続・協約自治と国家@山本陽大
JILPT研究員の山本陽大さんが、リサーチアイというコラムに「続・協約自治と国家 ─協約単一法の合憲性に関する連邦憲法裁判所2017年7月11日判決」を書いています。やや専門的な中身に見えるかも知れませんが、ドイツ労働法制の機微に触れる重要な判決を紹介していて、関心のある方は是非リンク先に行って、問題状況の確認のところからじっくりと読まれることをお奨めします。
http://www.jil.go.jp/researcheye/bn/023_171027.html
・・・かつて筆者は、本連載の第9回「協約自治と国家」のなかで、協約単一法を含む第3次メルケル政権下でのドイツ労働協約システムをめぐる各法政策について、いずれも「“協約自治の強化”が通奏低音となっている」ところ、「これらの法政策が、法学的意味において基本法9条3項の要請を充たし、“協約自治を強化”するものであるのか否かは別途問われなければならない」と述べた。今回の連邦憲法裁判所判決は、まさにかかる問いに対して一定の回答を与えたものといえよう。すなわち、同判決は、労働協約法4a条による協約単一の法規制につき、一方においてかかる規制により侵害されうる基本法9条3項が保障する(協約自治を含む)諸権利(およびその限界)と、他方において同じく基本法9条3項から導かれる機能的な協約自治の確保に向けた立法者の規制権限との相克のなかで、比例相当性審査の枠組みにおいて、制限的解釈による労働協約法4a条の正当化を図りつつ、少数組合(職業グループ)の利益保護のための「安全装置」の欠落という限りで、その部分的な違憲性を衝いたものといえる(この点については、アメリカ法における公正代表義務的な発想への親和性を指摘できるかもしれない。)
2018年12月までに立法者に義務付けられている新規制を含めて、今回の判決に対するドイツ労働法学の評価が出揃うまでには、いま少しの時間を要しよう。しかしいずれにせよ、経済のデジタル化やグローバル化による労働社会のドラスティックな変容が予想されるなかで、労働協約システムが果たしうる役割に、より一層の期待が寄せられているドイツにおいて[注6]、同システムをめぐる法政策について(部分的とはいえ)違憲判断が下されたことの意義は決して小さくない。この点については、同一労働同一賃金や長時間労働の是正といった文脈のなかで、集団的労使関係をめぐる法政策的議論が今後胎動をみせるかもしれない我が国においても[注7]、「他山の石」とすべきではなかろうか。
なお、この判決の分析も含めて、山本さんによるドイツ労使関係システムに関するまとまった論考は、今年12月にJILPTから刊行予定の、第3期プロジェクト研究シリーズ『現代先進諸国の労使関係システム』の第1章「ドイツ-第3次メルケル政権下における集団的労使関係法政策」で出される予定です。乞うご期待。
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