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2017年12月

エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10の労働関係図書

日経新聞の「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」に、本ブログで紹介した労働関係図書が4冊、それも上位に入っています。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25140590X21C17A2MY5000/

毎年恒例の「エコノミストが選ぶ 経済図書ベスト10」の結果がまとまった。官民で議論が進む「働き方改革」に関心を持つ選者が多く、雇用や労働の問題を、理論とデータの両面から分析した秀作が並んだ。メガバンクが大規模な人員削減の計画を発表し、金融機関の先行きが不透明さを増す中で、金融を立て直す方法を提言する本が上位に入った。・・・

ということで、堂々の1位に『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』が上がっています、こては本ブログでも多くのPVを集めました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-f575.html (玄田有史編『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』)

24070そのものズバリ、聞きたいことをそのままタイトルにした本です。曰く:人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか?

https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766424072/

“最大の謎”の解明に挑む!

働き手にとって最重要な関心事である所得アップが実現しないのは、なぜ?
22名の気鋭が、現代日本の労働市場の構造を、驚きと納得の視点から明らかに。
▼企業業績は回復し人手不足の状態なのに賃金が思ったほど上がらないのはなぜか? この問題に対して22名の気鋭の労働経済学者、エコノミストらが一堂に会し、多方面から議論する読み応え十分な経済学アンソロジー。
▼各章は論点を「労働需給」「行動」「制度」「規制」「正規雇用」「能力開発」「年齢」の七つの切り口のどれか(複数もあり)を中心に展開。読者はこの章が何を中心に論議しているのかが一目瞭然に理解できる、わかりやすい構成となっている。
▼編者の玄田教授はまず、本テーマがなぜいまの日本において重要か、という「問いの背景」を説明し、各章へと導く。最後に執筆者一同がどのような議論を展開したかを総括で解題する。
▼労働経済学のほか、経営学、社会学、マクロ経済、国際経済の専門家や、厚生労働省、総務省統計局、日銀のエコノミストなど多彩な顔ぶれによる多面的な解釈は、まさに現代日本の労働市場が置かれているさまを記録としてとどめる役割も果たしている。

詳細な目次はこちらにありますので、ご参考までに。

玄田さんの編集なので経済学者がやや多いですが、人事労務管理論の人、労使関係論の人、社会学の人など、それぞれの切り口の違いが面白いです。

経済学系の議論ではやはり、第5章(山本、黒田)や第14章(加藤)が論じている賃金の上方硬直性の原因論が面白いです。

えっ?上方硬直性?そう、景気が悪くなっても賃金が下がらない現象を下方硬直性と呼ぶならば、景気がよくなっても賃金が上がらない現象は上方硬直性ですね。

その原因を、これら論文は下方硬直性にあるといいます。えっ?何のこと?

細かい議論は第14章でされていますが、第5章での表現を使えば、

・・・過去の不況期に賃下げに苦慮した企業ほど、景気回復期に賃上げを控える傾向にある可能性、すなわち「名目賃金の上方硬直性」は「名目賃金の下方硬直性」によってもたらされている可能性があることを指摘する。

という議論です。ちょっとアクロバティックな感じをかもしつつきっちりと経済学的な議論になっていて、とても面白いです。

一方、人事労務管理や労使関係の専門家がこの問題に取り組むと違った側面が見えてきます。

第6章(梅崎)は人材育成力の低下による「分厚い中間層」の崩壊が原因なんだと説きます。企業から見たら、人手不足だけれど本当に欲しい人材がいないからだと。

あるいは、JILPTの西村さんの第13章は、前に本ブログでも若干紹介しましたが、賃金表が変わってきて、積み上げ型からゾーン別昇給表になってきたため、ベースアップしてもそれが後に効果として残っていかなくなっているということを指摘します。

そして社会学の立場から第15章(有田)は、日本の非正規雇用が身分制が強く、生活保障の必要性が正社員との格差の正当化理由だったのに、能力という別の正当化ロジックで都合のよい使い分けがされてきたといいます。これについても、有田さんの本を紹介した時にやや詳しく紹介しました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2016/03/post-8659.html(有田伸『就業機会と報酬格差の社会学』)

事実認識として結構衝撃的なのは、第4章(黒田)が示す、就職氷河期世代が見事に低賃金のまま今に至ってきているというデータでしょう。

2010年から2015年にきま給の変化を学歴別年齢階層別に見ると、高卒と高専短大卒で35-39歳層、大学大学院卒で35-39歳層ととりわけ40-45歳層でぐっと落ち込んでいるのです。これはつまり上のコーホートよりも低賃金になったということで、就職氷河期世代が被った「傷痕」効果は極めて大きなものであったことが分かります。

ちなみに、この黒田さんの論文は連合総研が昨年11月に出した『就職氷河期世代の経済・社会への影響と対策に関する研究委員会報告書』の黒田論文のサマリーになっていて、そちらから、グラフを引用しておきますね。

http://www.rengo-soken.or.jp/report_db/file/1478760813_a.pdf

Diodio

他の論文もそれぞれに興味深い議論を展開しています。この問題に関心のある人々にとっては「買い」でしょう。

基本データ 人手不足と賃金停滞   玄田有史・深井太洋

 序  問いの背景   玄田有史

第1章 人手不足なのに賃金が上がらない三つの理由   近藤絢子
 ポイント 【規制】 【需給】 【行動】
  1 求人増加の異なる背景
  2 医療・福祉:介護報酬制度による介護職の賃金抑制
  3 「人手不足イコール労働力に対する超過需要」ではない可能性
  4 名目賃金の下方硬直性の裏返し
  5 複合的な要因解明が必要

第2章 賃上げについての経営側の考えとその背景   小倉一哉
 ポイント 【制度】
  1 賃上げ率と賞与・一時金の動向
  2 経団連の主張と主な特徴
  3 成果主義の普及
  4 経営環境の変化
  5 今後も不透明は漂う

第3章 規制を緩和しても賃金は上がらない
――バス運転手の事例から   阿部正浩
 ポイント 【規制】 【制度】
  1 バス需要の増加と深刻な運転手の人手不足問題
  2 バス運転手の仕事と労働市場の特徴
  3 バス運転手の賃金構造の変化
  4 なぜ賃金水準は下がったのか
  5 バス運転手の労働市場の問題か

第4章 今も続いている就職氷河期の影響   黒田啓太
 ポイント 【年齢】 【正規】 【能開】
  1 「就職氷河期世代」への注目
  2 同一年齢で見る世代間賃金格差
  (1) 学歴別・性別によるちがい
  (2) 雇用形態別の給与額
  (3) 給与額増減の要因分解
  (4) 「就職氷河期世代」の労働者数に占める割合について
  3 「就職氷河期世代」の賃金が低い理由
  4 氷河期世代の悲劇

第5章 給与の下方硬直性がもたらす上方硬直性   山本 勲・黒田祥子
 ポイント 【行動】
  1 下方硬直性によって生じ得る名目賃金の上方硬直性
  2 名目賃金の下方硬直性が生じる理由とエビデンス
  3 企業のパネルデータを用いた検証
  (1) 利用するデータと検証方法
  (2) 過去の賃金カットと賃上げの状況
  (3) 名目賃金の下方硬直性と上方硬直性の関係
  4 日本の賃金変動の特徴と政策的な含意

第6章 人材育成力の低下による「分厚い中間層」の崩壊   梅崎 修
 ポイント 【制度】 【能開】
  1 「欲しい人材」と「働きたい人材」のズレ
  2 「分厚い中間層」の崩壊
  3 New Deal at Workのジレンマ
  4 企業内OJTの衰退
  (1) 長期競争よりも短期競争
  (2) 経験の場の消失
  5 解決策は実現可能な希望なのか

第7章 人手不足と賃金停滞の並存は経済理論で説明できる   川口大司・原ひろみ
 ポイント 【正規】 【需給】 【能開】
  1 問題意識――パズルは存在するか
  2 企業の賃金改定の状況とその理由
  3 労働者の構成変化が平均賃金に与える影響
  4 女性・高齢者による弾力的な労働供給
  5 労働供給構造の転換点と賃金上昇
  6 賃金が上昇する経済環境を整えるために――人的資本投資の強化

第8章 サーチ=マッチング・モデルと行動経済学から考える賃金停滞   佐々木勝
 ポイント 【需給】 【行動】
  1 日本だけの問題なのか
  2 標準モデルから予想できること
  3 モデルは循環的特性を再現できるか
  4 なぜ賃金調整は硬直的なのか
  5 賃金硬直性の帰結と背景

第9章 家計調査等から探る賃金低迷の理由――企業負担の増大   大島敬士・佐藤朋彦
 ポイント 【年齢】 【正規】 【制度】
  1 世帯の側からの視点
  2 世帯主の勤め先収入
  3 世帯主の年齢分布
  4 高齢化・非正規化の影響
  5 増加する賃金以外の雇主負担
  (1) 上昇する社会保険料率
  (2) 非消費支出比率の上昇
  (3) 世帯主の勤め先収入
  (4) 1人あたり雇主の社会負担
  6 社会保険料率等の引き上げの影響

第10章 国際競争がサービス業の賃金を抑えたのか   塩路悦朗
 ポイント 【規制】 【需給】
  1 高齢化社会と「あり得たはずのもう一つの現実」
  2 パズルは本当にパズルなのか――国際競争に注目する理由
  3 イベント分析の対象としてのリーマン・ショック
  4 検証1:求職者は対人サービス部門に押し寄せたか
  5 検証2:求職者の波に対人サービス賃金は反応したか
  6 検証結果のまとめ
  7 労働市場で何が起きているのか? 図解
  8 今後の課題:なぜ対人サービス賃金は硬直的なのか

第11章 賃金が上がらないのは複合的な要因による   太田聰一
 ポイント 【正規】 【需給】 【年齢】
  1 原因は一つではない
  2 非正規雇用者の増大
  3 賃金版フィリップス曲線から
  4 誰の賃金が上がっていないのか
  5 議論――「世代リスク」にどう対処するか

第12章 マクロ経済からみる労働需給と賃金の関係   中井雅之
 ポイント 【需給】 【正規】
  1 日本的雇用慣行の特徴から労働需給と賃金の関係を考える
  2 労働需給と賃金は必ずしも連動しない
  3 需給変動と内部・外部労働市場
  4 雇用の非正規化と一般の時間あたり賃金の動向
  5 労働市場の課題と労働政策

第13章 賃金表の変化から考える賃金が上がりにくい理由   西村 純
 ポイント 【制度】
  1 賃金の決まり方
  (1) 賃金表
  (2) 三つの要素
  2 昇給の仕組み(三つの方法)
  3 昇給額決定の実際
  (1) 「積み上げ型」の賃金表
  (2) 「ゾーン別昇給表」の登場
  (3) ベースアップ
  (4)賃金表変化の背景
  4 賃金を上げるために

第14章 非正規増加と賃金下方硬直の影響についての理論的考察   加藤 涼
 ポイント 【正規】 【年齢】 【行動】
  1 なぜ賃金は上がりにくくなったのか――問題の所在
  2 賃金が硬直的な下での正規・非正規の二部門モデル
  3 賃金の下方硬直性と上方硬直性
  4 人的資本への過少投資と賃金の上方硬直性

第15章 社会学から考える非正規雇用の低賃金とその変容   有田 伸
 ポイント 【正規】
  1 社会学と国際比較の視点から
  2 日本の非正規雇用とは何か
  (1) 正規/非正規雇用間の賃金格差
  (2) 賃金格差の強い「標準性」
  (3) 非正規雇用の補捉方法の特徴
  3 なぜ日本の非正規雇用の賃金は低いのか
  (1) 格差の正当化ロジックへの着目
  (2) 企業による生活保障システムと格差の正当化
  (3) もう一つの正当化ロジックと都合のよい使い分け
  4 非正規雇用の静かな変容
  5 なぜ賃金が上がらないのか――非正規雇用に着目して考える

第16章 賃金は本当に上がっていないのか――疑似パネルによる検証   上野有子・神林龍
 ポイント 【需給】 【年齢】
  1 上がらない賃金?
  2 賃金センサス疑似パネルからみた名目賃金変化率
  3 賃金総額の変化の分解
  4 結論――上がらない賃金と人手不足傾向の解釈

結び 総括――人手不足期に賃金が上がらなかった理由   玄田有史

あとがき

執筆者一覧

2位も労働関係の本で山口一男さんの『働き方の男女不平等』。これも素晴らしい本でした。経済図書という枠を超え、日本社会のありようを鋭く解剖しています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/post-470e.html山口一男『働き方の男女不平等』

51mq2jnqt3l__sx356_bo1204203200_山口一男さんの『働き方の男女不平等 理論と実証分析』(日本経済新聞出版社)をお送りいただきました。ありがとうございます。山口さんは以前の『ワークライフバランス』でも大変ブリリアントな切れ味の分析を示してこられましたが、本書はさらに磨きがかかっています。

http://www.nikkeibook.com/book_detail/13471/

◆先進諸国のなかで、日本の男女平等の度合いが最低ランクなのはなぜか? 学歴の男女差が縮まり、企業が両立支援策を推進しても、なぜなかなか効果が現れず、逆に悪化している指標まであるのはなぜか? 日本を代表する社会学者が日本や海外の豊富なデータと最新の統計分析手法をもとに解明する。

◆分析の結果、現在の「働き方改革」や「一億総活躍社会」の取り組みにとっても示唆に富む、次のような事実が明らかになる。
*「女性は離職しやすく、女性への投資は無駄になりやすい」という企業側の思い込みが、女性活用の足かせとなっている。
*労働時間あたりの生産性が高い国ほど女性活躍推進を進めやすいが、長時間労働が根付く日本では進めにくい。
*管理職割合の男女差は、能力からはほとんど説明がつかず、性別や子供の年齢、長時間残業が可能かどうかが決定要因となっている。
*女性の高学歴化が進んでも、低賃金の専門職(保育・介護・教育など)に就く女性が多く、高賃金の専門職(法律職・医師など)になる割合が著しく少ないため、賃金格差が広がることになっている。

◆著者の山口一男氏は、社会学で世界最高峰の位置にあるシカゴ大学で学科長まで務めた、日本人学者としては希有の存在。

黙示は次の通りですが、

第1章 女性活躍推進の遅れと日本的雇用制度――理論的オーバービューと本書の目的

第2章 ホワイトカラー正社員の管理職割合における男女格差の決定要因

第3章 男女の職業分離の要因と結果――見過ごされてきた男女平等への障害

第4章 ホワイトカラー正社員の男女の所得格差――格差を生む約80%の要因とメカニズムの解明

第5章 企業のワークライフバランス推進と限定正社員制度が男女賃金格差に与える影響

第6章 女性の活躍推進と労働生産性――どのような企業施策がなぜ効果を生むのか

第7章 統計的差別と間接差別――インセンティブ問題再訪

第8章 男女の不平等とその不合理性――分析結果の意味すること

ここではちょっと毛色の変わった第1章を紹介しておきます。タイトルから窺われるように、女性が活躍できないことと「日本的雇用制度」(日本型雇用システム)との関係を概括的に考察しているのですが、わたしにとっても大変興味深い議論が展開されているからです。

日本型雇用については、70年代に隅谷・舟橋論争があったことは、労働研究者くらいしか知らないかもしれませんが、山口さんも若い頃はドリンジャー・ピオレの内部労働市場論自体、あるいはロバート・コールの機能的代替物論によっていたそうですが、次第に舟橋の指摘する「日本企業が雇用者のイニシアティブや意志を考慮しないという点は、実はかなり本質的な違いであると思えてきた」そうです。つまり、「無限定な職務内容や不規則な残業要求への従属を課すことによる拘束と高い雇用保障をすることの交換という機能をも持つ」という点ですね。この「無限定性」への着目が、女性の活躍できなさとつながるポイントになるわけです。逆にいうと、そこを無視した機能的代替物論は、男女均等法以前的視座に立った議論だったと言えるのでしょう。

そしてそこから山口さんは、村上・佐藤・公文の『文明としてのイエ社会』論が、日本型雇用が機能的にも欧米と異なる説明になっているとして、彼らが「イエ社会」の特徴としてあげた4つの点について詳しく検討していきます。

村上・佐藤・公文の「系譜性」対「利潤最大化」の対比、そして筆者のいう「報酬の連帯性」対「報酬の個別性」の対比は、ともに機能の違いを意味する。これらの違いはわが国企業の雇用制度・慣行が単に欧米の内部労働市場の機能的代替物とみなすことは出来ないことを意味していると考えられる。そして「報酬の連帯性」は報酬が個人の業績・成果にたいして与えられるべきという規範が存在しないわが国の文化的初期条件の下で可能であった。また村上・佐藤・公文のいう「縁約」が日本企業の特性となったことは、「契約」の内容である「労働と賃金の交換」に加え、「会社という疑似家族のメンバーになること」と「会社への忠誠心」の交換という側面を正規雇用に付与したと思われる。またこのためわが国企業が正規雇用に新卒者を重視し、転職者・離職者を「忠誠心に欠ける者」として軽視する慣行が生まれたと考えられる。

この議論だと、近世以前の「イエ社会」がそのまま現代の日本型雇用に流れ込んだようですが、そこは労働研究者周知の通り、山のような議論があってですね、少なくとも西欧の中世ギルドと近代労働組合の関係以上に、そう簡単に直接のつながりを議論できないと思います。

というか、そのすぐ後で、わたしを引用してこう述べています。

第2点目は労働法学者の濱口が『日本の雇用と労働法』(2011)で展開した「メンバーシップ型(典型的日本企業)」と「ジョブ型(典型的欧米企業)」の対比は構造面(縁約 対 契約、無限定の職務 対 役割分業の明確な職務)での村上・佐藤・公文の日本企業と欧米企業の対比とほとんど変わらないという点である。ただ濱口はわが国の労働関係法が成立時の概念において西洋の法に基づきながら、その適用において日本的雇用メンバーシップ型)の雇用慣行実態に合うよう解釈されてきたという実例の記述を多数提示しており、そこは濱口独自の貢献で、わが国の労働関係法の適用の曖昧さを理解する点でも参考になる。

それに続くのは、日本型雇用の「戦略的合理性」の議論です。戦略的合理性というのは、「一旦ひとつの制度を持つと、他の制度の合理的選択に影響を及ぼすことをいい、伝統の異なる国が合理的制度を持つ近代になっても、異なる制度を持つことの説明として使われることが多い」そうで、経路依存性とも呼ばれるようです。それがなんの関係があるのかというと、

筆者は日本的雇用慣行・制度は戦略的に合理的な一連の制度の選択により出来上がったが、外的条件の変換の中でその均衡の劣等性が顕著になっても、より合理的な制度への変換ができなくなっており、それが日本企業の人材活用を一般的に非合理的にし、その結果女性の人材活用の進展も強固に阻んでいると考えるからである。

もう少し女性政策史に即していうと、日本型雇用を維持するということがあまりにも大前提であったがゆえに、それを揺るがしかねないような男女平等はダメ、で、それまでの男性の働き方のコースにそっくりそのまま女性を入れる形でしか進められなかったため、結局女性の活用も進められなかった、という風に言えるのでしょうか。

もう一つ、第7章で突っ込んで分析されている統計的差別の問題について、最後の第8章の冒頭のアリスとクイーンの会話が抱腹絶倒なので、引用しておきますね。

〔ハートのクイーン〕女性雇用者たちがおる。彼女たちは離職の罰を受けて、賃金をカットされておる。離職がどの程度のコストを生むかはいつ離職するかによるが、まもなく算定されるであろう。そしてもちろん離職は最後にやってくるのじゃ。

〔アリス〕でも、もし彼女たちが離職をしないなら?

〔クイーン〕それは一層良いことじゃ。

〔アリス〕もちろんそれは一層良いことだわ。けど、彼女たちが罰せられるのは一層良いこととは言えないわ。

〔クイーン〕そなたはともかく間違っておる。そなたは罰を受けたことはあるかの?

〔アリス〕悪いことをしたときにはね。

〔クイーン〕それごらん、罰は良いことなのじゃ。

〔アリス〕けど、わたしの場合は罰に値することをまず先にしたのよ。そこが彼女たちとは大きな違いだわ。

〔クイーン〕されど、その罰に値することを、もししないならば、それはなおさら、なおさら、なおさら良いことなのじゃー。

4位に入った『日本の人事を科学する』は、同じくこのベスト10に入っている伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(光文社新書)の人事バージョンという趣もありました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/post-e56a.html (大湾秀雄『日本の人事を科学する』)

321503大湾秀雄『日本の人事を科学する―因果推論に基づくデータ活用―』(日本経済新聞出版社)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.nikkeibook.com/book_detail/32150/

◆働き方改革の実行や、女性管理職の育成、労働生産性アップ、ストレスチェックなど、人事部門は、様々な課題について現状を正確に把握し、数値目標を立てて改善に取り組まねばならなくなった。本書は、多くの日本企業が抱えるこれらの人事上の課題を、データを使ってどのようなに分析し、活用すればよいのかを解説。

◆著者が、株式会社ワークスアプリケーションズや経済産業研究所(RIETI)と連携して行ってきた研究成果を活かし、具体的に、読者が自分の会社で使えるように解説する。

◆女性の管理職育成が候補者を選ぶところから行き詰まってしまうのはなぜか、早期退職者を減らすにはどうしたらよいか、労働時間管理をどのように行えば良いのかなど、具体的にいま日本企業が抱えている問題を取り扱う。

この本のタイトルでいうところの「科学する」とは、副題から明らかなように、統計学的なデータに基づく推論です。

読んでいくと、かなり懇切丁寧にデータ分析のやり方を解説していまして、最近話題の伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(光文社新書)の人事バージョンという趣もあります。

第1章 なぜ人事データの活用が必要か――人事部が抱える問題

第2章 統計的センスを身につける

第3章 女性活躍推進施策の効果をどう測ったら良いか

第4章 働き方改革がなぜ必要か、どのように効果を測ったら良いか

第5章 採用施策は、うまくいっているか

第6章 優秀な社員の定着率を上げるためには何が必要か

第7章 中間管理職の貢献度をどう計測したら良いか

第8章 高齢化に対応した長期的施策を今から考えよう

第9章 人事におけるデータ活用はどう発展するか

最後に、9位の神林龍さんの『正規の世界・非正規の世界』 については「労働・雇用問題の専門家の間で評価が高かった」というのがまさにそうだろうという感じです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/post-9678.html (神林龍『正規の世界 非正規の世界』)

24820神林龍さんから大著『正規の世界 非正規の世界――現代日本労働経済学の基本問題』(慶應義塾大学出版会)をお送りいただきました。ありがとうございます。本書は神林さんの初の単著にして、日本の労働問題を縦横無尽に分析している名著でもあります。

http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766424829/

なんと言っても版元の宣伝文句が半端ない。

働き方改革の根底に潜む問題を壮大なスケールで展望!

