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2018年2月 8日 (木)

PHP総研の提言『経営者が日本の働き方を変える』

Prl1802081534124p1 PHP総研が『経営者が日本の働き方を変える ―メンバーシップ型雇用から日本式ジョブ型雇用へ―』という提言を発表したようです。

https://thinktank.php.co.jp/policy/4495/

https://thinktank.php.co.jp/wp-content/uploads/2018/02/180208.pdf

一番最初にところにコアメッセージとともに、提言のポイントが載っているので、それもやや長いですが、こちらにコピペしておきます。

【コアメッセージ】

1、社会情勢や産業構造の変化に合わせ、弊害の大きい日本特有の雇用慣行の見直しを

2、生産性の高い諸外国の雇用システムを参考に、「日本式ジョブ型雇用」への移行を

3、政策や規制緩和を待たずに、経営者の責任として雇用システムの転換を

問題意識

● 昨今の働き方改革の議論が本質をとらえていないように感じられる。

● 生産性向上のため、政府任せ、現場任せにせず、経営者主導でできること、すべきことがもっと あるのではないか。

● 日本企業が稼ぐ力を高め、グローバル化の波の中で闘い続けるためには、残業削減やリモートワー クの推進など勤務制度を整えるだけでなく、その前提となる雇用システムの見直しが必要なので はないか。

メンバーシップ型雇用の弊害

● 日本特有の雇用慣行は新卒一括採用、年功序列賃金、終身雇用を前提としており、「メンバーシッ プ型雇用」と呼ばれる。

● とくに総合職と呼ばれる正社員は、会社の命令に応えて「いつでも、どこでも、なんでもやる」 無限定な働き方が求められる。仕事の内容ではなく人を基準に給与が支払われるので、同じ仕事 でも誰が担当するかによって支払われる給与が異なることが多い。

● 生産性カーブと給与カーブが一致せず、年功序列賃金と退職金は、定年まで在籍することを前提 とした賃金の後払いの性質をもつ。

● 急な異動や転勤命令に代表されるように、キャリアは会社主体で形成される。

● 従来の日本の雇用慣行は雇用保障と引き換えにメンバーと価値観を固定化し、組織の柔軟性と多 様性を失わせる面があるため、社会の変革スピードに対応できない。

オルタナティブとしてのジョブ型雇用

● 日本以外の多くの国では「ジョブ型雇用」システムが採用されている。

● ジョブ型雇用システムでは、労働者一人ひとりのジョブの内容、責任範囲などが明確に定義され ていて、そのジョブに必要なスキルをもった人材がポストにつく。採用は欠員補充型で、新卒一 括採用は行われない。

● 給与はジョブに対して支払われるため、誰が担当しても支払われる給与は同じになる(同一労働 同一賃金)。

● 仕事の内容は企業と労働者の合意によって決まるので、キャリアは労働者主体で形成される。

● ジョブ型雇用へ転換することで、各人材の専門性が明確になって適材適所が実現しやすくなる、 転職を含む労働者の主体的なキャリア形成とワークライフバランスが実現しやすくなるなど、日本の社会、企業、労働者が直面している課題の多くの解決の糸口が見つかることが期待できる。

