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« 平成35年5月16日? | トップページ | 拙著書評@「連鎖堂」 »

2018年1月14日 (日)

ビットコインは未来の通貨に非ず

Pauldegrauwe ソーシャル・ヨーロッパ・マガジンに新年早々、ポール・デ・グラウウェの「ビットコインは未来の通貨に非ず」という大変興味深いエッセイが載っていました。デ・グラウウェはLSEの教授ですが、もとはベルギー人でルーバン大学の教授でした。

https://www.socialeurope.eu/bitcoin-not-currency-future (Bitcoin Is Not The Currency Of The Future)

ヨーロッパでもビットコインバブルは猛威を振るっているようで、通貨の歴史を振り返りながら、それが未来の通貨であるどころか、むしろ金本位制時代に逆戻りする古風な、あるいはむしろ野蛮な通貨であることを諄々と論じています。確かにビットコインは「マイニング」(採掘)されるという点でも、金本位制に近いのかもしれません。

やや長いエッセイの、金融政策という観点から重要な数パラグラフを翻訳引用します。

・・・First, as the supply of Bitcoins is fixed asymptotically, its generalized use as a means of payment would lead to permanent deflation (negative inflation). The reason is that the world economy is growing and in need of an increasing supply of money to make growing transactions possible. The only way this can be dealt with in a Bitcoin economy is by declining Bitcoin prices of goods and services, i.e. negative inflation. The quantity theory of money tells us that it could also be dealt with by increasing the velocity with which Bitcoins are used, but there is a limit to that possibility. Thus a Bitcoin economy would face permanent deflation, not a very attractive situation.

まず、ビットコインの供給は漸近的に固定されているので、支払い手段としての一般的な利用は恒常的なデフレ(ネガティブなインフレ)をもたらす。その理由は、世界経済は成長し、増加する取引を可能にするために通貨の供給増加が必要であることである。ビットコイン経済でこれを可能にする唯一の方法は、財やサービスのビットコイン価格を引き下げることによってしかない。通貨の数量理論は我々に、ビットコインが使われる流通速度を引き上げることによっても可能であることを示すが、その可能性には限界がある。かくしてビットコイン経済は恒常的なデフレに直面し、決して魅力的な状況ではない。

・・・ In a Bitcoin economy where prices are declining every year this optimism is negatively affected. Price declines lead consumers to postpone their purchases and investors to postpone their projects. It is a world with less optimism and probably less growth.・・・

毎年価格が下落するビットコイン経済では、この楽観主義はネガティブな影響を受ける。価格下落は消費者に購入を延期させ、投資家にプロジェクトを延期させる。これは楽観主義の乏しいおそらく成長の乏しい世界である。

・・・There is a second and even more serious reason why Bitcoin is not suitable as a currency. In fact it would be a dangerous currency. If the world turns to Bitcoins, banks will start lending Bitcoins to households and firms in need of credit. But banking is a risky business. The problem is that as the supply of Bitcoins will be fixed, there will be no lender of last (LoLR) support in times of banking crises. And these are certain to occur. Even if the supply of Bitcoins or of other cryptocurrencies could be subjected to a constant Friedman growth rule it would not solve this problem.

ビットコインが通貨として不適当である第二のもっと深刻な理由がある。実際、それは危険な通貨なのだ。もし世界がビットコインに転換したら、銀行は貸付の必要な家計や企業にビットコインを貸し付け始めるだろう。しかし銀行業はリスクのある事業だ。問題は、ビットコインの供給が固定されており、銀行破綻の時に支援する最後の貸し手がないということだ。そしてこれは起こりうる。たとえビットコインないし他の仮想通貨の供給が恒常的なフリードマンルールに従ったとしてもこの問題を解決しない。

・・・In a monetary system where the stock of money is fixed (or growing at a constant rate), there is no such LoLR possible. This leads to the prospect of regular banking crises that will lead to failing banks and further negative domino effects on the economy. This is exactly what we observed during the heydays of the gold standard, which was characterized by frequent banking crises leading to deep recessions and much misery. Again, the Bitcoin standard, like the gold standard, is something of the past, not of the future.

通貨の総量が固定(ないし一定率での増加)されている金融制度では、最後の貸し手のようなものは不可能だ。これは銀行破綻とさらなる経済へのネガティブなドミノ現象をもたらす定期的な銀行危機をもたらす。これは確かに我々が金本位制の黄金期に見たものであり、金本位制は頻繁な銀行危機とそれによる深刻な不況と多大な悲惨で特徴づけられる。再び、ビットコインは金本位制と同様に、過去の代物であって未来のものではない。

More generally, the problem of a Bitcoin economy is that in times of financial crisis, which one can be sure will arise again, there is a generalized flight into liquidity. That’s when a central bank is needed to provide all the liquidity needed. In its absence, individuals scrambling for liquidity sell assets, leading to asset deflation and insolvency of many. A Bitcoin economy does not have this flexibility and therefore will not withstand financial crises. A Bitcoin economy will not last in a capitalistic system, which regularly generates financial crises.

