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EUにおける新たな就業形態に対する政策の試み@『労基旬報』2018年1月5日号

『労基旬報』2018年1月5日号に、『EUにおける新たな就業形態に対する政策の試み』を寄稿しました。

 昨年3月に策定された「働き方改革実行計画」には、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」というタイトルの下に、雇用型テレワーク、非雇用型テレワーク、副業・兼業の推進が掲げられています。厚生労働省はこれを受けて、昨年10月3日から「柔軟な働き方に関する検討会」を、10月24日から「雇用類似の働き方に関する検討会」を開催しています。雇用、非雇用の両側にまたがるこうした新たな就業形態について、EUレベルではいくつかの法政策の試みが進められています。本稿では、日本における法政策の参考となりうる近年のEUの動きを紹介していきたいと思います。
 
 まず、2000年6月に「雇用関係の現代化と改善」というテーマでEUレベルの労使団体に対して第1次協議が行われたのが出発点です。ここでは、テレワークと経済的従属労働者(伝統的な被用者の概念にはあてはまらないが、単一の就業源に経済的に従属している労働者)についての政策対応が提起されました。テレワークについては労使双方とも積極的な姿勢を見せ、2001年3月の第2次協議を経て、欧州経団連、欧州労連等は同年9月から交渉に入り、2002年7月にテレワーク協約が締結されました。同協約はテレワークの自発性、雇用条件、データ保護、プライバシー、機材、安全衛生、労働組織、訓練、集団的権利等について規定し、各国の加盟組織によって施行されます。EU指令ではなく労使による自律協約という形をとったEU労働法の第1号でもあります。
 この協約の対象は雇用型テレワークであり、非雇用型、つまり労働者に当たらない就業者については、上記「経済的従属労働者」というカテゴリーで協議されました。具体的には自由職業、商業代理人、ジャーナリストや音楽家を含むフリーランス労働者、デザイン技術者、トラック運転手、建設労働者、コンサルタント、ある種のテレワーカーや家内労働者といった、全面的にまたは主として単一企業のために働く人々が念頭に置かれていました。しかしこれに対しては、欧州経団連が受け入れず、いったん立ち消えとなります。
  2006年11月に欧州委員会は「21世紀の課題に対処するために労働法を現代化する」と題するグリーンペーパーを発出し、従属労働と独立自営業という概念の中間に位置し、労働法と商法の間のグレーゾーンにあるため保護されない経済的従属自営業者について、その行うサービスのための全ての個人的就業契約に一定の最低要件を導入することを示唆しました。しかし、やはり欧州経団連はEUレベルで労働者の定義を統一しようという考え方に強く反発し、自営業の意義を強調するなど、それ以上進みませんでした。ここまでが前史になります。
 その後の約10年間に、世界共通に経済のデジタル化が進行し、新たな就業形態が叢生してきました。この動きにまずは実態調査から対応したものとして、欧州委員会の外郭団体である欧州生活労働条件改善財団(日本のJILPTに相当)が2015年3月に公表した『新たな就業形態』という報告書があります。そこでは従業員シェアリングジョブシェアリング、臨時派遣経営者、カジュアル労働(オンコール労働)、ICTベースのモバイル労働、バウチャーベースの労働、ポートフォリオ労働、クラウド労働、協同労働といった雇用と非雇用にまたがるさまざまな就業形態が詳細に分析されています。これについては本紙2015年4月25日号に「EUの新たな就業形態」として簡単に紹介しました。
 これに基づく新たな法政策が始まったのが2016年です。同年3月、欧州委員会は「欧州社会権基軸」に関する一般協議を始めましたが、それに対する欧州議会の同年12月の決議は、近年拡大しているデジタル・プラットフォームの仲介による仕事や従属的自営業、さらにゼロ時間契約などのオンデマンド労働を念頭に、「あらゆる就業形態におけるディーセントな労働条件に関する枠組指令」を提案するよう求めたのです。
 これを受けて2017年4月、欧州委員会は書面通知指令の改正と「あらゆる就業形態の人々の社会保護へのアクセス」に関して、条約154条に基づく労使団体への第1次協議を開始しました。これらについても、本紙2017年6月25日号 に「EUの新たな労働法政策-多様な就業形態への対応」として簡単に紹介したので、ご記憶の方もいるでしょう。その後さらに、同年9月には前者についての、11月には後者についての第2次協議に進みました。この二つの第2次協議にはそれぞれ200ページ近い膨大な分析文書が添付されており、EUにおける問題状況や対応策について詳しく記述されています。これは日本における今後に議論にも極めて有用だと思われます。以下では、両第2次協議文書で提示されている具体的な政策を概観します。
 
