メンバーシップ型の日本での転職@リクルートワークス研
リクルートワークス研究所のコラムに「メンバーシップ型の日本での転職―「転職=即戦力」幻想の先へ」という大変興味深い、というか奥深いところまで考察している記事が掲載されています。筆者は中村天江さん。これは労働問題に関心を持つ人々に多く読まれるべきとてもいいコラムなので、少し引用しつつ紹介しますが、是非リンク先にいって全文をしっかりと読んでいただきたいと思います。
http://www.works-i.com/column/policy/1712_03/
このコラムの問題意識は
しかし、本当に、「転職=即戦力」なのだろうか。新卒採用との違いを際立たせるために使われてきた、中途採用は即戦力採用であるというとらえ方が、いつしか盲目的な「即戦力幻想」となり、転職環境を整備する妨げになっている面があるのではないだろうか。
という点にあります。
ジョブ型の欧米の転職をそのままメンバーシップ型の日本に持ってくることで却って問題が生じているのではないか、という問題意識です。
・・・豊富な経験や能力を有している個人の転職は「即戦力」といわれることが多い。確かに、経験者採用だと、新卒採用のようなゼロからの育成は必要ない。もっといえば、既存社員が有していないスキルや経験をもつ転職者も多い。とはいえ、メンバーシップ型の組織への転職後、全人格的な職務遂行能力を発揮できるようになるには、単に仕事経験の有無を越え、2つの面で「適応」することが求められる。1つには、技能の学び直しであり、もう1つは、人間関係の再構築である。
技能の学び直しというのは、企業特殊的技能に関わる問題です。すなわち、
・・・この企業特殊的技能を多く蓄積した個人が、新たにメンバーシップ型の組織に転職すると、次のようなことが起こる。これまでに蓄積した技能を横スライドすることに加え、転職先ならではの企業特殊的技能を新たに習得し、さらには転職前の会社で培った企業特殊的技能を捨て去らなければならない。つまり、転職には、「即戦力」として横スライドしつつ、さらに、新たな「学習」と、不要な知識をあえて封印する「学習棄却(アンラーニング)」がともなうのだ。
実際、筆者らが行った研究プロジェクトでも、「学習棄却(アンラーニング)」をしている転職者のほうが、転職先で活躍する傾向が強い。
前の会社のやり方にこだわる人は転職先で活躍しにくい、という問題ですね。
さらに重要なのは2番目の人間関係の再構築。あるヘッドハンターの言葉をこう引用しています。
「外資系では、転職は機械の部品を替えるみたいなもので、歯車を替えて油を差してねじを締めたら、あとは回しておけば大丈夫です。でも、日本でそれをやると、ポロッと取れてしまうんですよ。接ぎ木みたいなもので、元木と接ぎ木がくっつくまでの期間は、どちらかが派手に動いたら、どんな名木にきれいな名木を接ぎ木しようとしても失敗します。外資はスキルだけですが、日本は人間関係的な接着が大事。それに3カ月、6カ月とかかります」
これも、「あるある」と感じる人が多いのでは。
というわけで、是非上記リンク先に飛んで、全文を改めてお読みください。
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さすがにそれは外資を印象で捉え過ぎでは。そんなに人のすげ替えが簡単なら、欧米のマネジメント情報誌などでチームビルディングの記事などしきりに書かれないはずです。日本ほど長期で見てないでしょうが、そうした記事を読む限りでは、数ヶ月は人間関係構築にかかると見込んでいるように感じます。
逆に日本は長期で一緒にして放っておけば、自然に人間関係が構築されるとばかりに、経営者や管理職がチームビルディングのスキルに関心がなさすぎだと思います。
投稿: ありす | 2017年12月19日 (火) 21時10分
全文拝読、確かに興味深い内容ですね。そこで早速、私からは下記の二点に軽く(だが真面目な)コメントを入れていきますね。
まず、「外資系では転職は機械の部品を変えるようなもの。スキルだけが大事だが…、日系では人間関係的な接着が大事。それに三カ月、六カ月とかかる」というヘッドハンターの話に関して…。
これは、一見尤もらしく聞こえてしまいがちですが、いやいやそんな簡単にはいきませんよ、外資系(ジョブ型)であっても同じホモ・サピエンスが働いている以上、現実はそんな理屈通りにはいきません。私自身、国内外に100名くらいの採用エージェントと仕事上のお付き合いがありますが、外資系企業のジュニアポジションであればまだしもマネジャーやスペシャリストのポジションであれば、上記コメントのような機械的なマッチングだけを考えて人を動かしている(それで仕事がうまくいくと構えている)呑気なエージェントにはこれまで一度も会ったことがありませんね…。
ジョブ型であっても専門知識や経験(ハードスキル)のフィットはあくまでも転職が成功するための必要条件にすぎず、それと同じくらいに大事なのは候補者と求人企業のカルチャーや価値観のフィットの方です。もっとも、均質的な新卒プロパー中心で構成されるメンバーシップ型日系企業においては、外からの転職者(部外者)がプロパーの正社員クラブという濃密な人間関係に「食い込む」ことがより困難であろうことは認めますが…。
次に、アンラーニングについて…。これは、実のところ「言うは易し…」の典型でして、転職者自身もいざ新しい会社に転職してからでないと自分のどのスキル/知識/経験がそこでどこまで通用するかはその場でやってみないと分からないものです。その点、日系〜外資系を問わず、様々な国や地域や業界や企業や組織や職種や上司や部下や同僚の下で多彩なプロフェッショナルな経験を積んでいけばいくほど、容易かつスピーディに身に付けた自分の経験や知識やスキルをその都度「出し入れ」出来るようです。
最後に、今回の引用論文で(少々)残念だったのは…。
やはりジョブ型はまだまだ多くの日本人にとって「想像(空想)の域」を出ないばかりか、サーベイが引用され一見客観的なレポートに見えても肝心な箇所でステレオタイプな意見が紹介され(たいした検証もされずに)全体の要旨がそれにバイアスを受けてもっともらしく構成されてしまっていること。さらには、肝心要のHamachan先生までもが、それにノッてしまっているように見受けられることです…。
投稿: ある外資系人事マン | 2017年12月19日 (火) 21時30分