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2017年9月22日 (金)

個人請負(contractor)を「契約社員」と訳してはいけない

ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版に、英文記事の邦訳が載っていて、内容はなかなか興味深いのですが、タイトルが完璧に間違っているのでどうしようもない。

http://jp.wsj.com/articles/SB10663294989566513588704583403403159054028 (米国の契約社員、キャリアには遠い「二流」)

Bnvc773_0914tw_p_20170914071520 え!?アメリカに「契約社員」だって?

副題を見ると、「社員ではない非正規労働者は数百万人、その知られざる実態は」とあって、やはり日本人、というか労働問題の普通の日本語の用法に慣れた日本人を惑わせます。

ジョージア州アトランタに住むマイケル・プレイスさん(59)は、2001年に IBM から解雇されたとき、社内のつまらない仕事から解放されることを喜んだ。それからさまざまな企業と契約し、業務の迅速化やコスト削減を手助けする仕事を請け負うようになった。仕事が途切れることはなく、彼の稼ぎは年収10万ドル(現在のレートで約1100万円)を超えた。

 だがそのうちに仕事がぱったりと来なくなった。過去10年間は企業のアウトソーシング(外部委託)業務の職を転々としたが、収入は減る一方だ。いつ首になるかという不安にかられ、たとえ机を並べていても正社員は別世界に生きていることを思い知らされた。プレイスさんはあるマネジャーに叱責(しっせき)を受けたが、原因は自分の笑い声が大きすぎるという社員の苦情だった。

 「私のキャリアはぼろぼろだ」とプレイスさんは話す。「もう何の意味もない」・・・

ちょっと待てよ、それって契約社員とか非正規労働者とかじゃなくって、非雇用の個人請負じゃないのか?

確かに先を読み進めていくと、そう書いてあります。

・・・米国には現在、重労働や事務処理などの作業を引き受ける契約社員(訳注:米国では業務請負契約を結んだ個人事業主など)が数百万人いる。企業は社員の一部をこうした委託労働者に交代させている。今後4年以内に米国の民間セクターの労働者の半数近くが、少なくとも一定期間は契約社員や派遣社員などの非正規労働者を経験することになると、専門職の個人事業者にサポートサービスを提供するMBOパートナーズは見込んでいる。

おいおい、それを「契約社員」という、法律用語ではないけれども労働関係ではもっともポピュラーな直接雇用有期契約労働者を指す日本語で呼ぶんじゃないよ。

無期契約労働者といえども解雇自由なアメリカでは、わざわざ期間を定めたれっきとした労働者を雇う意味はあんまりありません。有期だから斬りやすいわけではないとはいえ、雇用労働者としての労働者保護や社会保険負担はかかってくるので。なので、労働者じゃない個人請負にしたがるインセンティブが働くわけです。

そういう話を全部すっ飛ばして、いきなりタイトルから「契約社員」と言われたのでは情けなくって涙が出ます。

というか、この「契約社員」という言葉、単に原文の「contractor」に引っ張られただけのようですが。

http://jp.wsj.com/articles/SB10663294989566513588704583403403159054028 (The Second-Class Office Workers)

副題に曰く:「For millions of Americans who work as contractors, real careers are out of reach and each day brings reminders that they live in a different world than the employees sitting nearby.」

いや、contractorというのは請負人という意味であって、日本語の契約社員とは全く別だから。

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コメント

手前勝手な邪推ですが…。このWSJ記事の翻訳者さん、もしやわが国の諸般の事情を十分承知の上で日本の雇用社会の「現実」に一番近い存在として(independent) contractor をあえて契約社員としたのかもしれませんよ。

JILPTさんの欧州調査報告書にもありましたが、これまで日本において欧米ほど非典型的就労組織や個人請負(個人事業主)があまり発達してこなかった理由は、契約やパートなどの「非正規社員」が柔軟に活用され、また大企業の垂直統合システムいわゆる「下請/系列企業」が生産流通システムに組み込まれていること等が指摘されています。

英語では、非正規社員はpart time, temporary worker, contingent worker など、下請系列企業はsubcontractor にあたるわけですが、いずれにせよ、現に欧米社会にある一定規模で存在&活躍しているindependent contractorの人たち。彼らの社会的な影響力なり存在感という意味で、今の日本で彼らに一番近い人たちは誰かな?と考えるてみると、当記事の「超訳」も意外に見当外れとまではいえないのかもしれませんね〜

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