より一般的には、ビットコイン経済の問題は必ずや再来するであろう金融危機の際に流動性への逃避が一般化することである。これは中央銀行があらゆる必要な流動性を供給することが必要な時である。それがなければ、われがちに流動性を求めて争う人々は資産を売り、資産デフレをもたらし、多くのものが破産する。ビットコイン経済はこの柔軟性を持たず、それゆえ金融危機に抗することができない。ビットコイン経済は定期的に金融危機を生み出す資本主義制度では持続できない。

日本でも最近ビットコインがだいぶ流行していて、特に野口悠紀雄氏などは理論的な面からビットコイン経済を大変強く推していたりするので、こういうヨーロッパ知識人の意見を紹介するのも意味があるかなと思います。

デ・グラウウェさんも、ビットコインなど仮想通貨の技術的基盤であるブロックチェーンについてはその重要性を認めます。異議を唱えるのは、ビットコインにはそれ自体に本質的な価値があるという信仰なのです。金本位制と同じだという批判は、まさにその点を指摘しているのでしょう。

デ・グラウウェさんはそこに、中央銀行のコントロールが効かない金通貨やビットコインを愛好し、法廷不換通貨を邪悪なものとみなす新自由主義のイデオロギーを見出します。

(追記)

こんなトンデモはてブが・・・

http://b.hatena.ne.jp/entry/354428939/comment/ksd5656

典型的な勘違い。”確かにビットコインは「マイニング」(採掘)されるという点でも、金本位制に近い”

このブックマーカー氏、デ・グラウウェさんが本気でビットコインとはどこか中国の奥地で貧しい農民工がつるはしをふるって採掘していると思い込んでこのエッセイを書いたと思い込んでいるのでしょうかね。いやはや。

全訳するのは手間なのでちょっと省略的に紹介するとすぐこういう文章の綾が読めない反応が湧いてくるというあたりが、なかなか疲れるところです。

しゃあないから関係部分を全訳しときましょう。

・・・In fact, the Bitcoin is an archaic currency like gold used to be. Archaic currencies are created by using scarce production factors. Gold had to be digged deep in the ground by using a lot of labor and machinery. Keynes called gold a “barbaric relic”.

The same can be said of Bitcoin. Bitcoins are made (“mined” as it is called in Bitcoin terminology by analogy with gold) by using large amounts of computing power. The computers needed to mine Bitcoins use a lot of electricity and thus large amounts of scarce energy sources (crude oil, coal nuclear energy, renewable energy sources). According to some estimates, the energy needed to produce Bitcoins for one year is equivalent to the energy consumption of a country like Denmark. ・・・

・・・実際、ビットコインは金がそうであったようなアルカイックな通貨だ。アルカイックな通貨は稀少な生産要素を用いて生み出される。金は膨大な労働力と機械を用いて地中深くから掘り出された。ケインズは金を「野蛮な遺風」と呼んだ。

同じことはビットコインにも言える。ビットコインは膨大な量のコンピュータ能力を用いて(金とのアナロジーによりビットコイン用語では「採掘される」と呼ばれている)作られる。ビットコインを採掘するのに必要なコンピュータは膨大な電力、それゆえ膨大なエネルギー資源(原油、石炭、原子力、再生可能エネルギー)を使う。いくつかの試算によると、1年間にビットコインを生産するのに必要なエネルギーはデンマークのような国のエネルギー消費量に匹敵する。・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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コメント

> ビットコインなど仮想通貨の技術的基盤であるブロックチェーンについてはその重要性を認めます

個人的には、そんな大層なものか? という感想です。技術そのものに特に新規性はないですね。

P2P と金融の組み合わせ(「フィンテック」なるバズワードがありますが)というのは、あまり相性はよろしくないと思いますけどね。金融というのは何より安定性を求められる分野で、通貨ともなればなおさらでしょうし。

> 法廷不換通貨を邪悪なものとみなす新自由主義のイデオロギー

日本で有名な P2P ソフトといえば Winny ですけど、そのもととなった Freenet というソフトはまさにそうしたイデオロギーをもつソフトですね。新自由主義というよりアナーキズムの方が近いと思いますが。

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... Both Freenet and some of its associated tools were originally designed by Ian Clarke, who defined Freenet's goal as providing freedom of speech on the Internet with strong anonymity protection

The distributed data store of Freenet (with same principles as a blockchain) is used by many third-party programs ...

https://en.wikipedia.org/wiki/Freenet
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Wikipedia にも言及がありますが、ブロック チェーンもこの Freenet から派生した技術ですね。Winny とは兄弟のようなものです。

仮想通貨バブルは(野口氏はバブルと見ていないようだが)、結局、実物需要の不足とその裏返しの流動性選好の高まりの反映にすぎないでしょう。

このような状況でこそ国債という別の流動性を供給して社会的に有用な実物需要に転換すべきでしょうが、政治的にはまったく合意がとれないようです。

政治統合の不全と新自由主義の跳梁は、社会経済を停滞混乱させ、世界秩序の不確実性を増大させつつあるように見えますが、果たして通常の政治プロセスによってこのような負のスパイラルから抜けだせるのだろうか。やはり何らかの政治的カタストロフは避け得ないようにも思えますね。

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