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『日本労働研究雑誌』 2018年特別号(No.691)

691_special 『日本労働研究雑誌』 2018年特別号(No.691)は、例によって昨年6月に開かれた労働政策研究会議の特集号です。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/special/index.html

パネルディスカッションのテーマは「非正規社員の処遇をめぐる政策課題」で、下記4人がパネラー。

非正規雇用の雇用保障法理および処遇格差是正法理の正当化根拠をめぐる一考察 大木正俊(姫路獨協大学准教授)
非正規雇用と正規雇用の格差─女性・若年の人的資本拡充のための施策について 永 伸子(お茶の水女子大学教授)
日本の労働市場の変質と非正規雇用の増加─同一労働同一賃金をめぐって 樋口美雄(慶応義塾大学教授)
非正規雇用者の組織化と発言効果─事例調査とアンケート調査による分析 前浦穂高(JILPT副主任研究員)

パネルディスカッションの様子は、JILPTの鎌倉哲史さんがまとめています。

www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/special/pdf/003-009.pdf

これと、会議に参加された労務屋さんこと荻野勝彦さんのブログ記事を読み比べてみるのも一興かもしれません。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20170626#p1

やはり興味深いのは、最後近くでの大内伸哉さんと樋口美雄さんのやり取りかもしれません。鎌倉さんのまとめと労務屋さんのまとめで見ると、

ここで,司会の永野氏が最後の質問者をフロアから 募ったところ,大内氏から4点,本ディスカッション 全体に関するコメントがなされた。すなわち,(1)「非正社員」という言葉が漠然としているために「雰囲気 の議論」に陥りがちである,(2)労働契約法第20条の 立法趣旨は非正社員の処遇向上だけを念頭に置いてい るが,本来は正社員の処遇にも目を向ける必要があ る,(3)同条文の「不合理」が何を指すのかが全くわ からないため,大木報告でも見られた通り契約の自由 の過度の制約になってしまう懸念がある,(4)現在の 同一労働・同一賃金の議論は結局は賃金論であるが, 賃金はそもそも労使交渉で決まるものなので政策的介 入を行うには立証責任,正当化の根拠が必要となる, の4点である。

この大内氏のコメントを受けて樋口氏からは,上記 (4)の賃金決定がもともと労使交渉だけが独立して決 めるべきものという点は誤りであり,経済成長による 外部労働市場の影響を受け,さらにはステークホル ダーとしての株主の意向も無視できるものではない, との指摘がなされた。その上で,この賃金決定のプロ セスに関するガバナンスの議論は1990年代以降変化 しつつあり,その中で労使交渉の位置づけをどう考え ていくかがポイントとなる,との認識が示された。加 えて,(1)の正規,非正規,という議論の軸は我が国 の労働市場の持つ二重構造的視点がクローズアップさ れている結果かもしれず,その根本的な原因はどこに あるのかといった観点,たとえば企業が長期的な人材 活用の視点から短期的な利益の追求へとスタンスを変 化させているといった視点から,政策議論を深めてい くべきであるとの指摘もなされた。

樋口氏の指摘を受けて大内氏からは,賃金は確かに 労使の当事者だけで決められるわけではないが,そこ に法的介入を行って「正しい」賃金水準をどうやって 示していけるのか,その説得的な説明のための基準が 示されることが望ましい,との認識が示された。 最後に司会の永野氏から,今回の4名のパネリスト はディシプリンが異なり,したがって当然意見も異 なっているが,こうした学際的な議論を行えるのが本 学会の利点でもあり,その意味で刺激に富む良い議論 であったと総括がなされ,パネルディスカッションは 終了した。

この「ディシプリンが異なり,したがって当然意見も異 なっている」の中身が世間の常識と逆転していることについては、労務屋さん曰く

もうひとつは、やはり大木先生の問題提起についての議論が盛り上がったわけですが、神戸大学の大内伸哉先生が来場しておられ、「労使間の課題解決については対等性を確保した上での労使の取り組みによるのが原則であり、契約自由や労使自治への法の介入は謙抑的であるべき」とのご持論を強い口調で述べられたのに対し、樋口先生が「その議論は前提が誤っている。この間の大きな変化として企業経営者が株主の意向を強く意識せざるを得なくなっており、労使自治での取り組みでは限界があるので政府の介入が必要」との趣旨をやはりかなり強い口調で述べられるという一幕がありました。大内先生は「それは認めるとしてもなお法の介入には慎重さが求められる」と述べられてその場は収まりましたが、しかし通常であれば社会的課題に対して、法学者は規制や法制度での対応を主に考え、経済学者は市場による解決をまず考えるはずなので、今回はそれが完全に逆転していたことは多くの参加者の関心をひいていたようでした(樋口先生ご自身も帰り際にそんなことを言われていたと記憶)。

まあ、大内さんは世の労働法学者の中ではだいぶ(価値判断抜きの事実認識として)中心を外れているという意味においてエクセントリックではあるので、これをもって労働法学者と労働経済学者の立ち位置の逆転現象というのはやや早とちりの弊がありますが、そもそもパネリストの大木さんも、まさに大内さんと同様、労働契約法や同一労働同一賃金に対してきわめて懐疑的なスタンスなので、やはりディシプリンの逆転現象ではあるのでしょう。

雑誌では、第1分科会の

海外や日本におけるクラウドワーカーの現状や課題─新しいワーキングプアや貧困・格差の拡大を防ぐ対策の実施を 金明中(ニッセイ基礎研究所准主任研究員)
連合(日本労働組合総連合会)は何をしているのか─比較労使関係研究の分析枠組み再考にむけて 篠田徹(早稲田大学教授)
IIRA創立50年を振り返って 花見忠(上智大学名誉教授、IIRA前会長)

はそれぞれ1ページ弱の要約になっていますが、少なくとも金さんのクラウドワーク論と篠田さんの連合批判は全文読みたかったという感があります。

というわけで、雑誌の要約よりは臨場感のある労務屋さんの報告はこちら、

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20170619#p1

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20170620#p1

 

 

 

 

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