労使自治は“桎梏”か“根幹”か? 著者は現代の労働市場で最も顕著な問題を「正規の世界と非正規の世界の不釣合いな関係」と捉え、
富国強兵からシャッター商店街に至る1世紀余りを労働経済学・数量経済史・法と経済学など多彩なアプローチ・分析手法を用いて概観。
現在から未来へとつながるわが国の働き方のトレンドを展望する渾身の力作!
▼私たちは、日々働いている自分たちの労働市場の全体像について、実はあまりよくわかっていないのではないだろうか? この前提からスタートして、現状をより深く理解するために、戦前からの歴史的経緯、ビッグデータを用いた数量分析、「 法と経済学」の視点など、多彩なアプローチを用い壮大なスケールで描き出す!
▼著者はいま数多く存在する労働市場の問題の中で、特に「正規労働と非正規労働の不釣合いな関係」に着目し、その要因、格差の存在、二極化する仕事、自営業の衰退など、まさにわれわれが日々直面しているの解明に正面から取り組んでいる。次世代の労働経済学界の中心的存在の一人である著者、初の単著!

現代日本の労働市場の姿を個別のトピックだけでなく、“全体”として捉えるべく「正規・非正規の関連」を機軸に①日本的雇用慣行成立に至る歴史的経緯、②政府統計等のビッグデータを用いた数量経済史的手法からの分析、③労働法や雇用関係法等「法と経済学」からの視点、といった多彩なアプローチを展開。個人による仕事とは思えない幅広いスケールで、現在の労働市場を描き出す意欲作!

目次は下に掲げるとおりですが、何しろ冒頭、『ああ野麦峠』から始まって、女工供給組合の話が延々と続き、そしてILO条約に基づく公共職業紹介事業がいかに地方の抵抗でうまくいかなかったかという話、口入れ屋は身元保証をしてくれるけれども公共はしてくれないからダメだみたいな話が、戦時体制下で国営化している話と、ここまでで2章。

タイトルになっている正規と非正規についても、期間の定めよりも『呼称』が重要というところに、日本の非正規の特徴を見出し、それがむしろ自営業の減少に代わって増えてきたことを示しています。いやいやこの辺りは精密な分析がいろいろされているので、こんな片言隻句で紹介しない方が良いかもしれない。

他にあまり似たような議論を見たことがないのが第7章で、ジョブをさらに分解して、タスクレベルで仕事がどうシフトしてきたかを分析していて、大変興味をそそられました。民主党政権の失政で仕分けされてしまったキャリアマトリックスを活用した分析だという点も重要でしょう。

序 章:本書の目的と構成

 第Ⅰ部:制度の慣性

第1章:戦前日本の労働市場への政府の介入
第2章:日本的雇用慣行への展開

 第Ⅱ部:正規の世界、非正規の世界

第3章: 正規の世界
第4章:非正規の世界
第5章:世界の掟― “不釣り合い” の要因

 第Ⅲ部:変化の方向?――現代の労働市場を取り巻く諸側面

第6章:賃金格差――二極化する賃金
第7章:二極化する仕事――ジョブ、スキル、タスク
第8章:自営業はなぜ衰退したのか
第9章:存在感を増す「第三者」

終 章:現代日本労働経済学の基本問題

 

 

 

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2018年のキーワード「柔軟な働き方」@『先見労務管理』2018年1月10日号

Senken『先見労務管理』2018年1月10日号に2018年のキーワード「柔軟な働き方」を寄稿しました。

http://senken.chosakai.ne.jp/

この新年のキーワードも5年目になります。今年もキーワードは5つで、私の執筆した「柔軟な働き方」のほか、岩城穣さんが「過労死等防止対策」、北浦正行さんが「勤務間インターバル制度」、岸健二さんが「新求人ルール」、北岡大介さんが「新36協定」をそれぞれ解説しています。

わたくしの「柔軟な働き方」は、広くとれば何でも入るテーマですが、今回はもっぱら非雇用型テレワークと呼ばれている個人請負就業にかかわる問題を概説しています。

1 在宅ワークガイドラインとその見直し

2 雇用類似の働き方に関する検討

(1) 厚生労働省「個人請負型就業者に関する研究会」

(2) 経済産業省「雇用関係によらない働き方に関する研究会」

3 EUにおける雇用類似の働き方に対する政策の試み

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WLBにモヤモヤしている中高年男性にお勧め

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 拙著『働く女子の運命』に、またアマゾンのレビューがつきました。「kuma Su.」さんという方の「WLBにモヤモヤしている中高年男性にお勧め。日本労働社会の「メンバーシップ型」の部分が変わらなければ、女性に無理を強いることになる。」というやや長いタイトルのレビューです。

https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R1YQG1GM8Z7KTU/ref=cm_cr_getr_d_rvw_ttl?ie=UTF8&ASIN=4166610627

タイトルだけでなく、中身もかなり長く、大変深く突っ込んだレビューをしていただいております。

 職場でワークライフバランス(WLB)推進計画を策定しても、なかなかうまくいかないので、本書を読んだ。読者の職場では、「超勤」は徐々に減少しつつあるが、「転勤」は依然としてキャリアプランの前提と言わざるを得ない。こういった個々の要素は分かっていても、本書を読むことで、日本の女性活躍を阻む根源について、歴史的経緯も含めて全体像が理解できた気がした(★5)。WLBにモヤモヤしている中高年男性にこそお勧めの本である。

 著者は、女性活躍を阻む根源を、「日本の労働社会が、欧米のようなジョブ型でなく、メンバーシップ型であること」と指摘する。「個別の職務ではなく、組織に身を捧げ、命令があればいかなる職務にでも従事し、転勤も受け入れる。その代償として、終身雇用、年功賃金が保証される」(いわゆる日本型雇用システム)。バブル崩壊後、リストラや成果給導入など崩れつつあるように見えるが、中高年層の意識や諸制度・慣行の中には、まだしぶとく生き残っているのだ。ところが、日本型雇用システムの起源は意外に新しく、戦時統制経済に起源がある。国家総動員体制では「お国のため、臣民に奉仕させた」。そこでは、会社間の自由な労働移動は禁止して解雇も制限(=終身雇用)、また、給与は労働への対価というより、労働者が家計を支えられるだけ額(生活給)という性格を有するようになった(=年功賃金)。本書は、女性労働が明治以降、特に戦後どのように変化したか、先輩が職場で経験した困難や女性官僚が制度改正に格闘してきた歴史も紹介している。

 この「生活給」という考え方こそが根源(キモ)である。この考え方のために、通常世帯主となる男性と、そうではない女性の処遇を異なるものとし、しかも女性には早く退職してもらわないと困る、というようなシステムが出来上がったというのである。そして、これが高度経済成長を支えたと脳裏に染みついている財界人がいたり、労働組合も生活給を支持したりで、簡単には変わらない。

 さて、総合職なら男女どちらでも同じコースを歩めること(著者は「コースの平等」と呼ぶ)は、「従前よりはまし」かもしれないが、家事・育児というハンデを負いながら(イクメンだって均等負担は少ないのでは)、「男と同様に働け」では、女性総合職はスーパーウーマンであることを要求される。
 さらに、欧米に比べて労働時間規制が緩い状況下では、表面的に各種休暇制度を整えると、制度を活用する人のしわ寄せが、活用を手控えて頑張ってしまう人に及んで、両者の間に溝ができてしまう。したがって、書名の「運命」には不穏な雰囲気が漂い、本書の最後は、「現代の女子の運命は、なお濃い霧の中にあるようです」になっている。

 なお、本書の刊行が推進薬となったのか、やっと日本でも欧米並みの「(いわゆる36協定でも超えることのできない)罰則付きの時間外労働の上限規制」が導入される方向となっており(平成30年通常国会に法案提出見込み)、上限の数値案が大き過ぎる等の批判はあるものの、長い目で見て期待したいところである。

正直、「WLBにモヤモヤしている中高年男性にこそお勧めの本である」という視点は、今までのいろんなレビューにもあまりなく、意外な感じで大変うれしく感じました。

26184472_1 そう、これはその中高年男性にこそ読んでほしいと思って書いたものの、残念ながら若者本や女子本のようには売れ行きが良くない『日本の雇用と中高年』と表裏合わせ鏡になるような話なんですね。

あと、読書メーターでも「真」さんがレビュー。

https://bookmeter.com/reviews/68692542

働く場所・労働時間・仕事内容が仕事を続けるにあたって重要なはずなのに限定されずに企業のスペシャリストとして働くことを要求される社会。所謂総合職のような基幹職につきたいのであれば専業主婦やパートタイムで働く妻に家事を丸投げしていた男性の化石モデルのように働くことを男女に要求するのみで果たして何の解決になるのだろうか。だらだらと時間を費やすことを拒んだだけで昇進条件を満たすことができなくなる企業の多い国の経済成長に希望が見えない。

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EUにおける新たな就業形態に対する政策の試み@『労基旬報』2018年1月5日号

『労基旬報』2018年1月5日号に、『EUにおける新たな就業形態に対する政策の試み』を寄稿しました。

 昨年3月に策定された「働き方改革実行計画」には、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」というタイトルの下に、雇用型テレワーク、非雇用型テレワーク、副業・兼業の推進が掲げられています。厚生労働省はこれを受けて、昨年10月3日から「柔軟な働き方に関する検討会」を、10月24日から「雇用類似の働き方に関する検討会」を開催しています。雇用、非雇用の両側にまたがるこうした新たな就業形態について、EUレベルではいくつかの法政策の試みが進められています。本稿では、日本における法政策の参考となりうる近年のEUの動きを紹介していきたいと思います。
 
 まず、2000年6月に「雇用関係の現代化と改善」というテーマでEUレベルの労使団体に対して第1次協議が行われたのが出発点です。ここでは、テレワークと経済的従属労働者(伝統的な被用者の概念にはあてはまらないが、単一の就業源に経済的に従属している労働者)についての政策対応が提起されました。テレワークについては労使双方とも積極的な姿勢を見せ、2001年3月の第2次協議を経て、欧州経団連、欧州労連等は同年9月から交渉に入り、2002年7月にテレワーク協約が締結されました。同協約はテレワークの自発性、雇用条件、データ保護、プライバシー、機材、安全衛生、労働組織、訓練、集団的権利等について規定し、各国の加盟組織によって施行されます。EU指令ではなく労使による自律協約という形をとったEU労働法の第1号でもあります。
 この協約の対象は雇用型テレワークであり、非雇用型、つまり労働者に当たらない就業者については、上記「経済的従属労働者」というカテゴリーで協議されました。具体的には自由職業、商業代理人、ジャーナリストや音楽家を含むフリーランス労働者、デザイン技術者、トラック運転手、建設労働者、コンサルタント、ある種のテレワーカーや家内労働者といった、全面的にまたは主として単一企業のために働く人々が念頭に置かれていました。しかしこれに対しては、欧州経団連が受け入れず、いったん立ち消えとなります。
  2006年11月に欧州委員会は「21世紀の課題に対処するために労働法を現代化する」と題するグリーンペーパーを発出し、従属労働と独立自営業という概念の中間に位置し、労働法と商法の間のグレーゾーンにあるため保護されない経済的従属自営業者について、その行うサービスのための全ての個人的就業契約に一定の最低要件を導入することを示唆しました。しかし、やはり欧州経団連はEUレベルで労働者の定義を統一しようという考え方に強く反発し、自営業の意義を強調するなど、それ以上進みませんでした。ここまでが前史になります。
 その後の約10年間に、世界共通に経済のデジタル化が進行し、新たな就業形態が叢生してきました。この動きにまずは実態調査から対応したものとして、欧州委員会の外郭団体である欧州生活労働条件改善財団(日本のJILPTに相当)が2015年3月に公表した『新たな就業形態』という報告書があります。そこでは従業員シェアリングジョブシェアリング、臨時派遣経営者、カジュアル労働(オンコール労働)、ICTベースのモバイル労働、バウチャーベースの労働、ポートフォリオ労働、クラウド労働、協同労働といった雇用と非雇用にまたがるさまざまな就業形態が詳細に分析されています。これについては本紙2015年4月25日号に「EUの新たな就業形態」として簡単に紹介しました。
 これに基づく新たな法政策が始まったのが2016年です。同年3月、欧州委員会は「欧州社会権基軸」に関する一般協議を始めましたが、それに対する欧州議会の同年12月の決議は、近年拡大しているデジタル・プラットフォームの仲介による仕事や従属的自営業、さらにゼロ時間契約などのオンデマンド労働を念頭に、「あらゆる就業形態におけるディーセントな労働条件に関する枠組指令」を提案するよう求めたのです。
 これを受けて2017年4月、欧州委員会は書面通知指令の改正と「あらゆる就業形態の人々の社会保護へのアクセス」に関して、条約154条に基づく労使団体への第1次協議を開始しました。これらについても、本紙2017年6月25日号 に「EUの新たな労働法政策-多様な就業形態への対応」として簡単に紹介したので、ご記憶の方もいるでしょう。その後さらに、同年9月には前者についての、11月には後者についての第2次協議に進みました。この二つの第2次協議にはそれぞれ200ページ近い膨大な分析文書が添付されており、EUにおける問題状況や対応策について詳しく記述されています。これは日本における今後に議論にも極めて有用だと思われます。以下では、両第2次協議文書で提示されている具体的な政策を概観します。
 
 まず、昨年9月に行われた書面通知指令の改正に関する第2次協議文書です。ここでは、現在は加盟国の法令に委ねられている書面通知指令の適用対象たる「被用者」について、EU共通の定義規定を設け、家内労働者、派遣労働者、オンデマンド労働者、間歇的労働者、バウチャーベースの労働者、プラットフォーム労働者が含まれることを明確化するとしています。そして現行指令で就業期間1か月以下や週労働時間8時間以下の就業関係を加盟国が適用除外できるという規定も削除すべきとしています。
 書面で通知されるべき情報項目に追加すべきものとして、濫用が指摘される試用期間を挙げるとともに、オンデマンド労働者への適用拡大を前提として、あらかじめ定まった労働スケジュールがない場合には、新たな仕事の割当の前に労働者に確保されるべき最低告知期間と、労働スケジュールの決定システムが挙げられています。また、最低支払い保証労働時間があればそれを、なければ支払い対象となる時間の確定基準を通知すべきとしています。その他、訓練機会、最低支払い保証時間を超える追加的労働の程度、適用される社会保障制度、そして契約終了時に適用される国内法に関する包括的な情報も盛り込まれています。
 さらに書面通知指令の枠を超え、あらゆる就業形態に共通の最低労働条件を規定するものに作り替えるという観点で3つの項目が提示されています。まず「労働の予見可能性の権利」として、カジュアル労働やオンデマンド労働において、関係開始前に労働が遂行されるべき参照時間と参照日数に合意すべきことが求められるとともに、最低事前告知期間が必要とされています。カジュアル労働が一定期間を超えて継続した場合、前期の平均労働時間に基づき最低保証時間の権利を得ることや、専属条項はフルタイムの就業関係に限られることも含まれています。次に、一定期間勤続した労働者が別の就業形態に転換を求める権利と使用者の回答義務が提示され、さらに、試用期間の上限も盛り込まれています。
 以上の中で、さりげなく書かれていますが結構重要なインパクトを持っているのが、プラットフォーム労働者を「被用者」に含めていることです。実は、それこそが現在EUに限らず世界共通に大問題になっていることだからです。欧州委員会が2016年6月に公表した『コラボラティブ・エコノミーへの欧州アジェンダ』(COM(2016)356)は、世間でシェアリング・エコノミーと呼ばれているものをあえて「コラボラティブ」(協働的)と呼ぶなど、このビジネスモデルに対して同情的であり、余計な規制をしない方が良いという価値判断がここかしこに感じられるものになっていました。そして、AirBnBのような宿泊サービス、Uberのような運輸サービスの他、労働サービスそのもののプラットフォームについても、それが新たな就業機会を生み出し、これまで働けなかった人々に働く機会を与える面があると評価しつつ、そこでサービスを提供する者が自営就労者なのか雇用労働者なのかという問題にはあえて一定の結論を出さずにいたのです。
 次は昨年11月に行われた「あらゆる就業形態の人々の社会保護へのアクセス」の第2次協議文書です。EU行動として、強制加入方式と任意加入方式がありうるとしています。前者は非標準的労働者や自営業者に明確な社会保護の権利と義務を設定するので、これら就業形態の不安定さを解消し、労働市場のダイナミズムを回復することができるとともに、保険料支払い義務を課すので、社会扶助支出を削減することができるメリットを挙げます。就業形態の違いによる労働コストの差が縮小するので、偽装自営業や過度な非標準雇用の利用を抑制できるのもメリットです。しかし、社会保険料の増大は労働コストの増大、ひいては境界的な労働者にネガティブな影響を与える危険性もあるので、慎重な検討が必要だとしています。後者(任意加入方式)は加入するかしないかを本人の選択に委ねるもので、意識啓発、金銭的インセンティブ等によって促進され、自営業や非標準的雇用の多様性に対応することができます。しかし人々は不幸な事態の起こる可能性を低く見積もる傾向があるので、任意加入制度はあまり使われないのが実情です。
 適用の実効性に関しては、保険料や受給資格要件の変更が鍵になると分析しています。具体的には、①既存制度を拡大するのか新たな制度を創設するのか、②使用者と労働者の保険料徴収の仕組みと税制上のインセンティブ(ディスインセンティブの除去)、③用いられる制度のタイプと組合せ(公的、職域、私的)、④各制度の加入資格、要件、算定規則を示しています。
 移転可能性については、就労初日から社会保険が適用されて保険料支払いと受給資格が得られ、契約類型が変わったり、自営業へまたは自営業から移動しても権利が保持されることにより、よりダイナミックで活動的な労働市場が促進されると述べます。
 ではどういうEU行動が考えられるのかについては、3つの選択肢を提示しています。もっとも穏和なのは非法制的手段で、21世紀初頭から行われてきた社会保護に関する開かれた協調手法により、毎年の経済・雇用政策勧告を通じて徐々に遂行していこうというものです。中くらいの案が理事会勧告という手法で、各国の社会保障制度の設計について共通の要素を取り入れるよう加盟国に求めていくものです。これは拘束力はありませんが、各国が社会保障制度を設計していく上での一定の効果は見込めます。もっとも強い手段は指令です。この場合、労働者については153条2項、自営業者については352条と、条約上の立法根拠が異なることになりますが、各国に達成されるべき結果について拘束力を有することになります。
 今後の展開が注目されるところです。

 

 

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教員免許がなくてもできる仕事は致しません

昨日のエントリ「学校における働き方改革に関する緊急対策」に関わって、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/post-38e2.html

Logo_mextある方から、この問題を所管している初等中等教育局初等中等教育企画課長の矢野和彦さんが、文科省の初等中等教育局メールマガジンに、こういうコラムを書いているよと、お知らせいただきました。「「学校における働き方改革について」というコラムです。

メルマガなので、現時点ではまだ一般公開されていないのですが、国の機関のメルマガなのでプライベートなものではないはずですし、時間が経つと文科省HPに公開されているようなので、興味深かったところを紹介したいと思います。

http://www.mext.go.jp/magazine/backnumber/symel.htm

なかなか本音ベースの表現が炸裂していまして、学校という業界がどういう顧客の皆様に取り囲まれているかが浮かび上がってきますが・・・、

・・・その一方で、世間からは、「子供が問題を起こした。」「トラブルに巻き込まれた。」「事故に遭った。」といえばまず学校に連絡が来たりします。また、通学路、あるいは、地域で何か事件が起これば翌日には、教師たちが早朝から通学路に立ったり、集団登校の引率をしたりします。
 一義的には子供の保護責任は保護者にあるはずで、「緊急」の名のもとに教師たちが本来業務でもないにもかかわらず対応しているわけですが、もし、その対応を誤った場合、事故が起きてしまった場合、いったいだれがその責任を取るのでしょうか。
 また、「放課後は行き場のない子供たちのために学校を使わせてほしい。そこに先生がいるのだから、何かあったら子供たちの面倒を見てやってほしい。」「自分たちはこ~んないいことをする。だからぜひ学校は保護者や子供たちに協力するよういうべきだ。」などなど多くの「善意」が持ち込まれます。一つ一つは確かにいい話なのですが、しかし、見方を変えれば、単に学校や教師の「善意」に「フリーライド」しているだけです。こうやって学校や教師が「ボランティア」を迫られ続けるのです。
 なぜ、学校がこんな状況になり、多忙化しているのか、要因については、今回の「中間まとめ」で書かれた通りですが、私は、文部科学省の責任は大きいと思います。・・・

で、しばらくその文科省の反省が続きますが、そこを飛ばして少し先に行くと、本エントリのタイトルになる決めぜりふが出てきます。

・・・ところで、何かの番組で「医師免許がなくてもできる仕事は致しません。」という決めゼリフがありましたが、「教員免許がなくてもできる仕事は致しません。」と教師が言える現状に果たしてあるでしょうか。

 欧米諸国と違って、おおざっぱに言えば、日本の学校では教師以外のスタッフは1校に1人の事務職員、養護教諭、用務員(主事)がそれぞれ配置されている程度で、それ以外のスタッフの人数は非常に少ない、というのが実情です。アシスタントティーチャーなどが教師の数以上にいるようなイギリス、教師と同レベルの資格をもつ生徒指導専門員のいるフランスなど、欧米諸国の学校には、大勢の教師以外のスタッフが存在します。また、学校の「守備範囲」自体が、「知徳体」を標榜し、全人格的な完成を目指す「日本型学校教育」=「大きな学校」に比較すると、欧米諸国の学校の「守備範囲」は、やや乱暴に言うと「知育」+αに特化しているといえ、「小さな学校」とな っています。全然、比較する土台が違います。 ・・・

そう、話は結局そこにたどり着くのですね。世界的には「先生」と言われる高度専門職のはずが、「いつでも、どこでも、なんでも」の3拍子揃った典型的な無限定正社員型の働き方になっているわけです。

そしてそれを支える、「いつでも、どこでも、なんでも」子どもの面倒見てくれるのが当たり前という親という名のお客様の群れ・・・。

そこから矢野さん、ご自分のローマ駐在時代の経験を語り出します。

・・・話はやや脱線しますが、私がイタリアの日本大使館に勤めていた際に、ローマ市立の幼稚園に息子を通わせておりましたが、就園年齢は、2~4歳なので当然「おもらし」もあります。1年目は、用務員さんが「おもらし」の対応をしてくれていたのですが、2年目からは、学校と用務員さんとの間で交渉が「決裂」し、「おもらし」の対応は学校はしないことになりました。その結果何が起きか、、、、、。なんと、その度に親が学校に呼ばれ「対応」を求められることになったのです。その時の担任の教師の言葉は、“mi dispiace”((自分は悪くはないが)お気の毒です。)というものでした。我が国ではまず考えられませんがおらくこれが欧米諸国においてはかなり一般的な感覚なのだと感じます。

 我が国の教育関係者が明治以来培ってきた「日本型学校教育」では、このような結論を見出すことはおそらくないのではないでしょうか。 ・・・

そう、「教員免許がなくてもできる仕事は致しません」というのは、つまりそういうことなんです。誇りある職種のジョブ・デマ-ケーションという奴です。

日本の学校の先生方の仕事のかなりの部分が、もう少し上の年齢層の子供たちの「おもらし」対応になっているという気持ちが、にじみ出てくるようなコラムですね。

逆に言うと、この問題の根の深さが窺い知れようというものでもあります。

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人材と競争政策に関する検討会@公正取引委員会がそろそろ報告?

