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2017年11月 8日 (水)

平成29年度労働関係図書優秀賞・労働関係論文優秀賞

平成29年度の労働関係図書優秀賞・労働関係論文優秀賞が発表されました。

http://www.jil.go.jp/award/bn/2017/index.html

図書部門は、桑村裕美子さんの『労働者保護法の基礎と構造―法規制の柔軟化を契機とした日独仏比較法研究』、首藤若菜さんの『グローバル化のなかの労使関係―自動車産業の国際的再編への戦略』、そして、鶴光太郎さんの『人材覚醒経済』の3冊、論文部門は川上淳之さんの「誰が副業を持っているのか?─インターネット調査を用いた副業保有の実証分析」です。

鶴さんのは、先日第60回日経・経済図書文化賞受賞で紹介したばかりですが、煩を厭わず、図書3冊について本ブログで紹介したエントリを再掲しておきましょう。

まず労働法部門の桑村裕美子さんですが、下にも書いたように、『法学協会雑誌』に連載されたのは9年前の2008年で、それからさらに推敲を重ねて、まことに重厚な研究書に仕上がっています。桑村さんは今や歴史的存在となった東大法学部の学士助手の最終世代で、ちょうど私が東大に客員教授としてお邪魔していた頃、ピチピチの研究者の卵でした。当時はとりわけ女性の労働・社会保障法研究者の若手がいっぱい集まっていて、大変熱っぽい雰囲気でしたなあ。

てなことはともかく、

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L14490 桑村裕美子さんから『労働者保護法の基礎と構造-- 法規制の柔軟化を契機とした日独仏比較法研究』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641144903

本書、タイトルがだいぶ変わっているのですが、学士助手であった桑村さんの助手論文「労働条件決定における国家と労使の役割」(『法学協会雑誌』に2008年に連載されたもの)の改稿決定版です。

この間、ドイツでもフランスでも、そして言うまでもなく日本でもめまぐるしいほどの労働法改正が続けざまに行われ、元論文は原形をとどめないまでに改稿されています。

近年では,あらゆる労働関係に一律に適用される強行規定ではなく労使合意による例外設定(逸脱)が可能な法規定が増えている。本書はそうした規制手法の有用性と限界を検討し,国家・集団・個人が労働者保護の実現においてどのように関わるのが適切かを論じることで,労働者保護法のあるべき姿を模索する。

第1編 問題の所在
 第1章 労働法の特徴と問題点
 第2章 国家規制と労使合意の関係
 第3章 学説の議論
 第4章 法規制からの逸脱と労働者の同意
 第5章 本書の検討内容
第2編 ドイツ
 序 章 ドイツ労働法の沿革と本編の構成
 第1章 伝統的労働協約制度と国家規制
 第2章 労働組合をめぐる変容と労働法体系への影響
 第3章 事業所委員会制度と国家規制
 第4章 ドイツ法の分析
第3編 フランス
 序 章 フランス労働法の沿革と本編の構成
 第1章 団体交渉・労働協約制度の概要
 第2章 法規制の柔軟化と労働協約
 第3章 法規制の柔軟化に付随する改革
 第4章 フランス労働法の変容と評価
 第5章 法規制の柔軟化と個別契約
 第6章 フランス法の分析
第4編 総 括
 第1章 ドイツ・フランスの比較
 第2章 日本法の分析
 第3章 結論と展望

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次に、労使関係論部門からは首藤若菜さん。国際労使関係という未開拓の沃野に切り込んだ意欲作です。

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28276057_1首藤若菜さんの力作『グローバル化のなかの労使関係 自動車産業の国際的再編への戦略』(ミネルヴァ書房)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.minervashobo.co.jp/book/b278704.html

