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2017年8月 7日 (月)

「同一労働」の中身

国際経済労働研究所が出している月刊誌『Int'lecowk 国際経済労働研究』の8月号に、同志社大学の石田光男さんが「 「同一労働同一賃金」の「同一労働」とは何か」という見開き2ページの短文を寄せています。

http://www.iewri.or.jp/cms/archives/2017/08/intlecowk-201781072.html

見開き2ページといいながら、ここまで端的に物事の本質をズバリと書いたひとはあまりいないようにも見受けられるので、その冒頭部分の数パラグラフを引用しておきます。

・・・日本の何がこの本来平易なはずの問題を難題にしているのか。手順を追って考える必要がある。

まず確認しなくてはならない点は、これが少しも難題ではない欧米諸国の実情を知ることである。・・・これらの国々では、そもそも賃金というものは、日本のように個別企業が管理の手段として活用できるものとは考えられていなかったということを知る必要がある。この職業(英国)、この職務(米国)、この熟練(ドイツ)がいくらかは市場で決まる。企業はその賃金水準を受け入れる以外にない。この場合、経営者は、その職業や職務、熟練に応じて決まる市場賃金を与件として受け入れざるを得ないが、その上で、できるだけ必要な課業(個々の具体的な業務)を労働者に受容させようとする。これに対して、労働者はどう行動するのか。社会的にあらかじめ決められていると想定される職業・職務・熟練の課業の範囲に固執し、範囲を超える課業の受容を拒否する。受容させようとする力と拒否する力との対抗が、課業の範囲とレベルをめぐる取引になる。この取引が職場の労使関係である。ここでは、「同一労働」は社会的に人々に共通に理解されている職業・職務・熟練を指す。そこからの逸脱は、拒否されるか、職場の取引によって価格付けされるので、「同一労働同一賃金」は絶えず労使当事者によって意識され確認される原則となる。

日本で、上記のテーマが難題であるのは、課業があるのは当然ではあるけれども、課業をくくる概念としての職業・職務・熟練が、社会的に人々の共通理解として成立していないためである。・・・企業経営の立場からすれば、賃金は市場で決められた与件として与えられるのではなく、最大限の課業遂行を確保することを目的とした労務管理の手段として行使できるのが賃金である。そういうものとしての日本の賃金は、では、何に対応しているのか。「同一労働」として括られる共有された概念はないので、賃金に対応する仕事を一言で表現する言葉を持たない。言葉がないということは、言葉にすべき実態がないということである。・・・

ごちゃごちゃと言葉を使わなくても、たったこれだけで日本の労働と賃金との特異性を浮き彫りにするのは、さすが今日日本の大学でなお労使関係論という分野で研究者を生産し続けているほとんど唯一の存在である石田光男さんならでは、と感服しました。

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コメント

石田氏の賃金の本質を端的にズバッと言い切る語り口には概ね賛同します(十余年前、東京労働大学の講義で欧米の賃金論の緻密な授業を興味深く拝聴した時のことを思い出しました…)。

ただ、欧米企業の賃金がマーケット水準(外部公平性)だけで決定されている訳でもなければ、日本企業のそれが競合企業の賃金水準を無視して社内事情(内部公平性)だけで決められている訳でもないということは自明でしょう。

曰く「(日本は)賃金に対応する仕事を一言で表現する言葉を持たない」
欧米企業の「ジョブ」に相当する日本企業における賃金の根拠はいわゆる「能力」であり続けましたし、戦後のある時点まではそのシステム(職能資格制度)が機能しました。「能力」という言葉自体は確かにあったはずです。

曰く「言葉がないということは、言葉にすべき実態を持たないということである。」
小池氏の理論も含め、確かに「言葉」は飛び交っていました。「能力」や「成果」をめぐって…。

ご紹介有難うございます。
ここまで短い文章で説明しきれるのは、海外も含めた、労働に関する幅広く深い知識に裏打ちされたものなのでしょうか。

団体的でないものも含めた労使関係の国際比較は欠かせないか、むしろ問題の中心と思われるのに、議論が目立たないのは不思議ですね。

研究者が輩出されなくなっているのも何故なのでしょう。

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