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2018年2月26日 (月)

『日本労働研究雑誌』2018年2・3月号

692_0203『日本労働研究雑誌』2018年2・3月号は、毎年労働法、労働経済、労働調査の3分野で回している「学界展望」の労働経済学の番です。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/02-03/index.html

学界展望

労働経済学研究の現在─2015~17年の業績を通じて

大石 亜希子(千葉大学教授)

近藤 絢子(東京大学准教授)

佐野 晋平(千葉大学准教授)

山本 勲(慶應義塾大学教授)

多くの論文が検討されていますが、私が口を挟みにくいものも多く、その中でむしろ社会学系の研究でよく言われていたことが、経済学者の口から語られるとこういう反応が出てくるという意味で興味深かったのが、森口千晶さんの「日本は格差社会になったのか-比較経済史に見る日本の所得格差」へのコメントでした。

ちなみにこの論文自体は、一橋大学のサイトで全文読めます。

http://www.ier.hit-u.ac.jp/Common/publication/DP/DPS-A666.pdf

私にはとてもするすると理解できて、あまりにも当たり前のことばかり書いてある感じがしたのですが、経済学者の方々の反応はこうです。まず、紹介者の近藤絢子さん、

・・・この論文で特に重要だなと思ったのは、まず、高度成長期の格差なき成長は、男性労働者を中心とする世帯の平等であって、家庭内の性別役割・分業を前提として男女の間に格差があるのだけれども、世帯所得で見たら、どの世帯も平等になるというタイプのものだという指摘で、非常に私の目には新鮮でした。世帯レベルで見た市場所得の平等が達成できていた高度成長期はそれでうまく回っていたのです。しかし今日、世帯の市場所得の格差が拡大してきても、再分配前の市場所得の平等を目指すようなマインドセットが変わっていないので、政府による再分配が弱いままになってしまっているという指摘は非常に重要なポイントだなと私は思いました。

いやあ、「新鮮」ですか。非常に重要なポイントであるのは確かですが、少なくとも他の労働関係分野では結構前から繰り返し指摘されていたように思います。

でも、座談会の経済学者の皆さんはみな同じような感想を持たれているようです。たとえば司会の山本勲さんは、

・・・格差拡大の背景としては、規制緩和や資本主義経済に内在されている資本収益率の高さなどがピケティなどでは指摘されます。しかし、森口(2017)を読むと、日本では必ずしもそういうわけではなくて、日本的雇用慣行の縮小や非正規雇用の増加、男女間賃金格差、働き方といった労働問題が、格差を拡大させた要因としては実は大きいということが把握できます。この点は大きな発見だと思いますし、・・・

といわれていますし、近藤さんはさらに、

・・・意外と再分配そのものの研究は余りないですよね。個人的にすごく疑問なのが、税金はそれなりに取られるし、国からお金を貰えることも意外にあり、税控除もいろいろあるではないですか。だから、それなりに現役世代もトランスファーはあるのだけれども、それが全然、所得の平等化に効いていない可能性があるのかなと思って、それはどうすれば検証できるのかなと思っているのですが。

とまで語られているのですが、いやその問題意識、そのまま大沢真理さんの『生活保障のガバナンス』で論じられていることだと思うのですが、学問のディシプリンの壁はかほどに高く越えがたいということでしょうか。

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