国際的な労働規制の可能性を検証する これまで一国内で機能してきた労使関係は、いかにして国境を超えていくのか。

世界中に生産工場と開発拠点を持つ大手自動車メーカー。各社は、本国以外の国や地域でいかなる労使関係を築いてきたのだろうか。海外工場で発生した労使紛争に、本社の労使は、どう対応しているのか。本書は、インタビュー調査をもとに、フォルクスワーゲンやダイムラーなどの巨大な多国籍企業で進む国際的な労使関係の実態に迫る。伝統的に強力な労働組合が存在する自動車産業を対象に、グローバル労使関係の可能性を探る一冊。

首藤さんのこれまでの研究とはがらりとおもむきを変えて、国際労使関係という実に難しいテーマに真っ正面から取り組んだ力作です。第1章の補論以外は全て書き下ろしということで、どこをとっても恐らく誰にとっても初めて目にする論考です。

序章 国境を越えた労使関係の構築
第1章 グローバル化と労働をめぐる議論
第2章 国際労働基準の到達点
第3章 多国籍企業とグローバル・ユニオンの国際協定
第4章 欧州で広がるグローバル・ネットワーク
第5章 日系労組の国際活動の実態
第6章 国際的労使関係の状況
終章 グローバル労使関係への道筋

本書の一番読みどころはもちろん首藤さんがじかに調査された日系企業の活動を描いた第5章ですが、本書全体としては私がEUの労働法制、労使関係の動きをフォローしてきた中身と絡み合っています。

Eulabourlawとりわけ、ヨーロッパで進む多国籍企業との国際協定の動向は、先日刊行した『EUの労働法政策』でも、その立法化の動きを跡づける形で簡単にまとめておいたところですが、本書ではその基盤となる労働組合運動の動きが細かく追いかけられており、読みながら大変興味深かったです。

本書が第6章で指摘している、労使関係は国際化すればするほど企業別化していくというのは、とりわけ一国レベルでは企業を超えた産業別の労使関係による規範設定システムが確立しているヨーロッパ諸国にとって、アイロニカルな側面があります。

企業別化するというのは、巨大な多国籍企業から子会社、下請企業へとトリクルダウン的なルールになっていくということです。

グローバル化に対応して規制を拡げようとすればむしろ企業別化という分権化を進めることになるという逆説。まあ、国内で既に十分すぎるくらい企業別化、分権化している日本とはちょっと文脈が違いますが。

上記拙著の第2章第6節の最後に出てくる欧州労連の多国籍企業協約立法案などには、そのあたりがよく表れているように思います。

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ということで、3人中2人が女性という女性優位の中で(?)、男性陣として気を吐いているのが(んなことない)先日日経経済図書文化賞も受賞された鶴光太郎さんです。

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357023鶴光太郎さんから新著『人材覚醒経済』(日本経済新聞出版社)をお送りいただきました。

http://www.nikkeibook.com/book_detail/35702/

「一億総活躍社会」は政権の人気取り政策ではないかと考える人々も多いかもしれないが、人口減対応・人材強化が日本経済の次なる成長にとって欠かせない条件だ。だが、アベノミクス第2ステージには旧目標と新目標が入り乱れ、混沌の様相を呈している。こうした状況を脱するには「一億総活躍社会」を目指して新3本の矢を束ねる横軸が必要だ。それは「ひと」にまつわる改革。眠れる人材を覚醒させる、教育を含む広い意味での人材改革と働き方改革だ。
本書は、働き方改革の根本は多様な働き方の実現ととらえ、そのためにどのような改革が必要か、どのような社会が生まれるのかを明らかにするもの。

第2次安倍内閣成立後、規制改革会議雇用ワーキンググループの座長として広汎な雇用制度改革の議論をリードしてこられた鶴さんが、その立場から外れて一息入れて思いを書き下ろした本というところでしょうか。

