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2017年11月18日 (土)

ジョブ型社会のHR学部

Murata リクルートのワークス研究所のコラムに、村田弘美さんが「人事のプロを養成する「HR学部」が無い日本の高等教育~欧米ではどのように“人事”を育成するのか~」というエッセイを書かれているのですが、

http://www.works-i.com/column/works03/murata02/

欧米の人事部で働く人たち、HR関連の専門職に就く人たち。ジョブ型の国ではどのような専門教育を受けているのだろうか。日本の人事とは何が違うのだろうか。・・・

欧米では、人事関連職を養成するための「HR関連学部」「HR専攻」や「ビジネス学部」があり、仕事に必要な基礎知識、例えば、会社組織、労働法、コンプライアンス、労働経済、労使関係、人材採用、リーダーシップ、メンタルヘルスなどを学ぶ(図表1)。

・・・また「HR関連学部」のインターンシップでは、例えば低学年時、高学年時に、企業の人事部や職業キャリアに関連する企業などで、実務経験を積む。欧米ではインターンシップが卒業後の就職先に直結することが多いためで各校とも力を入れている。例えば、サンディエゴ大学では3年時、4年時に自分の興味のある企業に勤める登録メンターに1日8時間付いて、職場見学やジョブ・シャドウイング、会議への参加、就業のサポートなどを行っている。

・・・例えば、米国の高等教育機関でHRマネジメントの学位(学士号)を提供する大学は290校、大学院は修士コースで153校、博士コースは25校と多い(2017年)(図表2)。

いや、それこそがまさにジョブ型社会というものであり、「HRできる人はいますか?」というのが求人というものであり、「はい、わたしはHRの訓練を受け、資格を持っています」というのが求職というものであるという、ジョブ型社会の常識通りの姿になっているというだけのことなわけです。

メンバーシップ型社会の日本では、人事労務といえどもまったく同様にメンバーシップ型の枠組みの中にあるので、入社するまでは(法学部や経済学部で断片的にかじったりはしても)総合的には訓練を受けることはなかったことを、入社後に上司や先輩にたたかれながらOJTで必死に習い覚えて身に着けていくので、HR学部や学科などというものはほとんど存在しなくてもいいわけです。

なので、村田さんがいくら

・・・ただ、多くの企業には人事関連の仕事があり、欧米の「HR学部」ようにHRやビジネスの「学びの場」と企業の「現場」とが密接に関係しているものは非常に少ない。日本的雇用慣行の中では、採用後に人事ローテーションをしながら経験する職業の1つという位置づけでは専門教育はあまり必要とされないのかもしれない。しかし、卒業後、「新卒者」としての職業能力の差は明らかに異なる。長い100年人生のうちの数年のことかもしれない。しかし、どの国が人的資源の豊かな国であるか、職業プロフェッショナルという観点でみると、「人事」という職業では他国に遅れをとっているように感じている。

と訴えても、肝心の企業の人事当局が自分たちの仕事を受け継ぐべき若者の養成を得体のしれない大学のHR学部なんかに任せようなどと思う可能性は絶無に近いということになるわけですね。

 

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コメント

日本の高等教育(大学と大学院)で言うとことろの「商学部」とは、かなり古い名称ですね。大学で実際に教えられているカリキュラムを見る限り、正確には「経営学部」「マネジメント学部」の方が実態にあった名称です。(参考〜早慶や一橋はいまだ商学部ですが、上智や青山や立教は経営学部です)

また、有名なMBAとはMaster of Business Administration 、これを正確に訳せば「経営(管理部門)学修士」、この学部版がBachelor of Business であり日本語でいえば「経営学士」です。ビジネス(商売)やマネジメントのABC を大学で体系的に学ぶわけです。

