『文化大革命』
石井知章さんより、その編著になる明治大学現代中国研究所・石井知章・鈴木賢編『文化大革命 〈造反有理〉の現代的地平』(白水社)をお送りいただきました。
http://www.hakusuisha.co.jp/book/b307879.html
文革とは何だったのか?新資料により凄惨な実像を明らかにするとともに、日本の新左翼運動に与えた影響を再検討する。カラー図版多数
この本、なかなか多重構造なんですが、とにかく読んで一番衝撃的なのは宋永毅さんの「広西文革における大虐殺と性暴力」でしょう。
文革の後、現地調査の結果を詳細にまとめた膨大な報告書が作成されたのですが、その極秘文書に基づいて、文革中に広西チワン族自治区で起こった8万人を超える大虐殺の実態を描き出しています。
・・・殺害方法は、叩き殺す、溺死、銃殺、刺し殺す、切り殺す、引きずり殺す、生きたまま肉を切り取る、撃ち殺す、首吊りの強要、追い込んで殺害、腹を切り開いて肝臓を切り取る、・・・拷問の手段として、綱引き、銃殺を装って脅迫、生き埋めを装って脅迫、長時間水に浸かる、犬の糞を食べさせる、下半身を裸にして町中を引き廻す、・・・・
日本語の表示では出てこない漢字までいっぱいあってこれ以上書けませんが、とにかくすさまじいものです。
さらに、こちらはあまりにも痛々しいので書き写せませんが、後半部で紹介される性暴力の数々は、人間はここまでやれるものかという感を抱かせます。
しかし、本書はそういう猟奇的な興味を満足させるためのものではありません、もちろん。
現在の中国共産党が、文革について正面から語ることを禁じ、文革の凄惨な実態を知らないまま、資本主義化による格差で不満を持つ若い人々が、文革に惹かれていく状況に危機感を抱く知識人の必死の叫びといえましょう。
というのは本書の一面。上の書影の帯には「あの時代はなんだったのか?」とありますが、実は、帯の背文字部分には「あのときめきはなんだったのか?」とあるのです。
はぁ?ときめき?文革に?
いやでも、確かに日本でも、ある世代には、中国の文化大革命は「ときめき」だったのでしょう。
本書には、文革時代から中国研究者として活躍してきた矢吹晋さんが登場し、徐友魚さんの議論に異論を唱えるとともに、編者の方々との座談会でも、旧世代左翼の感覚をわりとはっきり出していて、うわぁという感がいっぱいですが、まあ、それが本書の狙いでもあるのでしょうね。
あと、中村達夫さんの革命宣伝画についての文章とともに、本書全体にあの独特の革命宣伝画がちりばめられていて、とりわけ大虐殺や性暴力の叙述の合間に、毛沢東を讃える宣伝画が挟まってくると、何ともいえない気分が漂います。まあ、これも本書の狙いでしょう。
1966年から77年にかけて中国にとどまらず全世界を巻き込んだ「文化大革命」から半世紀が経った。紅衛兵や造反派によるつるし上げで、多数の犠牲者を出したこの運動は、1981年に「党、国家や各族人民に重大な災難をもたらした内乱」と公式に総括された(共産党歴史決議)。
もちろん、総括がされたからと言って「文革」の全容が解明されたわけではなく、中国社会ではこの運動の傷が今も深くのしかかり、社会を分裂させたままである。
本書は、文革研究の世界的権威として知られる徐友漁氏や宋永毅氏、矢吹晋氏の協力を得ながら、〈「文革」とは何だったのか〉を改めて問い直す試みである。
大量虐殺や性暴力、人肉食という新事実から見えてくるのは、解放区以来の地主や富農ら「四類分子」に対する〈非人間化〉政策であり、中共に翻弄された貧しい農村の姿である。
他方、文革の国際的な影響力を考える際に重要なのは、1956年のスターリン批判と「新左翼」の誕生だろう。「革命無罪、造反有理」というスローガンがなぜ戦後日本を含む世界を捉えたのか。当時を回想しつつ複雑な綾を解きほぐしたのが本書である。
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