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2017年10月23日 (月)

「多様なジョブ型雇用システム」 @労基旬報』2017年10月25日号

『労基旬報』2017年10月25日号に「多様なジョブ型雇用システム」 を寄稿しました。

 日本の雇用システムをメンバーシップ型とか「就社」型と定式化し、欧米諸国のジョブ型ないし「就職」型と対比させる考え方は、ごく一部の人々を除き、多くの研究者や実務家によって共有されているものでしょう(実をいうと、この「ごく一部の人」に属するのが小池和男氏で、彼は半世紀前の『賃金』以来一貫して、日本と欧米の違いは「型」の違いではなく発展段階の先後に過ぎず、遅れた欧米は先進的な日本に近づいてくると主張してきました。ところが皮肉なことに、ほとんどすべての読者はそれを取り違え、日本「型」システムの欧米「型」システムに対する優位性を論証した学者だと思い込んでいます。閑話休題)。
 ところが、日本以外の諸国を全て「ジョブ型」に束ねてしまうと、その間のさまざまな違いが見えにくくなってしまいます。常識的に考えても、流動的で勤続年数が極めて短いアメリカと、勤続年数が日本とあまり変わらぬドイツなど大陸欧州諸国はかなり違うはずです。そこで、世界の雇用システムを大きく二つに分けて、日本に近い側とそうでない側に分類するという試みが何回か行われてきました。ところが、そうした議論を見ていくと、まったく矛盾する正反対の考え方が両方存在することがわかってきます。
 まず一つ目は、日本とドイツなど大陸欧州諸国を一つにまとめ、アメリカを代表選手とするアングロサクソン型と対比させる常識的な考え方です。これの代表がロナルド・ドーアで、かつて著書『イギリスの工場、日本の工場』(筑摩書房)で日本を組織型、イギリスを市場型と定式化しましたが、その後の『日本型資本主義と市場主義の衝突』(東洋経済新報社)では、「日・独対アングロサクソン」という副題からもわかるように、日独型の組織志向の資本主義を擁護しています。この二分法の先行者はフランス人のミシェル・アルベールで、その『資本主義対資本主義』(竹内書店新社)は特にドイツに焦点を当てて「ライン型資本主義」と呼んでいました。彼らはいずれも、自国(イギリスやフランス)がアメリカ型に近づくことを批判し、ドイツ型を称揚しています。
 これを学問的に定式化したのが比較政治経済学と呼ばれる流派で、ホールとソスキスらの『資本主義の多様性』(ナカニシヤ出版)では、コーディネートされた市場経済(CMEs)と自由な市場経済(LMEs)という二分法を提示しています。前者に含まれるのがドイツを始めとするゲルマン系の欧州諸国と日本で、後者に含まれるのが米英を初めとするアングロサクソン諸国です。フランスなどラテン系欧州諸国は中間的な地位を与えられています。この資本主義の多様性論は賃金決定や技能形成、福祉国家など幅広い分野にわたる議論を展開していますが、ごく端的にいえばドーアの議論と同様、組織志向と市場志向を対立させる図式だといっていいでしょう。同じジョブ型と言っても、日本型に近いドイツ風のジョブ型と日本とは対極的なアメリカ風のジョブ型があるというわけです。
 ところが、こういった枠組とはまったく正反対の認識枠組もあるのです。それは内部労働市場と職業別労働市場という二分法で国際比較する考え方で、佐藤厚の『組織のなかで人を育てる』(有斐閣)がその概略を紹介しています。それによると、アメリカ、日本、フランスが内部労働市場モデルで、ドイツが職業別労働市場モデル、イギリスはその混合だというのです。これはイギリスのルーベリーらの議論に基づくものですが、内部労働市場とは主たる人材育成の場が企業内であるもの、職業別労働市場とはそれが企業外であるものという定義になっています。ただ内部労働市場といっても、市場主導のアメリカ、国家主導のフランス、個別企業ベースの日本という違いを指摘してはいますが、これらをひとまとめにして一国レベルで職業別労働市場のドイツと対比させ、その中間に職業別労働市場から内部労働市場に移行しつつあるイギリスを置いているのです。即ち、同じジョブ型と言っても、日本型に近いアメリカ風のジョブ型と日本とは対極的なドイツ風のジョブ型があるということになります。ドーアや資本主義の多様性論者とはまったく正反対の議論になっていることがわかります。
 これはやはり、一本の軸だけで諸社会を分類しようとするからではないか、と考えると、せめて二次元で四象限に分けるような分類が欲しくなります。ちょうどその注文に応えるかのような枠組があります。マースデンの『雇用システムの理論』(NTT出版)です。それによると、課業を労働者に課すに当たり、「効率性」と「履行可能性」という二つの要請をどう満たすかにそれぞれ二つのアプローチがあり、それらを組み合わせると四つのルールが生み出されるというのです。
  効率性制約
生産アプローチ 訓練アプローチ
履行可能性制約 業務優先アプローチ
 
