神野・井手・連合総研編『「分かち合い」社会の構想』
なんというタイミングか、神野直彦・井手英策・連合総研編『「分かち合い」社会の構想』(岩波書店)をお送りいただきました。
https://www.iwanami.co.jp/book/b309276.html
ポピュリズムや排外主義が世界を覆うなか,人と人の絆は分断され,富の奪い合いが進む.他者の痛みを分かち合い,お互いが支え合える社会はどうすれば可能か.労働と生活を研究するシンクタンクと気鋭の学者らが討議を重ね,労働,環境,生活保障,教育,地域,政治,財政の視点から,人間らしい社会への道筋を具体的に構想する.
10年前に、連合総研が20周年記念でまとめた『福祉ガバナンス宣言』には、私も1章参加しましたが、それから10年、先行きはますます見えにくくなっているようです。世界的にも、ここ日本でも。
本書については、一足先に労務屋さんがこんな感想を漏らされていますが、
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20171001#p1
ざっと斜め読みした限りではあるのですが、読み進むほどに連合が希望の党を支援するのが不可解というか意味不明というか…むしろ自民党のほうが政策的に近いのではないかとか…(いや全世代型社会保障とか。。。)なにかと複雑というか単純というか、タイミング的にあれこれ思うところのある本ではあります、はい。
もちろん、政治というのはさまざまな側面があるわけですが、労働組合という立場から、連帯とか共助とか分かち合いとか、まあそういう「ソーシャル」な政策を追求しようとしているはずなのに、なぜかやたらに労働組合を敵視して叩こうとしたがる政治勢力を一生懸命応援している感が半端ないのが何とも不思議なところではありますね。
各論については、第1章の禿さんの論文が、「自己決定」という両義的で、とりわけ労働分野において下手に扱うと危険な用語を、やや西谷理論を素直に受け入れすぎているという感想を持ちました。ここは人によっていろいろな意見のあるところでしょうが、自己決定って、だから余計な規制なんかなくして自由にやらせろという議論を極めて安易に引っ張り込む議論であることを、も少し意識した方が良いと思います。「規制が支える自己決定」なんていうアクロバティックな台詞が言えるのは西谷さんくらいだと思った方が良い。
禿さんのいいたいむやみに配転されない権利、むやみに残業させられないノンエリート労働者の権利は、高度でプロフェッショナルな人の「自己決定」権とは違う言葉で語った方が、少なくとも足を掬われないはずです。ほんの十年前には、規制改革会議が、仕事と育児の両立のためにホワイトカラーエグゼンプションをと言っていたのですから。
世間の人々は、こっちの頭の中にある特定の文脈に従ってものごとを考えてくれ、喋ってくれ、行動してくれるわけではない、のです。
他の論文についてはまた改めて。
はじめに……………中城吉郎
序 章 「分断」と「奪い合い」を越えて――どんな社会を目指すのか……………神野直彦
第一章 雇用・労働における「自己決定」の確立……………禿あや美
第二章 環境保全型社会と福祉社会の統合……………伊藤康
第三章 リスク社会における新たな生活保障――ライフステージの変化を基軸に……………松本淳
第四章 誰もが質の高い教育をひとしく受けられる社会……………広田照幸
第五章 自律と支え合いによる農村の再生――都市と農村の二項対立を越えて……………坂本誠
第六章 〈私たち〉による社会へ――参加型民主主義の構築のために……………田村哲樹
第七章 「奪い合い」から「分かち合い」の財政へ……………井手英策
終 章 「分かち合い」社会の可能性……………井手英策
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