NIRA研究報告書『人類文明と人工知能Ⅰ―近代の成熟と新文明の出現―』
NIRA(総合研究開発機構)の研究報告書『人類文明と人工知能Ⅰ―近代の成熟と新文明の出現―』をお送りいただきました。
http://www.nira.or.jp/outgoing/report/entry/n170831_867.html
われわれは人工知能にどのように向き合っていくべきか。この問題について考えるには、現在進行している近代社会の動きが人類文明にもたらす意味についての考察が欠かせない。現在、私たちが対峙している近代社会の状況は、旧いものから新しいものへの交代というよりも、旧いものの成熟と新しいものの出現が、同時に生起している状況と考えるべきだろう。本研究報告書の著者の公文俊平教授は、これを重なりという意味の「重畳」と呼んでいる 。
本書では、「重畳」をキーワードに、大きな転換期を迎えている21世紀の現状を解釈し、そこから人工知能が引き起こしている問題にどう対応すべきか提言する。
執筆は多摩大学の公文俊平さんで、事務局のNIRA総研の神田玲子さん(先日のILOとのシンポジウムでもご一緒しましたが)のほか、鈴木謙介、山内康英氏らも参加しているようです。
人工知能といえば、労働関係では大内伸哉さんが最近大変熱心ですが、本報告書はその射程がそれらを遥かに超えて、汎用人工知能とか、超知能と超近代文明といったはなはだ茫漠たる話に及んでいます。
1 人工知能ブーム
2 近代化のビジョン
-「S字波」としての発展ビジョン-
第2章 人類は人工知能にどう向き合うべきか
1 産業化の新たな流れ
2 高まる人工知能への関心
3 「産業化Ⅱ」を代表する「特化人工知能」
4 汎用人工知能
5 AI時代の未来と私たちの選択肢
補 論 超知能と超近代文明
労働に関わるところでは、こんなことを述べています。
特化人工知能を人類の福音とせよ
特化人工知能の開発は今後も加速的に進み、数々の便益を私たちにもたらしてくれるだろう。他方、人間の労働が人工知能に代替され、ほとんどが失業者になってしまった一般の人々は「余暇」をどのように過ごせばいいのか、また、「生きる意味」を何に求めていけばいいのか。対応のいかんによっては社会の混乱を招きかねない。
私たちは人間が雇用されなくても人間らしい生活を送れるための制度的な仕組みを整えるとともに、新たな生活倫理を生み出さねばならない。少なくとも特化人工知能に関するかぎり、それをどのように利用し、どのように私たちの環境を整備するかは、「ベーシックインカム」の全面的導入も含めて、「人間主義者」としての私たちの意思決定と行動次第である。
その途を見失うことなく共生に成功すれば、近代文明は真の成熟を迎えつつポスト近代文明と重畳して有終の美をなすことに成功するだろう。人間と人間能力拡張型人工知能がペアを組み、人間の自由意思や自律性を維持しつつ、平和的に共働・共生する社会では、人工知能は人類にとって福音となるだろう。
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