産経新聞が、これはリークなんでしょうか、「所属契約慣行の違法性指摘 芸能人、スポーツ選手 公取委が新見解」という記事を載せています。

www.sankei.com/entertainments/news/171227/ent1712270010-n1.html

芸能人、スポーツ選手やフリーランスの契約慣行の問題を議論してきた公正取引委員会による有識者会議の報告書案の概要が27日、分かった。所属するタレントや選手に対する過度な移籍制限や、フリーランスに他の企業との取引制限を一方的に課すことは独禁法違反に当たるとの解釈を初めて示した。

これはあれです。今年7月に本ブログでも取り上げましたけど、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/07/post-f4b6.html

最近なにかと喧しい雇用類似というか、雇用のようで雇用でないフリーランス、特に芸能人やスポーツ選手の不明瞭な世界に公正取引委員会がメスを入れるぞと乗り込んだやつですね。

そこがそろそろ報告書をまとめると。

所属事務所を辞めた人気芸能人が仕事を失う事例や選手の移籍制限など契約に関するトラブルは多々あった。こうした人たちは所属先に対して立場が弱く、人権上の問題も指摘され、根強く残る不当な慣行に歯止めをかける狙いがある。
 独禁法は優越的地位を利用して不当な条件で契約を結ぶことを禁じているが、労働契約の問題で独禁法違反になった例はない。報告書案は法改正をしなくても適用対象にできると指摘。関係業界に違反がないかを点検するよう呼び掛けたい考えだ。公取委は来春までに報告書を公表する。

ふむ、公取の検討会はどうなているのかと覗いてみると、

www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.html

8月から11月までほぼ1月に1回の割で会合を開き、各委員からのプレゼンがあったようです。この各委員のプレゼン資料もなかなか面白くて熟読に値します。

で、4回目の11月5日は報告書(論点案)というのを議論したようですが、残念ながらというか当然か、それはアップされてません。中身が確定するまでは非公開ということですね。

ところが産経の記者は報告書案を見せてもらったんでしょう。法改正をしなくても、移籍制限や取引制限は独禁法違反だぞという方針のようですね。

ということで、正式には「来春」だそうなので、気を付けてみていきましょう。

 

 

 

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学校における働き方改革に関する緊急対策

先月、中間まとめが出された時点で紹介しておいた「学校における働き方改革に関する緊急対策」が昨日付で「文部科学大臣決定」として公表されました。

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/12/__icsFiles/afieldfile/2017/12/26/1399949_1.pdf

関心を集めている部活動については、

○ 運動部活動については,「学校における働き方改革に関する総合的な方策(中間
まとめ)」を踏まえ,本年度末までに,部活動の適切な運営のための体制の整備や適切な活動時間や休養日についての明確な基準の設定,各種団体主催の大会の在り方の見直し等を含んだガイドラインを作成し,提示する。また,文化部活動に関しても運動部活動と同様にその在り方等について検討する必要があることから,ガイドラインを作成する等必要な取組を行う。
○ 部活動の顧問については,教師の勤務負担の軽減や生徒への適切な部活動指導の観点から,各校長が,教師の専門性や校務分担の状況に加え,負担の度合いや専門性の有無を踏まえて,学校の教育方針を共有した上で,学校職員として部活動の実技指導等を行う部活動指導員や外部人材を積極的に参画させるよう促す。部活動指導員については,スポーツ庁が作成予定の「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(仮称)」を遵守すること,部活動指導員の参画が教師の働き方改革につながる取組であること等を条件として支援を行う。
○ 少子化等により規模が縮小している学校においては,学校に設置する部活動の数について,部活動指導にたけた教師の配置状況や部活動指導員の参画状況を考慮して適正化するとともに,生徒がスポーツ等を行う機会が失われることのないよう複数の学校による合同部活動や総合型地域スポーツクラブとの連携等を積極的に進めるよう促す。
○ 大会・コンクール等の主催者に対して,部活動指導員による引率や,複数の学校による合同チームや地域スポーツクラブ等の大会参加が可能となるよう,関係規定の改正等を行うよう要請する。
○ 一部の保護者による部活動への過度の期待等の認識を変えるため,入試における部活動に対する評価の在り方の見直し等の取組も検討するよう促す。
○ 各種団体主催の大会も相当数存在し,休日に開催されることも多い実情を踏ま
え,各種団体においてその現状の把握と見直しを要請する。
○ 将来的には,地方公共団体や教育委員会において,学校や地域住民と意識共有を図りつつ,地域で部活動に代わり得る質の高い活動の機会を確保できる十分な体制を整える取組を進め,環境が整った上で,部活動を学校単位の取組から地域単位の取組にし,学校以外が担うことも検討する。

ということで、まあ漸進的にということのようです。

労働関係者から見て重要なのは、「勤務時間管理の徹底・適正な勤務時間の設定」という項目で、

○ 勤務時間の管理については, 厚生労働省において「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29 年1月20 日)が示され,「使用者は,労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し,適正に記録すること」とされており,労働法制上,校長や服務監督権者である教育委員会等に求められている責務であることを踏まえ,教師の勤務時間管理を徹底する。勤務時間管理に当たっては,極力,管理職や教師に事務負担がかからないよう,服務監督権者である教育委員会等は,自己申告方式ではなく,ICTの活用やタイムカードなどにより勤務時間を客観的に把握し,集計するシステムを直ちに構築するよう促す。
○ 登下校時刻の設定や,部活動,学校の諸会議等については,教職員が適正な時間に休憩時間を確保できるようにすることを含め,教職員の勤務時間を考慮した時間設定を行うよう徹底する。
○ 部活動や放課後から夜間などにおける見回り等,「超勤4項目」以外の業務については,校長は,時間外勤務を命ずることはできないことを踏まえ,早朝や夜間等,通常の勤務時間以外の時間帯にこうした業務を行う場合,服務監督権者は,正規の勤務時間の割り振りを適正に行うなどの措置を講ずるよう徹底する。
○ 保護者や外部からの問合せ等に備えた対応を理由に時間外勤務をすることのないよう,緊急時の連絡に支障がないよう教育委員会事務局等への連絡方法を確保した上で,留守番電話の設置やメールによる連絡対応等の体制整備に向けた方策を講ずることを促す。
○ 部活動については,適切な活動時間や休養日の設定を行うためのガイドラインを示す。
○ 長期休業期間において年次有給休暇を確保できるように一定期間の学校閉庁日の設定を行うことを促す。
○ 適正な勤務時間の設定に係る取組について,各学校においては学校運営協議会の場等を活用しながら,保護者や地域の理解を得られるよう,文部科学省や各教育委員会等も,全国レベル・地域レベルのPTA連合会等の協力も得るため,必要な要請を行う。

前にも言ったことですが、労働基準法は私立学校のみならず公立学校の教職員にも原則として適用されているということが、肝心の教師や校長や教育委員会の人々によっておそらくあんまり認識されていないであろうだけに、「労働法制上,校長や服務監督権者である教育委員会等に求められている責務であることを踏まえ」という一句は熟読玩味していただく必要がありましょう。

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国家戦略特区の「農業支援外国人」は労働者派遣事業でやる

今年の通常国会の最終日に国家戦略特区法の改正がひっそりと行われ、「農業支援外国人」という名称で、高度専門人材ではない外国人労働力を農業支援(つまり人手不足の解消)のために導入することができるようにしたことについては、今年7月25日の『労基旬報』で解説したところです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/07/2017725-20f2.html(「国家戦略特区における農業外国人労働の解禁」@『労基旬報』2017年7月25日号)

先の通常国会は、共謀罪とかテロ等準備罪と呼ばれる組織的犯罪処罰法改正案と、とりわけ国家戦略特区における獣医学部新設問題が争点となり、会期末には政争状態となりましたが、その会期末の6月16日に国家戦略特区法の改正案がひっそりと成立していたことを報じるマスコミはほとんどなかったようです。しかしその改正法には、日本の外国人労働政策の根本原則(岩盤規制?)を大きく転換させるような内容が含まれていたのです。
 そもそも国家戦略特区とは、いわゆる岩盤規制に突破口を開くために、特定の区域に限って規制を緩和するという仕組みです。ですから本来的に、特区でうまくいけば全国に拡げていくという含みがあります。国会で問題になった獣医学部新設のような箇所付け問題はむしろ枝葉末節であって、将来的な全国レベルでの規制緩和のための橋頭堡という性格こそが重要です。
 その意味で、先の国会で成立した改正法に盛り込まれた「出入国管理及び難民認定法の特例」(第16条の5)の持つ政策的含意は極めて大きいものがあります。条文はわかりにくいので、2月21日に国家戦略特別区域諮問会議がまとめた「国家戦略特区における追加の規制改革事項について」から当該部分を引用しましょう。

(2) 農業の担い手となる外国人材の就労解禁
・産地での多様な作物の生産等を推進し、経営規模の拡大、経営の多角化・高度化などによる「強い農業」を実現するため、農業分野における専門外国人材の活用を図ることが喫緊の課題である。
・このため、特区において、外国人の人権にも配慮した適切な管理体制の下、日本人の労働条件及び新規就農に与える影響などにも十分配慮した上で、一定水準以上の技能を有する外国人材の入国・在留を可能とするため、今国会に提出する特区法改正案の中に、特例措置等の必要な規定を盛り込む。

 「専門外国人材」とか「一定水準以上の技能」といった言葉をちりばめることで、外国人政策の転換ではないという印象を与えるように工夫されていますが、いうまでもなく彼らはこれまでも受け入れてきた「高度専門人材」ではありません。これまで国策として否定してきた外国人単純労働力の導入とは、清掃雑役といった真の単純労働ではなく、製造業や建設業などのいわゆる技能労働力のことですから、これは農業分野でその岩盤を突破しようとするものといえます。
 もちろん、これまでも日系南米人や研修・技能実習生という形で、事実上技能労働力に相当する外国人が相当数導入されてきたことは確かですが、彼らは社会学的分析においては外国人労働者と呼ばれて誰も疑いませんが、日本国の法律上は労働力として導入された人々ではないという建前で通ってきているのです。昨年ようやく制定された技能実習法においても、「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(第3条第2項)という建前規定が厳然と置かれています。あくまでも、「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進すること」(第1条)が目的なのです。
 それに対して、今回の改正法では「政令で定める農作業等の作業に従事することにより、農業経営を行う者を支援する活動」(農業支援活動)を行う外国人を雇用契約に基づいて受け入れる事業について在留資格の特例を認めようとするものだと明記しているのですから、まさに「労働力の需給の調整の手段」ということになります。なお条文上は明確ではありませんが、国家戦略特区ワーキンググループにおける審議を見ると、派遣労働を活用することを考えているようです。
 国家戦略特区のトピックには大小さまざまなものがありますが、半世紀以上にわたる日本の国策をいとも軽々と乗り越えてしまったという意味において、今回の改正ほどインパクトの大きいものはないのではないかとすら思われます。
 ここでは、労働力需給調整の手段として、つまり農業の人手不足対策として、外国人労働者の導入を図る政策自体の是非を論じることはしません。そのためには膨大な議論が必要です。しかし、これほどの大きな政策転換につながる法改正が、ほとんどのマスコミが報じることもないまま、会期末に成立していたということは、もう少し知られてもいいのではないかと思われます。

ここでちらりと「条文上は明確ではありませんが、国家戦略特区ワーキンググループにおける審議を見ると、派遣労働を活用することを考えているようです」と書いておいたのですが、それがいよいよ具体的な制度になりつつあるようです。昨日開かれた労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会の資料に、

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189551.html

資料1 労働者派遣事業の許可基準の改正(案)(PDF:196KB)
参考1-1 参照条文(農業支援外国人受入事業に関するもの)(PDF:92KB)
参考1-2 国家戦略特別区域農業支援外国人受入事業における特定機関等に関する指針(PDF:180KB)

というのが載っていて、派遣元になる特定機関は地方自治体による債務保証契約や損失填補契約があるから資産要件を満たさなくても良いという許可基準の改正をするということのようです。

この問題、あまり注目する人はいませんが、今後日本の労働市場にとって結構重大な問題になっていくかも知れません。

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労働組合組織率は遂に17.1%

昨日、平成29年労働組合基礎調査が発表されましたが、毎年着実(?)に低下し続けてきている労働組合の組織率は今年もしっかり0.2%低下して、遂に17.1%となりました。

http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/roushi/kiso/17/dl/gaikyou.pdf

一方、パートタイムの組織率はこちらも着実に上昇して、7.9%です。

団体別でも、少しは違う動きがあれば良いのですが、やはりUAゼンセンだけが8万人近く増えて168.5万人。あとは増やしているのはJAMと生保労連1万人ちょっとずつで、それ以外は横這いか減らしています。

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非正規労働の3段階@WEB労政時報

WEB労政時報に「非正規労働の3段階」を寄稿しました。

https://www.rosei.jp/readers-taiken/hr/article.php?entry_no=719

近年、経済のデジタル化に伴い、カジュアルワーク、モバイルワーク、クラウドワークなど、新たな非正規労働形態が雇用労働の内側と外側で急速に増加しつつあります。今年3月の「働き方改革実行計画」は、パート、有期、派遣という3種類の現代的非正規形態の均等・均衡処遇問題に一定の解決をつけようとするものですが、その足元でその枠を超える労働形態が拡大しているのです。これは、非正規政策の先輩であるEUも同じで、ここ数年は新たな労働形態への対応が大きな政策課題になってきています。

 しかし改めて振り返ってみると、そうしたデジタル時代の新たな労働形態は、欧米や日本で現代的な労働市場が確立する以前に広がっていた伝統的な非正規労働―日雇や出稼ぎ、自営業―の形を変えた再現という面もあります。今日、時代の大きな変わり目にあるわれわれは、伝統的、近代的、そして近未来的という非正規労働の3段階を全て視野に収めた包括的な観点に立つ必要があるのではないでしょうか。・・・・・

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キーワードで見る2018年の雇用と労働@『Power of Work』

Index_main_01『Power of Work』で「キーワードで見る2018年の雇用と労働」を語りました。

http://www.adecco.co.jp/power-of-work/039.html

「2018年は、『長時間労働是正』と『同一労働同一賃金』という雇用の2大課題への取り組みについて法整備が進み、その道筋が明らかになります。それと同時に、今後10年先、20年先を見据えた新しい雇用のテーマについての議論が本格的にスタートする年です。日本の雇用にとって、大転換の年になるといってよいでしょう」
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の労働政策研究所長、濱口桂一郎氏はこう語る。
2017年に「働き方改革」の名の下で重点的に議論されてきたのは、「長時間労働是正」と「同一労働同一賃金」の2点。10年以上前から日本的雇用の重要な課題として指摘されてきた。
それが政府の成長戦略の一環として位置付けられ、2017年3月には「働き方改革実行計画」を策定。残業時間の上限規制などを盛り込んだ「働き方改革関連法案」が2018年の通常国会に提出される見込みだ。
しかし、日本における雇用問題の議論は「世界標準から見れば後れを取っている状況。新しい動きに対し鈍感になってしまっている」と濱口氏は指摘する。
「すでに海外ではシェアリングエコノミーやクラウドワークスなど、新たに生まれるビジネスモデルや働き方に対して、労働者保護の観点をどう取り入れるかといったことへ議論の焦点がシフトしています。日本的な雇用の見直し論議に一刻も早くメドをつけ、世界標準のテーマに追いつくべきです」・・・・・

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『日本労働研究雑誌』1月号

690_01_2一方、『日本労働研究雑誌』1月号の特集は「格差と労働」です。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/new/index.html

所得格差の要因と2010年代における動向 石井 加代子(慶應義塾大学特任講師)

管理職への到達をめぐる不平等─世代間移動と職業キャリアの視点から 竹ノ下 弘久(慶應義塾大学教授)

格差は主観的なウェルビーイングに影響を与えるのか 浦川 邦夫(九州大学准教授)

人口構造の変化と経済格差 白波瀬 佐和子(東京大学教授)

ネットワークと階層性 石田 光規(早稲田大学教授)

労働法における正規・非正規「格差」とその「救済」─パートタイム労働法と労働契約法20条の解釈を素材に 神吉 知郁子(立教大学准教授)

この中ではやはり、神吉さんの論文を取り上げましょう。

本稿は、非正規労働者の正規労働者との労働条件の不合理な「格差」を禁止する法原則について、その解釈をめぐる現状を分析し、今後の課題の整理を試みたものである。その重要な法的手がかりは、2012年に新設された労働契約法20条と、これにならって2015年に改正されたパートタイム労働者法8条における不合理格差禁止条項である。これらの条項は3つの要素(職務の内容、職務内容及び配置の変更の範囲、その他の事情)を考慮して不合理な格差の救済を図る規範であるが、考慮要素の扱いや不合理性の判断方法についての解釈は対立し、裁判例も分かれている。非正規労働者の不合理格差禁止原則を人権保障のための差別禁止アプローチとは異なる政策アプローチとみる立場からは、政治的スローガンとして掲げられた「同一労働同一賃金」の実現による解決の実効性には疑問が生じる。ガイドラインやパート・有期法の制定へと展開する過程においても、差異に応じた救済をどう具体化するかという問題は残されたままである。現時点では、個別労働条件ごとの性質・目的から不合理性を認定する方向性が打ち出されているが、その具体的方法も明らかでない。この点、裁判例でも考慮要素とされてきた労使協議や非正規労働者の加入する組合の合意といったプロセスが重視されることで予測可能性が高まり、真の労使自治の構築を後押しする仕組みができれば、それが本来的な「救済」となりうる。

この要約ではまだそれほど激しく出ていませんが、論文の最後のパラグラフでは、この間の政策決定過程に対する神吉さんの思いがかなり率直に表出されています。

・・・いずれの場合でも、裁判に訴えることで初めて救済の可否が明らかになるようでは、紛争解決の意義は限定的である。予測可能性が低ければ、使用者がリスク回避のために、比較の前提条件を違えるよう職務分離を徹底してキャリアトラックを閉ざしたり、フリーランス契約など「労働者」以外へのシフトを加速して、本来受けられるはずの保護から漏れる者が増えるおそれもある。こうした副作用を生じさせないため、非正規労働者の意見を反映させて自律性を確保し、労使の納得を高める仕組みを評価していくことが必要である。

あと、この1月号では毛塚勝利さんが「労働政策の展望」を書かれているのですが、それはここで全文読めます。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/01/tenbou.html

実は冒頭、本当は労使関係法制の話をしたかったんだが、やむなく労働時間法制の話をするのだと書かれていて、やはり労使関係法制への大提言を読みたかったという気持ちになりました。

労働法は労働政策の法でもある。社会環境の変化に合わせてシステム調整が必要となるからである。1990年代以降、労働契約法の制定と個別労働紛争処理制度、労働者代表制の整備を立法政策の中心的課題としてきた。このうち、最初の二つはまがりなりにも実現をみた。残る課題は労使関係法制のシステム調整である。それゆえ、「労働政策の展望」を論じる本欄では、この70年間手がつけられていない労使関係法制の整備、とりわけ、代表制民主主義とステークホルダー民主主義の原理にもとづく労使関係の整備[注1]の必要性を説きたい気持ちが強い。しかし、ここでは、やはり安倍政権の「働き方改革」の一環として俎上にのっている労働時間法制の見直し議論を取り上げることにする。あるべき労働時間法制の基本的コンセプトが欠落していると思われるからである[注2]。・・・

