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2017年9月30日 (土)

平成29年版労働経済白書

厚生労働省が『平成29年版労働経済白書』を公表しました。

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/17/dl/17-1.pdf

今年の特集(第2部)はイノベーションとワークライフバランスです。そのうち、「我が国の経済成長とイノベーション・雇用との関係」という第2部第1章が興味深いトピックを取り上げています。

第1節 我が国におけるイノベーションの現状 72

1 経済成長とイノベーションの関係 73

2 我が国のイノベーション活動の状況 77

3 我が国のイノベーション活動に必要な要素 81

第2節 我が国におけるイノベーション活動の促進に向けた課題 84

1 設備投資面からみた課題 84

2 人材面からみた課題 89

第3節 我が国におけるイノベーションによる就業者、雇用者の変化 104

1 過去のイノベーションによる就業者、雇用者の変化 104

2 AI の進展に伴う我が国の現状と課題 112

今はやりのAIとか技術革新の雇用への影響について、JILPTの調査結果なども使いながら、かなり本格的に取り組んでいます。

 AIが職場にもたらす影響として、労働時間の短縮や業務の効率化による労働生産性の向上が期待される一方で、新しい付加価値の創出のために活用する企業は少ない。

 今後、AIの進展等により雇用の在り方が変わることが予想されるが、技術が必要な職種や人間的な付加価値を求められる職種の就業者は増加する。

 AIが一般化した時代に求められるスキルとしては、AIの可能性を理解し、使いこなす能力や、AIに代替されにくいコミュニケーション能力があげられており、今後、こういったスキルを高めていくことが重要。

 AIの広がりについて企業、従業員とも危機感が低い中で、意識の高まりが求められる。

とはいえ、これからの労働社会の変化の分析はまだまだこれからというべきでしょう。

いわゆるシェアリングエコノミー、プラットフォームエコノミーなどが働き方に与える影響なども、日本ではまだまだ緒に就いたばかりですが、欧米ではかなり先行している例もあり、寄り本格的な検討が求められます。

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コメント

平成29年度版労働経済白書、優等生的な書き方であるが、物足りなさを感じる。

いくつかの論点から問題提起をする。

1.生産年齢人口の減少が経済低迷の原因だったのか?
白書は、20年にもわたる低成長の原因として、生産年齢人口の減少による供給制約をあげている。

確かに、生産性の要因分解をすると、90年代および2000年代と労働投入はマイナス要因になっている。だからといって、これをもって生産年齢人口の減少が経済の低成長の原因だったとは言えない。

因果関係は逆で、経済の低成長が続いたから労働投入がマイナスになったのである。生産年齢人口の減少が顕著になる2010年以降、労働投入はむしろプラスになっている。

長年のデフレ経済のもと、働きたくても働けない、早期退職を迫られる、就職氷河期にあって就職できない、正規社員として雇用されない・・・、という人達がたくさんいたのだ。労働投入のマイナスは、経済の低迷の結果であって原因ではない。


2.イノベーションの不足が経済低迷の原因だったのか?
白書は、20年にもわたる低成長の原因として、日本のイノベーションの不足がTFP(全要素生産性)の成長率が低く、それが経済の低成長につながったと指摘している。

白書では、イノベーションとして技術革新、非技術的革新(マーケティング、組織)をあげている。

しかし、日本が他国と比べて技術革新あるいは非技術的革新において遅れていたとは思はない。日本の自動車産業、宅配便の事業、海外で販路を延ばすチェーン店、等、彼らの国際競争力は優れている。

TFPとは生産関数を要因分解したとき、労働投入あるいは資本投入を除いた全ての要因をまとめたものであり、そこにはイノベーションも含まれるが、その他、経済環境、金融政策、財政政策、労働環境、規制緩和、等々、経済成長にかかわるあらゆる要因が含まれている。

我が国の供給サイド経済では、潜在GDPを「一国の経済が最大限達成できる中長期的な供給力の水準」であるとし、TFPを技術的なイノベーションと解読する。また、GDPギャップを潜在GDP(供給)と現実のGDP(需要)との差であると解読する。

しかし、OECDは潜在GDPを「一定のインフレ率で一国の経済が産出できるGDPの水準」と定義する。潜在GDPは過去に実現した平均的なGDPから推計し、「GDPと潜在GDPの差であるGDPギャップが大きくプラスに振れる場合、インフレ率が上昇する恐れがある」とする。

生産関数は供給サイドの変数からGDPの水準を推計する式であるが、労働投入および資本投入という変数をエクスプリシットに含む(陽に含む)だけで、需要サイドの影響を受けるのは当然である。TFPにその影響が表れると考えるのが自然である。


3.20年にもわたる経済低迷の原因は何だったのか?
20年にもわたってデフレ経済が続いた。アベノミクスの登場で経済の状況は好転した。しかし、未だデフレから脱却したといえる状態ではない。

どうしてデフレが20年にもわたって続いたのかを明らかにする必要がある。そのような議論を労働経済白書で展開する必要はないとは思うが、誤った認識をもとに労働経済の議論を展開すると間違った見方になる恐れがある。