何が言いたかったかというと、日本でも経済学部や商学部をもつ文系大学であれば、おそらくどこでもHRM(「人的資源管理」という奇妙な逐語訳が大学内では流通してますね)や社会心理学や産業心理学(欧米ではOB、組織行動学と呼ばれる)マネジメント関連の科目あるいは古くからの労使関係論といった人事労務関連の科目そのものは、種類は豊富でなくとも古くから存在しています。日本にないわけではありません。

しかるに、それがアメリカの大学のように経営学部内の一専攻として人事学科(HR major)と呼べるほどの広がりが持てない理由は、たんに日本の経営学(商学部)内に人事労務や人材開発の各専門領域をカバーしうるナレッジがない(教えられる教授や講師が絶対的に少ない)からというよりも、むしろ「メンバーシップ型」の日本企業の人事労務管理のイロハやノウハウは大学というアカデミックな環境で教えるに値しない(学問と呼べるものではない)、単なる実務上の習慣やテクニックのようなものに過ぎないと(大人社会から)達観されているからではないかとさえ思うのです。

日本のメンバーシップ型人事のキモは(かつては称賛された三種の神器ではなく)新卒集団採用と会社主導の人事異動(と定年退職)です。今後もこのシステムが日本企業を駆動させるOSであり続ける限りアカデミズムの俎上には乗らないでしょうね。

思うに、やはりグローバル型(ジョブ型)人事のキモ はエドワードラジアー氏が言うところの人事経済学(Personnel Economics。組織内及び外部労働「市場」メカニズムの均衡や競争原理をベースとする経済学的なアプローチ)であり、あるいはDavid UlrichのいうHR ChampionやHR Business Partner(従業員代表としての人事、ビジネスパートナーとしての人事)でありましょう。

その意味で、とても残念ですが、わが日本企業のメンバーシップ型人事システムは、ついここ最近Hamachan先生の功績によって「発見」されたばかりであり、日本の大学の経営学部で人事専攻としてアカデミックに学問を身につけるような対象とはなりえません。

門外漢の私がご迷惑でしょうがすみません。
申し訳ありませんがこの外資の方のコメントに託されておられるであろうインプリケーションがいつも不可解です?
外資も日本の制約により存在しているはずですので、そちらが比較級で日本企業よりバラ色であればドン詰まりの政権へ提言なされたらと・・・。
文体や語彙によりある時より時間を経て読んでいれば・・・ああ・・・。

本ブログを私的に努力せず労働セクターの史を学べるツールとして活用させていただいておりますし、時として紹介後の説に反撥を禁じ得ないものもありますが、その分野にてはご高説を参考にさせていただいております。

大変分かりづらい内容で申し訳ないです。

別に(職業レリバントな)HRのみならずファイナンスやアカウンティングやマーケティングなどのビジネス学科が専攻できるので海外大学の学部教育は素晴らしい!といっている訳ではないですし、さりとて、日本の大学ではメンバーシップ型のコア機関推進機能たる人事部門のリアルな専門性を学びうる人事学科専攻が出来ないから日本の文系学部教育はそれゆえダメだ!と言っているわけでもありません。

多くの日本の大学で人事分野の専攻(引用記事のいう人事学部)が成立しない理由を、われわれビジネスマンや大人社会の「本音」から(あるいはそのニーズのなさから、あるいは「学問」としての体裁の少なさから)解きほぐそうとしただけですよ。

私自身は(おそらく誤解されていると思いますので付言するのですが)、Hamachan先生がよく強調される日本の大学教育の「職業レリバンス」なるものに、とりわけ文系学部教育の変革の必要性については、実はあまり期待をしていません。もっともエンジニアや医療系職務に直結する理工/医学部に関しては、大学院を含む6年間で各専門分野における基礎をしっかりと身につけてから社会に出るのが不可欠だと考えますが、こと文系の「学部」教育については法学や経済学など実利的分野の専攻よりもむしろ文学や哲学や人類学などのいわゆるリベラルアーツの方が大切だと思っているくらいです(〜おそらくこの感覚は経団連的なる日本企業のエスタブリッシュメントの経営者や保守的な中高年ビジネスマンらと一致するものかと…)