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『ビジネス・レーバー・トレンド』1/2月号の座談会

201801_02JILPTの『ビジネス・レーバー・トレンド』2018年1/2月号が刊行されました。

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/index.html

特集は「2018年 労働経済の課題と展望」ですが、巻頭の座談会が既に予告しているとおり、「日本的雇用システムの変容と今後の課題」です。

巻頭特別企画    座談会「日本的雇用システムの変容と今後の課題」

――JILPT第3期プロジェクト研究シリーズNo.4「日本的雇用システムのゆくえ」の成果を踏まえて

(出席者)濱口 桂一郎 労働政策研究所所長、池田 心豪 主任研究員、高橋 康二 副主任研究員

(司会)荻野 登 労働政策研究所副所長

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座談会の出席者である私がいうのもなんですが、なかなか面白い座談会になっていると思います。あらかじめ用意したというよりも、話の拍子で飛び出してきた言葉が結構キーワードぽくなっていたりして。たとえば、池田さんが口走った「男性の没落」と「女性の登用」とか、私が漏らした「濃い長期雇用」と「薄い長期雇用」とか。

例によって有識者からの提言というコーナーはこういうラインナップですが、

「世代の労働経済学」から現在の労働市場を見る 太田 聰一 慶應義塾大学経済学部教授

働き方改革の必要性と効果 山本 勲 慶應義塾大学商学部教授

呼称から契約へ:多様化する労働市場 玄田 有史 東京大学社会科学研究所教授

地域雇用政策の課題 阿部 正浩 中央大学経済学部教授

二重のジェンダー化と政策のパラドクス 苅谷 剛彦 オックスフォード大学教授

この中では、最後の苅谷さんのエッセイが、1979年に自民党が出した『日本型福祉社会』がその後の日本社会の行方に大きく影響したという論を展開していて、非常に興味深いものになっています。

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hamachanブログ2017年ランキング発表

年末が近づいてきましたので、毎年恒例のhamachanブログ今年のエントリPVランキングを発表します。

一昨年、昨年と、「勤勉にサービスしすぎるから生産性が低いのだよ!日本人は」が1位でしたが、さすがに私も毎年おんなじことを繰り返すのは飽きたので、今年は選外に落ちてます。

51286t0bjvl__sx300_bo1204203200__2 代わってぶっちぎりの1位は、これはやはりこの1年を象徴するエントリかもしれません。お送りいただいた松崎一葉さんの『クラッシャー上司-平気で部下を追い詰める人たち』(PHP新書)を紹介した1月9日のエントリです。

1位:俺はね、五人潰して役員になったんだよ 44,194件

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-deef.html

このタイトルは、本書の冒頭に出てくるこの一節からとられています。おりしも電通の過労自殺事件が大きな話題になっていたころ、当の「とある大手の広告代理店」の常務氏のセリフが、あまりにもその会社の精神構造を浮き彫りにしていたのです。

その会社の経営幹部が言うには、働き過ぎで心を病む社員の問題に悩んでいるとのこと。そこで抜本的解決策をともに考えてもらいたいと、産業精神医学を専門とする私たちが呼ばれたのである。

ところが、対策チームを組んで同社に赴くと、ちっとも歓迎されている感じがしない。声をかけてくれた経営幹部以外の、お偉いさん方の顔つきが険しいのだ。話がまったく生産的な方向に向かわず、それどころか常務からこんなことを言われてしまった。

「メンタルヘルスなんてやめてくれよ」

「俺はね、五人潰して役員になったんだよ」

そして、私たちはこう告げられた。

「先生方にメンタルヘルスがどうの、ワークライフバランスがどうのなんてやられると、うちの競争力が落ちるんだ。会社のためにならない。帰ってくれ」

社員のメンタルを潰して役員に成り上がった常務が、こう嘯くのが日本を代表する広告代理店だったわけですね。

Hyoshi32 続く第2位は、ニューズウィーク日本版の舞田敏彦さんの文章に対する回答として、雑誌『POSSE』に寄稿した文章の一節をそのまま載っけたエントリですが、ドンピシャだったようです。

2位:「日本はなぜここまで教育にカネを使わないのか」への答え 13,260件

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/09/post-5206.html

親の年功賃金が徐々に縮小していく中で、等しく私的負担といってもその負担主体は次第に学生本人にシフトしていかざるを得ません。こうして、かつては補完的収入であった奨学金やアルバイト収入が、それなくしては大学生活を送ることができないほど枢要の収入源となっていきます。学生本人の現在の労働報酬と将来の労働収入(を担保にした借入)によって高等教育費を賄うべきという考え方は、それ自体は市場原理主義という一つの思想から正当化され得ます。しかし、それはそういう形で正当化されて成立した仕組みではありません。日本型雇用に基づく年功賃金を所与の前提とする親負担主義に立脚して作られた仕組みです。それがいつの間にか、ネオリベラリズム的な本人負担主義にすり替えられていたのです。

24070 そして第3位は、これもお送りいただいた本の紹介ですが、なぜ賃金が上がらないのかという問題に対するアカデミックな方面からの回答です。

3位:玄田有史編『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』 12,593件

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-f575.html

説明は様々な形でされていますが、一番衝撃的だったのはむしろこの事実認識であったかもしれません。

事実認識として結構衝撃的なのは、第4章(黒田)が示す、就職氷河期世代が見事に低賃金のまま今に至ってきているというデータでしょう。

2010年から2015年にきま給の変化を学歴別年齢階層別に見ると、高卒と高専短大卒で35-39歳層、大学大学院卒で35-39歳層ととりわけ40-45歳層でぐっと落ち込んでいるのです。これはつまり上のコーホートよりも低賃金になったということで、就職氷河期世代が被った「傷痕」効果は極めて大きなものであったことが分かります。

187940 第4位は本ブログで時々やる蘊蓄ものですが、年次有給休暇についてまっとうだと思っている人々の認識自体がもうすでに極めて特殊日本的になってしまっているということを摘出したエントリです。

第4位:年次有給休暇のそもそも 8,914件

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-8b66.html

まいなびウーマンの炎上記事をネタにしつつ、

本来の年次有給休暇とは、一定期間まとめて休むもの、あるいはより正確に言えば休ませるべきものなので、1954年省令改正前は使用者の側がまず労働者にいつ年休を取りたいかを聞く義務を課していました。現在は例外扱いとなっている計画年休制度の方が、本来の年休制度なのです。「生活物資獲得」の必要性が消え去ってしまったあともなおそのまま維持されてきた1日単位の年休が既に世界的には常識はずれであり、ましてや2008年改正で導入された時間単位の年休なんてへそでお茶が沸くような制度ではあるのですが、ここまでガラパゴス化してしまった日本の年休制度、あるいはむしろ年休思想がいかに強固なものであるかということが、図らずも今回の炎上騒ぎで露呈したわけですね。どちらの側も。・・・

70年前に「制度本来の趣旨には沿はない」けれども「違法と解することは困難」としぶしぶ認めていたものが、許される唯一の取得理由になってしまっているとは、あの世の寺本廣作氏も予想はつかなかったことでしょう。

第5位は、朝日新聞に載ったある種の反近代的リベサヨに典型的な議論を批判、というより呆れ気味にからかったエントリ。

第5位:そんなに「近代」が嫌いなら・・・ 6,752件

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-d175.html

ある種のリベラルな左派の議論に定期的に出現するこの手の思想ほど、始末に負えないものはない、というのが私の感想。・・・

菅野さんは「ポエム」で片付けていますが、も少しきつく言えば「腹ふくれ満ち足りたブルジョワの息子の手すさびみたいな議論」であり、マリー・アントワネットもびっくりという奴です。

もっとも、一言だけ付け加えさせていただくと、日本の「左派」が世界の常識に反してやたらに成長を敵視するには、それなりの日本独特の文脈から来る理由があるのだという説明も本ブログで併せてしていますので、興味があればついでにお読み頂ければ幸いです。

次の第6位は、低賃金がらみということでは上記玄田編著と共通しますが、それを「低賃金カルテル」という一見奇妙な概念で論じているイギリスの新聞記事を紹介したものです。

第6位:低賃金カルテル異聞 5,473件

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-62b9.html

昨年末からネット上で「低賃金カルテル」なる言葉が流行っていたようですが、あまり口を挟む必要もなさそうな議論が多いようなので静観しておりましたが、そういえばそういう概念って欧米でもあるのだろうかと思って検索してみたら、一昨年の英紙「ザ・ガーディアン」の記事にこういうのがありました。・・・

第7位は政治の世界の言葉の乱れ具合を皮肉ったエントリですが、そもそも自分の言葉遣いがおかしいと思っていない人には意味不明だったようです。

第7位:自民党は今でもリベラルと名乗っている唯一の政党である件について 5,071件

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/09/post-0389.html

なんだか、言葉のねじれが極限まで行き着いて、本来左派=ソーシャル派に対する右派を意味するはずの「リベラル」が、もっぱら左派を意味する言葉になって、新党から排除するのしないのという話になっているようで、そのあまりの言葉の乱れように頭がくらくらします。・・・

いやはなしはさらにもう一段深くねじれていて、その「リベラル」を名乗る右派政党、経団連が組織的に支持し、連合が組織的に支持していない政党の現内閣が、少なくも過去25年間の政権の中で最も、即ち細川政権よりも村山政権よりも、橋本政権よりも、小泉政権よりも、その後の自公政権よりも、そして連合が組織的に支持していた民主党政権よりも、ずっとソーシャルな、そして労働組合側の主張に異様なまでに近づくプロレーバーな政策を遂行してきちゃっている、という超絶的な皮肉の限りを尽くすような事態であるわけですが。

とにかく、現代日本で進行中の事態を、そのいうところの「リベラル」をそのまま「liberal」と訳して、世界に発信したら、みんな頭が混乱の極みになりそうな・・・。

リベラルを名乗るライトウィング政権がソーシャルな政策を遂行する一方で、コミュニストと連携するレフトウィングがリベラルだからけしからんと排除されようとしている・・・・・って、もう理解不能の極みです。

とにかく、「リベサヨ」という言葉はそもそも私が作ったものであるといいながら、その本来の皮肉な意味、つまりリベラルはサヨクでないはずなのになぜかリベラルなサヨクという矛盾に満ちたわけのわからない連中という意味では全くなく、リベラルすなわちサヨクという間違った常識にどっぷりつかったまま、おなじ意味の言葉を重ねた罵倒用語としてのみ理解して用いているネトウヨな人々が圧倒的多数であるという悲しいまでの皮肉な状況が今日まで延々と続いているわけですよ。あーあ。

8位は、7月の連合会長による安倍首相への要請行動について、マスコミやとりわけネット上の議論があまりにも違和感を禁じえなかったので綴ったものです。

8位:10年経っても残業代ゼロけしからん 4,441件

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/07/post-4f8c.html

批判している人々は、はっきり言ってその言動が誰かに影響を及ぼす責任ある立場にないので好き勝手なことを言えるのかも知れませんが、労働組合のナショナルセンターとして、駄目なものは駄目と言って後のことは知らんぞよといって済ませられるような立場ではない以上、ほぼ間違いなく時間外労働の上限規制と一体の労働基準法改正案として出されてくる高度プロフェッショナル制度や裁量労働制を、それは悪いものだから全部まとめて潰してしまえなどと莫迦なことを言えないのはあまりにも当然でしょう。

脳内バーチャル空間で百万回「はい論破」と繰り返したところで、リアル空間では何の意味もない、というリアルな現実をわきまえて物事を考えるのかそうでないかの違いといえばそれまでですが、どういう政治的配置状況の下で、ほんの2年前までは考えられなかったことが実現しようとしているのかということを少しでも我に返って考えられる人であれば、ここまで無責任な言葉を紡ぎ続けられないのではないかと、正直呆れるばかりです。

現時点で、制度導入を受け入れる代わりにその修正を要求するというのは、考えられるリアルな選択肢の中ではかなり筋の良いものであったことは確かでしょう。現実にあり得ない選択肢は百万回繰り返しても意味がないので。

そもそも、この期に及んで未だに10年前とまったく同じように「残業代ゼロ法案」という手垢の付いた非難語を使っていることに、当時のホワイトカラーエグゼンプション騒動に対してこう述べた私としては、結局何も進歩しとらんわいという感想が湧いてくるのを禁じ得ませんね。

16122 第9位は、再びお送りいただいた本の紹介エントリです。

第9位:前田正子『大卒無業女性の憂鬱』 4,357件

eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/post-1111.html

タイトルになっている大卒無業の女性たちへのインタビューが第3章に載っていて、これがなんというか、前田さんからすると信じられないくらい職業意識が欠如した人たちなんですね。これはやはり、「女性活躍後進国ニッポン」というよりも、関西のそれも高級住宅地の特性が露骨に出ているというべきなのでしょう。

そして第10位には文学部を血祭りにあげているネット上の記事が一見まっとうそうに見えて実は全然そうじゃないことを論じています。世の中にはうかつなレリバンス派というのがいて、文学部をdisっていればいいと思い込んでいるようですけど、本当の問題はそんなところにはないということです。

10位:「何となく文学部」よりもっとヤバいのは・・・ 3,944件

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/09/post-6ce7.html

副題に「もう「つぶしの効く」学部など存在しない。「ジョブ型」への転換を」とあるので、ジョブ型教育への転換を訴えているのは確かだと思うのですが、正直言って、文学部って、もともと「つぶしの効く学部」だとは思われていなかったように思います。

メンバーシップ型雇用慣行にベストフィットして繁殖してきたのは、それ以外の一見職業レリバンスがありそうで、実は単なる一般的サラリーマン養成以外ではなかった文系学部、とりわけ経済学部だったんじゃないの?と思いますが。

その意味では、この記事は、文学部という叩きやすい犠牲の羊を血祭りに上げて見せているだけで、問題の本質からむしろ目を逸らせてしまっているのではないかと。

いうまでもなく、法学部だって法曹や法務担当者になる一部の人にとっては職業レリバンスがあるし、経済学部だって、内閣府で経済分析をする人や一部シンクタンク等で活躍するエコノミストになる人にとっては意味のある職業教育機関でしょう。しかし、当該学部を卒業する学生の大部分、経済学部の場合には殆ど全てにおいては、そうではないから、そしてそうではないにもかかわらずそれが一般的サラリーマン養成ギプスとして通用してきているからあれこれ論じられるわけです。

それに対して、文学部はそれなりに立派です。まず、文学部卒業生にとってもっとも良好な雇用機会は当該専門分野におけるアカデミックな研究職であって、これは法学部や経済学部と大きく異なるところです。これは裏返していえば、メンバーシップ型の日本の労働社会において、個々の学んだ内容はともかく、文学部に行こうなどという性向自体が、必ずしも適合的ではないと見なされてきたことがあるのでしょう。

実を言うと、にもかかわらず高度成長期に文学部がこれほど異常に肥大化したのは、嫁入り道具としての文学部という特殊事情があったからですが、これはこれで(皮肉ですが)一種の永久就職への職業レリバンスだったと言えないことはありません。それを抜きにしていうと、文学部卒というのは少なくとも法学部や経済学部に比べれば一種のスティグマを受けるものであったことは確かなので、それをつかまえて「「何となく文学部」はヤバすぎる」というのは、いささか見当外れの感が否めないわけです。

本当にヤバいのは他の文系学部、とりわけ法学部のように法律専門家になるか細い道があるところと比べても、経済分析を職業とする人になる可能性は絶無に近い経済学部ではないかと思うのですがね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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JILPT『現代先進諸国の労使関係システム』

Cover_no5『日本的雇用システムのゆくえ』とまったく同じ日に、JILPTの第3期プロジェクト研究シリーズのNo.5として『現代先進諸国の労使関係システム』が刊行されました。

http://www.jil.go.jp/institute/project/series/2017/05/index.html

近年、欧州諸国における事業所協定や企業協約への分権化の傾向を背景として、産業別協約がどの程度規範としての力を保持しているのか関心を呼んでいるなか、国、産業レベルの団体交渉、労働協約とその拡張適用、企業や事業所レベルにおける労働組合、従業員代表機関との協議交渉や協定などの視点に基づき、ドイツ、フランスおよびスウェーデンの労働協約システムの現状とその規範設定(労働条件決定)の実態及び労使関係システムに係る法政策の展開について、わかりやすく概説しています。

こちらは、序章を私が書いて、山本さんがドイツ、細川さんがフランス、西村さんがスウェーデンという構成です。

序章 団結と参加─労使関係システムの諸類型─ 濱口桂一郎
第1章 ドイツ─第三次メルケル政権下における集団的労使関係法政策─ 山本陽大
第2章 フランス─労働協約システムの歴史的形成と現代的展開─ 細川良
第3章 スウェーデン 企業内の労使交渉を重視した労使関係─スウェーデンの賃金交渉を素材に─ 西村純

今どき労使関係?と思うかも知れませんが、いや今だからこそ労使関係システムをじっくり考えることが必要なんです。

本書の趣旨を述べた「まえがき」を載っけておきます。

現代日本においては、労働法制上は労働組合が使用者ないし使用者団体と締結する労働協約が使用者の定める就業規則に優越する法規範として位置づけられているにもかかわらず、企業別組合中心の労働社会においてその存在感は希薄であり、過半数組合ないし過半数代表者の意見を聴取するとはいえ使用者の一方的決定による就業規則が法規範の中心的存在となっている。例えば、菅野和夫『新・雇用社会の法』においても、就業規則を「雇用関係の基本的規範」と呼んでおり、規範としての労働協約の影は極めて薄い。

これに対し、欧州諸国では全国レベルや産業レベルで労働組合と使用者団体との間で締結される労働協約が国家法と企業レベルを媒介する重要な法規範として労働社会を規制しており、その位置づけは極めて高いものがあるといわれている。その典型的な諸国としては、ドイツ、フランスおよびスウェーデンが挙げられる。こうしたマクロ社会的な労使の自治規範がほとんど存在しない日本においては、ミクロな企業レベルを超える問題は直ちに国家法の問題となるため、例えば労働時間問題などにおいても、過度に法律政策に依存したものになりがちとの指摘もある。

もっとも近年は、これら諸国においても事業所協定や企業協約への分権化の傾向が指摘されており、産業別協約がどの程度規範としての力を保持しているのか、関心を呼んでいるところである。

そこで、労働政策研究・研修機構においては、第3期のプロジェクト研究「労使関係を中心とした労働条件決定システムに関する調査研究」の中で、伝統的に産業レベルでの労働協約を中心とする労働条件決定システムが形成されてきた欧州諸国、具体的にはドイツ、フランスおよびスウェーデンを対象として、現代先進諸国における規範設定に係る集団的労使関係のあり方を調査研究してきた。具体的には、国、産業レベルの団体交渉、労働協約とその拡張適用、企業や事業所レベルにおける労働組合ないし従業員代表機関との協議交渉や協定等について、実証的かつ包括的に調査研究し、これからの日本の労働社会のあり方に関するマクロ的議論の素材とすることを目指したものである。

 本書は、これまで累次の報告書で明らかにしてきたこれら3カ国における労働協約システムの現状と、同システムに基づく規範設定(労働条件決定)の実態、さらに労使関係システムに係る法政策の展開の姿を、一般読者向けにできる限りわかりやすく概説したものである。本書が多くの人々に活用され、今後の労働法政策に関わる政策論議に役立てば幸いである。

 

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JILPT『日本的雇用システムのゆくえ』

Cover_no4JILPTの第3期プロジェクト研究シリーズのNo.4として『日本的雇用システムのゆくえ』が本日刊行されました。

http://www.jil.go.jp/institute/project/series/2017/04/index.html

近年の社会・経済・産業の構造変化や技術革新の中で、長期雇用慣行、年功的処遇、正規・非正規労働者の分離などにより特徴づけられ、わが国の雇用社会の中心にあると考えられてきた「日本的雇用システム」がどのように変容しているのかを、官庁統計やJILPTの調査結果の総合的な分析により把握し、今後の課題のありようを考察しています。

ということですが、日本労働法学会の方々には、今年5月に龍谷大学で開かれた133回大会で菅野和夫理事長が特別講演で語ったあの話か、と分かるかも知れません。

高橋康二さんを初めとするJILPTの中堅研究者による中身の濃い本になっています。ちなみに私は執筆していません。

序章 問題設定と概要 高橋康二
第1章 総論─基礎的指標による日本的雇用システムの概観 高橋康二
第2章 若者のキャリア──学校から職業への移行における変化 堀有喜衣
第3章 雇用システムと高年齢者雇用 浅尾裕
第4章 日本的雇用システムと女性のキャリア──管理職昇進を中心に 池田心豪
第5章 雇用ポートフォリオと正社員の賃金管理 荻野登・高橋康二
第6章 日本企業における能力開発キャリア管理 藤本真
第7章 職場におけるキャリア形成支援の動向 下村英雄
補論 高度専門人材の人事管理──個別企業の競争力の視点を中心に 山崎憲・奥田瑛二
終章 結論と次の研究課題 高橋康二

Takahashi_k2017全体を取りまとめた高橋康二さんが、刊行と同時にJILPTのホームページに「リサーチ・アイ」というコラムを書いていて、これが手際のよいまとめになっていますので、是非一通り読んで見てください。

http://www.jil.go.jp/researcheye/bn/025_171222.html

この冬、JILPT編『日本的雇用システムのゆくえ』(第3期プロジェクト研究シリーズNo.4)が刊行された。以下、執筆者を代表して、本書の取り組みの背景とエッセンスを紹介するとともに、本書を振り返っての反省と展望を記したい。