「日本式ジョブ型雇用」の提言

● 一方でジョブ型雇用では採用の段階でスキルが求められるため、経験やスキルに乏しい若手は職 を求める上で不利であり、ジョブ型社会では若年失業率が高い。

● 日本社会への適合を図るため、メンバーシップ型雇用の利点である新卒採用と社内育成システム を取り入れた「日本式ジョブ型」への転換を提案する。

● 日本式ジョブ型雇用では、新卒を採用して一定レベルまで育成しながら適性評価を行い、育成期 間終了後はジョブ型雇用へと切り替える。

● 「日本式ジョブ型雇用」を機能させる4つの取り組み

①評価には社外(転職市場)で通用する客観的指標を採用すること

②ジョブとの適合・不適合をはじめ、個々の人材の適性を丁寧に評価し、本人に伝えることで主 体的なキャリア形成を促すこと

③退出を促す際には、本人の適性に合致した転職先の探索・紹介を原則とすること

④ジョブ型雇用社会に適した教育システムを確立し、労働市場への入口を多層化すること

● ジョブ型雇用では従業員一人ひとりの個別評価を行い、適性に合った職務内容と適正な報酬を設 計する必要があるため、マネジメントの役割が非常に重要となる。

● 降給に際しては減額制限をかけるなどのガイドラインをつくることで、ジョブ型雇用への心理的 ハードルを下げる。

● メンバーシップ型雇用の維持・強化につながる副業禁止と定年制を廃止し、ジョブ型雇用への移 行にきっかけにする。

● メンバーシップ型の雇用慣行は法令で定められているものではなく、経営者の力量と覚悟次第で 変えられる。

● 新しい産業であるIT業界を中心に、旅館業界や理美容業界のような伝統的な業界でも、ジョブ 型雇用で成長している事例はすでに存在する。

本文は約20ページにわたるものですが、その後に参加経営者からのメッセージというのが載っています。その参加経営者というのはこういう人々です。

座長:冨山和彦(株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO)
座長代理:青野慶久(サイボウズ株式会社 代表取締役社長)
磯山友幸(経済ジャーナリスト)
北野泰男(キュービーネット株式会社 代表取締役社長)
郷治友孝(株式会社東京大学エッジキャピタル 代表取締役社長)
寺田親弘(Sansan株式会社 代表取締役社長)
永久寿夫(政策シンクタンクPHP総研 代表)
西村総一郎(株式会社西村屋 代表取締役社長)
日比谷尚武(Sansan名刺総研 所長)
山田花菜(政策シンクタンクPHP総研 研究コーディネーター)

中曽根康弘世界平和研究所よりもだいぶ前ですが、このPHP総研にも呼ばれてお話させていただいたことがあったと思って、調べてみたら、2015年2月でした。

 

 

 

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コメント

さすがに政策シンクタンク(PHP総研)だけあって、とてもpractical かつrelevant な内容ですね。何よりもユニークな点は、このレポートが「経営者」向けの提言だということでしょうか…。以下、あくまで私が興味を持てた範囲での要約/超訳として皆さんのご参考になれば幸いです。「ジョブ型」「メンバーシップ型」という用語が市民権を得、日本社会に浸透してきているように感じます…。
ーーーーーー

まず「私たちの問題意識」では、政府のアクションを待たずに「経営者の責任」として雇用システム改革の必要性を唱えつつ、次に「メンバーシップ型の弊害」ではニッポンの労働力の「量と質」を高めるためにもオルタナタティブとしての「ジョブ型雇用」へ転換される必要性を説く。続く「オルタナティブとしてのジョブ型雇用」では、企業(経営者)側、従業員側、社会全体の適材適所の3つの観点から「人生100年時代」にふさわしい社会の再設計を行うジョブ型の利点を訴える。

一方で「『日本式ジョブ型雇用』の提言」では、懸案となりうる「人材の流動性」についても、実は多くの労働者に利点がある点(むしろ労働者の立場は強くなり主体的なキャリア形成が可能となる)を述べ、スキルのない若年層の失業を回避する代替案として「新卒採用と社内育成を行う日本式ジョブ型」=「二段構えのシステム」を提唱する。

そこでは、ポテンシャル採用した「新卒人材を1年半から3年程度かけて」一定期間ずつ様々な部門を機械的に研修し、「あらかじめ定められた評価基準」をクリアした者から本人の適性と希望に従って「適切な部門やジョブへアサイン」する。各人の社内キャリアはこのアサイメントから「ジョブ型雇用」へと切り替わり、社員は自らの「専門性を極める」ことが求められ、部門横断的なローテーションは行われない。いわば国家試験に合格した医師(や弁護士)が一定期間の実地研修を経て専門とする道を選択するのと似たシステムといえる。

入社後研修やローテーションによる人材育成は現在すでに大部分の日本企業で行われていることだが、ここで提案したい人材育成は従来のものと意図や内容がまったく異なる。各人の適性を見出すためにローテーションは、あくまでも「初期教育期間にのみ」行われるものであり、ジョブ型への切替え移行はそのジョブの「スペシャリスト」として個人が「主体的」にキャリアを形成していくことになる。

そして、日本式ジョブ型雇用を機能させるための4つの取組み〜1)市場価値に応じた人材評価、2)本人への率直なフィードバックによる人材の見極め、3)不適合時の転職先紹介、4)教育システムの見直し(リカレント教育)〜を述べたうえで、マネジメントの抜本的改革の必要性を指摘する。