これまでも折にふれて指摘してきましたが、現行の日本のメンバーシップ型雇用システムの最大の特徴でもあり利点とは(もちろん景気の影響を受けるとはいえ)大学や高校を卒業したまさにそのタイミングで途切れなく(会社の好き嫌いや正規/非正規の問題は残りますが)若者同世代の「ほぼ全員が職業レリバントなスキルなしに何らかの職業につける」という点です。これは、特に欧州で高止まりしている若年卒業率を見ればわかる通り、メンバーシップ型日本企業が世界に対して大いに誇れる素晴らしい点ではありませんか。

会社に入るまでは、特に若い内は、きっとそれでいいのです。ただ、メンバーシップ型の問題はそこから先…中高年になってから(組織の中で次の仕事を自分で選べない中で)どうやって専門性を高めて自分らしい納得のいくキャリアを築いていけるかという点なのです。

どちらかのシステムが明らかにバラ色だということではなく、それぞれのシステムに固有の長所もあれば泣き所もありましょう。

その点、ジョブ型社会(すなわち日韓以外の世界各国)の前提は、一人ひとりの「個人」が自分自身のさらなる「成長」を求めて主体的にキャリアを作っていく(そのためには転職も辞さない)というもの(一種の心理学モデル)です。それを導入しようにも、その前提が何らかの経済的、社会政策的あるいは固有の文化的な要因で成立しなければ、うまく機能しません。

わざわざありがとうございました。
そうですよね!と申し上げるだけです。

特に個人に還元される場合の「主体」という概念もなかなか悩ましいものですね。
各個人が社会での存在が先天的にも後天的にも社会的に許容範囲内に近いものであれば主体の概念使用はそう問題にもならないのでしょうが、そうもまいりませんので、その帰着として選挙でも各勢力が申し合わせたように「人」への配慮を公約として還元したのだろうと思います。
主体の概念を各自の人生へ相当程度還元してしまうことは、少なくとも現状は未だというより、未来も部分的に条件が成立する以外はなかなか近似すら到らずではと思っております。

はじめまして。いつも弊所研究員がお世話になっております。弊所コラムをご拝読、さらに書評をいただいたと聞き、拝見いたしました。講評いただきありがとうございました。
もう25年くらい前ですが、自分には雇用労働分野の基礎がないので、御機構とJIRRAの東京労働大学講座を受講しました。当時、佐野先生、樋口先生、清家先生、今野先生、佐藤先生、諏訪先生、古郡先生などから学際的に各分野についてご講義いただいた学びの場はとても貴重で、このようなコラムを書く思いにつながりました。
またHR学部への取材調査や卒業生の意見も参考にさせていただきました。
私には前出の労働大学講座の経験が後々の仕事に役立ったので、周囲にも受講を勧めていたのですが、皆様のご意見を拝見すると少し見方、考え方を変えなくてはいけないですね。ありがとうございました。
他にコメントをいただいた方々にも改めてお礼申し上げます。

エッセイを書かれた村田弘美さんご本人が降臨されました。わざわざこんな辺鄙なブログにいらしていただきありがとうございます。

まさにその東京労働大学講座こそが、HR学部で講義されるであろう中身を約30回の講義にぎゅっと圧縮したものになっているわけですが、それこそ会社や組織に入ってからその必要性を痛感して、業務の合間を縫いながら皆さん真剣に受講するということになるわけです。

残念ながら、東京労働大学講座を受講したので、人事の仕事に就きたいと求職するという仕組みにはならないのですね。

そんな有能な部下は煙たい存在でしょうしね。

このテーマで小職が伝えたかったことにはまだ続きがありまして…。

思うに、しっかりとしたグローバル(ジョブ型)の人事理論や制度、世界各国で通用するHRM実務の考え方(まさに欧米や世界各国の経営学部でHR major として学べる内容)は、やはり日本においても体系的かつ本格的に学習出来る環境が「どこか」にあるに越したことはありません。それは、グローバル日本企業の円滑な海外オペレーションのためにも、あるいは本体ご自身の(近い)将来のためにも…。