オビに書かれている文句が、鶴さんの思いを結構ストレートに表現していて、左側にでかく「働き方だけで日本は変われる」とありますし、真ん中あたりに小さい字で

「成長のアキレス腱となった無限定正社員システム。

その問題点を解決できるのはジョブ型正社員だけだ。

実力派経済学者が労働改革の具体策を提示。」

という3行が。

この文句からも分かるように、この本は

「元兇は日本の無限定正社員システム」

という原認識から、ジョブ型正社員への移行によって女性、労働時間、高齢者、若者、非正規、等々あらゆる雇用問題を解決に導こうとする意欲的な本になっています。

序 章 人材覚醒――アベノミクス第三ステージからの出発

第1章 問題の根源――無限定正社員システム

第2章 人材が覚醒する雇用システム

第3章 女性の活躍を阻む2つの壁

第4章 聖域なき労働時間改革――健康確保と働き方の柔軟化の両立

第5章 格差固定打破――多様な雇用形態と均衡処遇の実現

第6章 「入口」と「出口」の整備――よりよいマッチングを実現する

第7章 性格スキルの向上--職業人生成功の決め手

第8章 働き方の革新を生み出す公的インフラの整備

終 章 2050年働き方未来図――新たな機械化・人口知能の衝撃を超えて

というところからも窺えるように、その基本認識や政策方向において、私が過去数年来書いたり喋ったりしてきたことと、(若干の違いはあるものの)ほぼ同じスタンスに立っているといってよいように思われます。

実際、本書を読んでいくと、かなりの頻度で私の著書への言及があり、どのあたりで両者の認識がつながっているかが分かるでしょう。

もちろん、法律方面から攻める私と違い、理学部数学科卒業でオックスフォードで経済学の博士号を得た鶴さんですから、随所にそれは現れています。

たとえば、よくわかっていない軽薄な経済評論家ほど「硬直的な労働法が岩盤規制だ」などと言いたがるところで、「我々の心に潜む雇用システムの「岩盤」の打破」という見出しで、雇用システムをゲーム理論を駆使して比較制度分析し、

・・・したがって、雇用制度改革の岩盤は、個々の労働規制というよりは、むしろ我々の心の中にあると考えるべきである。

そうであるのならば、無限定正社員にまつわる諸問題を解決するためには、我々の頭=「岩盤」に「ドリル」を向けなければならないのだ。・・・

と明確に言ってのけます。ここで用いられる「ナッシュ均衡」「共有化された予想」「制度的補完性」といった概念は、私が法社会学的な言葉を使って何とか表現しようとしていたことを、軽々と見事に言い表していて、やっぱ経済学者さすが、という感想を抱かせます。この辺は、鶴さんが以前在籍していた経済産業研究所の故青木昌彦さんの影響もあるのでしょう。

上記目次をみて、1章だけやや他と異なる匂いを醸しているのが第7章の「性格スキルの向上--職業人生成功の決め手」というものです。いやこれ、正直言って、鶴さんがなぜ本書にこうして盛り込んだのかよくわからないのですが。

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論文賞の川上淳之さんについては残念ながら本ブログで紹介していませんが、

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/02-03/pdf/102-119.pdf

本稿は,理論面はCasacuberta and Gandelman(2012)を一般化した副業の労働供給モデルを提示し,実証面はインターネット調査『副業者の就労に関する調査』を用いて保有理由別にどのような個人が副業を保有するかを本業の仕事属性を中心に明らかにした。不労所得の増加は,金銭的動機に基づく副業保有を減らしているが,非金銭的な動機を含む副業の保有確率は高めている。一方で,本業から得られる収入は金銭的動機を含む副業保有を減らす傾向がある。金銭を目的としない副業保有は,ほとんどの変数で統計的有意な結果は得られず,本業の仕事内容以外の,個人の嗜好に基づいて決定されていることが示された。副業の内容について単純集計を行った結果,金銭的動機による副業は,本業の役に立っていないという代替的な関係にある一方で,非金銭的動機による副業は,本業との間で補完的な関係がみられた。この集計結果からは,本業の労働時間が制約される労働者には十分な労働時間を本業で確保することが求められること,本業に補完的である副業保有を促進することで自己啓発効果が得られることを示唆している。

ということで、しっかりした労働経済学の論文のようです。

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