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矢吹晋『沖縄のナワを解く』

先日のエントリで紹介したように、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/02/100-a24f.html(社会主義理論研究会(池袋)『ロシア革命100年を考える』 )

本ブログのコメント欄に時たま「希流」というハンドルネームで書きこまれる情況出版の服部さんという方から、雑誌『情況』の最新号と、情況選書ということで出版された本を二冊お送りいただきました。

1505097011221staff01_imgそのもう一冊が、矢吹晋さんの『沖縄のナワを解く』(世界書院)です。『情況』は人も知るとおりブント系の新左翼雑誌ですが、一緒に送られてきた同誌の最新号にも朝鮮総連系の人が北朝鮮の弁護論みたいなのを書いていて、この辺の日本的新左翼の妙なアジア的専制主義への共感体質みたいなのは、少なくとも欧米の新左翼系には見られないもので、正直あんまり感心しません。

ここでいう話ではないですが、最近某美人系国際政治学者のテレビ発言が炎上しているそうですが、そもそも北朝鮮を地上の楽園と称賛しまくってきた人々の決算はどこかできちんとされているのか、それと韓国におけるナショナリズムの発露としての歴史問題の議論をない交ぜにするような議論の横行には、ある時期からの泥サヨ(泥臭いマイノリティへの憑依を正義の徴とする)の理論構築における規律のなさみたいなのが感じられます。

アジア的専制主義への奇妙な媚態と、それに抵抗する(本来の新左翼のイデオロギーからすればもっとも支持すべき)人々へのこれまた奇妙な冷酷さを示すこの周辺の匂いは、どうも受け入れがたいものがあります。

という話は、この本とは直接関係ありませんね。

本書は、幕末のペリーが琉球を「発見」したときの話、サンフランシスコ講和条約時に沖縄がどう弄ばれたかの話、その後「残存主権」という概念をめぐる話、そして、沖縄返還前後に中華民国国民政府が(そもそも本当は沖縄に対する主権を主張したかったのだけれども)尖閣列島の問題を主張し、それがその後ねじれにねじれて、今日の日中間の問題に至っているという話を、外交資料を丹念に駆使して分析した歴史書で、大変面白く読みました。矢吹さんのスタンスに同意するかどうかはともかくとして、こういう歴史的事実にきちんと立脚して議論をしていくことが何より重要だと思います。

私にとって本書で一番面白かったのは、終戦前後の時期に蒋介石が(清朝時代の琉球の朝貢を根拠として)執念深く沖縄への領土欲を示していたことです。結果的にアメリカの施政権から日本への「返還」となったのは、皮肉な話ですが、蒋介石政権が台湾に追われ、国共両方とも講和条約に呼ばれることがなかったからですが、それでも沖縄返還直前まで蒋介石はアメリカに文句を言っていたのですね。

尖閣問題というのは今では余りにも大きな話になってしまっていますが、もともとはそのついでみたいな話として中華民国が提起したものに、中共政府がついでに乗ったみたい話だったというのが、国際政治の面白さというべきでしょうか。

(追記)

本物のマルクス主義者が現代中国をきちんと分析したこんな本をかつて紹介したこともあります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/09/post-16fd.html(區龍宇『台頭する中国 その強靭性と脆弱性』)

著者は香港のマルクス主義者です。中国に何千万人といる共産党員の中に誰一人いないと思われるマルクス主義者が、イギリスの植民地だったおかげで未だに何とか(よろよろしながらも)一国二制で守られている思想信条の自由の砦の中で生き延びていられるマルクス主義者ですね。

だからこそ、中国共産党という建前上マルクス主義を奉じているはずの組織のメンバーが誰一人語ることができない「王様は裸だ」を、マルクス主義の理論通りにちゃんと分析して本にできているのですから、ありがたいことではあります。

それにしても、資本家が労働者を抑圧するのに一番良い方法は、資本家自身が労働者の代表になってしまうことだというのは、マルクス様でも思いつかないあっと驚く見事な解法でありました。

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コメント

>この辺の日本的新左翼の妙なアジア的専制主義への共感体質みたいなのは、少なくとも欧米の新左翼系には見られないもので、正直あんまり感心しません。

非欧米の左翼には、たいてい反植民地主義・反帝国主義から出た「反欧米ナショナリズム」の気風がありますので。

>そもそも北朝鮮を地上の楽園と称賛しまくってきた人々の決算はどこかできちんとされているのか、

建国間もない時期にあった「地上の楽園」をこれからつくっていきましょうという意気込みを現したスローガンですよ。

投稿: Executor | 2018年2月19日 (月) 22時01分

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