韓国はジョブ型かメンバーシップ型か?
北朝鮮がミサイルぶっ放したり、水爆実験したりと、まことに物騒な時期ではありますが、今週後半にソウルで開かれる日韓ワークショップに向けて、これまで日本語で出された韓国の雇用・賃金関係の論文にざっと目を通しているところです。
しかし、読めば読むほど、そもそも韓国の雇用システムはどうなっているのか、労働力は結構流動的で、創業者一族支配が強くて、会社共同体意識は希薄なようなのに、賃金処遇制度は日本以上に強固な年功序列型で、そのため政府が定年延長を進めるために賃金ピーク制を指示したりしている一方で、かつて軍事政権下で法で強制された企業別組合は産別化を叫んでいて、しかも労働運動が未だに結構急進的で、どう整理したら良いのか、なかなかよくわからないところがありますね。
(追記)
コメント欄で原口さんが触れている歴史的な考察をしている本が、尹淑鉉さんの『企業経営からみた韓国と日本』(みずのわ出版)です。
この本では日本が会社本位集団主義であるのに対して、韓国は個人本位集団主義だといいます。
日本では、労働者も経営者も会社という共同体に属しており、それゆえ労働者と経営者の間は協調関係となるが、韓国では経営者が会社を所有し、その会社に所属する労働者は経営者との間に葛藤関係が生ずるというのです。
で、その韓国型集団主義の歴史的起源は「門中」(ムンジュン)だと。門中とは、5代遡った祖先から派始祖までの祭祀を共同で行う血縁者のみによって構成された同族組織であり、日本の「イエ」のような経営組織体としての機能は弱かったと。
ところで、この門中にも、血縁関係のないモスムと呼ばれる被雇用層が存在していたそうです。そして、現代の韓国のサラリーマンも、しばしば自らをモスムに例えるそうです。サラリーマン生活はモスムサリ。
ところが、日本の「イエ」の奉公人は血縁関係はなくてもイエの一員であり、それが近代日本の「会社人間」の原型だともいわれていますが、韓国のモスムは門中の構成員になることはできなかったというのです。日本と異なり、血縁原理が極めて厳格であったわけですね。
なので、モスムは門中の両班との間に契約関係があり、他の門中への転職は比較的自由だったそうです。尹さんは、日本の奉公人に要求されていた絶対的な「忠」ではなく、道徳的親子関係の「孝」が求められていたといいます。ここは少しわかりにくいのですが、日本では「イエ」という組織への「忠」が要求されるのに対して、韓国では門中という組織ではなく、両班という雇用者への「孝」だという説明です。用語は気になりますが、日本のような会社共同体への帰属意識は薄いということのようです。
とはいえ、欧米や他のアジア諸国のようなジョブ型社会原理で構成されているわけでもないので、なかなか複雑です。
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確かにKoreaは日本と似ていそうですね。念のためソウルのHRに早速確認してみたところ、やはり想像どおり次の回答が返ってきましたよ〜
"Local Korean companies assign employees to appropriate positions without consent of each employee, similar to Japan. Job based contract is more common for international company or a job for persons with career experience..."
投稿: ある外資系人事マン | 2017年9月12日 (火) 18時55分
歴史的に深く根付いた儒教ないし儒教的振る舞いが、どの程度、ないし、どのような影響を及ぼしているのか、ちょっと興味が湧きますね。
(ヨーロッパにおけるローマ・カトリックの影響との対比・比較なんかが示されたら、さらに面白そう。)
ちなみに念のため付け加えておくと、日本では儒教思想の流行(江戸時代)や、国民教育の為のつまみ食い的利用(明治時代)はあっても、儒教が根付いたことはないのであります。
投稿: 原口 | 2017年9月13日 (水) 00時37分
韓国大企業と、大企業の企業単位組合との間で、三分の一程度の確率で、従業員の世襲採用の労働協約が結ばれていて、社会問題となっているらしく、にわかに理解し難かったのですが、追記の説明で少しわかりました。
労使自治とはいえど、泥のスプーンで社会的批判の的となり禁止を検討しているそうな。。。
いやはや。。。といった感じがします
投稿: 万年係員 | 2017年9月15日 (金) 08時34分