

■実際の相談事例をもとに徹底解説!
■Q&A方式でどのような行為がマタハラになるのか,適法・違法の線引きが必ずしも明瞭ではないマタハラ問題を,可能な限りわかりやすく解説。
また,マタハラ事例集として職場環境の整備にも役立つ一冊

出ました、マタハラ実務本、というわけですが、マタハラだけで500ページになるのかな、と下記目次をみてみると、厳密な意味での妊娠・出産関連のハラスメントだけではなく、育児ハラスメントも、またこれは世間のマタハラという用語法自体の問題ですが、広く解雇まで含む不利益取扱い全般が対象になっています。

厳密な人になると、これでマタハラというタイトルにするのか、と思うかも知れませんが、まあ、現代日本ではジェンダーとリプロダクションに関わる広範な領域を指す言葉になっているんだと思った方がいいのかも知れません。

第1章 マタハラとは
第2章 妊娠に関するマタハラ
Ⅰ 採用・試用期間
Ⅱ 配置の決定・変更
Ⅲ 契約内容の変更
Ⅳ 降格
Ⅴ 人事評価
Ⅵ 賃金・賞与の取扱い
Ⅶ その他の人事上の措置・処遇
Ⅷ 解雇・退職
第3章 産前産後休業・育児休業の取得に関するマタハラ
Ⅰ 休業制度の利用
Ⅱ 配置の決定・変更
Ⅲ 降格
Ⅳ 賃金の取扱い(賞与を除く)
Ⅴ 賞与の取扱い
Ⅵ その他の人事上の措置・処遇
第4章 育児休業等からの復帰に関するマタハラ
Ⅰ 復帰時の配置・職位
Ⅱ 雇用の終了
第5章 育児短時間勤務等の制度利用に関するマタハラ
Ⅰ 育児短時間勤務(時短)
Ⅱ 子の看護休暇
Ⅲ 所定外労働の免除
第6章 育児・子育てと仕事の両立
第7章 マタハラ防止措置体制等の構築
Ⅰ マタハラ防止措置義務
Ⅱ 妊娠・出産・育児等に関する制度設計
第8章 出産・育児休業等にまつわる社会保険・助成金
◆巻末資料

問いの中にはこんなのもあります。

Q23 妊娠してから勤務時間中の居眠りが増えた従業員が、勤務時間中に目を閉じて船を漕いでいたので、上司の私が「大丈夫ですか?」と声を掛けたところ、「何のことか分かりません。言い方がきつくてパワハラです」と言われました。この従業員が言うとおり、私の発言は、パワハラやマタハラに当たるのでしょうか。また、妊娠に起因するかも知れない居眠り等を注意するときは、どのような点に留意すれば良いのでしょうか。

答えは本書88頁以下にあります。

冲永賞にも桑村裕美子『労働者保護法の基礎と構造』

労働問題リサーチセンターが毎年授賞している冲永賞が発表され、今年度は桑村裕美子さんの『労働者保護法の基礎と構造』(有斐閣)と島田裕子さんの論文「平等な賃金支払いの法理」が受賞したようです。

https://www.lrc.gr.jp/recognize

L14490桑村さんの本については、JILPTの労働関係図書優秀賞も受賞していますので今年度2冠と言うことになりますね。

刊行時とJILPTの受賞時に本ブログで取り上げていますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/02/post-e09e.html(桑村裕美子『労働者保護法の基礎と構造』)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/29-6f5e.html(平成29年度労働関係図書優秀賞・労働関係論文優秀賞)

前にも書いたように、本書はもともと『労働条件決定における国家と労使の役割』というタイトルで2008年に『法学協会雑誌』に連載されたものであり、ちょうど私が東大法学部に客員としてお世話になっていた頃に、(おそらく旧制度下の最後の)学士助手として入った彼女が取り組んでいたテーマであることを考えると、結構年季の入ったテーマでもあります。

この間にドイ法やとりわけフランス法が大きく激変してきたことを受け、旧論文のテーマを個別合意による逸脱にまで拡大して労働者保護法という観点からのより包括的な研究になった一方、規範設定システムとしての集団的労使関係システムの視点がやや縮小した点への評価は人によって様々でしょう。

