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銀行が有料職業紹介事業可能に?

こんな記事が目に入りましたが、

https://this.kiji.is/327374850488878177 (地方銀行、人材紹介業可能に)

金融庁が、地方銀行の業務として人材紹介業が展開できるように規制を緩和する方針を固めたことが20日、分かった。人手不足が深刻になる中で、取引先企業が必要とする人材の確保や雇用問題の解決を手助けし、地域経済の活性化に貢献できるようにする。低迷する地銀の収益力向上につなげる狙いもある。銀行の業務運営に関する考え方をまとめた監督指針の改正案を近く公表する。

銀行の業務範囲は厳格に定められている。低金利による採算悪化といった銀行の経営環境の変化や地銀からの要望を踏まえ、金融庁は規制緩和が必要と判断した。

この記事はあくまでも金融サイドから書かれた記事ですが、規制されているのは金融業だけじゃなく、有料職業紹介事業も職業安定法により規制されているのです。

そして、有料職業紹介事業の歴史を知っている人であれば、戦前の職業紹介法の時代から戦後の職業安定法の時代にも、貸金業等との兼業が禁止されていたことを覚えているかもしれません。

この兼業禁止規定は後述のように2003年改正で法律上からは削除されましたが、現在でも職業紹介事業の業務運営要領においては、許可条件として、

www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000170530.pdf

ロ 兼業の場合の紹介関係

貸金業又は質屋業と兼業する場合(代表者又は役員が他の法人等で行う場合も含む。)は、 当該兼業する事業における債務者について紹介を行わないこと。また、金銭を貸し付けてい る者等の自己の債務者を求職者としないこと。

(理由) 貸金業又は質屋業を営む者が当該営業における債務者を紹介することにより、強制労働や 中間搾取等の求職者保護に欠ける事態が発生することを防止する必要があるため

というのが残っています。

おらぁ、貸した金、利子付けて返せゃ。返せねえなら体で返してもらおうか・・・。

という世界があった(ある)ことを踏まえた規定であったわけです。

ただ、現行法制上、上記記事で金融庁が兼業を認めるといっている地方銀行は貸金業法でいう貸金業者ではありません。別途銀行法という立派な法律で規制されているからですが、でも銀行も金を貸す商売をやっていることには違いがないし、最近は堂々たる都市銀行が消費者金融と組んで高利貸しみたいな商売をやっているのも確かです。銀行だから貸金業者にあらずと単純に言える時代ではなくなってきているような気がしないでもありません。

いや何が言いたいかというと、確かに現在は職業安定法上からは消えた規定だし、業務運営要領上も許可条件として制約が課されているのは貸金業だけであって、銀行がなんとかローンでお金を貸している人を有料職業紹介の対象とすることを禁ずるような条項はなにも存在しないのですが、でもそもそもの経緯にさかのぼって考えてみると、やや問題が残るような気がしないでもありません。

ご参考までに、上記職業安定法の2003年改正時に、国会で当時社民党の阿部知子議員がこの問題を質疑している議事録を引用しておきます。

http://hamachan.on.coocan.jp/kikan251.html (雇用仲介事業の法政策)

なお2003年改正では、1949年に設けられた兼業禁止規定が全部削除されました。これは1LO第42号勧告に基づくとともに、戦前の営利職業紹介事業取締規則以来の規定でもあり、1985年に兼業を禁止する範囲を風俗営業やサラ金に限定することが検討されながら、業所管官庁との関係でそのままになっていたものです。これは国会審議において、特に貸金業及び風俗営業等について全面解禁に疑念が呈され、許可要件において対応することとされました。ややトリビア的ですが興味深い質疑がされていますので、国会の議事録から一部引用しておきましょう。2003年5月16日の衆議院厚生労働委員会です。

○阿部委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。
・・・職業安定法の三十三条の四というのがございまして、今回の法改正でこれの削除の問題が出てきております。・・・「料理店業、飲食店業、旅館業、古物商、質屋業、貸金業、両替業その他これらに類する営業を行う者は、職業紹介事業を行うことができない。」という法律が今回削除されます。大臣にお伺いいたしたいのですが、逆に、そもそもなぜこういう法律があったとお考えでありましょうか。この法律のあった意味は何でございましょうか。現在もありますが、そこは大臣のお考えをちょっとお聞かせいただきたいと思います。

○坂口国務大臣 私も、古着屋ですとか質屋の話まで十分に存じませんので、今初めて聞く話でございますから、満足にお答えができるかどうかわかりませんけれども、職業安定法三十三条の四でございますか、兼業の禁止規定というのがございまして、一九三三年に採択をされましたILO勧告におきまして、「個人及企業にして、直接に又は仲介者を通じて飲食店、旅館、古着店、質店又は両替店の経営の如き業務より利益を得るものは、職業紹介に従事することを禁止せらるべし。」こういうことになっているわけでございます。これは、昨年のILO総会におきまして撤回されたところでございますが、我が国の社会状況の変化も踏まえまして、今回、この兼業禁止規定というものを削除することにいたしました。職業紹介事業の許可基準におきましては、申請者が事業を適正に遂行することができる能力を担保するということがあるわけでありまして、そうしたことを中心にして、「不当に他人の精神、身体及び自由を拘束するおそれのない者であること。」というような要件が入れられている。そうしたことを考慮に入れて、今回この決定がなされたということではないかというふうに思います。