名称や定義の詳細は別として、一般に「日本的雇用システム」と呼ばれる、日本企業における長期志向の雇用・労働の仕組みが、かつて研究者や実務家、政策担当者の関心を集めていたことは間違いない。ごく手短に振り返るならば、その実態と概念は、ジェームス・アベグレンの著作[注1]、OECDのレポート[注2]などにより発見され人口に膾炙し、ロナルド・ドーア[注3]、青木昌彦[注4]などの研究者により解明され理論化されてきた。時には、日本社会論や日本人論とも結び付けられてきた。少なくとも今から20年ぐらい前までは、日本的雇用システムは、肯定的であるにせよ否定的であるにせよ、日本の労働研究者や日本に関心を持つ海外の研究者にとっての、最も重要な研究テーマの1つであったと言ってよい。

しかし、いつの頃からか、「若年者」、「非正規雇用」、「女性就業」、「労働時間」など、特定の対象者や個別のトピックにフォーカスする研究が主流になってきた。こうした専門化・細分化は、いわゆる労働者の多様化、働き方の多様化といった現象に対応したものであり、労働研究が成熟したことの表れでもあった。

そういった中で、敢えて本書では、日本的雇用システムのゆくえ(持続していくもの、変化していくもの、新たな課題)を見通すという作業に取り組んだ。大きな理由は3つある。

第1に、大局を見据えた政策形成を可能にするからである。もちろん、日本的雇用システムを扱わない研究であっても、政策対象に関するエビデンスの提供を通じて政策形成に寄与しうる。しかし、何よりも日本的雇用システムは、日本の雇用社会の中心にあることから、そのゆくえを見通すことは、日本の雇用社会の基本的な変化の方向性、日本の雇用社会が今後直面するであろう大きな課題を認識することにつながる。

第2に、重要な労働法制と不可分の関係にあるからである。現在の日本の労働法制の重要な部分は、日本的雇用システム、なかでも長期雇用慣行を前提に形成され、その労働法制が日本的雇用システムの普及を促してきたという側面がある。個別の労働政策についても、日本的雇用システムの長所を認識し、それを活かそうと企図するものが少なくない。労働法制や労働政策の一貫性・整合性を保ちつつ必要な修正をしていく(不要な修正を防ぐ)ためにも、日本的雇用システムがどうなっているのかを、絶えず確認する必要がある。

第3に、人事管理や労使関係の制度・慣行を総体的に把握できるからである。雇用システムの構成要素は相互に補完し合っており、雇用システムのある部分の変化は他の部分の変化を惹起する。逆に、ある部分が不変であれば、他の部分を変えようとしてもなかなか変わらない。労働研究が専門化・細分化するとともに、個別の政策目標の達成が重視される中で、研究者においても政策担当者においても、そうした視点が失われる傾向にあり、総体的把握の必要性はむしろ高まっているとも言える。

このような認識のもと、本書では、日本的雇用システムを「主に高度経済成長期以降の大手・製造企業(大手企業and/or製造企業)に典型的に見られた、成員に対する長期的な生活保障・能力開発を図る雇用・労働の仕組み」と定義し[注5]、そのゆくえを見通すことを試みた。具体的には、基礎作業として、官庁統計の集計・分析により、この約20年間における、(a)長期雇用慣行、(b)年功的賃金・昇進、(c)協調的労使関係、(d)OJTを中心とした幅広い教育訓練、(e)雇用のバッファーとしての一定数の非成員労働者の存在、(f)労使の規範意識と国民からの支持、の変化を跡づけた。その上で、若者、女性、高年齢者といった対象者別の研究から導かれる知見、雇用ポートフォリオ、賃金制度、能力開発、キャリア管理、企業内キャリアコンサルティングといった人事管理の分野別の研究から導かれる知見を総合して、日本的雇用システムがどう持続し、どう変化したのか、そしてどのような新たな課題に直面しているのかを論じた。・・・

と、ここまでが長い前振りで、ここから本論に入るのですが、これはもうリンク先でじっくり読んで下さい。

それから、ややフライングですが、来週月曜日に出る『ビジネス・レーバー・トレンド』の1月号で、その高橋さんと、執筆陣の池田心豪さん、荻野登さん、それに私も加わって座談会「日本的雇用システムの変容と今後の課題」というのをやっています。

これがなかなか面白い座談会になっているので、こちらも是非。

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『ビジネス法務』2月号は盛りだくさん

1603284_pというわけで、『ビジネス法務』2月号が届きました。

http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/

まず、表紙にでかでかと出ている「働き方改革」の特集ですが、

【特集1】

「働き方改革」法案要綱の全容を解く            

大変革期を乗り越える鍵は積極的な労使対話に
(山田 久)

働き方改革は何を「改革」するのか
改正の全体像と対応ポイント
(倉重公太朗)

{労働時間法制}
時間外労働・長時間労働の是正
(北岡大介)

高度プロフェッショナル制度の導入と課題
(岡田和樹)

{同一労働同一賃金}
・法改正が目指す「不合理な待遇差」の禁止とは
(橘 大樹)

・日本郵便(東京)事件にみる労契法20 条の判断基準
(岸 聖太郎)

・有期雇用者・パートタイマーの待遇差是正
(石嵜裕美子)

・派遣労働者の待遇差是正
(佐々木晴彦)

・Interview 株式会社イトーヨーカ堂
企業利益に寄与する
真摯なパワハラ・メンタルヘルス対策
(久保村俊哉)

・Interview 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
テレワーク導入を契機とした働き方改革の取組み
(本合暁詩/山下健介)

・働き方改革の経済分析
(山本 勲)

・ILO「国際労働基準」と日本の取組み
(田中竜介)

総論は山田久さんと倉重公太朗さんですが、ここではやはり倉重さんのパッション溢れる文章をいくつか紹介しておきましょう。

彼はまず、あまり目立たない雇用対策法の改正の中の基本的理念の文言に着目します。

・・・ここで見える政府の意図は、これまでの日本型雇用に対して大きな変革を迫るものである。従来の日本型雇用の特徴は、・・・・・労働「契約」により担当業務を決めるという欧米式ではなく、会社に「入社」するのである。会社に入社し、メンバーになっている正社員とメンバー外である非正規雇用の給与体系が違うことも前提である。

しかし、政府の方針としては、職務の内容や職務に必要な能力を明らかにした上で、「公正な評価」を行うべしとのことである。この点から、従来型の日本型雇用の大変革を目論む意図が伝わってくるのである。

そして、同一労働同一賃金に関わって、こう述べます。

・・・しかし、今後は「非正規だから」給料が安い、「正社員だから」給料が高いということではなく、どんな仕事をしているか、どんな能力・経験があるかが重要になる。裁判実務も、日本郵政事件など、変わり始めている。そう遠くないうちに、長澤運輸事件やハマキョウレックス事件についても最高裁判決が出るであろう。その時問題となるのは、「正社員の給料はなぜ高いか?」について説明する必要があるということだ。・・・

このパッションは最後に近づくにつれてますます高まっていき、

・・・その時、労働法はどうあるべきか。これまでの高度経済成長モデルの終身雇用・年功序列を前提とした法律でよいのか、改革すべきか。・・・「働き方改革」は単に労働時間を削減し、非正規雇用の賃金を上げるだけの話ではない。

一時の「風」ではなく、本質的な議論の上に日本型雇用の未来があって欲しいと切に願ってやまない。

と、荒野に呼ばわる預言者の如き風情を醸していきます。

もう一つの特集は「AIで変わる法規制」で、私はこちらに顔を出しています。

【特別企画】

AIで変わる法規制            

・総論:AI に対して法はどう向き合うか
(新保史生)

・憲法:個人の尊厳・自律とAI による評価
(山本龍彦)

・労働法:デジタル経済時代の労使関係
(濱口桂一郎)


・行政法:AI 社会における行政規制・行政によるAI の活用に向けて
(横田明美)

・不法行為法・PL法:民事責任 ―AI・ロボットと責任の分配
(波多江 崇)

・知財法:ビッグデータ,学習済みモデル,AI 生成物の保護
(柴野相雄/松村将生)

・独禁法:デジタル・カルテルが問う「合意」要件
(植村幸也)

・金融法:市場取引,金融サービス,コンプライアンスにおけるAI の活用
(森口 倫)

・刑事法:AI・ロボットと刑事法 ―取得情報とプライバシーを中心に
(松尾剛行)

・司法制度:裁判過程・司法判断におけるAIの可能性
(大屋雄裕)

・国際法:AI搭載兵器の責任をめぐる法的問題
(佐藤丙午)

別に図ったわけでもないのですが、私の小文は大特集の働き方改革の話とこちらのAIの話をつなぐような形になっています。

というのも、話の枕として働き方改革の話をして、日本政府は一方で伝統的な日本型正社員の「いつでもどこでも」な働き方に限定をかけようとしつつ、同時にその限定がしにくいデジタル技術を駆使した新たな働き方を推進しようとしているという、逆説とは言えないにしてもやや皮肉な状況を語っているからです。

この特集は、各法律分野におけるAIの状況が浮かび上がってきて、大変面白い読み物になっています。このうち知財法について書かれた柴野相雄さんとは、先日某所の座談会でご一緒したところです。こちらはそのうち『労務事情』に出るので乞うご期待。

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稲葉秀三って誰?

トリビアに食いついているように見えるかもしれませんが、金子良事さんのつぶやきが気になって・・・

https://twitter.com/ryojikaneko/status/943823933039460354

稲葉秀三って名前、出してああ、社民右派の大立者ね、と分かってくれる人は案外少ないと思い知った。そうか。あんな有名人なのにな。

いやいや、稲葉秀三は社民右派の大立者じゃないでしょ。ていうかそもそも政治家じゃない。経済安定本部で傾斜生産方式をやり、その後産経新聞の社長になり、社会経済国民会議の議長もやりましたが、政治家になったことはないはず。

というか、戦前はいわゆる革新官僚で企画院事件に連座しており、同じく捕まった連中のなかに和田博雄とか勝間田清一とか、戦後社会党の大立者になった人がいるので、それらとごっちゃになったのかもしれないけれど、彼らは右派じゃなくて左派だしね。

企画院事件に連座した革新官僚で戦後社会党右派(から民社党)というと、先日『HRmics』で紹介したG.D.H.コールの『労働者 その新しい地位と役割』の翻訳者でもある和田耕作がいますけど、稲葉秀三とごっちゃになる人でもなさそうだし。

金子さんの中で何かと混線した可能性がありますが、それがなんだかよくわかりません。

(追記)

Myweb1024001たまたま、1951年の『社会主義』創刊号の創刊のことばなるページを発見しましたが、

http://www5f.biglobe.ne.jp/~rounou/myweb1_024.htm

そこに載っている社会主義協会同人のリストに稲葉秀三の名前が「知識人」枠で載ってます。

 つぎに主要な社会主義協会同人を御紹介します。地方選挙やその他の都合で広く同人を求める余裕がありませんでしたが、積極的な参加を切望します。

社会党 和田博雄、勝間田清一(交渉中)江田三郎、伊藤好道、金子洋文、稲村順三、佐多忠隆、吉田法晴、佐々木更三(交渉中)

労組 武藤武雄、岡三郎、永岡光治、高野実、柳本美雄、肥川治一郎、和田春生、原口幸隆、市川誠、東谷敏雄、清水慎三、大田薫、平林剛、小椿春三、津脇喜代男、大脇博、清水十三男、久保田正英、岩城悌三

知識人 大内兵衛、山川均、有沢広己、向坂逸郎、高橋正雄、稲葉秀三、鈴木武雄(交渉中)芹沢彪衛、板垣武雄、大森真一郎、小松清(交渉中)、松岡三郎(交渉中)岡崎次郎、岡崎三郎、揖西光速、鈴木鴻一郎、相原茂、大内力、鈴木徹三、西尾正栄、関嘉彦(交渉中)

協会派というと後のイメージではがちがちのマルクスレーニン主義者の集まりという印象ですが、出発点では西欧型社会民主主義の人も広く包摂する組織を目指していたようですね。

そういう意味では社民主義者の一人であったことは確かでしょうが、「社民右派の大立者」とは言えそうにありません。

(追記)

金子さんがコメントしてくれました。

>社会党から西尾が追い出されたとき、社民右派を結集しようとして裏で動いていたのが稲葉で、これを阻止したのが総評です。まあ、もともと太田たちの動きが分裂になったわけで、彼らがそういう行動に出たのはよく分かります。全逓の宝樹さんのオーラルに書いてあったと思います。

宝樹オーラルは、政策研究院にいたときに大変面白く読んでいましたが、そんな記述あったっけ?とおもって引っ張り出してみると、確かに下巻の95頁から「稲葉秀三が社会党分裂、西尾末広追放に関与」とありますね。

本人が「これも非常にマル秘で」と言っているので、『証言戦後労働運動史』も含め、他では出てこない話ですね。

その稲葉の広範な社民右派政党構想をぶっつぶしたのが宝樹文彦で、それを本人に明かしたのが、連合結成当時に、そのシンクタンク(連語総研)をつくる話をしに行ったときだというのですから、結構すごい話です。

しかし、このオーラル以外では一切出てこないし、世間でもほとんど知られていないのではないですか。これで「社民右派の大立者」といって通用するのかというと、世間的にはどうかなと思います。

 

 

 

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宮前忠夫『企業別組合研究のための文献集』

9784780716634宮前忠夫さんより、『企業別組合研究のための文献集 別冊『企業別組合は日本の「トロイの木馬」』』(本の泉社)をお送りいただきました。

http://honnoizumi.co.jp/single/1209/

今年4月に『企業別組合は日本の「トロイの木馬」』をお送りいただき、その時にやや厳しい批判をさせていただいたことがありますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/post-732d.html

今回の本はその別冊ということで、160頁以上のほとんどすべてが資料一覧になっています。分類もされずにただ著者のABC順に並んでいて、さてどういう風に使うべきか、ちょっと悩むところです。

本書に収録するのは、宮前忠夫が、『企業別組合は日本の「トロイの木馬」』の執筆のために収集し、参照した日本語および外国語の文献です。
収集の対象としたのは、「企業別組合」あるいは「会社組合」の、歴史、実態、理論などに直接に関係する文献が中心ですが、それらと密接に関連する労働者組合組織(論)に関する文献をも採り入れています。邦訳文献・資料の原典についても、原典不明のごく少数のものを除き、すべてについて原典文献あるいはそのコピーを収集し、併記しました。

これを見ると、わたくしの書いた本や論文もいくつか参照されているようで、だとすると、どうして上記リンク先エントリで批判したような歴史観になるのかな?という疑問も湧きます。

再説はしませんが、そのエントリではかなり細かく論じており、かつ何人かの方にコメントをしていただいておりますので、関心のある方は是非覗いてみてください。

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野原蓉子『パワハラ・セクハラ・マタハラ相談はこうして話を聴く』

12131902_5a30faa36e75b_2例によって、経団連出版の讃井暢子さんより、野原蓉子著『パワハラ・セクハラ・マタハラ相談はこうして話を聴く -こじらせない!職場ハラスメントの対処法』(経団連出版)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=486&fl=

パワハラ、マタハラ、過労死などの問題が毎日のように報道されています。それらの事案からも、ハラスメント問題はさまざまな不祥事の背景となる要因であり、企業の存立にかかわるほどの重大な影響を与え、経営をゆるがしかねない課題であることがわかります。

ハラスメントは未然に防止することが一番重要ですが、問題が発生したとしても、大事になる前にその芽を見つけ出し、「初動」(最初の手当)できちんと対応できれば、大きなトラブルへと発展する事態を防ぐことができます。

そこで本書は、企業や官公庁でカウンセリングに従事してきた筆者が、ハラスメントに対する基本的な知識から、「ハラスメントを受けた」と相談されたときの初動対応までを、ヒアリングの仕方、相談相手の信頼を得られる話し方、解決に至るステップなどについて成功例、失敗例、改善例を交えて紹介します。

企業の相談窓口担当者や管理職が、ハラスメント相談にあたる際の問題解決の道しるべとなる一冊です。

最近はハラスメント関連の本もたくさん出されていますが、本書はとにかく実戦的に、現場でどう対応すべきかを具体的な事例でもって説明している本です。

特に、第3章の「相談シナリオで学ぶヒアリングの成功と失敗」は、やや作りすぎの感もありますが、どういう対応の仕方がよくないのかがよくわかる生々しい例がいっぱい載っています。ほんとは失敗例をいくつか引用したいところですが、部分的に引用しても仕方がないので、是非本書をめくってぱらぱらとでも見てください。

(追記)

・・・と思ったけれど、失敗例はよく読んでもらう必要があるので、被害者ヒアリングから一件。

窓口 営業所の所長からセクハラやパワハラを受けたんですって?その所長のことを私はよく知っています。営業成績を上げている優秀な所長さんという評判です。

女性 今回相談するまでに本当に迷いました。職場は男性しかいないのでこれまで誰にも話せませんでした。こんなことになったのは自分にも問題があったのではないかと責め続けていました。

窓口 自分にも落ち度があったと思うのですね?

女性 所長からマンツーマンで仕事を教えてもらって、何とか営業の仕事ができるようになり感謝していましたが、他の営業社員から仕事を教わろうとすると邪魔されるのです。何か男女の関係で嫉妬されているようで気になりました。営業社員も私に近づかなくなりました。

窓口 所長には感謝していたのですね。何か特別にひいきされているような感じもあったんですね?

女性 そういうことはまだ我慢できるのですが、営業車内でお尻や胸を触られたりしました。イエまで送ってもらったときには家に上げろと言われて断ったら抱きつかれました。それから何をされたかは思い出すのもいやです。

窓口 所長から何をされたかをきちんと言ってもらわないと分かりません。

女性 キスをされたんです。恋人でもない人からそんなことをされたくなかったです。(泣きながら)

窓口 1回だけですよね?家に入れなかったのはよかったです。

女性 それから所長の足音を聞くだけで嫌悪感を感じます。営業所に二人だけになると何をされるかと思って口もきけなくなりました。

窓口 それ以後は何もないわけでしょう。ちょっと大げさな感じですね。

女性 その後、所長からは「セクハラとかパワハラとか言うなよ。お前の評価を良くしてやっているんだから。お前が困るんだよ」と言われました。このことを母に電話で話したら、「会社を辞めてすぐにここに帰ってくるか、会社にはそういうことを相談する場所があるはずだから辞める前に相談しなさい」と説得されました。

窓口 話の内容は分かりました。この後に所長からも話を聞き、その上で会社の対応をお知らせします。ただセクハラ行為があったと判断されても、所長は優秀で仕事ができるため異動させるわけにはいかないかも知れません。その場合はあなたが異動するしかないと思いますよ。

女性 そうですか、いくら相談しても会社の方が大事だということがよくわかりました。それなら私は会社を辞めます。そうしてから、母と相談して外部の相談窓口に改めて相談したいと思います。

・・・・・

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『ビジネス法務』2月号のお知らせ

1603284_p中央経済社の雑誌『ビジネス法務』の2018年2月号がもうすぐ刊行されるようです。

https://www.fujisan.co.jp/product/3198/next/

この表紙を見たら、「ああそうか、hamachanは働き方改革について何か書いているのだな」と思うのが普通でしょうが、さにあらず。この特集の目次は次のように、錚々たる人々が名を連ねていますが、私は入っていません。

特集 「働き方改革」法案要綱の全容を解く

大変革期を乗り越える鍵は積極的な労使対話に  山田 久  12

働き方改革は何を「改革」するのか
改正の全体像と対応ポイント  倉重公太朗  16

≪労働時間法制≫

時間外労働・長時間労働の是正  北岡大介  21

高度プロフェッショナル制度の導入と課題  岡田和樹  27

≪同一労働同一賃金≫

法改正が目指す「不合理な待遇差」の禁止とは  橘 大樹  32

日本郵便(東京)事件にみる労契法20 条の判断基準  岸 聖太郎  37

有期雇用者・パートタイマーの待遇差是正  石嵜裕美子  42

派遣労働者の待遇差是正  佐々木晴彦  48

Interview 株式会社イトーヨーカ堂
企業利益に寄与する 真摯なパワハラ・メンタルヘルス対策  久保村俊哉  54

Interview 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
テレワーク導入を契機とした働き方改革の取組み  本合暁詩/山下健介  58

働き方改革の経済分析  山本 勲  61

ILO「国際労働基準」と日本の取組み  田中竜介  66

この表紙では、下の方にちらりと出ている「特別企画 AIで変わる法規制」の方に、私は寄稿しております。

特別企画 AIで変わる法規制

総 論 AI に対して法はどう向き合うか  新保史生  73

憲 法 個人の尊厳・自律とAI による評価  山本龍彦  75

労働法 デジタル経済時代の労使関係  濱口桂一郎  77

行政法 AI 社会における行政規制・行政によるAI の活用に向けて  横田明美  80

不法行為法・PL 法 民事責任 ー AI・ロボットと責任の分配  波多江 崇  82

知財法 ビッグデータ,学習済みモデル,AI 生成物の保護  柴野相雄/松村将生  84

独禁法 デジタル・カルテルが問う「合意」要件  植村幸也  86

金融法 市場取引,金融サービス,コンプライアンスにおけるAI の活用  森口 倫  88

刑事法 AI・ロボットと刑事法ー取得情報とプライバシーを中心に  松尾剛行  90

司法制度 裁判過程・司法判断におけるAI の可能性  大屋雄裕  92

国際法 AI 搭載兵器の責任をめぐる法的問題  佐藤丙午  94

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メンバーシップ型の日本での転職@リクルートワークス研

Rwリクルートワークス研究所のコラムに「メンバーシップ型の日本での転職―「転職=即戦力」幻想の先へ」という大変興味深い、というか奥深いところまで考察している記事が掲載されています。筆者は中村天江さん。これは労働問題に関心を持つ人々に多く読まれるべきとてもいいコラムなので、少し引用しつつ紹介しますが、是非リンク先にいって全文をしっかりと読んでいただきたいと思います。

http://www.works-i.com/column/policy/1712_03/

このコラムの問題意識は

しかし、本当に、「転職=即戦力」なのだろうか。新卒採用との違いを際立たせるために使われてきた、中途採用は即戦力採用であるというとらえ方が、いつしか盲目的な「即戦力幻想」となり、転職環境を整備する妨げになっている面があるのではないだろうか。