職務ルール
(アメリカ、フランス)
職域・職種ルール
(イギリス)
機能優先アプローチ
 
職能ルール
(日本)
資格ルール
(ドイツ)
  この表を見ると、確かにある軸では日本はドイツと同じ側にあり、別の軸ではアメリカと同じ側にいるので、上記矛盾が解消されたと歓迎したくなります。しかし、よく見ていくと山のような疑問が湧いてきます。その疑問を詳細かつ深く突っ込んで論じているのが、石田光男氏の「日本の雇用関係と労働時間の決定」(石田他編著『労働時間の決定』ミネルヴァ書房所収)です。詳細は省略しますが、石田氏は吟味の末に次のような表をもって代え、結局ドイツがやや違うだけで、日本と欧米諸国の間に大きな違いがあるという認識に戻っています。
  課業の設定
単なる生産アプローチ 効率アプローチ
実効性の
確保




 
課業中心基準


 
職務ルール
(アメリカ、フランス)
職域・職種ルール
(イギリス)


 
資格中心基準
 
職業資格ルール
(ドイツ)

 
能力中心基準
 

 
職能ルール
(日本)
 ぐるっと一回りして、結局日本と欧米諸国を対比させる当初の素朴な認識に戻ってしまったようです。この石田氏の表を見ると、結局「ジョブ」というやや広い概念を、職務、職域・職種、職業資格とやや細かく言葉の上で分けただけのようにも見えます。また、アメリカとフランスが同じ職務ルールだというのも納得しかねるところがあります。とはいえ、せっかく同じ「ジョブ型」の中の違いを考えるヒントが得られたのですから、これを出発点にして今後欧米諸国の各国ごとの雇用システムについて検討していきたいと思います。その際には、日本型雇用システムを論じる上で産業化以後の歴史的展開が極めて重要であったことを考えると、欧米産業社会の歴史を深く踏まえて議論していくことが不可欠でしょう。

 

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コメント

各国の「多様なジョブ型」を色々な尺度視点から「分析/分類」されることはさぞかし学問的には興味深いアプローチかと推察します(研究者冥利に尽きるものなのでしょう)。その一方で、Hamachan先生にぜひお願いしたいのは、そうした研究活動すなわち分類分析そのこと自体を目的とすることなく、わが国の労働法政策を〜日本企業の雇用人事施策を〜そしてニッポン人の働き方を、いずれも「今よりよいもの」にもっていけるようなインプリケーションです。

しかるにその方向性は、もしかすると多くの日本人労働者にとって耳触りのよろしくない、いやむしろ耳に痛い話となるやもしれませんが、ここはわが国の労働法政策を牽引されるお立場からしても(同時代の人気や評判に迎合されることなく)「the road less traveled 」を国民皆さんへ果敢に提示して頂ければ至極嬉しい限りですね。

そして、これをずばり人事マンの私が言うのもマコト変な話かもしれませんが、(戦後の判例法理で縷々確立してきた)日本企業の強大な「人事権」を発展的に解消させる方向性こそが、これからの日本の雇用人事政策に求められているベースラインかと思います。

投稿: ある外資系人事マン | 2017年10月23日 (月) 22時39分

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