○阿部委員 私も、数ある法改正を一つ一つ勉強しながら、この法律はこういう意味でできていたのかということを改めて知るということが、国会に来て、当然、立法府ですから多いわけですが、この法律、先ほど、旅館業、飲食店業、古物商、質屋さん、金貸し業、両替業等が職業紹介事業を行うことができないということの理由といいますか意味づけは、東京高裁の昭和二十九年の九月十五日判決に書いてございまして、実はこれらの職種では、人身売買的事態の発生等、社会的、一般的弊害があることがあると。ですから、昔は、旅館で人身売買、売買春が行われたり、あるいは料理店もそのようなこともあったということにかんがみて、職業紹介事業を併設しない方がよろしかろう、それが社会的、一般的弊害があるおそれということで設けられた一項なんだと思うんです。私が先ほど申しましたように、労働市場とそれから経済動向は動くことがありますが、働くことということについての社会規範というものは、ある程度共通認識を持っていかないと非常に問題が多いということで、午前中、我が党の金子議員が、現時点において、特に金貸し業といいますかサラ金業者の方が、一方で職業紹介事業を併設されますと、ここにお金を貸した相手がいて、その方からお金を返していただくために、あなたにこの仕事を紹介しましょう、あなたはここで働いてください、そして私にお金を返してくださいという形で、その方の労働力を担保にとって仕事を紹介したという形態をとって、実はぐるぐる回すということも生じ得る。今、金子議員が例に引いたかどうかわかりませんが、サラ金でお金を借りると、目の玉を売れとか腎臓を売れとか、そういう脅迫まがいのことも実に起こっておりまして、私は、現下の社会情勢で、この金貸し業とそれから職業紹介業というのが並立する図を考えると、ちょっとぞっとするのであります。午前中にいただいた戸苅局長の御答弁では、ちょっと抽象的でどうするのかなと思ったけれども、この紹介業を許可する際に基準を厳しくするという御答弁でしたが、許可をする際に基準を厳しくするとは、例えば、一方でお金を貸しているような業者の方には、紹介業をその方が申請していらしたら、他と違うダブルスタンダードあるいは隠れたスタンダードを使うということなのか。何か、この基準を厳しくするとお答えになった中身について、今度は局長にお願いします。

○戸苅政府参考人 おっしゃるとおり、人身売買、中間搾取、強制労働というのが戦前に、職業安定法が制定される前に、今議論になっております飲食店、旅館、質屋、両替、そういったところでとかく行われていたということで、ILOの勧告もありということでやったところでありますが、時代も変化し、ILOの勧告も撤回されたということで、今回の法改正の一環として、兼業禁止規定を解除したということであります。ただ、正直言って、私個人的にも、貸金業を他の業種と同じような扱いでやって、本当に求職者の方の安全が確保できるのかというのは、かなり懸念をしていると言わざるを得ないわけでありまして、そういった意味で、一つは、許可する際に、許可基準として、これは所管の省庁あるいは都道府県知事の登録ということがありますので、まず、登録せずに貸金業をやっているような業者には許可を与えない。それからもう一つは、今おっしゃったように、恐らく、許可を与えるときの附帯的条件みたいなものを場合によったら検討できるんじゃないかとも思っていまして、今おっしゃったことも一つの検討材料になるかなと思います。確かに、貸金業の事業主が職業紹介をやって、それを回収のための手段にするというのも、一歩間違うと非常に危ない面もないわけでもないと思いますので、場合によったら許可の際の附帯要件として、労働者の安全が図られないというかそれが損なわれるような行為、例えば、金を貸している人に職業紹介し、それをピンはねは当然できないわけであります。基準法二十四条で直接払いになっていますから、そういうことはないとは思いますが、何か問題が起きそうなことがあるかどうか少し研究してみて、場合によったら附帯的な要件をつけた上で許可するとか、いずれにしても、求職者の方の安全が、保護がきちんと図れるような工夫は必ずしてまいりたい、こう考えております。

○阿部委員 我が国の金融の現状と申しますのは、銀行がうまく機能しない、そのかわり駅前はサラ金、やみ金ばかりと異様な国になっているわけですから、この一条、一項を、この三十三条の四を抜く前に、今戸苅さんがおっしゃったようなことも本当に真剣に検討していただきたいと思います。それくらい、働くということは、きちんと社会がその方の労働権を守っていくという覚悟がないと、現代はやれない時代だと私は思います。さらにもう一点つけ加えさせていただければ、今は一応許可制という形をとるものでも、将来、届け出制にだんだん規制緩和されていきますから、そうすると手もつけようもなくなりますから、一つ一つ慎重に臨んでいただきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

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