旧論文の最後で、「また、本論文では柔軟化の手段としては労使の集団的合意に限定したが、国家と労使の規範設定関係を論じる上では個別契約を含めて検討する必要があり、比較法的にも個別契約を主たる法源とする英米法の検討が不可欠となろう」と述べていましたが、本書の勢いをもって同じEU(から脱退することになってますが)のイギリスの規範設定システムを論じて貰える日がそのうち来るのではないかと期待しています。

98f445_1cddcc3f9f9d4a509296777c9627もう一つの島田さんの論文は、『法学論叢』に連載されたもので、同一労働同一賃金が話題となっている現在、いろいろと示唆的な論文です。

抜き刷りをお送りいただいた時のお手紙には「今後は・・・平等の観点に限らず、交換的正義の観点からも、労働契約の内容に関する規制の在り方について検討したいと考えております」と書かれていました。こちらも期待しております。

(追記)

まったくどうでもいいことですが、リンク先に「これまでの冲永賞表彰」というのがあったので覗いてみたら、昭和61年度の第1回受賞図書には、

3 職業ハンドブック 雇用職業総合研究所 ((財)雇用情報センター)

4 社会・労働運動大年表 大原社会問題研究所 (労働旬報社)

なんてのがあって、おやおや「図書」って、そういうのも入るんだ、と再認識。

ついでながらその第1回の論文賞は

1 「不当労働行為事件命令の司法審査」 司法修習生 山川隆一 (法学協会雑誌)

現中労委会長はそのとき司法修習生だったのですね。

2018年3月 1日 (木)

『Japan Labor Issues』2/3月号

Jli英文労働誌『Japan Labor Issues』の2018年2/3月号が刊行されました。今号は論文特集号です。

http://www.jil.go.jp/english/jli/documents/2018/005-00.pdf

This special issue includes six significant papers selected by the Editorial Board of Japan Labor Issues from various relevant papers published in 2016–2017. These papers address the latest subjects as well as conventional themes on labor in Japan that may be of interest to overseas observers, which is the purpose of this journal. Since the original papers were written in Japanese, each author has arranged translation for the benefit of overseas readers.  We hope they will offer useful information and deeper insights into the state of labor in Japan.

ということで、2016-2017年に書かれた日本語の論文6つの英訳が載っています。

英文タイトルは以下の通りですが、

A Legal Study on Equal or Balanced Treatment for Regular and Non-Regular Workers in Japan: With Particular Focus on the Relationship between Anti-Discrimination Principle and Policy-Based Regulations for Equal or Balanced Treatment  Koichi Tominaga

Fixed-Term Contract Employees and Intra-Firm Wage Gaps: Focusing on the Reasons Why Companies Use Them Koji Takahashi

Why Do the Japanese Work Long Hours? Sociological Perspectives on Long Working Hours in Japan  Hiroshi Ono

Challenges for Workplace regarding the Autonomy of Working Hours: Perspective for the Prevention of Overwork  Tomohiro Takami

Learning Histories and Careers: The Outcome of Kosen (National Colleges of Technology) Education  Masakazu Yano

Current Status of Talent Management in Japan: Based on Insights into Procurement and Development of Next-Generation Executive Human Resources at Japanese Manufacturers Itaru Nishimura

人によっては、もとの邦語論文で読みたいという方もいるでしょうから、そのリンクも張っておきます。

企業内賃金格差をめぐる法学的考察─正規労働者と非正規労働者の均等待遇を中心に 富永晃一(上智大学法学部准教授)

有期社員と企業内賃金格差 高橋康二(JILPT副主任研究員)

日本の労働時間はなぜ減らないのか?─長時間労働の社会学的考察 小野浩(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)

働く時間の自律性をめぐる職場の課題─過重労働防止の観点から高見具広(JILPT研究員)

「学習歴とキャリア」に関するいくつかの研究課題─高専教育の実績に学ぶ 矢野眞和(東京工業大学名誉教授)

労働政策研究報告書 No.194 次世代幹部人材の発掘と育成に関する研究 事業をグローバルに展開する製造企業を中心に  西村純(JILPT副主任研究員)

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