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2017年10月29日 (日)

ベーシックインカムはデジタル経済を安定化しうるか?@欧州労研

Transfercouldabasicincomestabiliset 欧州労連(ETUC)のシンクタンクの欧州労研(ETUI)のサイトに「Could a basic income stabilise the digital economy?」(ベーシックインカムはデジタル経済を安定化しうるか?)という小文がアップされています。欧州労研の機関誌『Transfer』の8月号に載ったプルッカ氏の論文「A free lunch with robots – can a basic income stabilise the digital economy?」(ロボットと一緒にただメシ-ベーシックインカムはデジタル経済を安定化しうるか?)の要約ということで、もと論文も全文ダウンロード可能ですが、ここでは要約した小文の方を。

http://www.etui.org/News/Transfer-Could-a-basic-income-stabilise-the-digital-economy

http://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/1024258917708704

In his recently published article in the August 2017 issue of the ETUI’s quarterly journal Transfer, Ville-Veikko Pulkka argues that in an increasingly digitalised labour market, unemployment and precariousness will increase in the short and medium term, at the very least, and basic income could be a means of guaranteeing sufficient purchasing power for those losing out from these developments. However, there are serious limitations to this idea which need to be tackled first.

・・・の中で、プルッカは、ますますデジタル化する労働市場において、失業と不安定さは少なくとも短期的中期的には増大するであろうし、ベーシックインカムはその進展から放り出された人々に十分な購買力を保障する手段かも知れないと論ずる。しかしながら、この考え方にはまず取り組むべき必要のある深刻な限界がある。

According to the author, the currently applied activation policies, based on strict means-testing and obligations, will not be flexible enough to guarantee adequate purchasing power for unemployed, underemployed and precarious workers if technological unemployment and labour market insecurity increase. However, he also argues that a basic income financed within the current social security system and from higher taxes on labour and capital income is an economically unfeasible option and has serious limitations as an economic stabiliser. Reconsidering monetary policies such as functional finance, helicopter money and quantitative easing for people, but also a moderate tax on robots, would make it possible to boost the disposable income of those falling behind in the digital economy. These tax and monetary reforms would facilitate a more generous social security system and in this context also finance a higher basic income, while at the same time making work pay.

筆者によれば、厳格な資産調査と義務づけに基づく現在適用されているアクティベーション政策は、もし技術的失業と労働市場の不安定さが増大するならば、失業者、不完全失業者、不安定就業者に十分な購買力を保障するのに十分ではない。しかしながら、彼はまた、現在の社会保障制度の範囲内で労働と資本所得への高税率によってまかなわれるベーシックインカムは経済的に実現不可能な選択肢であり、経済的安定装置としては深刻な限界がある。機能的財政、ヘリコプターマネー、量的緩和のような通貨政策だけではなく、ロボットへの適当な課税もまた、デジタル経済の背後に落ち込んだ人々の可処分所得を押し上げることができるだろう。これらの課税と通貨改革は寄り寛大な社会保障制度を可能にし、その文脈においても仕事を引き合うものにしつつより高いベーシックインカムをまかなうことを可能にするであろう。

The article therefore concludes that from an economic perspective the most sustainable solution to dealing with the digital transition would be to gradually move towards a more generous and less conditional social security system. If it turns out that these reforms are insufficient, the idea of a universal basic income will still be there.

この論文は、それゆえ経済的観点からデジタル経済への移行に対処する最も持続可能な解決策は、より寛大でより条件付けの少ない社会保障制度に段階的に移行することであると結論する。もしこれら改革が十分でないとわかれば、普遍的なベーシックインカムという考え方がなおそこにある、

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コメント

観た方も多いかと思いますが、先週NHKクローズアップ現代でBIが取り上げられ、番組内容が添付リンクのWebサイトに上手くまとめられてます。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4053/index.html

先日の衆院選で希望の党が公約で発表したBI。その時は「また小池さんがキャッチーなこと言ってるな〜」と思っていたところ、すでに欧州では一部の地域での社会実験等を経て、制度実装に向けた本格的な議論がスタートしているようですね。

BIに関してはどうしても「マトリックス」で出てきた人間電池を想像しちゃうんですよねぇ。
「人は労働無しで自身の尊厳の認識を保てるか」と言うのは社会心理か社会学の先生に研究をお願いしたいとトコではありますが。

IT革命をもってディジタル化社会はすでに始まっています。

IT技術を使って生産性を上げた会社は一人あたりの収益を上げました。しかし、IT技術を使って生産性を上げることができなかった会社の収益は伸び悩みました。

会社の産業分類あるいは規模によってIT技術の恩恵にあずかる会社とそうでない会社の2極分化が生じました。介護サービス、保育、教育、看護、医療、など、対人サービスにかかわる事業では、(ITで事務処理の生産性を上げる余地はありますが)事業のコアな部分ではIT化で生産性を上げることはできません。

もう一つの問題は、生産性の低い産業から高い産業に雇用がシフトするかというと、それも難しいのです。ITで生産性を上げた産業は、少ない人数で同じ量を生産できるようになると、需要はそんなに変わるものではないから雇用を増やす必要はないのです。(もちろん新製品の開発をするための雇用は必要ですが、・・・)