もっとも、議論のスコープを二十歳前後の「若者」を対象とした学部教育と限定する場合には、現行日本における文系大学教育の職業「無」関連性やこだわりのなさ(汎用性や柔軟性の高さとも言えますね)という特徴は、日本企業のメンバーシップ型の新卒一括採用習慣と運用実態とも「適合性」がありそれはそれで(今後の「デジタル柔軟性」の複雑な潮流も勘案すれば)今のところはさしていじらなくてよいでしょうと述べた訳ですが、一方で(これも前述の通り)多くのビジネスパーソンにとっては会社に入ってからの実務経験やOJTという「ありのままの現実」だけでは、そうでなくても課題大国のわが国で安心してキャリアの中盤以降を乗り越えていけるとも思えません。

その意味で、会社の仕事をしながらいわゆる社会人大学院へ通うこと、とりわけマネジャーを目指す人はビジネススクール(経営大学院)で、本格的なジョブ型のHRMを含むマネジメント全般をしっかりと学ぶことが肝要でしょうし、実際に今世紀に入って以降、そのような環境はすでに整ってきてますね。

ところで、「ジョブ型の人事管理」にご興味のある方は、相応の時間と労力と根気さえあれば(わざわざビジネススクールに通わずとも)英文テキストを自分で購入し、辞書を片手に独学でじっくり読み込んでみるという手もありでしょう。

たまたまですが、コラム内で村田さんが紹介されている米国大学リストにあるフロリダ国際大のゲリードレスラー教授が執筆したHRMの教科書(700頁超)をネットで今春購入し、折を見てパラパラと目を通していました。

せっかくですので、以下、そのテキストの目次を紹介します。ご興味のある方はHRMの「雰囲気」だけでも味わって頂ければ嬉しいですね。

人事労務または人材開発分野の「関係者」の方であれば、一般的な日本の同テキストとの類似点や相違点を探してみられるのも一興かと思います〜実は、テキストの目次レベルではあまり大きな違いがないこともお分かり頂けるかと…(明らかな違いは第4章の職務分析くらいです)。なお、日本語訳の稚拙さはご勘弁願います。

注)タレントマネジメントとは、人材マネジメント(HRM)の今風の言い方でしょうね。

パート1 イントロダクション

1 introduction to Human resource Management
人材マネジメント(HRM)の紹介

2 equal opportunity and the law
雇用均等関連法

3 Human resource Management strategy and analysis
人材マネジメント戦略と分析

パート2 採用と配置、タレントマネジメント

4 Job analysis and the talent Management Process
職務分析と人材マネジメントのプロセス

5 Personnel Planning and recruiting
要員計画と採用

6 employee testing and selection
適性検査と採用選考

7 interviewing Candidates
候補者面接

パート3 トレーニングと育成

8 training and developing employees
トレーニングと社員育成

9 Performance Management and appraisal
パフォーマンスマネジメントと業績評価

10 Managing Careers and retention
キャリアと人材確保

パート4 報酬/賃金

11 establishing strategic Pay Plans
戦略的賃金制度の確立

12 Pay for Performance and Financial incentives
ペイフォーパフォーマンスとインセンティブ

13 Benefits and services
退職金と福利厚生施策

パート5 HRM最新トピック

14 Building Positive employee relations
ポジティブな従業員関係の構築

15 labor relations and Collective Bargaining
労使関係と団体交渉

16 safety, Health, and risk Management
健康安全とリスクマネジメント

17 Managing global Human resources
グローバル人材マネジメント

18 Managing Human resources in small and entrepreneurial Firms
小規模およびスタートアップ企業の人材マネジメント

Human Resource Management
Gary Dessler
Florida International University
2017

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