という点にあります。

ジョブ型の欧米の転職をそのままメンバーシップ型の日本に持ってくることで却って問題が生じているのではないか、という問題意識です。

・・・豊富な経験や能力を有している個人の転職は「即戦力」といわれることが多い。確かに、経験者採用だと、新卒採用のようなゼロからの育成は必要ない。もっといえば、既存社員が有していないスキルや経験をもつ転職者も多い。とはいえ、メンバーシップ型の組織への転職後、全人格的な職務遂行能力を発揮できるようになるには、単に仕事経験の有無を越え、2つの面で「適応」することが求められる。1つには、技能の学び直しであり、もう1つは、人間関係の再構築である。

技能の学び直しというのは、企業特殊的技能に関わる問題です。すなわち、

・・・この企業特殊的技能を多く蓄積した個人が、新たにメンバーシップ型の組織に転職すると、次のようなことが起こる。これまでに蓄積した技能を横スライドすることに加え、転職先ならではの企業特殊的技能を新たに習得し、さらには転職前の会社で培った企業特殊的技能を捨て去らなければならない。つまり、転職には、「即戦力」として横スライドしつつ、さらに、新たな「学習」と、不要な知識をあえて封印する「学習棄却(アンラーニング)」がともなうのだ。

実際、筆者らが行った研究プロジェクトでも、「学習棄却(アンラーニング)」をしている転職者のほうが、転職先で活躍する傾向が強い

前の会社のやり方にこだわる人は転職先で活躍しにくい、という問題ですね。

さらに重要なのは2番目の人間関係の再構築。あるヘッドハンターの言葉をこう引用しています。

「外資系では、転職は機械の部品を替えるみたいなもので、歯車を替えて油を差してねじを締めたら、あとは回しておけば大丈夫です。でも、日本でそれをやると、ポロッと取れてしまうんですよ。接ぎ木みたいなもので、元木と接ぎ木がくっつくまでの期間は、どちらかが派手に動いたら、どんな名木にきれいな名木を接ぎ木しようとしても失敗します。外資はスキルだけですが、日本は人間関係的な接着が大事。それに3カ月、6カ月とかかります」

これも、「あるある」と感じる人が多いのでは。

というわけで、是非上記リンク先に飛んで、全文を改めてお読みください。

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川口大司『労働経済学』

L16507川口大司さんより新著『労働経済学』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641165076

理論と実証が有機的につながった科学としての経済学のアプローチを,身近な題材と豊富なデータを扱う労働経済学を通じて学ぶ。人間の行動モデルをベースとした実証分析を駆使することで,現象の相関関係ではなく,因果関係を明らかにする。演習問題も豊富に付した。

あれ、確かつい先日似たような本をお送りいただいたような・・・。

そう、先日いただいたのは、川口さん編著の『日本の労働市場』。

今回のは川口さんの単著で、本格的な労働経済学のテキストブックです。

どれくらい本格的かというと、本論に入ると難しい数式がこれでもかこれでもかと続出してきて、同じ労働関係の研究者でも、経済畑でない人はそこを飛ばしながら読んでいくしかないという状況に追い込まれるような本です。

第1章 労働経済学への招待:理論と実証をつなぐ
第2章 労働供給
第3章 労働供給モデルの応用
第4章 労働需要
第5章 労働市場の均衡
第6章 補償賃金格差
第7章 教育と労働市場
第8章 技能形成と外部・内部労働市場
第9章 労働市場における男女差
第10章 これからの日本社会と労働経済学

気楽に読めるのは週刊ダイヤモンド連載から転載されたコラムと、第10章くらいでしょうか。

この章では、今後の政策的対応が求められるトピックとして、非正規労働問題、解雇規制のあり方、セーフティネットの設計等を挙げています。記述はごく簡素ですが、その中に

・・・この点について関心のある読者は、大内・川口(2008近刊)でより政策的な議論を展開しているので、参考にして欲しい。

とあります。ところが、巻末の参考文献表にこの近刊書は載ってません。おおい、有斐閣の中の人・・・。いやたぶん、『法と経済学で読み解く雇用の世界』の改訂版のことなんでしょうけど。

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『情報労連REPORT』12月号は「賃上げ」特集

Dqwtcgjwaaiudhh『情報労連REPORT』12月号をお送りいただきました。今号の特集は「賃上げへ動く」です。

http://ictj-report.joho.or.jp/special/

組合関係者、研究者取り混ぜて、なかなか面白い特集になっています。

賃上げ要求を継続し賃金が上がる仕組みを社会に定着させる 冨田 珠代

実質賃金の伸び悩みが課題 物価上昇局面を意識した要求を 出口 恭子

要求しないと賃金は上がらない 労働組合は「ボイス」を挙げるチャンス 玄田 有史

賃金表の変化が賃金が上がりにくい背景に ベースラインの底上げがカギ 西村 純

労働条件の趣旨、目的、性格を分析 同一労働同一賃金ガイドライン案を生かす 棗 一郎

賃金格差の要因は職場ではなく家庭にある 産業別労働組合がやるべきことは? 本田 一成

所定労働時間の短縮で確かな働き方改革を実現 味の素労働組合の要請の真の狙いは? 前田 修平

賃金表の有無が賃金格差の要因に 中小企業で賃金制度を導入しよう! 石井 繁雄

ここから始める春闘の賃金交渉 賃金実態の把握から交渉へ 春川 徹

このうち玄田さんと西村さんのは前に『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』を紹介したときに言及してますので、ここではむしろ、本紙で時々特集している産業別組合論との関係で、本田一成さんの文章を。

http://ictj-report.joho.or.jp/1712/sp06.html

これ、なかなか本質にズバリ踏み込むことをいっています。

産業別労働組合は、企業別労働組合が乗り越えられない課題に取り組むべきでしょう。何ができるでしょうか。的外れに聞こえるかもしれませんが私は、産業別労働組合に組合員の「家庭のあり方」を変えることを期待しています。・・・

家庭のあり方を変えるとはどういうことか?

・・・男性の労働時間を短くして、いま女性が担っている家事・育児全般を男性も同じようにする。それをやらない限り賃金格差は永遠になくなりません。

産業別労働組合の役割はここにあります。・・・

まあでも、企業別組合の寄り合いに過ぎない日本の産業別組合にそれが可能でしょうか。実は本田さんも口でいうほど簡単だとは思っていないはずですが、そこはやはりここで発破を掛けるべきところだとお考えなのでしょう。

・・・産業別労働組合には、企業別労働組合では対応が難しい課題への取り組みを期待しています。連合が「底上げ・底支え」「格差是正」を春闘で訴えるのならば、そろそろ組合員の家庭での過ごし方に首を突っ込まないといけません。遠回りのように感じるかもしれませんが、賃金の伸び悩みや、賃金格差の震源地はここにあるのですから。

あと、連載の「常見陽平のはたらく道」では、「「働き方」が食い物にされた1年 2017年の労働問題を振り返る」と、かなりの激越な口調で批判を展開していますね。

http://ictj-report.joho.or.jp/1712/tsunemi.html

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27歳女子の感想

Img_752f5d874047328e26f434ce08fbda5 例によって、読書メーターに載った『働く女子の運命』の感想です。「ろん」さんという「27歳女子」の方です。

https://bookmeter.com/reviews/68556510

私は27歳女子である。この本を読もうとしたきっかけは、元OLの母が言っている会社の様子や仲の良い同僚(50歳女性)の話や、同僚(50歳男性)の「結婚したらやめるんでしょう?」という発言等、今まで学校とかけはなれた道徳感を会社に入って感じたからだ。読了して思った。歴史として一行の記述を習っただけの男女均等法の歴史はとても長い。親の世代の母や同僚はこのような世界で生きてきており、それが当たり前だったんだと。私は今の時代の価値観の方が好きだ。この時代を迎えるために、思念された皆様に感謝を申し上げる。

そう、まさにこの方の親や50歳の同僚の方々は、そういう世界を生きてきたんです。

そういうことを軽く読める本でさらりと書いたものが、今はほとんどないので、口の悪い人からはそんな部分は要らないといわれますが、やはり本書の歴史叙述の部分は結構意味のあるものになっていると思います。

 

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『季刊労働法』冬号の読みどころはクラウドワーク特集

4910197090189_2 さて、先日記事のタイトルだけ紹介した『季刊労働法』冬号ですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/post-9214.html

第1特集の「解雇の金銭解決制度をめぐる議論状況」は、もちろん面白いのですが、それほど目新しい話が少ないのに対して、「集中連載」と題された「クラウドワークの進展と労働法の課題」の方は、労働法の基本構造を大きく変えていくかもしれない大きな話題が取り上げられていて、これは今号の最大の読みどころといえます。

「クラウドワークの進展と労働法の課題」の連載開始に際して 法政大学大学院客員教授 毛塚勝利
クラウドワークの労働法学上の検討課題 法政大学大学院客員教授 毛塚勝利
クラウドワークの歴史的位相 早稲田大学名誉教授 石田 眞
ドイツにおけるクラウドソーシングの進展と労働法の課題 中央大学大学院博士後期課程 後藤 究
フランスにおけるクラウドワークの現状と法的課題 茨城大学准教授 鈴木俊晴

この研究の中心人物である毛塚さんの総論的論考も大変興味深いですし、若手二人によるドイツとフランスの解説も、大変勉強になります。とりわけフランスのエル・コムリ法については、私もよくわかっていなかったことが説明されていて、大変有用です。

が、しかしここでは、石田さんの「歴史的位相」論文を一押ししておきます。クラウドワークがかつての問屋制家内工業の再来であるという議論を素材に、どこがそうであり、どこがそうでないかを明確に指摘していて、読みながら興奮します。経済学、社会学系の研究者も、ぜひこういうマクロ的視点からの新たな就業形態の分析に加わってもらいたいと思いますね。

あと、わたしの「労働法の立法学」は「地域雇用開発の半世紀」というややトリビア風のものですが、よく読むと、歴史のはざまに埋もれた秘話がさりげなくかかれていたりして、その筋には面白いかもしれません。

1 前史-労働者の地域移動
(1) 職業安定法の原則
(2) 駐留軍離職者対策
(3) 炭鉱離職者対策
(4) 職業安定法の広域職業紹介
(5) 雇用促進事業団の地域移動関係業務
(6) 雇用対策法
 
2 高度成長期の地域開発政策
(1) 全国総合開発計画
(2) 低開発地域工業開発促進法
(3) 新産業都市建設促進法
(4) 工業整備特別地域整備促進法
(5) 新全国総合開発計画
(6) 農村地域工業導入促進法
(7) 工業再配置促進法

3 地域雇用開発政策の形成
(1) 雇用保険法の制定
(2) 地域雇用促進給付金等
(3) 第3次全国総合開発計画
(4) 特定不況地域離職者臨時措置法
(5) 地域雇用開発推進事業
(6) 特定不況業種・特定不況地域関係労働者の雇用の安定に関する特別措置法
(7) 緊急雇用安定地域

4 地域雇用開発等促進法 
(1) 地域雇用開発等促進法の制定
(2) 地域雇用開発助成金
(3) その他の措置
 
5 バブル景気とその崩壊の時代 
(1) 地域開発立法等の動向
(2) 予算措置による地域雇用政策
(3) 1991年改正
(4) 1997年改正
 
6 21世紀の地域雇用開発政策
(1) 地方分権と職業安定行政
(2) 2001年改正
(3) 2007年改正
(4) 公的雇用創出事業
 
(付)まち・ひと・しごと創生本部

 

 

 

 

 

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ディスカッションペーパー『日本型雇用システムと解雇権濫用法理の形成』

わたくしのディスカッションペーパー『日本型雇用システムと解雇権濫用法理の形成』がJILPTのホームページにアップされました。

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2017/17-03.html

戦後直ちに制定された1945年労働組合法は不公正労働行為に対して直罰主義を採り、無効構成とはしなかった。そのため、刑事事件として有罪判決が確定しても直ちに民事上の効力を有さず、復職するためには別途民事訴訟を起こす必要があり、当時の判決で不公正労働行為たる解雇を金銭賠償ではなく無効としなければならない理由を論じたのが、解雇無効判決の出発点である。1949年労働組合法改正で労働委員会による救済命令方式になった後も、裁判所判決では無効構成が維持された。

1950年代には個別解雇事案についての地裁レベルの判決が多く出され、そこでは解雇自由説、解雇権濫用説、正当事由説が拮抗していたが、やがて解雇権濫用説が主流となっていった。しかしその実体は権利濫用説といいながら立証責任を事実上使用者に負わせるものであった。かかる事態の原因は、この時期のレッドパージ解雇事件と駐留軍労務者解雇事件において、解雇有効という結論を導くためにあえて権利濫用説を採ったことにあるとみられる。1950年代の解雇権濫用法理による判決においては、日本型雇用システムを論拠とするようなものはほとんど見られない。

1960年代の高度成長期には整理解雇や能力不足解雇が裁判になった事例は少ないが、日本型雇用システムを解雇無効とする論拠に挙げる判決がいくつか現れてくる。しかし、それが全面化するのは1970年代の不況期に行われた整理解雇に対する判決においてであった。当時の下級審判決は揃って終身継続的な雇傭関係の期待を根拠に、整理解雇に対する厳しい司法審査を正当化している。また、当時盛んに行われた配置転換の可能性が整理解雇の必要性判断の厳格さに影響したとの指摘もあり、この時期に日本型雇用システムの判例的表現としての解雇権濫用法理、とりわけ整理解雇法理が確立したと言える。

DPの本体はこちらです。

http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2017/documents/DP17-03.pdf

本DPはそれほど長いものではありませんが、判例法理の形成史なんていう辛気臭いものをじっくり読んでいる暇はないという方には、ストーリーを簡略に示した小文を「リサーチアイ」というコラムに書きましたので(こちらも本日アップ)、ざっとお目通し頂ければ幸いです。

http://www.jil.go.jp/researcheye/bn/024_171215.html 

雇用システムと労働法との関係は単純ではない。事実認識の社会科学としての産業社会学や労働経済学が現実の雇用社会をもとに構築してきた日本型雇用システムの理論は、少なくともある時期までは価値判断に基づく規範の体系としての法解釈学たる労働法学とは縁が薄かった。しかしながら一方で、労働法学が現実の雇用社会で生起する諸事象に対し裁判所が下した判断の集積である判例を踏まえた議論を展開するようになればなるほど、それはそれら諸事象が生起した文脈である雇用システムのロジックに関心を向けざるを得なくなる。かかる労働法学からの雇用システムへの関心を集約したのが、菅野和夫『雇用社会の法』(有斐閣、1996年。2002年新版)であった。同書は日本型雇用社会を長期雇用システムを中心としたものと捉え、身分的包括的雇用関係、組織的集団的雇用関係といった特徴を引き出しつつ、それを表す法的ルールとして解雇権濫用法理が示されている。

この認識は必ずしも間違っているわけではないが、これをやや安直に理解して、解雇への制約の存在を日本型雇用システムの最大の特徴と捉えることは、アメリカ以外の欧米先進諸国との比較法の観点から見てもあまり適切とは言えない。比較法的にはアメリカのみが解雇自由原則を未だに維持しているという点で特殊であり、他の欧米諸国では程度の差はあれ解雇に正当事由を要求する法制が発達してきている。この観点からすれば、欧米諸国では立法によって展開されてきた解雇に対する規制が、立法を経ることなく、もっぱら裁判所における判例の蓄積によって進められてきた点に日本の特徴があるといえる。解雇権濫用法理と日本型雇用システムを単純に同一視する発想は、解雇自由なアメリカという特殊例を普遍的なものと考える点で誤っているのみならず、日本型雇用システムの変容が不可避的に解雇規制の緩和に帰結するかのごとき認識をもたらしかねない点で危険性を孕んでいると思われる。

そこで、JILPTが第3期研究計画期間において取り組んできた「雇用システムと法」プロジェクトの一環として、筆者は解雇権濫用法理の歴史的形成過程を分析することにより、日本型雇用システムと解雇権濫用法理の関係を発生論的に明らかにすることを試みた。その結果は、JILPT Discussion Paper 17-03『日本型雇用システムと解雇権濫用法理の形成』として取りまとめたところである。以下、その概要をできるだけわかりやすく解説したい。・・・・・

 

 

 

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いやそれがジョブ型・・・

Eyecatch_immig_france625x352クーリエジャポンのサイトに「「フランスで働く」現実はこういうこと!|仕事探しからフランス人との付き合い方まで教えます」という記事が載っているんですが、

https://courrier.jp/news/archives/105626/

その中にこんな一節が・・・。

だが、そこで直面したのが「学問の壁」だ。フランスでは、大学の科目が職業に直結する。

「豊田通商を辞めてから、転職活動をしたのですが、次の仕事が見つかるまで1年くらいかかりましたね。フランスの人材紹介・派遣会社に10件以上登録しました。だけど、毎回こう言われるんです。『あなた、金融の勉強をしたことないでしょ。ファイナンスアナリストの仕事をしていたみたいだけど、勉強はしていないよね』って」

いやそれがまさにジョブ型、というかその中でもとりわけ学校教育システムによる職業資格をもっとも重視するフランス型労働社会の特色なんですね。

参考

http://hamachan.on.coocan.jp/webrousei161212.html(ジョブ型社会のアキレス腱)

・・・・・ジョブ型社会というのは、こういうフォーマルな教育訓練制度を修了することで獲得された「資格」でもって特定のジョブに「就職」する社会なのです。逆に言えば、そういう「資格」がないゆえに「就職」できないというのが、欧米の雇用失業問題であり、それゆえにそれに対する対策は主として教育訓練に力を入れて「就職」できるような「資格」を与えることになるわけです。それが役に立つ政策であるのは、労働社会が「資格」に基づいているからです。フォーマル学習に基づいて発給された「修了証書」がその人のスキルを表すものであると社会の多くの人々が受け取ってくれる社会であるからこそ、「資格」を得た人はスキルのある人とみなされることになるのです。

ここは皮肉な話ですが、日本では非正規労働対策として教育訓練に力を入れてもあまり役に立たないことと裏腹の関係にあります。日本人が欧米の教育訓練関係文書を読んで一番違和感を持つのは、おそらく“「資格」イコール「スキル」”という前提をほとんど疑わないで議論が進められていることでしょう。日本人にとって、ある労働者が「できる」か「できない」かは、そんな「資格」などではなく、同じ会社の社員同士長年付き合ってお互いによく知り合うことによってこそよく分かるものだからです。とはいえそれは、日本以外の社会ではほとんど通用しない感覚です。

 しかし、だからといってジョブ型社会に問題がないわけではありません。いやむしろ、本当にその労働者がその仕事を「できる」のかどうかは、フォーマル学習で得られた修了証書だけで決まるようなものではないのではないか――という素直な疑問が、欧米でも当然のように提起されてきます。そう、そこで「ノンフォーマル学習」だの「インフォーマル学習」だのという概念が登場してくるのです。

上記勧告は、続いて「ノンフォーマル学習」を、教師-生徒関係のような一定の形をとった計画された活動として企業内や市民社会団体によって行われるもの――と定義しています。いわゆるOff-JTがこれに当たるといってよいでしょう。

これに対し「インフォーマル学習」は、日々の労働に関わる活動の結果としての学習で、いわゆるOJTがこれに当たります。多くの人が日々の仕事をしながらパソコンのスキルを身につけてきたと思いますが、これなど典型的なインフォーマル学習ということになります。

言うまでもなく、欧米社会でもこういう形で実際のスキルを身につけるのはごく普通のことです。実際に仕事をする上で使っているスキルの大部分は、フォーマル学習に基づく資格よりも、こうしたノンフォーマル・インフォーマル学習で身につけたものだという調査結果もあります。問題は、ジョブ型社会というのは、そうした「資格」なきスキルを素直に認めてくれるような仕組みではないということなのです。日本のようなメンバーシップ型社会であれば、「資格」などといううるさいことはほっておいて、同じ社員同士「あいつはできる」と理解し合っていればいいのですが、ジョブ型社会ではそうはいかないのです。そう、ここにジョブ型社会の最大のアキレス腱(けん)があるのです。

 そこでこの勧告は、加盟各国に対して、こうしたノンフォーマル・インフォーマル学習で獲得した知識、スキル、職業能力を「認定」(ヴァリデーション)する仕組みを構築するよう求めています。学校や大学、訓練校に通って得るのと同じ「資格」を、企業やNGOのOff-JTやOJTでそれらを身につけた人々にも与えることができるようにしようというわけです。そのために、例えば技能検査(スキル・オーディット)をすることも示唆されています。そうやって、一国の職業資格制度の中に位置づけていこうという動きなのです。

 改めて日本人の目から見ると、欧米社会は何でこんなことに血道を上げなければならないのかがよく分かりかねるかも知れません。仕事を通じてスキルを身につけたと周りの人間が分かっているのなら、そういう風に扱えばいいじゃないか、と。しかし、そういうわけにはいかないのがジョブ型社会なのです。だからこそ、EUの重点政策としてノンフォーマル・インフォーマル学習ということが打ち出されたりもするのです。 ・・・・

http://hamachan.on.coocan.jp/hirotakaken.html(広田科研研究会議事録)

