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2017年8月25日 (金)

『日本労働研究雑誌』9月号

686_09『日本労働研究雑誌』9月号の特集は「企業コミュニティの現在」です。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/09/index.html

企業コミュニティとは、すなわち労働者を「社員」、会社のメンバーとみなす経営、雇用、労使関係のありかたを指す言葉ですが、この特集ではいろんな分野からこの問題にアプローチしています。

提言 新時代の企業コミュニティ ヒュー・ウイッタカー(オックスフォード大学教授)

解題 企業コミュニティの現在 編集委員会

論文 

企業コミュニティと日本的雇用システムの変容  山下充(明治大学経営学部准教授)

企業コミュニティの再構築とワークライフバランスの導入 大沢真知子(日本女子大学教授)

企業コミュニティと人材育成・キャリア形成─中小企業を中心に 佐藤厚(法政大学教授)

企業コミュニティと労使関係─日立と資生堂労組の事例を中心に 呉学殊(労働政策研究・研修機構主任研究員)

企業コミュニティと法政策 三井正信(広島大学学術院教授)

企業コミュニティと生活保障 金野美奈子(東京女子大学教授)

中身はそれぞれに読んでいただくとして、ここで是非とも紹介しておきたいのは、「労働政策の展望」に登場している山田久さんです。これは全文ネット上で読めますので、まずはざっと目を通してください。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/09/tenbou.html(『働き方改革』が問う労使自治の再構築)

ほらほら、労使自治の再構築ですよ!

ややもすれば、政府主導、司法判断万能で進みがちな働き方改革を、労使自治を踏まえて進めるにはどうしたらいいかという、、極めて真っ当な問題意識が示されています。

・・・こうしてみてくれば、今後のわが国の雇用社会が進むべき方向性がみえてくるように思われる。それは第1に、政府主導・司法判断による雇用ルールの形成スタイルに180度転換するのではなく、そうした要素を加えつつも、あくまで基本は民間主体・労使自治による雇用ルールの形成スタイルを堅持することである。そのために今求められているのは、わが国雇用システムが様々な面で環境変化と齟齬を来していることを直視し、短期的な利害対立を超えて労使間で新たな雇用ビジョンについての共通認識を得ることである。それには、就社型の無限定な働き方のメリット・デメリットを整理し直し、どういった要素を残し、どこが問題でどう修正するかについて、労使が膝を突き合わせて議論することが不可欠なプロセスになろう。

第2に、企業内組合の現状維持でも産業別組合への転換でもなく、企業内組合の基本形を維持しつつも企業間の連携を強化する道である。そうした意味ではまず、企業別組合が、組合員だけでなく非正規を含む非組合員も含めた従業員全体の公正代表としての認識を強く持つことが出発点であろう。そのうえで、産業別組合が積極的な調整機能を果たすことを決意することが望まれる。それに呼応して、各企業も個別企業の枠を超えて、産業全体として海外と伍していくという発想から、企業間提携や事業再編をタブー視せず、思い切った連携を様々に深めていく必要がある。長時間労働に頼らない能力育成や職種転換、最新専門スキルの習得を円滑化するため、教育機関との連携を強化し、一企業の枠を超えた効率的な人材育成システムを創出することも求められる。そうした際に、業界団体が強力な調整機能を発揮することが期待される。・・・

・・・以上のように見てくれば、政府が行うべき政策の方向性もはっきりしてこよう。それは、法的規制の強化はあくまで抑止力と位置づけ、その一方で労使自治を促す仕掛けを講じるという方向である。その前提として求められるのは、わが国雇用社会の今後のあるべきビジョンを労使が共有することであり、そのためには政府が旗振り役となって労使代表および有識者を構成員とする国民会議を立ち上げ、いくつかの分科会を設けて一定の時間をかけて幅広く議論を行い、共通ビジョンを練り上げていくことが望まれる。さらに具体的な施策として提案したいのは、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の導入を推進するにあたって、産業別の協議体をオーガナイズすることである。すでにトラック運送業では「長期間労働の改善等に向けたパイロット事業」として、業界、荷主、労使団体、関係省庁などが一体となった協議会が設置され、長時間労働の改善に向けた課題の洗い出し、解決手段の検討や実践を進める取組が行われている[注4]

もう一つ政府に求められるのは、非正規労働者を含めた形での集団的労使関係の再構築を進めることである[注5]。その一つの有力な方策は、欧州のような「従業員代表制」を導入することであるが、既存労働組合の役割との関係の整理が必要になる。私見では、非正規労働者も含めた公正代表義務を課した従業員代表制を導入し、既存労働組合にその役割を担う権利を優先的に付与し、わが国の労働組合がいわゆる正社員組合と揶揄される状況を完全脱却して、全労働者の代表として行動する方向での自己改革を完遂することを促すのが望ましいと考える。もっとも、この点に関しては、過半数代表者の複数化・常設化といった案など、複雑なメリット・デメリットを勘案した様々な考え方がある[注6]。いずれにしても、今回の「働き方改革」は、図らずも集団的労使関係の見直しの必要性を炙り出すことになった。これを労使が真摯に受け止め、従来の発想を超えて、非正規労働者の存在を明示的に組み込んだ、創造的な労使関係を構築していくことが求められている。

なんだか読みながら、どこかで自分の書いた文章を読んでいるような錯覚に陥りかけましたけど、いやいやこれは山田久さんの文章です。

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コメント

山田久さんの「『働き方改革』が問う労使自治の再構築」…。刮目たる提言、私たち全労働者への大いなる励ましのメッセージといっても過言ではないでしょうか。

ご提言にある通り、新たに非正規労働者も取り込むことで「真の従業員代表」へとなるべく(日本企業の競争力の源泉たる)「企業内組合」に大きな自己変革を求めていくことは、翻って日本企業の「人材マネジメント」そのものの(内側からの)改革に他なりません。すると、やはり政府や司法の役割はあくまでも仕掛け人としての黒子または諸々の抑止力として機能すべきなのであって、アジェンダの正当性を盾にした強引な司会進行や、労使双方から合意の取れない施策の強引な立法化(例、高度プロの導入など)は慎むべきなのでしょう。

それにしても山田さん、今回は大胆に歩み寄りましたね。日本の産業競争力を再発展させ、ますます多様となる人材リソースを真に活性化させるためには…(重かった外套を)そろそろと脱いで頂いたという感じがします…。

連合はこの提言をしっかりと受け止め、一方で経営者や人事部は来たるべき労使会合に向けてプロアクティブに課題を整理しながら、自社として「真の従業員代表」に今後いかに向き合うか模索していく必要がありましょう。

投稿: 海上周也 | 2017年8月26日 (土) 06時17分

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