20年にもわたるデフレの原因は、供給制約の問題(人口動態、規制、労働の流動性、市場競争の欠如、税制、等)あるいはTFPの低成長にあるという考え方が一般的であるが、違っている。

経済低迷の原因は、本当は需要不足に起因していたのに、供給制約の問題(規制、労働の流動性、市場競争の欠如、税制、等)と捉え、デフレ親和的な供給サイドの構造改革を進めたことによる。

構造改革は、資本効率重視という点で投資抑制的、資本分配率重視(労働分配率を下げる)という点で賃金抑制的な政策であった。デフレ経済下にあって、構造改革は親デフレ的な経済政策であった。

また、日銀の金融政策はインフレ抑制的で親デフレ的な金融政策であった。

黒田総裁の登場で金融緩和を進めたが、未だデフレから脱却したとはいえない。アベノミクスの成長戦略は、供給サイドの構造改革の影響をひきずっている。

今や企業は収益を伸ばしているが、企業の収益は賃金の上昇あるいは国内の投資に向かうことはなく、海外投資あるいは内部留保の積み上げに向かっている。お金が内部留保としだぶつき、デフレ圧力になっている。

物価上昇率が2%の目標を達成するためには、実質賃金の上昇と生産性の向上のバランスが取れることが必要である。OECDが定義する潜在GDPの文脈で言及する、「一定のインフレ率で・・・」はインフレ率目標に該当する。

賃上げで消費が増加すればGDPは膨らむが、それが過大であるとインフレの恐れがでてくるし、過小であるとインフレ率目標に達しないことにもなる。


4.生産性を上げるため技術革新が必要である。
生産性を上げるために、絶えず技術革新を進めていく必要があることに間違いはない。ただし、十分条件ではない。

産業によってITをとりいれ生産性を高める余地の大きいところと、そうでないところがある。小売り、飲食、宿泊、介護、福祉、などの産業では、生産性を高める余地が限られる。

技術革新を取り入れた生産性の高い産業に労働移動が起こればよいという考え方もあるが、ITを取り入れた企業では、一人あたりの生産性が上昇し、少ない人数で事業ができることになる。生産性の高い産業が低生産性のサービス業から労働者を受入れる余地があるとは限らない。

白書でも述べているが、我が国では高スキル職種の就業者数の上昇率が低く、低スキル業種の就業者数の上昇数が高い。結局、非正規労働者の増加につながる恐れがあるのではないだろうか。

技術革新の恩恵を受けない部門の人数が相対的に大きくなれば、国全体としての生産性は上がらない。技術革新から取り残された部門の生産性について議論する必要がある。例えば、介護の生産性はどのように考えたらよいのだろう。ロボットアームの応用など技術革新の余地はあるものの、このような部門については国の関与、あるいは外国人労働者の採用も議題に上るだろう。


5.雇用状況の改善は賃上げにつながったのか
雇用環境の改善はアベノミクスの効果である。雇用状況は改善し、名目賃金は上がっている。しかし、実質での賃金の上昇はほとんどない。

企業の営業利益および経常利益は順調で、企業の内部留保は400兆円にも達する。しかし、労働者の実質賃金はほとんど伸びていない。2012年末から2016年末までの実質GDP(暦年)は年率で約1.1%増えているのに対して、実質総雇用者所得は年率0.3%の増加に留まる。実質国民総所得(暦年)は年率で1.8%の上昇である。実質賃金の伸び率が、労働生産性の伸び率を下回っている。

労働者に好景気の実感がないのは実質賃金の伸び率が低いためだろう。それどころか、円安の影響もあって食料品価格は年率で3%近く上昇し、総務省の統計によると全国勤労者世帯のエンゲル係数が上昇している。

労働需給はタイトになっているが、実質で賃金が上昇していないというのはどういうことか?労働力率の上昇が賃金の上昇圧力を吸収しているのではないだろうか?

白書によると、女性や高齢者などの就業が増え、パートタイム労働者の割合が増えているという。彼らの賃金は、企業の正社員の賃金より安いため、こうした人達を雇用することで賃金の上昇圧力を吸収しているのではないか。

6.日本型雇用の変化
白書によると、新卒の初任給は増加、パートタイム労働者の賃金は増加、男性の壮年層(40~50代)の賃金は減少方向にあるという。

高度成長を支えてきた日本型雇用(年功序列、終身雇用、産別労働組合)が変化しつつあるのかもしれない。

日本型雇用は人口動態の変化とマッチングすることは難しく、また正規社員と非正規社員の待遇格差の問題もある。「働き方改革」が求められている。

女性や高齢者などの労働力化、パートタイム労働者の増加、パートタイム賃金の上昇、夫婦共稼ぎ、など、日本型雇用システムに変化の兆しが伺える。今後、この傾向がさらに進んでいくことが予想される。ただし、賃金が伸び悩む中高年労働者には厳しい方向である、

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