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2017年10月31日 (火)

宮本太郎編著『転げ落ちない社会』

313360宮本太郎編著『転げ落ちない社会 困窮と孤立をふせぐ制度戦略』(勁草書房)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

http://www.keisoshobo.co.jp/book/b313360.html

貧困については、原因とその対処法、子ども・高齢者・非正規(特にシングルマザー)の貧困の実態、生活保護制度と社会保障制度の境界を探る。格差については、教育・所得・雇用・社会保障・住宅の格差の実態とその是正策を探る。さらに貧困解消と格差解消は同時並行的に行えるのか、優先順位はあるのか。これらの課題に社会福祉・社会保障の専門家が大胆に提案する。

例によって全労済協会の研究会が元になった本です。

序章 困窮と孤立をふせぐのはいかなる制度か?[宮本太郎]
第1章 標準家族モデルの転換とジェンダー平等──父子世帯にみる子育てと労働をめぐって[湯澤直美]
第2章 新しい居住のかたちと政策展開[白川泰之]
第3章 住宅とコミュニティの関係を編み直す[祐成保志]
第4章 相談支援を利用して「働く」「働き続ける」──中間的なワーク・スタイルの可能性と課題[西岡正次]
第5章 支え合いへの財政戦略──ニーズを満たし、財源制約を克服する[高端正幸]
第6章 子どもの貧困と子育て支援[柴田悠]
第7章 若者の未来を支える教育と雇用──奨学金問題を通じて[花井圭子]
第8章 脱貧困の年金保障──基礎年金改革と最低保障[鎮目真人]
第9章 高齢期に貧困に陥らないための新戦略[藤森克彦]
終章 鼎談:「転げ落ちない社会」に向けて[神野直彦・宮本太郎・湯澤直美]

これまで社会政策の目から外れがちであった分野ということでは、住宅問題と子育て・教育問題の章が重要でしょう。以前連合にいた花井圭子さんが奨学金問題について突っ込んでいます。

さて、本論のあとに、鼎談というのが載っていて、そこで神野直彦さんがこういうことを言われているのですが、

・・・これまでの日本の格差や貧困の状態についてみると、ヨーロッパの経験を基準に、ヨーロッパの議論を安易に修辞学的に言説的を弄ぶところがあったと思います。今では誰もがわかっているように格差や貧困があふれ出て、社会的な問題として苦しんでいるのは、日本だけではないのです。そのため鹿鳴館時代の「脱亜入欧」から抜け出すことなく、日本型経営なり日本型労働市場政策からヨーロッパ型へ転換すれば、問題が解決するかと言うことにはならないと思います。日本型をメンバーシップ型、ヨーロッパ型をジョブ型と言い換え、長時間労働問題や待遇格差などの労働問題を、日本型からヨーロッパ型に転換すれば万事解決という議論は、あまりにも安易だと思います。・・・

いやはや、もし本気で、そんなことを、つまり「日本型からヨーロッパ型に転換すれば万事解決」などという脳天気なことを口走っている人がいるならば、それはまさに「あまりにも安易」でしょう。でも、そんな人はどこにいるのでしょうか?まさか私のことではあるまいと先を読んでいくと、私の名前が出てきて、どうも神野さんはわたしを「鹿鳴館時代の脱亜入欧」論者に仕立て上げたいようです。

言うまでもなくジョブ型社会にはジョブ型社会の矛盾相克があり、それが生み出す貧困格差がいっぱいあります。

とりわけ私が『若者と労働』であれほど繰り返して論じた、ジョブ型社会であるがゆえに若者が労働市場で不利な立場に立ち、経験がない、スキルがない、が故に採用されない、が故に経験が積めない、が故にスキルが上がらない、という悪循環を繰り返し、そこから抜け出そうという若者の苦境につけ込んで無給薄給のインターンシップと称する若者搾取の仕組みに絡め取られる姿を見れば、「日本型からヨーロッパ型に転換すれば万事解決」などという馬鹿なことを言うはずがないではないですか、といいたいところですが、まあ、そんな枝葉末節の話など読んでいただけていないのかも知れません。

私も、使えるところでは意図的に「ヨーロッパ出羽の守」を演ずることをためらいませんし、とりわけ今の労働時間規制問題については戦略的に必要だと思うのでわざと出羽の守よろしくEU労働時間指令を振り回したりはやってきましたが、ジョブ型で万事解決なんて単細胞なことを言っているかのように思われているというのは正直心外でした。

ついでに言えば、これまた何回も言っているように、(韓国を別にすれば)アジア諸国の雇用システムは日本型ではなく極めて欧米型ですから、ここで「脱亜入欧」を持ち出すのは何のことやら意味不明ではあります。

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コメント

わが国の貧困率上昇を食い止め、さらにこれ以上の正規ー非正規格差を広げぬようILOが提唱し世界各国の常識であるところの「同一労働同一賃金」を定着させ、昭和世代の無茶な働きぶり(残業代)をデフォルトにしない「働き方改革」を鋭意進めているという意味で、最近の日本の雇用社会は(少しずつではありますが)確実に望ましい方向へ向かっています。

そして、きっとそのベクトルの「遥か彼方」には例えばオランダ型や北欧型のジェンダーレス社会あるいは他のアジア諸国に普通に見られるスタンダードなジョブ型が(しっかり自分の目で見ようと思う人には)見通せるわけですが、実際には地平の遥か彼方にあり、仮にそこへ近づきたくても(いわゆる正社員メンバーシップ感覚にどっぷり浸かった)日本人サラリーマンの大多数が「強く」望まない限り、現役世代として生きている間にそのウルトラマラソンともいうべき長き道程の距離を「少し」詰めることがせいぜいでは…そんな感じがします。「ジョブ型 出羽の守」、外資系人事マンの嘆息でした…。

EU が「雇用形態による差別」を禁じているのは、雇用形態が男女差別の隠れ蓑として使われるからなわけですが、日本は男女別の人事が総合職・一般職のコース別人事となり、そして正規雇用・非正規雇用へと、まさに現在進行形で雇用形態を男女差別の隠れ蓑として使っているわけです。

ただ、日本の多数の成人男女は「男性稼ぎ主モデル」を否応なく受け入れて生計を立てているわけで、このモデルを変えようとする試みは、多くの人間の生活水準を引き下げることにならざるを得ないでしょう。たとえ生活水準が下がることになっても、社会的公正を追及すべきと、理念に殉じることができるかどうかでしようね。

以前にhamachan先生がおっしゃっていた、「差別を解消することで格差が拡大することもある」という話ではないかと思います。

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代表的な各種意識調査から見る限り、生活が下流、あるいは貧困と考える人の割合は減り続けている

代表的な意識調査で追った貧困意識の推移
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2294.html
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主要国全体として格差が広がる中で日本の格差水準は2000年代以降ほぼ横ばい。米英に次いで格差が高いというパターンは1980年代から不変。

ジニ係数による所得格差の推移(日本と主要国)
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/
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