・・・私は実は、どういうジョブについてどういうスキルを持ってやるかで仕事に人々を割り当て、世の中を成り立たせていくジョブ型社会の在り方と、そういうものなしに特定の組織に割り当て、その組織の一員であることを前提にいろいろな仕事をしていくメンバーシップ型社会の在り方の、どちらかが先験的に正しいとか、間違っているとは考えていません。
 ある意味ではどちらもフィクションです。しかし、人間は、フィクションがないと生きていけません。膨大な人間が集団を成して生きていくためには、しかも、お互いにテレパシーで心の中がすべてわかる関係でない限りは、一定のよりどころがないと膨大な集団の中で人と仕事をうまく割り当てることはできません。
 そのよりどころとなるものとして何があるかというと、ある人間が、こういうジョブについてこういうスキルがあるということを前提に、その人間を処遇していくというのは、お互いに納得性があるという意味で、非常にいいよりどころです。
 もちろん、よりどころであるが故に、現実との間には常にずれが発生します。一番典型的なのは、スキルを公的なクオリフィケーションというかたちで固定化すればするほど、現実にその人が職場で働いて何かができる能力との間には必ずずれが発生します。

 ヨーロッパでいろいろと悩んでいるのは、むしろその点です。そこから見ると、日本のように妙な硬直的なよりどころがなく、メンバーとしてお互いによく理解しあっている同じ職場の人たちが、そこで働いている生の人間の働きぶりそのものを多方向から見て、その中でおのずから、「この人はこういうことができる」というかたちで処遇していくというやり方は、ある意味では実にすばらしいということもできます。
 ただし、これは一つの集団組織に属しているというよりどころがあるからできるのであって、それがないよその人間との間にそうことができるかというと、できるはずがありません。いきなり見も知らぬ人間がふらりとやってきて、「私はできるから使ってくれ」と言っても、誰も信用できるはずがありません。そんなのを信用した日には、必ず人にだまされて、ひどい目に遭うに決まっています。だからこそ、何らかのよりどころが必要なのです。
 よりどころとして、公的なクオリフィケーションと組織へのメンバーシップのどちらが先験的に正しいというようなことはありません。そして、今までの日本では、一つの組織にメンバーとして所属することにより、お互いにだましだまされることがない安心感のもとで、公的なクオリフィケーションでは行き届かない、もっと生の、現実に即したかたちでの人間の能力を把握し、それに基づく人間の処遇ができていたという面があります。

 おそらくここ十数年来の日本で起こった現象は、そういう公的にジョブとスキルできっちりものごとを作るよりもより最適な状況を作り得るメンバーシップ型の仕組みの範囲が縮小し、そこからこぼれ落ちる人々が増加してきているということだろうと思います。
 ですから、メンバーとして中にいる人にとっては依然としていい仕組みですが、そこからこぼれ落ちた人にとっては、公的なクオリフィケーションでも評価してもらえず、仲間としてじっくり評価してもらうこともできず、と踏んだり蹴ったりになってしまいます。「自分は、メンバーとして中に入れてもらって、ちゃんと見てくれたら、どんなにすばらしい人間かわかるはずだ」と思って、門前で一生懸命わーわーわめいていても、誰も認めてくれません。そういうことが起こったのだと思います。

 根本的には、人間はお互いにすべて理解し合うことなどできない生き物です。お互いに理解し合えない人間が理解し合ったふりをして、巨大な組織を作って生きていくためにはどうしたらいいかというところからしかものごとは始まりません。
 ジョブ型システムというのは、かゆいところに手が届かないような、よろい・かぶとに身を固めたような、まことに硬直的な仕組みですが、そうしたもので身を固めなければ生きていくのが大変な人のためには、そうした仕組みを確立したほうがいいという話を申し上げました。・・・

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森下之博『中国賃金決定法の構造』

9784657178060森下之博さんより大著『中国賃金決定法の構造 社会主義秩序と市場経済秩序の交錯』(早稲田大学出版部)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.waseda-up.co.jp/economics/post-754.html

いくつか特筆すべきことがありますが、まずは森下さん本人。著者略歴にはこうあります。

1985年生まれ。

2007年、内閣府入府。

2012年、中国人民大学労働人事学院労働関係学科修士課程修了、経済学修士。

2016年、早稲田大学法学研究科博士課程修了、博士(法学)。

現在、内閣官房に出向中(参事官補佐)。

内閣府の官僚であり、中国人民大学で経済学修士、早稲田大学で法学博士という縦横無尽の経歴です。

そしてテーマが中国の賃金決定法。この「法」は法律の法で、下記目次から窺えるように、今まで日本ではほとんど取り上げられてこなかった法政策的観点からも中国賃金法の本格的研究書になっています。

しかも、ややもすると中国の「社会主義市場経済」の「社会主義」を共産党支配のお題目視しがちな我々からすると、中国の現行法体系に刻み込まれた「社会主義的」部分を指摘する森下さんの記述ははっとさせられるものがあります。

はしがき

 序章 問題の所在と前提事項の整理
  第1節 問題の所在
  第2節 本書において検証を目指す仮説
  第3節 検討の視角と本書の射程
  第4節 現代中国法の構造の一般的特徴
  第5節 賃金決定関係法の基本的な用語に関する整理

第1編 中国労働法の賃金に対する基礎的考察
 第1章 中国における計画経済期の賃金決定法政策の史的展開
  第1節 建国前後の動き(1948~49年)と第一次賃金改革(1950~53年)
  第2節 第二次賃金改革(1956年)
  第3節 大躍進政策期(1958~1960年)と調整期(1961~1965年)
  第4節 文化大革命期(1966~1976年)
  第5節 計画経済期の賃金決定法政策における「労働」と「賃金」の位置付け(本章の総括)
 第2章 社会主義市場経済体制における中国の賃金に関する理論的考察
    ――中国労働法における賃金を捉える視点
  序
  第1節 現代中国法における社会主義的法秩序の存在
  第2節 社会主義体制と資本主義体制における賃金の比較検討
  第3節 現代中国における賃金についての検討
  第4節 本章の総括(作業仮説の修正)

第2編 中国労働法における賃金決定関係法の個別分析
 第3章 中国労働法における賃金管理制度の構造
  序
  第1節 国家による賃金管理の基本原則(二つの抑制原則)
  第2節 地域および企業の賃金総額に対する管理
  第3節 労働者の賃金水準に対する管理(「賃金指導ライン」制度)
  第4節 賃金団体交渉と「賃金指導ライン」の法的関係性等
  第5節 賃金等に関する統計情報の提供を通じた管理
  第6節 賃金管理制度と賃金決定(本章の総括)
 第4章 中国労働法における最低賃金制度の構造
  序
  第1節 最低賃金制度の形成過程
  第2節 最低賃金制度の構造
  第3節 最低賃金の実態
  第4節 本章の総括
 第5章 中国労働法における賃金団体交渉制度と労働協約制度の構造
  序
  第1節 賃金団体交渉制度と労働協約制度の形成過程
  第2節 賃金団体交渉制度と労働協約制度の構造
  第3節 賃金団体交渉と集団的労働紛争の実態
  第4節 本章の総括
 第6章 第2編の総括
  第1節 制度相互間の法的関係性の整理
  第2節 賃金決定関係法における社会主義的秩序の発現
  第3節 「第十三次計画」期間における賃金決定法政策の重点課題

 結章 本書の結語
  序
  第1節 中国労働法における賃金決定関係法の複雑性の所在
  第2節 中国労働法における賃金決定関係法の構造の総括
  第3節 中国労働法における賃金決定関係法の構造の図示化
  第4節 残された検討課題
  
 参考文献、参照法令一覧
 主要参照条文等抜粋(邦語訳)
 あとがき
 索引
 英文要旨

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『Works』145号は「出直しの働き方改革」

Worksリクルートワークス研究所の『Works』145号をお送りいただきました。特集は「出直しの働き方改革」です。

http://www.works-i.com/pdf/w_145.pdf

■特集 出直しの働き方改革
はじめに:オフィスの灯りが消えたその陰で

●進む「働き方改革」 その現状と課題に迫る
・データで見る働き方改革の“通信簿”
・なぜ、働き方改革は成果も満足感も低いのか

●本質的な働き方改革へ 7の「改革」事例に学べ
・CASE 1:働き方改革=構造改革
宅急便事業という社会的インフラを守るために働き方改革を中心に経営や事業の構造を変える
/ヤマトホールディングス
・CASE 2:働き方改革=営業時間改革
営業時間を大胆に短縮 “量から質”への転換に全社で取り組む
/ロイヤルホールディングス
・CASE 3:働き方改革=意思決定手法改革
成果責任を果たすため、スピーディな意思決定と権限委譲に全社で取り組む
/アステラス製薬
・CASE 4:働き方改革=報酬制度改革
残業50%削減で年収20%アップ 「みんな」で考えた全員参加プロジェクト
/メンバーズ
・CASE 5:働き方改革=仕事の進め方改革
IT導入とルールの明確化で業務を標準化 全員がマルチタスクを担える組織に
/陣屋
・CASE 6:働き方改革=仕事の与え方改革
仕事を“目的”で依頼することで労働時間の削減と人材育成を両立
/SCSK
・Column:働き方改革=人生の楽しみ方改革
“エッジの立った仕事と自分の時間の両立”を目指し、仕事はよりクリエイティブに
/有沢正人氏 (カゴメ 執行役員CHO〈人事最高責任者〉)
・あらためて、働き方改革とは何か

まとめ:人事は働き方改革を誰とともに進めるのか
/石原直子(リクルートワークス研究所 人事研究センター長)

「なぜ、働き方改革は成果も満足感も低いのか」では、慶應の山本勲さんが日本型雇用と長時間労働の深い関係について語り、

・・・さらに根深い問題は、「日本型雇用システムそのもののなかに、長時間労働が埋め込まれている」(山本氏)ことである。「景気変動への対応の仕方が、日本企業と米国企業では異なります。米国企業の多くは人を減らし、人件費を削減することで不況期を乗り切ろうとしますが、日本企業は解雇しません。新卒一括採用、長期育成モデルを採っているためです」(山本氏)。新卒の真っさらな人材に投資し、時間をかけて育成するため、途中で解雇してしまっては元が取れない。「そのため、もともと正社員の人数は少なめに見積も、景気がいいときにはその人たちが残業する前提です。不況になると、残業を減らすことにより、人員カットはせずに人件費を削減する、つまり、雇用保障と長時間労働がセットになっているのです」(山本氏)

山本さんはさらに社内の過剰なサービスの問題を指摘しています。

・・・山本氏はこのような問題が起こる理由の1つとして、上司や同僚に対する“過剰なサービス”を挙げる。「社内文書にもかかわらずフォントや色を工夫して書類作成をする、丁寧な挨拶文付きで上司にメールを送るといったことが象徴的。これらは、付加価値を生む行為ではありません」。これらの行為がなくならないのは、「それが出世に影響するという実態や思い込みがある」(山本氏)ためであり、評価制度はそうなっていなくても、上司への“サービス”を上司が評価する傾向があることが部下に透けて見えるからであろう。

これと同じ構造が顧客への過剰サービスにあると指摘します。

・・・“過剰なサービス”は、上司や同僚に対してだけではない。「顧客に対しても同様」だと山本氏は指摘する。「“おもてなし”を売りにする日本ですが、海外でも高い料金を支払えば、日本と同等の、あるいはそれ以上のおもてなしを受けることができます。日本でもおもてなしをするのであれば、それを価格に転嫁する必要があるのに、それをやっていない。それこそがデフレの要因であり、生産性が上がらない根本的な理由です」(山本氏)

本ブログで繰り返し指摘してきた「スマイル0円が諸悪の根源」てことですな。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-ce16.html(勤勉にサービスしすぎるから生産性が低いのだよ!日本人は)

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『近江絹糸人権争議オーラル・ヒストリー(3)朝倉克己オーラル・ヒストリー』

梅崎修さんらによる労働史オーラルシリーズの『近江絹糸人権争議オーラル・ヒストリー(3)朝倉克己オーラル・ヒストリー』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

近江絹糸人権争議のオーラルも3冊目ということですが、今回のは争議自体の経過も3分の2ありますが、残りの後半3分の1で語っている後日談みたいなのが面白かったです。

というか実はびっくりしたのは、争議の最中の描写に出てくる前田淳さんという人が、その後東京都立大学から労働省に入ったという話があり、そうだったのか・・・と。

あと、やはり戦後日本の労働運動の最大の眼目が工員と職員の身分差別の撤廃であったことが、当事者の言葉で語られると重いものがあります。

ちなみに、朝倉さん本人による近江絹糸争議に関する著書も2冊あるようです。版元の当該ページにリンクを張っておきます。

9784883254866『近江絹糸「人権争議」はなぜ起きたか 五年間の彦根工場

http://www.sunrise-pub.co.jp/isbn978-4-88325-486-6/

封建主義さながらの労働環境改善と労働者の人権を求め、十代の若者たちがストに突入したその発端は何だったのか? 彦根工場でスト決起のリーダーとして活動、『絹と明察』のモデルでもある著者が、争議に至るまでの極秘活動を、今明らかにする。

9784883255443『近江絹糸「人権争議」の真実』

http://www.sunrise-pub.co.jp/isbn978-4-88325-544-3/

昭和29年6月に起きた近江絹糸労働争議。大阪本社から始まり全国各地の工場へと拡がった争議は前近代的労務管理の改善を要求する人権争議であったため、世界中の注目を集めた。全繊の全面支援を受け、政財界をも巻き込んだ争議の労働者側として、当時彦根工場で新組合支部長として闘った著者が綴る22項目の要求と、106日間に及ぶ争議の実録。争議に至る原因と過当な労働管理を綴った前著『近江絹糸「人権争議」はなぜ起きたか』の続編。

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向井蘭『書式と就業規則はこう使え!』

6e5deff4a344b13a05ca8d2dd16ad0ce169経営側弁護士として有名な向井蘭さんの『書式と就業規則はこう使え!』(労働調査会)をお送りいただきました。

http://www.chosakai.co.jp/publications/19965/

使用者側弁護士として多くの労働紛争に携わった著者が、実務に通用する65の書式例や就業規則例などをもとに、労働紛争防止のポイントを解説。第1部は書式編、第2部は就業規則編、第3部では有期契約労働者の無期転換をテーマに構成。書式等は、付属のCD-ROMか下記URL先でダウンロードが可能です。

というわけで、全編これ様式と就業規則の規定のひな形が並び、それに解説がされているという本です。

就業規則のひな形は少なくありませんが、書式のひな形というのはあまり例がないように思います。

こんなひな形が並んでいます。

第1章 業務委託契約に関する書式
書式1 業務委託契約書(営業)

第2章 採用・契約更新に関する書式
書式2 内定取り消し通知書
書式3 内定取り消し合意書
書式4 雇用契約書
書式5 契約更新(不更新合意)について

第3章 人事異動・出向・転籍に関する書式
書式6 異動命令書(拒否が予想される場合)
書式7 異動理由書
書式8 退去警告書
書式9 出向規程
書式10 出向命令書
書式11 転籍合意書
●書式11-1 転籍合意書  
●書式11-2 三者間の転籍合意書  

第4章 賃金・労働時間に関する書式
書式12 定額残業代制度同意書
書式13 残業申請についての通知書
書式14 残業禁止命令書
書式15 事業場外労働の労働時間の算定に関する労使協定記載例

第5章 メンタルヘルス対応に関する書式
書式16 休職命令書
書式17 復職診断書・主治医の先生方へ
書式18 情報提供依頼書
書式19 生活・睡眠表
書式20 試し出社の同意書
書式21 復職時念書
書式22 休職期間満了通知書
書式23 立替金返済確認書

第6章 懲戒に関する書式
書式24 懲罰委員会議事録
書式25 弁明の機会付与通知書
書式26 懲戒処分通知書
書式27 懲戒処分に関する社内告知
書式28 懲戒処分社内公表文
書式29 業務日報
書式30 解職通知書
書式31 指導書
書式32 業務指示書
書式33 最終警告書

第7章 退職・解雇に関する書式
書式34 退職条件について
書式35 退職勧奨シナリオ
書式36 退職承諾書・添付連絡書
書式37 退職合意書(在職中)
書式38 組合関与型の退職合意書
書式39 退職後の残業代請求に関する合意書
書式40 退職金放棄合意書
書式41 解雇通知書
書式42 解雇理由通知書
書式43 解雇撤回通知書及び出社命令書
書式44 希望退職募集例
書式45 希望退職募集申請書
書式46 退職後の秘密保持及び競業避止義務に関する誓約書
書式47 企業秘密保持規程
書式48 元社員に対する警告書(秘密保持義務違反)

第8章 その他の書式
書式49 育休職場復帰同意書
書式50 労働組合との団体交渉対応で使用する書式
●書式50-1 回答書(団交日程調整・会場未定バージョン)
●書式50-2 回答書(団交日程調整中の連絡)
●書式50-3 会場連絡文書
●書式50-4 回答書
●書式50-5 便宜供与の書式(組合事務所)
●書式50-6 便宜供与の書式(チェックオフ)
●書式50-7 便宜供与の書式(掲示板貸与)
書式51 奨学金・研修費用貸付契約書
書式52 労働基準監督署対応の書式
●書式52-1 回答書(未払い残業代)  
●書式52-2 是正勧告に応じた場合の通知文(残業代清算の際)  
●書式52-3 意見書(管理監督者)  
書式53 従業員代表選出手続き通知

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スパイたちがストライキ、賃上げと労働条件の改善要求

Img_b9d943026ba2ec4f236a02d57b6d26a いや、ヨーロッパに住んでいた時には、警察官の労働組合が街頭でデモするのも見たし、そういう国家権力の暴力装置もまた労働者としての権利を行使するということには、それほど違和感があるわけではないのですが、それにしても、スパイのみなさんがストライキですか・・・。

http://www.afpbb.com/articles/-/3154745

【12月8日 AFP】スロベニア政府は7日、同国の情報機関の職員らが賃上げと労働条件の改善を求め、ストライキに入ったと発表した。こうした事態が発生するのは同国史上初。
 今回のストライキは6日に開始。ただ政府の声明によると、「国の安全保障や他国の利益にとって重要な全ての任務」はストライキ中も遂行されているという。
 また、地元メディアによると情報機関の職員の給与は750~1000ユーロ(約10万~13万円)で、同国の平均給与を下回っている。

いや、やはり、体を張ってスパイ活動している情報機関の職員の給与がその国の平均賃金を下回っているというのはまずいんでないかと思いますが。

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JILPTが任期付研究員を募集中

Hlogo労働政策研究・研修機構は任期付研究員を募集しています。

http://www.jil.go.jp/information/koubo/kenkyuin/2018/index.html

今回の募集分野は労働経済と人材育成・人事労務管理です。労働法はありません。

正直いうと、今のJILPTは経済分野が手薄なので、労働経済学の人は是非欲しいのです。

一昨年、高橋陽子さんと小林徹さんが採用されたのですが、小林さんは1年で高崎経済大学に行ってしまいました。高橋さんは以前私と一緒に個別労働紛争の調査をしてくれましたが、最近ではクラウドワークの調査もやってます。厚労省の柔軟な働き方検討会に出た「雇われない働き方についての調査(ウェブ調査)」は、名前は出てませんが、彼女が担当しました。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11909500-Koyoukankyoukintoukyoku-Soumuka/0000183644.pdf

こういう時々の政策課題に対応した調査研究に関心のある人は、年の瀬のせわしない時期ですが、応募してみてはいかがでしょうか。応募の提出期限は平成30年1月9日(火曜)です。

1.職務内容

常勤の研究員として機構が実施する各種研究プロジェクトに参画し、特定の政策課題に関する調査研究を自ら担当することで、政策的論点の整理や政策的インプリケーションの提示を含む研究成果の提示・発信を行うこと。

機構内の組織横断的プロジェクトや、厚生労働省等からの緊急の要請に基づく調査、国内外の他の政策研究機関等との共同研究や国際会議への参加、フォーラム・セミナーでの研究発表、定期刊行物への原稿執筆、厚生労働省職員に対する研修の講師等、機構の各種事業に参画すること。

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『季刊労働法』冬号は解雇の金銭解決とクラウドワーク

259_hp労働開発研究会のホームページに、今月15日刊行の『季刊労働法』冬号の広告が既にアップされています。

http://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/5575/

これによると、第1特集は「解雇の金銭解決制度をめぐる議論状況」ですね。

解雇の金銭救済制度について―「雇用保障」と「自己決定」の視座を踏まえて― 同志社大学教授 土田道夫

労働者側弁護士から見た解雇の金銭解決制度をめぐる議論 弁護士 徳住堅治

使用者側代理人からみた解雇の金銭解決制度をめぐる議論 弁護士 石井妙子

経済学の観点から見た解雇の金銭解決制度をめぐる議論 慶應義塾大学教授 鶴 光太郎

この4人、いずれも厚労省の検討会の委員でしたが、なるほどこうなるだろうという人選です。

第2特集・・・というよりも集中連載ということで次号以降に続くようですが、今世界的に議論を巻き起こしているクラウドワークが取り上げられています。

「クラウドワークの進展と労働法の課題」の連載開始に際して 法政大学大学院客員教授 毛塚勝利

クラウドワークの労働法学上の検討課題 法政大学大学院客員教授 毛塚勝利

クラウドワークの歴史的位相 早稲田大学名誉教授 石田 眞

ドイツにおけるクラウドソーシングの進展と労働法の課題 中央大学大学院博士後期課程 後藤 究

フランスにおけるクラウドワークの現状と法的課題 茨城大学准教授 鈴木俊晴

この問題にはやや出遅れ感があった日本ですが、ここにきて一気にいろんな人が論じ始めています。

あとは、

■論説■

働き方改革と兼業の法理 北海道大学名誉教授 道幸哲也

労働契約法20条をめぐる解釈基準の可能性 ―日本郵便事件(東京地判平29.9.14労判1164号5頁)を素材として― 明治大学法科大学院教授 野川 忍

近時の裁判例にみるパワーハラスメントの法的意義 弁護士 町田悠生子

ドイツ協約単一法の合憲性 ~連邦憲法裁判所2017年7月11日判決の意義~ 東北大学准教授 桑村裕美子

■アジアの労働法と労働問題 第31回■

1926年インド労働組合法の旧英領地域への伝播 神戸大学・大阪女学院大学名誉教授 香川孝三

■イギリス労働法研究会 第27回■

イギリスにおける職場代表者の時間内活動の制限 島根大学教授 鈴木 隆

■労働法の立法学 第48回■

地域雇用開発の半世紀 労働政策研究・研修機構労働政策研究所長 濱口桂一郎

■判例研究■

同業他社に転職した元従業員に対する退職加算金の返還請求が認められた例 野村証券元従業員事件(東京地判平成28年3月31日判決労判1144号37頁) 東京農業大学講師 山田 哲