 まず、昨年9月に行われた書面通知指令の改正に関する第2次協議文書です。ここでは、現在は加盟国の法令に委ねられている書面通知指令の適用対象たる「被用者」について、EU共通の定義規定を設け、家内労働者、派遣労働者、オンデマンド労働者、間歇的労働者、バウチャーベースの労働者、プラットフォーム労働者が含まれることを明確化するとしています。そして現行指令で就業期間1か月以下や週労働時間8時間以下の就業関係を加盟国が適用除外できるという規定も削除すべきとしています。
 書面で通知されるべき情報項目に追加すべきものとして、濫用が指摘される試用期間を挙げるとともに、オンデマンド労働者への適用拡大を前提として、あらかじめ定まった労働スケジュールがない場合には、新たな仕事の割当の前に労働者に確保されるべき最低告知期間と、労働スケジュールの決定システムが挙げられています。また、最低支払い保証労働時間があればそれを、なければ支払い対象となる時間の確定基準を通知すべきとしています。その他、訓練機会、最低支払い保証時間を超える追加的労働の程度、適用される社会保障制度、そして契約終了時に適用される国内法に関する包括的な情報も盛り込まれています。
 さらに書面通知指令の枠を超え、あらゆる就業形態に共通の最低労働条件を規定するものに作り替えるという観点で3つの項目が提示されています。まず「労働の予見可能性の権利」として、カジュアル労働やオンデマンド労働において、関係開始前に労働が遂行されるべき参照時間と参照日数に合意すべきことが求められるとともに、最低事前告知期間が必要とされています。カジュアル労働が一定期間を超えて継続した場合、前期の平均労働時間に基づき最低保証時間の権利を得ることや、専属条項はフルタイムの就業関係に限られることも含まれています。次に、一定期間勤続した労働者が別の就業形態に転換を求める権利と使用者の回答義務が提示され、さらに、試用期間の上限も盛り込まれています。
 以上の中で、さりげなく書かれていますが結構重要なインパクトを持っているのが、プラットフォーム労働者を「被用者」に含めていることです。実は、それこそが現在EUに限らず世界共通に大問題になっていることだからです。欧州委員会が2016年6月に公表した『コラボラティブ・エコノミーへの欧州アジェンダ』(COM(2016)356)は、世間でシェアリング・エコノミーと呼ばれているものをあえて「コラボラティブ」(協働的)と呼ぶなど、このビジネスモデルに対して同情的であり、余計な規制をしない方が良いという価値判断がここかしこに感じられるものになっていました。そして、AirBnBのような宿泊サービス、Uberのような運輸サービスの他、労働サービスそのもののプラットフォームについても、それが新たな就業機会を生み出し、これまで働けなかった人々に働く機会を与える面があると評価しつつ、そこでサービスを提供する者が自営就労者なのか雇用労働者なのかという問題にはあえて一定の結論を出さずにいたのです。
 次は昨年11月に行われた「あらゆる就業形態の人々の社会保護へのアクセス」の第2次協議文書です。EU行動として、強制加入方式と任意加入方式がありうるとしています。前者は非標準的労働者や自営業者に明確な社会保護の権利と義務を設定するので、これら就業形態の不安定さを解消し、労働市場のダイナミズムを回復することができるとともに、保険料支払い義務を課すので、社会扶助支出を削減することができるメリットを挙げます。就業形態の違いによる労働コストの差が縮小するので、偽装自営業や過度な非標準雇用の利用を抑制できるのもメリットです。しかし、社会保険料の増大は労働コストの増大、ひいては境界的な労働者にネガティブな影響を与える危険性もあるので、慎重な検討が必要だとしています。後者(任意加入方式)は加入するかしないかを本人の選択に委ねるもので、意識啓発、金銭的インセンティブ等によって促進され、自営業や非標準的雇用の多様性に対応することができます。しかし人々は不幸な事態の起こる可能性を低く見積もる傾向があるので、任意加入制度はあまり使われないのが実情です。
 適用の実効性に関しては、保険料や受給資格要件の変更が鍵になると分析しています。具体的には、①既存制度を拡大するのか新たな制度を創設するのか、②使用者と労働者の保険料徴収の仕組みと税制上のインセンティブ(ディスインセンティブの除去)、③用いられる制度のタイプと組合せ(公的、職域、私的)、④各制度の加入資格、要件、算定規則を示しています。
 移転可能性については、就労初日から社会保険が適用されて保険料支払いと受給資格が得られ、契約類型が変わったり、自営業へまたは自営業から移動しても権利が保持されることにより、よりダイナミックで活動的な労働市場が促進されると述べます。
 ではどういうEU行動が考えられるのかについては、3つの選択肢を提示しています。もっとも穏和なのは非法制的手段で、21世紀初頭から行われてきた社会保護に関する開かれた協調手法により、毎年の経済・雇用政策勧告を通じて徐々に遂行していこうというものです。中くらいの案が理事会勧告という手法で、各国の社会保障制度の設計について共通の要素を取り入れるよう加盟国に求めていくものです。これは拘束力はありませんが、各国が社会保障制度を設計していく上での一定の効果は見込めます。もっとも強い手段は指令です。この場合、労働者については153条2項、自営業者については352条と、条約上の立法根拠が異なることになりますが、各国に達成されるべき結果について拘束力を有することになります。
 今後の展開が注目されるところです。

 

 

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