« 56年前に全て言われ尽くしていた | トップページ | ILOのインタビューに登場しました(英文) »

2017年8月20日 (日)

日本型雇用と長時間労働の制度的補完性とその悪用

こんなツイートを拾いましたが、

https://twitter.com/happytarou0228/status/897942222154252288

伊藤忠の先輩と飲んだ時のメモ。①残業については相当厳しくなっており、若手に任せる仕事量が減ってる一方で、時間管理対象外の中堅〜課長にしわ寄せ。②若手自身も仕事が少ないと感じている様子。③海外駐在すると日本の管理対象外なので馬車馬のように働く。④今の若手が10年後成長してるか心配。

https://twitter.com/happytarou0228/status/897945997900251136

①新卒1年目の労働生産性は低く、人にもよるが2年目社員の数分の1程度、②初期の労働生産性は仕事量に比例して高まる、③経験のない1年目の成長速度はかなり早い、④残業規制で仕事量にキャップを嵌められているため従来より成長が遅くなる可能性が高い。ってのが先輩が危惧してたこと。

おそらく今、日本中のまともな日本型雇用システムをやっている企業の中で交わされているであろう会話の一端です。

そこには、日本型新卒一括採用で入ったばかりで仕事のスキルがあまりあるいは殆どない新入社員に対して、仕事の成果をあまり問うことなくむしろ仕事を覚える期間という観点であれやこれやと仕事をやらせる結果、貢献度はあまり高くないけれども必然的に長時間労働にならざるを得ない者に対して、非日本型の普遍的な労働規範に基づく長時間労働規制をかけることが与える影響に対する、おそらく極めて広がりをもって感じられているであろう違和感が素朴に表出されています。

人事経済学でよく使われるグラフでいえば、

1

このはじめのところの、年功制ゆえに低い賃金でもなおその純貢献度に比べれば払いすぎになっているAのところですね。

日本型雇用システムの暗黙の了解では、この部分は正式に入社して給料をもらっているといいながら、実質的には研修期間とのアマルガムであり、諸外国であれば無給ないし極めて薄給のインターンシップで対応されているような部分であるわけです。

それゆえに、実質トレイニーである新入社員は、貪欲に時間など気にせず何でもかんでも仕事に取り組むべきという(日本型雇用では普遍的な)規範が存在してきたわけですし、上司や先輩もそれを当然の前提にしてきたわけですね。

その意味では、スキルのない若者を好きこのんで採用する新卒一括採用システムと、生産性など考慮せずに研修期間だという前提で長時間労働をやらせる慣行との間には、両社がうまく噛み合っている限り実に精妙な制度的補完性が存在していたわけです。

そういう空間の中で育ってきた人々から見れば、スキルがないがゆえに採用された特殊日本的若者にスキルがあることを前提として採用されるジョブ型社会の規範である長時間労働規制をそのまま適用などされた日には、「従来より成長が遅くなる」、「今の若手が10年後成長してるか心配」と懸念されるのは当然ということになりましょう。

とはいえ、これまた繰り返し論じてきたように、かかる日本型雇用などというものは六法全書の上にはまったく規範化されていない単なる慣習に過ぎず、そういう制度的補完性が現実に存在しているか否かを法的に検証する仕組みなどどこにもありません。それを悪用しようとすればいくらでも悪用できるし、それが(少なくとも私がPOSSE誌上等で論じてきた意味での)ブラック企業なのであってみれば、日本国の労働法もその上に立脚しているところの世界共通の普遍的な労働規制でもって対応する以外に、普遍的な正統性を持った対応というのがあり得ないのもまた事実なわけです。

この問題を論じるときに、これくらいの射程をもって、しかしあえてこうなんだという議論をしているのか、そういうことなんか全然頭にないまま単純な議論をしているのかは、論者のレベルを推し量る上で重要な指標ではあり得ます。

|
|

« 56年前に全て言われ尽くしていた | トップページ | ILOのインタビューに登場しました(英文) »

コメント

さすがHamachan先生。引用のツィート内容、ちょっとした日系大手の先輩社員の新人教育のつぶやきから、人事経済学エドワードラジアー教授の(今となっては懐かしい感もある)このグラフ(しかも最初のA 領域)でご説明されるとは…天晴れですね。

そこで小生からは取り急ぎ、下記二点ほど。

1、 エントリタイトルの「その悪用」とは、いわゆるブラック企業の態様をさしているかと推察しますが、今回のツィートにあるような大手企業の素朴な運用実態は(悪用というよりも)むしろメンバーシップ制度の「誤用?」という方が相応しいかと…。

2、 こういう実態があるため、(私の知っている範囲では)新卒を採用する大手外資系企業では、年俸制として初任給を一定水準まで上げた上で裁量労働制とするか、セミエグゼンプト(ベースに固定残業代込)でオーバーワークも含めたサラリーを一年目から支給していますよね。もっとも入社1、2年目(実質的なトレーニー期間中)は日々成長途上ですから、普通の労働時間というモノサシで計られるものではないかもしれませんが、ね。

投稿: 海上周也 | 2017年8月21日 (月) 13時44分

1.キチンと支払うべき金額を支払っていて
2.健康を害するような指示命令がなく
3.本人が納得してやっている
なら良いのではないかと思いますが、
概して1.2.が欠けがちなんですよね

投稿: Dursan | 2017年8月25日 (金) 07時05分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/3288/71474162

この記事へのトラックバック一覧です: 日本型雇用と長時間労働の制度的補完性とその悪用:

« 56年前に全て言われ尽くしていた | トップページ | ILOのインタビューに登場しました(英文) »