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2018年2月24日 (土)

解雇の完全補償ルールとは

L16521 昨日紹介した大内伸哉・川口大司編著『解雇規制を問い直す』ですが、後半の経済学的な部分をようやく読み終わりました。いや、ちゃんと理解したとはとても言えない状態ですが。

本書のコア部分である解雇の完全補償ルールを説明しているのは、第6章と第7章で、川口大司さんと川田恵介さんの共著です。

 第6章 望ましい金銭補償の決定に向けて:完全補償ルール(川田恵介・川口大司)
 第7章 完全補償ルールに基づく補償金額の算定(川田恵介・川口大司)

彼らの提示する解雇の完全補償ルールとは、労使間のリスクシェアリングの視点、雇い主の一方的契約破棄を防ぐ視点、労働移動を阻害しない視点、そして所得分配の視点をすべて満たすものとして、次のように定式化されます。

金銭補償額=解雇による生涯所得の低下分

生涯所得の低下分とは、現在の労働条件で働き続けた場合の生涯所得から再就職市場に参加した場合に予想される生涯所得(の割引現在価値)を控除したものです。これにより労働者は所得低下リスクから守られることになります。

しかし直感的に、日本のように年功的賃金体系が強い国では、勤続年数が増えれば増えるほど、この低下分はかなり大きくなるのではないかと思われます。

実際第7章で23歳入社の場合の生涯損失額を月額換算で示していますが、解雇時勤続年数4年だと男性で6.0か月分、女性で3.8か月分ですが、勤続20年だと男性29.3か月分、女性22.1か月分です。

勤続年数と損失額の関係のグラフを見るときれいな逆U字型の曲線になっていて、勤続25年目で最大になります。このいわば年功賃金により生じる落差を全額補償するというのが、本書の言う完全補償ルールというわけです。

うーーーむ、なるほど経済学的発想を現実に即してリアルに適用すると、こういう政策になるのだなあい、という感じです。しかし、現実にあまりに即しているだけに、そのまま規範化しにくいという感じも強く与えます。そもそも男女で生涯損失額に格差があるからといって、金銭補償ルールに「男は何か月分、女は何か月分」とは書けないでしょう。

 

 

 

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コメント

「そもそも男女で生涯損失額に格差があるからといって、金銭補償ルールに「男は何か月分、女は何か月分」とは書けないでしょう。」
ならば男性に合わせればいいと思います(小学生的発送ですが

損失額の算定をどうするかという問題はおいておくとして、解雇の完全補償ルールを導入した場合の実際的影響の問題と理念的な問題を指摘できます。

実際的影響として、濱口さんのおっしゃるように年功賃金体系のもとでは補償額が過大になるでしょうから、賃金カーブのフラット化が促進されるのではないかと思いますし、職務給の導入が避けられなくなるでしょう。つまり、内部労働市場の解体につながると思います。

理念的な問題としては、賃金が完全補償されたとしても、解雇によって失われるのは賃金だけではない。それまで職場で培われた人間関係や職場への愛着、誇りも失われる。もちろんそんなものは金銭に換算不可能だが、そのような価値を勘案した場合、賃金が完全補償されたとしても、パレート効率性は維持できない。

とはいえ、私は解雇の金銭解決に反対ではありません。ただそれは従来の労働者の行動に大きな影響を与えるでしょう。職場への全人格的没入は大変リスキーなものになりますから、労働者は企業から距離をとるようになると思われます。

解雇の金銭解決の導入は、訴訟上のテクニカルな問題に見えて、長期的には深甚なる影響を労働市場に与える可能性を秘めているように思われます。

金銭解決でもう1個心配なのは
「いま従業員を解雇したいと思っている企業は体感7割クソ企業(お目汚し失礼)なので、キチンと払われるか心配。それを担保する制度をどう構築するか」
なんですけどどうなんでしょうか。

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