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2017年12月 1日 (金)

『生活経済政策』12月号

Img_month生活経済政策研究所の機関誌『生活経済政策』12月号が送られてきました。

http://www.seikatsuken.or.jp/monthly/

明日への視角

  • 「へーんなのっていってやれ」(のん)/住沢博紀

特集 トランプ政権下での労働運動

  • はじめに 萩原久美子
  • アメリカの労働運動とトランプ政権/ケント・ウォン
  • 攻撃にさらされる在宅介護労働者と労働組合 /ジョアナ・プノ・へスター/萩原久美子
  • トランプ政権下でのプライベート・エクィティと労働運動/サミル・ソンティ
  • 社会契約の再構築に向けて/山崎 憲

連載[比較労働運動研究会報告]労使関係と社会保障の国際比較[3]

  • ドイツ企業における高度専門人材の労使関係と人的資源管理/石塚史樹

連載 地域づくりと社会保障[3]

  • 人口減少社会における社会政策と地域/森周子

書評

  • 井手英策、 宇野重規、坂井豊貴、松沢裕作 著
  • 『大人のための社会科-未来を語るために』/佐藤滋
  • 「へーんなのっていってやれ」(のん)

特集の記事はどれも興味深いのですが、実は正直いうと、一番面白かったのは石塚さんのドイツの高度専門人材の話です。

ドイツの労働社会はヨーロッパの中でも、産別協約でかなり細かいところまで決めるジョブ型であることはよく知られていますが、高度専門人材、というかドイツ語でいうライテンデ・アンゲシュテルテについては、むしろメンバーシップ型に近いことがさまざまに描き出されています。

・・・しかしながら、ドイツの大規模な化学企業の人事部は、あらかじめ企業内の各部門の要請に基づき、詳細な採用計画を立てて、大卒化学者、大卒エンジニア、商学士・経営学士、及び法学士その他の高度専門人材、あるいはその候補を新卒でどれくらい採るかを決めています。そして、技術系・事務系を問わず、新入社員教育を施した後に、各部門に配属するやり方を採っています。企業によっては、彼らにトレイニー・プログラムを施し、幅広い企業内実務になじませてから正社員として採用する場合もあります。ですので、企業の中核となる社員については、事実上、新卒一括採用が適用されていると言えます。

それを「新卒一括採用」という日本型システムの用語で呼ぶかどうかがむしろ重要でしょう。おそらく日本におけるその言葉の「一括」という言葉には、ドイツにおけるライテンデ・アンゲシュテルテのような入口からエリートコースの人だけではなく、およそ正社員であればみんな等しく「一括」で採用され、同期生扱いされるというニュアンスがあるのではないかと思います。石塚さんが描くULA(VAA)に属する高度専門人材と、たとえばIG BCEに属する化学産業労働者とが「一括」採用されるわけではないのですから、それを同じ言葉で呼ぶのがどこまで正しいのかは留保が必要な気がします。

最大の違いは「企業の中核となる社員」の概念の違いなのでしょう。石塚さんはこういわれます。

・・・結論として、企業の中核となる社員層については、ドイツ企業と日本企業は、非常に似た方針で雇用管理してきたと言えます。つまり、いわゆるメンバーシップ型の雇用モデルを採用してきました。・・・

おそらくこの言葉それ自体は間違っていないのでしょう。ただ、それをうかつに日本型システムしか頭にない人が、非正規以外の正社員は全て「企業の中核となる社員層」だという認識で読んでしまうと、言葉の上では間違っていないけれども、現実とは乖離した認識が産み出されてしまう可能性があるようにも思われます。

実は、そのすぐ後に、日独で異なる点として、ホワイトカラーエグゼンプションに対する捉え方が対照的だという指摘がされているのですが、

・・・日本では、被用者サイドより、どちらかといえば否定的な捉え方がされている印象がありますが、ドイツの高度専門人材は、これを自立性の高い働き方を実現する枠組として歓迎する傾向が強いようです。・・・

いやだから、それこそ、非正規以外の正社員を全部一括して「企業の中核となる社員」扱いする日本社会において、高度でも専門的でもない正社員たちがホワイトカラーエグゼンプションに積極的になれないのも(とはいえ、彼らもなにがしかマネージャー的性格を分有しているために、一概に否定しきれないのも)当然でしょうし、入ったときから高度で専門的な「企業の中核となる社員」であるドイツの人々がIG BCE組合員などとは異なる扱いを当然と感じるのも不思議ではないように思います。

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コメント

原文テキストを読まずに、以下コメントを入れる無礼を最初にお断りしつつ…。

今から十五年前、世は「成果主義」真っ盛りの時勢…。当時自分はシンクタンク研究員として、同僚と共に欧州主要企業を訪問し、各社の「人事制度」をリサーチするという出張を経験しました。そこで一番印象に残っているのが、ドイツのシュトットガルトに本社をもつ世界的自動車部品メーカーの本社を訪れた時のことです。まさに「樹海」と呼ぶしかない、その360度視界全てが緑の絨毯に覆われた低層本社ビルの角部屋で、先方の人事部長と人事マネジャーと日独企業の人事制度について(拙い英語で何とか)ディスカッションしたのです。

もちろん、当時はまだメンバーシップ型とジョブ型という日本企業の雇用システムの特殊性を表現しうる概念フレームは全く知りません(そこに意識を向けることが出来ません)でしたので、ミーティングの議論では日独に「共通する点」(例えば、技術者の長期勤続傾向や社内キャリアパスの充実、コンピテンシーと目標達成度評価という二軸での業績評価、10-12等級のグレード制度など)ばかりに関心が向かい、同じ人事屋同志でマニアックな話の花が咲いたことを覚えています。実際、お互いの友好関係を築くためにも、相違点より共通点を話した方が気持ちいいですからね。

さて、でももし、今から同じ目的でリサーチ出張が許されるのであれば、どんな準備の上でどんな質問をしうるか?という面に思いを馳せてみると、きっと以下のような質問票となるかと…

◉ 会社都合のジョブローテーション(いわゆる人事異動)の有無あるいはその程度や頻度(ジョブ型であれば限りなくゼロ)

◉ジョブポスティングの運用実態。すなわち、自分の意思で社内キャリアパスを動いていく人の割合(メンバーシップ型であれば限りなくゼロ)

◉サラリーが職務グレードに連動するのか、あるいは個々のジョブタイトルに連動するのか(後者が純粋なジョブ型)

◉マネジャー人材の社内人材登用率(メンバーシップ型は高く、ジョブ型は低い)や女性マネジャー比率(多様性の確認)

◉離職率水準とその内訳(自己都合と会社都合の比率) 等々

ということで、日本企業のメンバーシップ型という特徴をしっかりと理解できていれば、すなわち自分自身のアサンプションにより自覚的であったならば、発する質問内容も関心も自ずと違ってきますし、お互いの(無邪気な)誤解も減ってくるのでしょうね。

投稿: ある外資系人事マン | 2017年12月 1日 (金) 21時41分

> 企業の中核となる社員については、事実上、新卒一括採用が適用されている

日本でも医師はジョブ型で雇用されています、というようなものですかね。

海老原先生によると、欧米企業のエリート採用というのは、多国籍展開している大企業でも年間 20 名程度の募集とのこと。日本の大企業は年間千人単位で「正社員」を採用しますから、規模が全く違いますね。

投稿: IG | 2017年12月 1日 (金) 22時01分

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