なぜなら、ジョブ型社会では企業と労働者の「力関係が変化する」からである。人材の流動性が高まると転職のリスクや不安が軽減されるため、労働者は「組織に対する隷属感」から解放され、無理な働き方を強いる会社からは人が離れていき、必要な労働力を確保できなく可能性が高い。社員に対する誠意ある姿勢やマネジメントの巧拙が企業の競争力に直結することになる。

次の章〜「移行にあたっては従業員に十分な配慮を」では、現在の社内ローテーションの育成の中で必ずしも十分な専門性を身につけていない社員が、明確に定義されたジョブに必要な高度な専門性を身につけているとは限らないため、ソフトランディングの移行法を考える必要性があるという。

例えば、年功賃金制がある場合は賃金の清算後に、新卒社員も含めて全員一律に「クオリフィケーション(認定)期間」を設けて、ジョブ型に切り替えるのも一つの方法である。あるいは、適性とキャリアについて企業と従業員間で合意に至った人は直ちにジョブ型へ、また迷いのある人はクオリフィケーション期間を経てから切り替えるという方法も考えられる。

さらに、日本式ジョブ型雇用への移行にあたり「複業の推進」と「定年の廃止」を勧める。前者は本業に対するサブの「副」業ではなく、複数の仕事を掛け持ちする「複業」(パラレルキャリア)として。後者では、むしろ定年廃止により企業内で高齢者が増えていくことが予想され、65歳を超えても働きたい人が本当の意味で生涯働ける仕組みとなると予想する。

実は、このような日本式ジョブ型雇用はすでにIT業界やスタートアップ企業ではすでに当たり前に行われているのだが、「ジョブ型」と一口に言ってもその中身は多様である。したがって、お仕着せのシステムをそのままあてはめることなく、自社に最適な人材戦略にアレンジして落とし込む手段が経営者に求められる。

最後の段落〜「ここで提言したような新しい働き方は、一社のみの取り組みで実現するものではない。本提言をお読みになった経営者の方々が自社で新しい働き方にチャレンジし、業界全体、社会全体の牽引役となってくださるってくださるよう願ってやまない。」

投稿: ある外資系人事マン | 2018年2月 9日 (金) 18時16分

> この二段構えの雇用システムは、海老原嗣生、濱口桂一郎などがすでに提唱しているものでもある。
(pp.16)

海老原先生の「40歳定年」は有名ですけど、濱口先生が「二段構えの雇用システム」を提唱しているというのは、どうなのでしょうね。どちらかといえば、否定的な印象がありますけども。

しかし、日本企業の「新卒採用と社内育成」は残したい、という気持ちはわかるものの、使用者にとってはコストでしかないわけで、やらなくて済むのならやらないでしょう。

社内育成しなければならないのなら、今までどおり自社に囲いこもうとするでしょう。日本企業は、年功賃金、退職金、企業年金と、辞めさせないための仕組みを豊富に用意しているわけですし。

メリットとデメリットは表裏一体で切り離せないものですよね。

投稿: IG | 2018年2月 9日 (金) 22時49分

PHP総研の提言

「メンバーシップ型から日本式ジョブ型へ」という提言、“経営者向け”という限り、法令に準拠する範囲でトライしてもよいと思います。

ただ、ミクロの政策をマクロに敷衍できるかというと、そこは注意する必要があります。ミクロでは、それが影響を及ぼす考えられるマクロ経済的な要素、雇用者報酬、社会保障、経済成長、消費、・・・を外部経済として切り離して考えるからです。

小泉・竹中構造改革は、マクロを考えずにミクロの経済政策を推し進めてきたところに問題がありました。

「生産性の高い諸外国の雇用システム」もあまり意味はありません。購買力平価で比べた日本の労働生産性(名目)は欧米の7割程度です。日本のGDPデフレーターは欧米諸国より小さいため、労働生産性(名目)は小さくなります。労働生産性(名目、購買力平価ベース)をP1、労働生産性(実質、自国通貨ベース)をP2、購買力平価をQ、GDPデフレーターをGとすると、次式が成立します。

P2=P1*Q/G

労働生産性(実質、自国通貨ベース)は、基準年に対する相対値としての意味しかなく、QとGの変化は相殺されます。労働生産性(実質、自国通貨ベース)の過去の変化を比べると、日本も欧米もあまり違いはありません。

投稿: hiro | 2018年2月11日 (日) 16時41分

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