シュロモー・サンド『ユダヤ人の起源』
週末の空いた時間を利用して、しばらく前に出版されて気になっていたシュロモー・サンド『ユダヤ人の起源』(ちくま学芸文庫)を通読。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480097996/
〈ユダヤ人〉はいかなる経緯をもって成立したのか。歴史記述の精緻な検証によって実像に迫り、そのアイデンティティを根本から問う画期的試論。
いや、そんな生やさしい本じゃないってば。
第1章の「ネイションを作り上げる」で、アンダーソンやらゲルナーやら、ナショナリズム論をほぼくまなく検討した上で、おもむろにユダヤ「ネイション」の虚構性を緻密に分析していく全600頁を超える大著です。
実をいうと、今から四半世紀以上前にアーサー・ケストラーの『ユダヤ人とは誰か』を読んでいたので、そのアカデミック版かな、と思っていたのですが、それをはるかに超える内容でした。
確かに第4章の後半では、ケストラーの本よりはるかに詳細にハザール王国のことが叙述されていますが、問題は東欧のアシュケナージだけではない、ということがよくわかります。
そもそも、ユダヤ人はユダヤの地から追放されたことなど一度もなく、虚構の「追放」後も繰り返しユダヤ反乱を起こしているし、どこかから非ユダヤ人が大挙してやってきたこともなく、要するに古代ユダヤ人の生物学的子孫はパレスチナに住むユダヤ教徒やキリスト教徒やイスラム教徒であること。
そして当時からユダヤの地以外に山のようにユダヤ教徒がいて、その一部はユダヤからの移住者かも知れないが大部分はユダヤ教に改宗した現地人であり、ヒヤムル王国もフェニキア人もベルベル人もそうであり、それがセファルディの源流であってみれば、つまるところ近代ヨーロッパで(ネイションに仕立て上げられた)ユダヤ人とは古代世界でユダヤ教という一神教の一種に改宗したさまざまな種族の人々の子孫であること。
と、こう書いてみればあまりにも当たり前のように見えますが、それが現代イスラエルという国家においては法律で禁止された認識であること。
等々、いろんな意味で大変重い内容の本であることは間違いありません。
本書には出てきませんが、ドーキンスの本を読んだことのある人であれば、つまるところ、「ユダヤ」ってのはジーン(遺伝子)じゃなくってミームなんだな、と理解するでしょう。
それは、ミームという言葉を知らなかった前世紀の人々にとっても、驚くべきことにはベングリオンらイスラエル国家建国の父らにとっても、実は常識的な認識だったのですね。それが、逆にジーン(遺伝子)的ネイション観にとらわれていく過程が、何ともつらいものがあります。
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