視覚障害を有する大学教員に対する職務変更命令の適法性 学校法人原田学園事件(平成29年3月28日岡山地方裁判所,平成28年(ワ)第274号,地位確認等請求事件,一部却下・一部認容・一部棄却,労働判例1163号5頁) 福島大学准教授 長谷川珠子

■キャリア法学への誘い 第11回■

キャリア形成をめぐる労働者の義務 法政大学名誉教授 諏訪康雄

■重要労働判例解説■

労災支給決定処分に対する使用者の原告適格と違法性の承継 医療法人社団X事件(東京地判平成29.1.31労経速2309号3頁) 社労士・駒澤大学非常勤講師 北岡大介

求人票の記載内容に基づく労働契約の成立 福祉事業者A苑事件(京都地判平29.3.30労判1164号44頁) 連合総合生活開発研究所 松井良和

私の労働法の立法学の連載は、今回は地域雇用開発です。ややトリビア気味ですが、あまり知られていないことも書かれています。

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浅山太一『内側から見る 創価学会と公明党』

51s0jckyurl_sx317_bo1204203200_ 浅山太一さんより『内側から見る 創価学会と公明党』(ディスカヴァー携書)をお送りいただきました。ありがとうございます。

とはいえ、なんでhamachanのところにそういう本が送られてきたのか、と不思議に思う方もいるかもしれません。実は、浅山さんは、かつて書店勤務時代に拙著『若者と労働』を強く推薦していただいたこともあり、因縁浅からぬものがあるのです。とはいえ、本書はタイトルからもわかるように、創価学会員である浅山さんが、文字通り「内側から」創価学会と公明党を、というかむしろ、近年の公明党の政治路線に疑問を抱く創価学会員としての率直な批判を連ねた本であり、その用いられる用語にも不案内な私がうかつに批評できる本でもありません。

しかし、本書の第1章は、そうした批判の前提となる戦後創価学会に対する歴史社会学的分析が展開されており、わたくしの雇用システムの議論ともつながるところがあり、本ブログの読者にとっても目を開かれるような議論がなされています。

・・・本来の労働者階級ともいうべき庶民を組織したのは、共産党でも社民党でもなく創価学会であった・・・

つまり日本の社会民主主義の基盤となるべき革新陣営は大企業と公務員という相当に恵まれた労働者しか組織することができず、都市の貧困層は創価学会=公明党に、地方の貧農は自民党型分配システムによってその生活を広くカバーされたというわけだ。現在の自公連立政権の盤石さは推して知るべしといったところだろう。

・・・急速な工業化の中にあって、大量の都市流民や大規模なスラム街も形成されずにある程度の経済的発展と安定を両立しえたのは、農村から流入してきた大量の人々を企業と創価学会という2つの組織が吸収したことが大きい。

ところが、このメカニズムによって創価学会が急成長したのは60年代までであって、

・・・従来創価学会がカバーしていた庶民の生活領域を70年代以降は企業と核家族が覆いつくしたというのが本稿の主張である。

言ってしまえば、創価学会は会社に負けたのだ。裏を返せば、会社こそ戦後最も成功した新興宗教であるとも言えるかもしれない。

いろいろとコメントしたくなる人も多いでしょうが、ここから先はぜひ本書を直接お読みいただき、浅山さんに直接お便りしましょう。

 

 

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鳥飼重和・小島健一 監修『社長のための残業時間規制対策』

182433日経ムックの鳥飼重和・小島健一 監修『社長のための残業時間規制対策』をお送りいただきました。

http://www.nikkeibook.com/book_detail/18243/

これまでの労務管理は通用しない!
「働き方改革」で、対応待ったなし!

政府が強力に進める「働き方改革」の最大の焦点は労働時間規制。残業時間を正確に把握するにはどうすればいいのか? 現状を放置すると何が起きるのか? そして、残業削減のために何をすればいいのか?
企業は今すぐに対策をとる必要があります!

・終業後の出張先への移動、取引先との夜の会食、終業後の上司からのメールへの回答――いずれも労働時間になる可能性があります。
・仕事の持ち帰りなどによる「隠れ残業」が横行しています。経営陣は実態を把握する必要があります。
・未払い残業代が知らぬ間に積み上がっている場合も。放置すると、莫大な額の支払いを強いられる可能性もあります。中小企業の場合、潰れかねません。
・固定残業代は、支払うべき残業代を支払わないですませられるものではありません。固定残業代に、もはやうまみはありません。
・労働時間などの規制が適用されない「管理監督者」の条件は極めて厳しいものです。ここに、未払い残業代と過労死のリスクが隠れています。
・労働時間の上限規制、勤務時間インターバル制度、高度プロフェッショナル制度など、実務に大きな影響を与える法改正の動向を解説します。
・テレワーク、AIの活用など、業務を効率化し、残業時間を減らす対策を解説。インディペンデント・コントラクター(個人業務委託)という働き方も紹介します。

というわけで、時代に乗ったムックですが、読み物として面白かったのが「SPECIAL TALKING」という座談会の部分。一つ目は鳥飼弁護士が元監督官社労士の原論さんと「ブラック企業と呼ばれないために 元最前線労働基準監督官が指摘する、企業がなすべき労働時間改革とは?」という対談。二つ目は鳥飼、小島両弁護士が扇義人、東内一明という元幹部監督官二人との座談会。これが面白い。ちょっと引用すると、

鳥飼 単刀直入に聞きます。そもそもなぜ長時間労働が生まれるのでしょう。

扇 一つには日本の終身雇用制度があると思います。ずっと同じ会社で過ごすので会社に対する忠誠心が強くなり、会社のために残業してでも一生懸命やらないといけないという気持ちが根づきます。一方、終身雇用は解雇しにくいため、従業員をあまり増やさずに仕事をやっていくことになります。・・・

東内 おそらく現場を仕切っている人は、若い頃は労働時間という観念はなかったのではないでしょうか。わたし自身も20代の監督官の頃は厳密な労働時間の算定という面では十分ではありませんでした。・・・・・若い人は多くがパートタイマーを経験していて、このような厳しい時間観念を持っています。逆に指揮監督者は、私がかつてそうであったように、古い労働時間の観念が色濃く残っていて、こういう若い人の時間の観念にいらだち、トラブルの元になっている面があると思います。

三つ目は、編者の両弁護士と向井蘭、村本浩の両弁護士と座談会。「民法改正の労働濟硏時効延長で倒産続出!?」などと脅かしています。

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管理職が職種でない国

Ykdnxrqa_400x400 りっぴぃ@長女3歳さんのつぶやきで、

https://twitter.com/rippy08/status/937950275607830528

ジョブ型社会なら管理職は管理職というジョブである,というのを読んだこともありますが,本当かなあ・・・(うろ覚えですが,濱口桂一郎氏のご本?)。少なくともウチの国の管理職は,会社を追い出されたら終わり,なイメージがあるような。んで,若い人には専門的な知識・経験の方が人気,と。。

26184472_1 はい、私の『日本の雇用と中高年』ですね。うろ覚えでもご記憶いただいていたことがうれしいです。

・・・「管理的職業従事者」とは、「事業経営方針の決定・経営方針に基づく執行計画の樹立・作業の監督・統制など、経営体の全般又は課(課相当を含む)以上の内部組織の経営・管理に従事するもの」と定義されています。これは、専門的・技術的職業従事者や事務従事者、販売従事者等々と、まったく同じ水準で存在する職種概念ですね。
 そして、職業安定法第5条の7に定める適格紹介の原則とは、この職種単位での労働能力に着目した求人と求職者との結合の適格さを求めるものです。私は旋盤操作という「仕事」のできる人です、私は経理事務という「仕事」のできる人です、私は法務という「仕事」のできる人です、というレッテルをぶら下げているのとまったく同じ水準で、私は管理という「仕事」のできる人ですというレッテルをぶら下げているのが管理的職業従事者、つまり管理職のはずなのです。

・社内身分としての管理職

 ところが、日本でそんなことをいえば笑い話になります。おそらく読者もどこかで耳にしたことがあると思いますが、大企業の部長経験者が面接に来て、「あなたは何ができますか?」と聞かれて「部長ならできます」と答えた・・・という小咄です。
 これのどこが笑い話なのか?と欧米人なら聞くでしょう。ビジネススクールを出て管理職として働いてきた人が「部長ならできます」というのは、メディカルスクールを出て医師として働いてきた人が「医者ならできます」というのと、ロースクールを出て弁護士として働いてきた人が「法務ならできます」というのと、本質的に変わりはないはずです。しかし、日本では変わりがあるのです。なぜなら、日本の労働社会では、管理職というのはいかなる意味でも職種ではないからです。
 では日本型雇用システムにおいて管理職とは何なのか?その答えは読者の方が重々ご承知ですよね。少なくとも、上の笑い話をみておかしさがわかった人は知っています。それは、長年平社員として一生懸命働いてきた人にご褒美として与えられる処遇であり、一種の社内身分なのです。だから、その会社を離れた後で、面接で「部長ならできます」というのが笑い話になるわけです。・・・

・・・ こうした管理職に対する感覚をよく示しているのが、ベストセラーコミックの『課長島耕作』シリーズです。企業主義の時代まっただ中の1984年に初芝電器の係長として始まり、長く課長を勤めた後、90年代には部長に昇進、21世紀には取締役、常務、専務、社長を経て、会長になっていくというサラリーマンのサクセスストーリーです。回想編として近年「ヤング島耕作」「ヤング島耕作主任編」「係長島耕作」もあります。法律的には単なる労働者から管理職を経て労働者ではない経営陣に至るまでが一本のキャリアパスとして描かれているところが、いかにも日本型雇用システムを体現しています。日本の「正社員」は管理職でなくても企業のメンバーとしての性格を分け持っており(「社員」!)、平社員から中間管理職、上級管理職に至るまで、連続的に管理職的性格が高まっていくのです。
 こういう感覚を前提とすれば、ヤング島耕作=平社員、ミドル島耕作=管理職、シニア島耕作=経営陣という年齢と社内身分の対応はあまりにも当たり前なのでしょう。3つの「ミドル」が重ね焼きできる感覚の源泉がここにあります。そして、「部長ならできます」が笑い話として消費される理由も。管理職がいかなる意味でも職種ではあり得ない世界です。

 

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『HRmics』28号

1_2 海老原さんちのニッチモの『HRmics』28号をお送りいただきました。今回の特集記事は「本当に、AIによる雇用代替は起きるのか?」。ほんとにいつも旬の話題を見事に取り上げてきますね。

http://www.nitchmo.biz/hrmics_28/_SWF_Window.html

こういう構成ですが、

1章 しっかり振り返ろう、AIの現実
§1.ただいま人工知能は3回目のブーム
§2.「AIで仕事はなくなる」論の研究価値
2章 科学者と実務者をつなぎ、未来を考える
§1. 事務作業の未来
§2.流通サービス業の未来
§3. 営業職の未来
3章 AIディストピア論を冷静に読み解く
§1. 労働経済学者が見たAI論議の実相

第2章に出てくるのは今を時めくAI経済学者の井上智洋さん、第3章には労働経済学者の山本勲さんというラインナップ。この二人は例によってそれぞれ東京と大阪でのHRmicsレビューにも登場するということです。

9784569836355ちなみに、井上智洋さんが最近出した対談本『人工知能は資本主義を終焉させるか 経済的特異点と社会的特異点 』(PHP新書)の対談相手の人の名前がこんな記事に出てきてびっくりです。この本は、「ほんまかいな、ほうかいな」の連続でしたが・・・。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171205/k10011246741000.html

あと、例によってわたくしの連載「原典回帰」は、イギリスにもどって、G.D.H.コールの『労働者 その新しい地位と役割』です。いやあ、今時G.D.H.コールですかという声が聞こえてきそうですが、この本、ほとんど知られていませんが、実はとても面白いんです。

 

 

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乾彰夫・本田由紀・中村高康編『危機のなかの若者たち』

307818 乾彰夫・本田由紀・中村高康編『危機のなかの若者たち 教育とキャリアに関する5年間の追跡調査』(東大出版会)をおおくりいただきました。ありがとうございます。。

http://www.utp.or.jp/book/b307818.html

現代日本に生きる若者たちはどのような問題に直面しているのか.大規模な追跡調査を実施し,学校での経験や就労,家族や地域のありかた,社会意識や人間関係など,さまざまな角度からその現状と課題を浮き彫りにする.若者問題を考えるために基本となる一冊.

これは、2007年から2012年という疾風怒濤の時代に、20歳から25歳の若者たちがどういう学校から仕事への移行の時期を過ごしたのかを追いかけて調査し続けた記録です。

目次は以下の通りですが、

第I部 調査の目的と概要
1章 若者の「移行」をいかにしてとらえるか(中村高康)
2章 若者たちの5年間(乾 彰夫)

第II部 労働
3章 若年労働市場の格差と若者の包摂・統合(佐野正彦)
4章 若者は「働くこと」をどのように経験しているのか(木戸口正宏)
5章 若者の社会的リスクに対する社会保障制度の射程(樋口明彦)

第III部 家族
6章 若者の移行への出身階層の影響(横井敏郎)
7章 若者たちの離家と家族形成(上間陽子・乾彰夫)
8章 ひとり親世帯に育つ若者とその困難(安宅仁人)

第IV部 地域
9章 地域移動と初期キャリア(片山悠樹)
10章 沖縄の若者の移行の特徴と課題(芳澤拓也)

第V部 学校
11章 学校経験と社会的不平等(藤田武志)
12章 大学大衆化時代の学びと生活(児島功和)
13章 学校経験とその後の移行過程(竹石聖子)

第VI部 意識と人間関係
14章 若者の社会観・意識と変容(有海拓巳)
15章 若者の移行の背景・過程とソーシャル・キャピタル(平塚眞樹)
16章 困難な暮らしに直面する若者たち(南出吉祥)

17章 危機のなかの移行(本田由紀)

どれも興味深いものですが、私には第4章の木戸口さんの生々しい記録が胸に刺さるものが大きかったです。

 

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「賃金は上がるもの」という常識

201712_cover_l『月刊連合』12月号をお送りいただきました。特集は「すべての労働者の立場にたって! 春季生活闘争中央討論集会」です。

https://www.jtuc-rengo.or.jp/shuppan/teiki/gekkanrengo/backnumber/new.html

11月1日〜2日、連合は2018春季生活闘争中央討論集会を開催。闘争方針策定に向けた議論のたたき台となる「基本構想」をもとに、2つの分科会と全体会での活発な討議を通して、「賃上げの重要性」を再確認した。2018春季生活闘争方針は、この討議を踏まえ、12月5日の中央委員会で決定される。

その冒頭に、主催者挨拶として、神津会長による「賃金は上がるものという常識を取り戻そう」という演説が載っています。

201712_p23
労働組合としては当然のこととも言えますが、じつはこの「賃金は上がるものという常識」の中身こそが問題だったのではないか、と思うのです。

「賃金が上がる」には、個人レベルとマクロレベルの二つの意味があります。個人レベルでは定期昇給さえあれば確かに賃金は毎年上がります。でも、ベアがない限り、上が出ていって、下が入ってくるという内転を繰り返す限り、(年齢構成一定とすれば)企業レベルの総額人件費は変わりません。そして各企業のネットの賃上げがゼロである限り、それをマクロ社会的に足し上げた社会全体の賃上げもゼロのママです。

先日ニッセイ基礎研究所の斎藤さんという方が、こんなコラムを書かれていましたが、

http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=57205?site=nli(目指すべき賃上げ率は4%)

春闘賃上げ率は、2014年に13年ぶりに2%を上回った後、4年連続で2%台をキープしている。しかし、この場合の2%は定期昇給を含んだもので、労働市場の平均賃金上昇率に直接影響を与えるのは定期昇給を除いたベースアップだ(図1)。

57205_ext_25_2
定期昇給込みの賃上げ率と労働市場全体の賃金上昇率を混同している人が時々いるので、改めて説明すると、個々の労働者に焦点を当てれば、その人の賃金水準は平均的には毎年定期昇給分だけ上がっていく(年功賃金体系の会社の場合)。しかし、毎年高齢者が定年などで退職する一方で、若い人が新たに働き始めるので、労働市場全体でみれば平均年齢は変わらない(厳密には高齢化の分だけ少し上がる)。したがって、マクロベースの賃金上昇率を考える際には、定期昇給分を除いたベースアップを見ることが適切だ。

そう、少なくともマクロ経済的な観点から論ずる限り、意味のある賃上げとは定昇抜きのベアの真水部分なのであって、どんなに定昇を維持しても、個人レベルでは意味があっても、マクロ経済は拡大しないのです。

というようなことは、労働界隈の人々はもちろん分かってはいるのですが、とはいえ、過去10年以上にわたってベアゼロ時代を経験してきたことから、どうしても「賃金は上がるものという常識」の中身が、個人レベルで定期昇給で賃金が上がることに矮小化してしまっていたようにも思われます。

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『生活経済政策』12月号

Img_month生活経済政策研究所の機関誌『生活経済政策』12月号が送られてきました。

http://www.seikatsuken.or.jp/monthly/

明日への視角

  • 「へーんなのっていってやれ」(のん)/住沢博紀

特集 トランプ政権下での労働運動

  • はじめに 萩原久美子
  • アメリカの労働運動とトランプ政権/ケント・ウォン
  • 攻撃にさらされる在宅介護労働者と労働組合 /ジョアナ・プノ・へスター/萩原久美子
  • トランプ政権下でのプライベート・エクィティと労働運動/サミル・ソンティ
  • 社会契約の再構築に向けて/山崎 憲

連載[比較労働運動研究会報告]労使関係と社会保障の国際比較[3]

  • ドイツ企業における高度専門人材の労使関係と人的資源管理/石塚史樹

連載 地域づくりと社会保障[3]

  • 人口減少社会における社会政策と地域/森周子

書評

  • 井手英策、 宇野重規、坂井豊貴、松沢裕作 著
  • 『大人のための社会科-未来を語るために』/佐藤滋
  • 「へーんなのっていってやれ」(のん)

特集の記事はどれも興味深いのですが、実は正直いうと、一番面白かったのは石塚さんのドイツの高度専門人材の話です。

ドイツの労働社会はヨーロッパの中でも、産別協約でかなり細かいところまで決めるジョブ型であることはよく知られていますが、高度専門人材、というかドイツ語でいうライテンデ・アンゲシュテルテについては、むしろメンバーシップ型に近いことがさまざまに描き出されています。

・・・しかしながら、ドイツの大規模な化学企業の人事部は、あらかじめ企業内の各部門の要請に基づき、詳細な採用計画を立てて、大卒化学者、大卒エンジニア、商学士・経営学士、及び法学士その他の高度専門人材、あるいはその候補を新卒でどれくらい採るかを決めています。そして、技術系・事務系を問わず、新入社員教育を施した後に、各部門に配属するやり方を採っています。企業によっては、彼らにトレイニー・プログラムを施し、幅広い企業内実務になじませてから正社員として採用する場合もあります。ですので、企業の中核となる社員については、事実上、新卒一括採用が適用されていると言えます。

それを「新卒一括採用」という日本型システムの用語で呼ぶかどうかがむしろ重要でしょう。おそらく日本におけるその言葉の「一括」という言葉には、ドイツにおけるライテンデ・アンゲシュテルテのような入口からエリートコースの人だけではなく、およそ正社員であればみんな等しく「一括」で採用され、同期生扱いされるというニュアンスがあるのではないかと思います。石塚さんが描くULA(VAA)に属する高度専門人材と、たとえばIG BCEに属する化学産業労働者とが「一括」採用されるわけではないのですから、それを同じ言葉で呼ぶのがどこまで正しいのかは留保が必要な気がします。

最大の違いは「企業の中核となる社員」の概念の違いなのでしょう。石塚さんはこういわれます。

・・・結論として、企業の中核となる社員層については、ドイツ企業と日本企業は、非常に似た方針で雇用管理してきたと言えます。つまり、いわゆるメンバーシップ型の雇用モデルを採用してきました。・・・

おそらくこの言葉それ自体は間違っていないのでしょう。ただ、それをうかつに日本型システムしか頭にない人が、非正規以外の正社員は全て「企業の中核となる社員層」だという認識で読んでしまうと、言葉の上では間違っていないけれども、現実とは乖離した認識が産み出されてしまう可能性があるようにも思われます。

実は、そのすぐ後に、日独で異なる点として、ホワイトカラーエグゼンプションに対する捉え方が対照的だという指摘がされているのですが、

・・・日本では、被用者サイドより、どちらかといえば否定的な捉え方がされている印象がありますが、ドイツの高度専門人材は、これを自立性の高い働き方を実現する枠組として歓迎する傾向が強いようです。・・・

いやだから、それこそ、非正規以外の正社員を全部一括して「企業の中核となる社員」扱いする日本社会において、高度でも専門的でもない正社員たちがホワイトカラーエグゼンプションに積極的になれないのも(とはいえ、彼らもなにがしかマネージャー的性格を分有しているために、一概に否定しきれないのも)当然でしょうし、入ったときから高度で専門的な「企業の中核となる社員」であるドイツの人々がIG BCE組合員などとは異なる扱いを当然と感じるのも不思議ではないように思います。

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