ディジタル化がさらに進行し、AIが人間の作業を置き換えるようになると、IT化で起きたことと同じようなことが起こると思われます。

究極のディジタル化で、大部分の作業をAIで行えるようになると、生産性に投資をした一部の人達に大部分の利益が集中することになります。

でも、人間の愛情、感性、理性にかかわる仕事は、その成果を生産性で測ることは難しく、利益の配分から取り残されることになります。

ディジタル化は、人間の領域に係る部分もある程度置き換えるようになるかもしれませんが、ロボットに介護や保育をまかせたいとは思いません。ロボットのペットは人気があるようですが、ロボットの恋人などまっぴらです。

ディジタル化による利益の集中を分配するのに、ベーシックインカムもありかなという気はします。

Dursan殿

>「人は労働無しで自身の尊厳の認識を保てるか」

労働の定義にもよりますが、社会に対する活動は生活費を得るための活動だけではないと思います。BIが完備すると生活費を得るための活動は不要になりますが、それ以外の活動を行うことは可能です。現在でも例えば寄付金で運営される慈善団体の職員(修道士?)等はこれに近いと思います。
生活費はBIで賄えるのでフルタイムでボランティア活動をするという場合は(これを労働といってよいかはわかりませんが)十分に自身の尊厳の認識を保てると思います

ディジタル化社会における利益の配分

前回のコメントで、ディジタル化社会において、生産性という尺度だけでは利益は正当に配分されないのではないかという問題意識を提起しました。

ベーシックインカムというと、社会保障、特に低所得者に対する生活の保障という文脈で捉えられますが、ここでは、市場原理以外で定まる利益の配分システムと拡大解釈して考えます。

市場原理に従って利益の配分がなされると、生産性の多寡によって利益の配分がなされることになります。

多くの仕事がAIで置き換えられるようになると、AIで生産性をあげられる分野とそうでない分野で利益の配分に偏りが発生し、介護や保育などディジタル化で生産性をあげることは難しい分野では、低賃金が問題になります。

ディジタル化社会では利益の配分に関して、社会的な公正が問題になりますが、経済成長も阻害される恐れもあります。現に、世界経済の長期停滞の原因の一つとしてIT化による生産性の向上も挙げられています。

これらの問題に対処するためには、市場原理以外の利益の配分システムを考える必要があります。

ベーシックインカムはその一つの方法になるのではないかと思います。社会は、誰もが参加して“善意”を発露する場であると考えるならば、彼らの “善意”に対して、利益の一部を配分してもよいのではないかと思うからです。

介護、保育、教育、看護、医療、などに従事する人達の報酬も、ベーシックインカム部分が報酬の一部を為すと考えてもよいのではないかと思います。

ベーシックインカム部分を、市場原理以外で配分される報酬と考えるならば、介護や保育に従事する人達のベーシックインカム部分は過小であり、医者のベーシックインカム部分は過大であると思います。

Dursanさん
>BIに関してはどうしても「マトリックス」で出てきた人間電池を想像しちゃうんですよねぇ。
>「人は労働無しで自身の尊厳の認識を保てるか」と言うのは社会心理か社会学の先生に研究をお願いしたいとトコではありますが。

高齢者をみるれば答えは出ております。年金生活者になろうとも自由意志で仕事はできるにも関わらず、多数は年金生活を謳歌しておりますので、この心配は杞憂かと思われます。また、米国人のあこがれは若くして一財産築いての早期リタイアです。お金さえあれば働かなくても楽しい暮らしはできるのです。

高齢者でも働いている人はいますが、それは十分な蓄えな年金を得られなかった人や、本当に仕事が大好きな自営業の人ですね。後者のような天職につける人は、現在の日本に、どれだけ居ることでしょうか?

したがって、BIの「働かなくても無条件にお金が得られる」側面については問題は無いのではないかと思われます。

BIの問題は、財源だと思います。何かにつけて取り沙汰される消費税ですが、これは高所得者から低所得者まで薄く広く集める税金です。一方、BIは高所得者から低所得者まで薄く広くお金をお金のままばらまく制度です。つまり、税金として取られたお金がそっくりBIとして返ってくるという壮大なマッチポンプにしかならないのではないかということです。社会インフラに投資するのではなく、そっくり現金のまま返ってくるのです。大切なのは「富の再配分」がなされるかどうかであり、富の再配分さえなされれば、それはBIである必要はないのでは無いかと思われることです。税の基本の累進課税に立ち返るべきです。

さて、政府には累進課税を強化して、BIをやるだけの覚悟があるのでしょうか?

福祉の財源を消費税でと長く言われておりますが、これも前述と同様の問題をはらんでいると思われます。税金を集める側からすると、税収額が安定していて、捕捉しやすい点で都合が良いのでしょう。しかし、それは集める側の怠慢です。

前者は、不景気で社会全体が不景気であろうとも、また低所得者であろうとも課税するという意味で問題です。不景気時は課税を抑えて国民の懐を温めて、景気が良くなると課税するというのが基本ではないのかと。

後者は、まず補足すべきは、富裕層がタックスヘイブンに大量の資産持ちだしてる資産であり、そういった税務調査をきっちりするのが国税当局の仕事のはずです。

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